僕は出来損ないで半端者のはずなのに無意識のうちに鍛えられていたようです。別に最強は目指してません

珠宮さくら

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第1章

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琉斗の母親は仕事ができる人のようだが、家事が全くできない人だった。全くのレベルが、ここまで幅広いのかと思うほど、あり得ないほど本当にできなさすぎる人だった。もっとも、琉斗の比べるレベルは、父と自分しかいないが圧倒的に比べる相手が少なくとも、他と比べても駄目なものは駄目だと諦めるというか。悟るしかないものだった。

それを周りに伝えたところで冗談だと思われるだろうが、それを目の当たりにすれば言葉を失うほど明白だった。そう、見たままなのだが、それすら信じられないほどに不思議なくらい、おかしいくらいできないというか。失敗するのだ。


(あれは、もはや呪いレベルだよな。呪いというか。厄災……? 仕事はできてるみたいだから、そこも不思議なんだよな)


琉斗は、そんなことを思って首を傾げたことは、一度や二度ではなかった。

琉斗ですら、目玉焼きやウィンナーを焼くことが幼稚園の頃からできたが、母にはそれすらなぜか難しかったのだ。焼くだけの何がそんなに難しいのかと思うだろうが、その工程を側でじっと注意深く見ていても摩訶不思議でしかなかった。


(なんで……??)


もはや呪われてるレベルで、酷かった。そう、きっと母は呪われていたのだ。息子の琉斗は成長してから、そこだけは母に似なくて良かったとつくづく思っていた。

あのレベルが似ていたら、一人暮らしなんて外食か。買ってくるしかない選択しかなくなっていたはずだ。

最初に母親のできなさっぷりを目の当たりにして、琉斗が思ったことといえば……。


(ぼくよりできないんだ。……それは、ぎゃくにすごいきがする。どうやって、いきてきたんだろ? ママって、おじょうさまとかだったのかな?)


何もできなくとも、それなら問題なかったはずだ。あまりにもできなさ過ぎるのを見て、テレビで見たお嬢様育ちというのが、琉斗の頭に思い浮かんだ瞬間だった。それも、幼稚園児としては、心配どころと想像力溢れる斜め上な考え方にそれを聞いている者がいたら、突っ込まれていたに違いないが、誰にもそう思ったことは話していないことで、琉斗の誤解はしばらく続くことになった。

どこかのお嬢様で、結婚を反対されて駆け落ちしたのだと琉斗は思っていたのだが、それも本当にしばらくの間のことだった。つかの間だけ、深窓の令嬢みたく母を見ていたが、本当に僅かな期間だった。まぁ、何があったかは詳しく語らないでおく。お嬢様なわけがないと思うようなことがあっただけだ。

そんな風に束の間でも息子の琉斗が勘違いしているなんて知りもしない母は、琉斗にもできるならと料理をしようとして、大惨事が起こったのを目撃することになった。

琉斗が母を台所に立たせてはならないのだと思ったのは、小学生になる前のことだった。

そもそも、できないとわかっていたら、息子ができるからといって台所に立ったりしないはずだ。……いや、対抗心を燃やしたりするタイプなら、あるのかも知れないが、壊滅的なできなさっぷりを認めていないと大変な目に合うのは、それをよく知る側になるようだ。


「あ~、ダメダメ。君は、台所は鬼門なんだから」
「鬼門って、大袈裟なこと言わないでよ。琉斗にもできるんだから、私にだってできるわよ。使い勝手がいいものいっぱい出てるんだから」


琉斗にだってできると言われて、そういう次元ではない気がすると思っていたら、結局は母が台所をめちゃくちゃにしただけだった。それに本人が落ち込むことになった。

琉斗は、そんな母を必死で慰め、父はその間、とんでもないことになった台所を綺麗にしながら、四苦八苦していた。


(ぼくができるとママも、できるとおもっちゃうのか。なら、ぼくができたのをみせたのがいけなかったんだ)


父の手伝いをしようとして、更に仕事を増やしてしまう事になった原因が、自分にある気がして母を慰めていたが、琉斗が落ち込んでしまったのだ。

それを見て、母は不思議そうにして息子を見た。


「琉斗? どうしたの?」
「……ごめんなさい。ほくが、おてつだいしようとしたから、パパのしごと、ふやしちゃった」
「え? やだ。そんなことないわよ。あれは、ママが悪いんだもの」
「でも、ママ。ぼくにもできるっていってた。ぼくができるとだめなんでしょ?」
「あ、あれは、ママの言い方が悪かったわ。ごめんね。琉斗、ママは家事はからっきしなのよ。パパのお手伝いしてくれるととても助かるわ。ね? パパ?」
「ほんとう?」
「本当だよ」


こうして、琉斗は父に教わりながら家事を手伝っていたが、母はそれをそわそわして見ていても、そわそわして近くをうろちょろしようとも、やろうとすることはなかった。

そんな母に話をふることも、父と琉斗は決してしなかった。その辺を父子で話したことはないが、どんなに忙しくとも、猫の手を借りたいと思っても、母にだけは頼み事をしなかった。

それが、この家の暗黙のルールとなった。


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