高校生の頃に同じ場所にいたことを僕だけが知っている

珠宮さくら

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春休みは濃厚だった。

花屋のバイトよりも、写生に明け暮れる日を送ることになるとは思わなかったが、楽しかった。あんなにスケッチブックに描き続けてもいいなんて、贅沢なことはないだろう。

そこから、ジオラマで表現するためにデザインをいくつか考えた。これもまた楽しかった。


「どれも、素晴らしいな」


忙しい合間に琴葉さんのお父さんは時間を作ってくれた。


「これが、いいな。これが、気に入った」


やっと、デザインが決まったな。そこから、プリザーブドフラワーを利用しつつ、ジオラマでどう表現していくかで詰めることになった。


「あそこの庭の草花自体をプリザーブドフラワーにするのか?」
「はい。上手くいったらいいですけど。何分、やったことがないので」
「そうか。悪いな。これだけの大作なら、こんなせせこましく作るのには不向きだろうに」
「いえ、引き受けたからには、間に合わせます。なので、同時に上手くいかなかったとき用にバックアッププランも、並行していきたいと思います。すみません。その、予算の方がまだ目処が立っていなくて……」
「いや、予算の方は妥協しないでくれていい。完成するのが、私も楽しみなんだ。写生も、素晴らしい。特にこの景色だ。あの頃に見た景色そのもので、驚いているよ」
「え? 雨が降っていたんですか?」
「ん? あぁ、見合いの最初は降っていて、晴れてから庭に出たんだ。そこで、足を取られた妻を助けようとして、私が尻もちをついたんだ。あれは、あとにも先にも初めてだったな。彼女は、私の上に倒れて汚れなかったんだ。だが、申し訳ないと謝られて泣きそうにされて、それが何とも言えない気持ちになったのを今でも憶えているよ」


懐かしみながら語られる言葉に僕は耳で聞きながらその世界が見えるような錯覚に陥った。

あぁ。なんて素敵な世界なんだろうか。お互いが一目惚れをして庭に出て、触れ合えたことに喜びよりも、恥ずかしさといたたまれなさを抱いたに違いない。

彼は好きになった人を守れたが、彼女は自分のせいで大変なことになったと申し訳ないと思ったに違いない。

そこから始まって、20年経ったのだ。それでも色褪せることなく、彼の中には残っているのだ。

素敵な世界に閉じ込められたらいいな。

凪は、俄然やる気になった。

それでも、やらなきゃいけないことを疎かにはできない。

3年生となった僕は、時間に追われる日々を送ることになった。

知り合いがあまりいないクラスになったが、受験勉強と学校の試験勉強に依頼に使えそうなのを思いつくままに試行錯誤することになった。

これもまた楽しくて仕方がなかった。時折、父さんに意見を求めたりして、父さんとはよく話したが、母さんは……。


「受験生なのに何遊び呆けてるのよ」
「勉強はしてるよ」
「勉強にだけ集中してればいいのよ!」
「……」


どうにも理解してはもらえなかった。その上、並行線のままとなっていたが、母さんがキレて試作品を叩き壊したのを見て、僕は頭が真っ白になった。

そんな時に父さんが帰宅して、床に散らばったのと呆然自失な僕を見て、母さんを睨んだようだ。


「お前がやったのか?」
「そうよ。あなたからも言ってよ! こんなにかまってないで、ちゃんと勉強しろって!」
「勉強はしてるだろ。現に成績は、落ちてないじゃないか。それより、何で壊す必要があったんだ?」


呆然としている間に父さんが、母さんに謝れと言っても謝らないことで喧嘩となり、ついには家から追い出したのだ。


「父さん」
「もっと早くこうしていれば良かったんだ。悪かった。父さんにできることはあるか?」


僕は、その日、初めて大泣きした。あんなに泣いたのは、初めてだった。

そこから、いっぱいいっぱいになった僕の記憶はあんまりない。

でも、それをきっかけにして両親は離婚することになった。


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