僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

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第1章

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(2人が結婚するのを認めたくなかったから、両親は強硬手段に出たってことだよね? そして、未だに連絡をとろうとせず、僕を誰とも会わせようとしないのは、僕が存在しても仲良くなれないからか。そんなことじゃ、変わらないってことだよね。僕は、にかわにはなれない。……なら、何のために生まれて来たのかな? こうして、小学生の高学年を続けてるのも、僕のせいなんだろうし。僕に何かできることがあればいいのに)


2人が家族や友人や生まれ育った環境やらを全部捨てて、1から身一つ、いや、身2つで生活することになってまでして、誰も自分たちのことを知らないところで暮らし始めた。

それが、この人間界だった。そして、そこで琉斗を産んでくれたのだ。それなのに琉斗は、そんな両親に何もできていない気がして仕方がなかった。

小学生の高学年のままになっていることに気づいてからは、特にそうだ。琉斗の心の中にこの世界に存在していることが、もっとも罪深い気がしてならなくなっていた。

それと同時に真逆な感情もあった。この世界に必要とされている。両親や人間たち以上に世界に必要とされている感覚もあった。矛盾しているのだが、なぜそう思ってしまうのかが琉斗にはわからなかった。この世界に居続けることが、災いの種のような気がしてならなかったが、居なくなれば破滅まっしぐらになる予感のようなものがあった。


(僕がいると両親は、逃げ隠れしなくてはならないってことだよね? こんなことになってるのも、僕がいるから。こんなことをし続けていて、パパも、ママも、幸せなわけない。でも、僕のせいで、これを続けてくれるのなら、僕はきっと2人に愛されているんだ。こんな僕を……一番怖いのは僕になりかけているのに。ここに居なきゃいけない何かが、両親たちすらここに留めようとしている気すらする。一体、僕らは何に突き動かされて、ここにいるんだろう?)


琉斗にとって、一番怖いものは、己になりかけていた。自分の何かが、そうさせている気がしてならなかったのだ。逃げ隠れする以上にもっと重要な何かがあることを両親も知らないような気がした。

そうなり始めていたのは、何度も繰り返し続けていることに気づいていた辺りからだ。数えるのもばからしくなってしまっているからに他ならない。

そして、前の学校ではどうなっているのかと調べたら、琉斗たちのことは綺麗さっぱり消えていたのだ。

周りの時間は止まってはいない。琉斗たち家族の時間だけがループしたまま、引っ越しをしているのだ。

そのせいで、琉斗は随分と大人びた小学生になっているが、両親の前ではそれらを琉斗は上手く隠していた。

琉斗は、これを続けている現状が、間違いなく両親から自分はとてつもなく愛されていることを実感していた。

だからこそ、琉斗は3人でいられることが幸せなのだと思うことで、自分を落ち着かせようとしていた。両親は何があっても、息子の琉斗を置いてはどこにも行かない。それが、たまらなく嬉しいが、そう思わせようとしている何かの術中にものの見事にハマっている気もしていた。


(おかしなことばかりで、僕がおかしくなったのかな。……ちゃんと話し合った方がいいのかも知れないけど、この関係性が壊れたら引き返せないよね。そう思うとついつい、このままでいいと思っちゃうんだよな)


そこまで行くとこのおかしな状況を楽しむことを琉斗は始めていた。そうしなければ、とっくに気を変にしているところまできていた。まだまだ子供の琉斗には、過度なストレスでしかなかったのだ。

そういう色んなもの中心に琉斗は常に位置づけられていることに本人も両親も気づいていなかったことで、琉斗には目には全く見えない負担があった。

だが、そんな負担も少しずつ蓄積していても、琉斗の持って生まれた才能が、それを自然とカバーしていたことで大事になるまで、その危険性に気づかなかったのだ。

今にも活動を始める火山の上で、地下でマグマが煮えたぎっていることにも琉斗たち家族は気づいていなかったことで、悲劇が起こるとは思わなかったのだ。

琉斗は、それを自分がおかしくなり始めているせいだと思うのすらやめていた。どうにも日常を過ごすためには感覚を鈍らせて、琉斗にとって楽しいことばかりが周りにあるようにすることで、世界の異変をすっぽりと隠そうとしていた。


(今出ると丁度良さそうだな)


ふと、そんなことも直感で簡単にわかるようになっていた。

両親からしたら、息子のためならばと必死になってくれていたからこそ、小学生の高学年のままでいさせたのだろうが、琉斗の望みは両親がいつまでも幸せで一緒に居続けてくれるのなら、そんなこと些細なことで片づけてしまうとは思わなかったはずだ。だからこそ、いつまで続けるのかと言うこともしなかったのだ。

だが、それをし続けたことで、琉斗に過度なストレスと誰もがまだ知らないでいる血が呼び起こされることになり、琉斗の中でその血がせめぎ合うように琉斗自身を守ろうと活発に働くことになるとは思わなかったのだ。

琉斗でなければ、とっくに死んでいただろうことが起こっていることに誰も気づかなかったのだ。

異変が全くなかったわけではない。兆候はあった。


(なんか、目が変なんだよね。ものもらいかな? 痒くも痛くもないけど。また、おかしくなって学校休むの嫌だな)


異変があっても、大したことないように思っていた。そのことで、両親に相談したことはなかった。そもそも、なかったことになっている時のことなのだ。言えるはずもない。


(こうなるとややこしいな)


そんな普通ではないことが起こり始めていたが、琉斗はそれが当たり前のようになってしまった。少しづつ自分の日常の中に溶け込み始めていて、感覚が麻痺していたところが大きかったようだ。

そうでなければ、おかしくなっていた。それもこれも、琉斗だからその程度でおさまっていることを知らなかった。

そんな琉斗は今日も元気いっぱいに青いランドセルを持って玄関に向かった。


「行ってらっしゃい。車に気をつけるんだよ?」
「うん!」


父に見送られて、琉斗は笑顔で玄関を出た。何も知らない10歳の男の子にしか見えなかったはずだ。


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