初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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ウィスタリアの両親も、元婚約者となったソレムが継ぐ前に彼の父親がやらかしたことにしたあの家の事業が一気に傾いた真相を知っていた。

その時にウィスタリアが、頼ってくると思っていたようだが、そうならなくて、その時も色々と騒いでいたようだが、その時も都合のよいことしか言わなかったようだ。


(言わなくともわかるわよね。それを息子がしでかしたことは、監督不行き届きのせいだと全部を自分の不徳のいたすところにして、頭を下げるどころか。土下座して回ったりしたのだもの。……そうさせたのも、私がどうにかすると言ったからなのよね。あんなことさせたのだもの。もう、二度とさせたくない)


裏で息子であるソレムがウィスタリアのいないところで、不用意な一言を積み重ね、自分が何をしているかもわかっていないまま、ソレムがそこまでと思っていなかった両親とウィスタリアが何とか大人しくしていてもらおうと思っていた隙を見事に突かれて、あの事業を台無しにしたい面々にいいように使われたところもあったようだ。

だが、そんな裏側を知らない人は、少なからずいた。その少数は、ウィスタリアと婚約したことで勘違いが加速したに過ぎない。ちゃんと見ていればわかっただろうが、そうできなかったのか。しなかったのかはわからないが、見る目のないとしか言いようがない。

周りが、ウィスタリア本人に対する嫌味が何一つ思い浮かばないが、その婚約者があの身内以外の汚点だとわかっていて、それをつくために言っていたことを言葉通りに真に受けたのもあったのだ。

結果、ソレムは図に乗ることになった。ある意味、彼には才能があった。事業を駄目にするのに長けすぎていた。

他の人たちも、ソレムが不用意なことを無自覚にしたからこそ、あそこまで大変な目にあうことになったことを知っていた。あっという間にもう駄目だと思われるまでになったのだが、そこまでだとは誰も思わなかったのは、酷すぎたせいだろう。

ウィスタリアは、流石にそこまでとはと思っていたが、最終的にそこまでなのだろうと思ってしまうくらいだ。

それなのに本人は、そんなことをしたとは気づいていないし、利用されたことすら気づいていない。彼が跡を継いだら、事業どころか。あの家の爵位も返上することになっても済まされないことになるのは目に見えている。才能なんて言っていられないことになるのは明らかだ。ソレムに事業を継がせたら、次の年には資産の何倍もの借金を生み出している。


(その前に従業員が一斉に辞めているわね。婚約破棄になったと聞いたら、次々と辞めていきそうなのよね。……私も、雇われていたら、そうしたくなるわ。というか、さっさと転職してるかな。よほど、義理でもなきゃ、居続けようなんて思わないわ。不安要素しかないんだもの)


ウィスタリアは、それを回避するために動いていた。そんなことする義理もないと言われそうだが、それだけのものがウィスタリアにはあった。


(あの方と語らったことを形にできる。子供の語らいが、夢物語ではないことが証明されようとしている。……生きていたら、ずっと語らっていたでしょうね)


ソレムの父親とあの方は、意気投合していたのは間違いない。

この国が潤うことになるのは間違いない。今は苦しくても、将来は家族みんなでイベントごとに贅沢をしていても、蓄えもできるくらいにはなれる。


(そのチャンスを私がいなくなくなっただけで見切りをつけてなかったことにされたら勿体ない。彼が関わらなければ、上手くいく。数年後には、それが正しかったとみんなが認めてくれる)


だからこそ、婚約破棄となったことに両親が激怒しているのをわかっていて、すげなく追い返すことになるのもわかっていたから、あんな風に誓ってほしいと言ったのだ。

ソレムがいるところでウィスタリアが何をしようとしているかを知られないように手配しておいた。

これから、ソレムの両親がほうぼうに再び説明して回れば、ウィスタリアが何をしたかなんてすぐにわかるだろう。


(私は、やりたかった。でも、あの方が、一番やりたかったはずだもの。私はここまで携われた。それだけで、十分)


婚約破棄を撤回する気にはなれなかった。そこまでして、頑張り続けることができなかったのは、ウィスタリアが疲れてしまっていたからだろう。

受け入れねばならない現実を受け入れて、そろそろ本当に地に足をつけて前に進まなければならない。そう無意識で気づいたからかも知れない。


(私が、私たちがしたかったことをやっぱり無理があったとか。できるとは思えないから、よかったなんて言葉で今、終わらせるなんてしたくなかった。でも、きっと、そのために一生を捧げて、あの子息と結婚するなんて、もっと耐えられなかった。私は今も、あの方が好き。私の初恋は、まだ終わっていない。まだ、終わらせられない)


ウィスタリアは、そんな風に思って涙を流した。泣いた記憶など遠い昔にしかなかった。

彼が転んだ時に泣いたのは、ウィスタリアだった。


「ウィスタリア。泣くな。お前に泣かれるとどうしていいかわからなくなる」
「ぐすっ、痛いのに我慢しろって誰かに言われたの?」
「いや。……あのな、怪我したのは、私なんだぞ?」
「我慢したら、壊れるわ。だから、泣ける時に泣くのよ。だから、代わりに泣いてるのよ」
「……そうか」
「そうよ」
「なら、私が、お前の代わりに今度は泣かないと駄目だな」
「……私に怪我しろって?」
「いや、言葉のあやだ。怪我しようとするな」


(……懐かしい。あの方を慌てふためかせたのは、私にしかできないことだった。昔はちゃんとわかっていたのに。……代わりに泣いてくれると言っていたのに)


そんなことを思って、益々泣いた。


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