35 / 112
第1章
35
しおりを挟むウィスタリアの両親も、元婚約者となったソレムが継ぐ前に彼の父親がやらかしたことにしたあの家の事業が一気に傾いた真相を知っていた。
その時にウィスタリアが、頼ってくると思っていたようだが、そうならなくて、その時も色々と騒いでいたようだが、その時も都合のよいことしか言わなかったようだ。
(言わなくともわかるわよね。それを息子がしでかしたことは、監督不行き届きのせいだと全部を自分の不徳のいたすところにして、頭を下げるどころか。土下座して回ったりしたのだもの。……そうさせたのも、私がどうにかすると言ったからなのよね。あんなことさせたのだもの。もう、二度とさせたくない)
裏で息子であるソレムがウィスタリアのいないところで、不用意な一言を積み重ね、自分が何をしているかもわかっていないまま、ソレムがそこまでと思っていなかった両親とウィスタリアが何とか大人しくしていてもらおうと思っていた隙を見事に突かれて、あの事業を台無しにしたい面々にいいように使われたところもあったようだ。
だが、そんな裏側を知らない人は、少なからずいた。その少数は、ウィスタリアと婚約したことで勘違いが加速したに過ぎない。ちゃんと見ていればわかっただろうが、そうできなかったのか。しなかったのかはわからないが、見る目のないとしか言いようがない。
周りが、ウィスタリア本人に対する嫌味が何一つ思い浮かばないが、その婚約者があの身内以外の汚点だとわかっていて、それをつくために言っていたことを言葉通りに真に受けたのもあったのだ。
結果、ソレムは図に乗ることになった。ある意味、彼には才能があった。事業を駄目にするのに長けすぎていた。
他の人たちも、ソレムが不用意なことを無自覚にしたからこそ、あそこまで大変な目にあうことになったことを知っていた。あっという間にもう駄目だと思われるまでになったのだが、そこまでだとは誰も思わなかったのは、酷すぎたせいだろう。
ウィスタリアは、流石にそこまでとはと思っていたが、最終的にそこまでなのだろうと思ってしまうくらいだ。
それなのに本人は、そんなことをしたとは気づいていないし、利用されたことすら気づいていない。彼が跡を継いだら、事業どころか。あの家の爵位も返上することになっても済まされないことになるのは目に見えている。才能なんて言っていられないことになるのは明らかだ。ソレムに事業を継がせたら、次の年には資産の何倍もの借金を生み出している。
(その前に従業員が一斉に辞めているわね。婚約破棄になったと聞いたら、次々と辞めていきそうなのよね。……私も、雇われていたら、そうしたくなるわ。というか、さっさと転職してるかな。よほど、義理でもなきゃ、居続けようなんて思わないわ。不安要素しかないんだもの)
ウィスタリアは、それを回避するために動いていた。そんなことする義理もないと言われそうだが、それだけのものがウィスタリアにはあった。
(あの方と語らったことを形にできる。子供の語らいが、夢物語ではないことが証明されようとしている。……生きていたら、ずっと語らっていたでしょうね)
ソレムの父親とあの方は、意気投合していたのは間違いない。
この国が潤うことになるのは間違いない。今は苦しくても、将来は家族みんなでイベントごとに贅沢をしていても、蓄えもできるくらいにはなれる。
(そのチャンスを私がいなくなくなっただけで見切りをつけてなかったことにされたら勿体ない。彼が関わらなければ、上手くいく。数年後には、それが正しかったとみんなが認めてくれる)
だからこそ、婚約破棄となったことに両親が激怒しているのをわかっていて、すげなく追い返すことになるのもわかっていたから、あんな風に誓ってほしいと言ったのだ。
ソレムがいるところでウィスタリアが何をしようとしているかを知られないように手配しておいた。
これから、ソレムの両親がほうぼうに再び説明して回れば、ウィスタリアが何をしたかなんてすぐにわかるだろう。
(私は、やりたかった。でも、あの方が、一番やりたかったはずだもの。私はここまで携われた。それだけで、十分)
婚約破棄を撤回する気にはなれなかった。そこまでして、頑張り続けることができなかったのは、ウィスタリアが疲れてしまっていたからだろう。
受け入れねばならない現実を受け入れて、そろそろ本当に地に足をつけて前に進まなければならない。そう無意識で気づいたからかも知れない。
(私が、私たちがしたかったことをやっぱり無理があったとか。できるとは思えないから、よかったなんて言葉で今、終わらせるなんてしたくなかった。でも、きっと、そのために一生を捧げて、あの子息と結婚するなんて、もっと耐えられなかった。私は今も、あの方が好き。私の初恋は、まだ終わっていない。まだ、終わらせられない)
ウィスタリアは、そんな風に思って涙を流した。泣いた記憶など遠い昔にしかなかった。
彼が転んだ時に泣いたのは、ウィスタリアだった。
「ウィスタリア。泣くな。お前に泣かれるとどうしていいかわからなくなる」
「ぐすっ、痛いのに我慢しろって誰かに言われたの?」
「いや。……あのな、怪我したのは、私なんだぞ?」
「我慢したら、壊れるわ。だから、泣ける時に泣くのよ。だから、代わりに泣いてるのよ」
「……そうか」
「そうよ」
「なら、私が、お前の代わりに今度は泣かないと駄目だな」
「……私に怪我しろって?」
「いや、言葉のあやだ。怪我しようとするな」
(……懐かしい。あの方を慌てふためかせたのは、私にしかできないことだった。昔はちゃんとわかっていたのに。……代わりに泣いてくれると言っていたのに)
そんなことを思って、益々泣いた。
36
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる