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しおりを挟む思い返せば、何かとどうしたいのかと聞かれた。それで何かあると……。
「アデラインが、そうしたがっていたんだ」
「アデラインの望みを叶えただけだ」
「私も、そう思っていたんだが、アデラインが……」
失敗した途端、アデラインのせいだと言い、自分はそうは思っていなかったかのように言っていることも多かった。アデラインが、そうしたらと言った通りにして失敗したことはあまりない。
彼がアレンジを加えさえしなければ、そんなことにはならないのだが、アデラインが言った通りにするのに納得いかない時は、自分の考えている方がいいも思っている時だったが、そういう時は上手くいかないことばかりだった。
それでも、アデラインのことを一番理解してくれているのは、彼だと思っていたからこそ、そんなことを言われても、されていても、そう言ったのは確かだからアデラインは自分の落ち度だと思っていた。
彼がアレンジを加えるのもわかっていたのにそこを考慮しなかったから、失敗は多かった。
だけど、こうして見るとアデラインのせいにして、自分は悪くないと言うために判断をアデラインに任せていただけなのがわかる。
そして、上手くいくと自分の手柄のようにしていたのも知っていた。
「流石ですね」
「いや、そんなことはないさ。たまたま、私の思っていた通りに事が運んだだけだ」
たまたまだと言いながら、その話をされて嬉しそうにしていたのを見たことが、何度かアデラインはあった。
その時点でもわかる。想いあっていたなんて勘違いもいいところで、惚れた弱みに漬け込まれていただけなのだ。
でも、そんなことをされていても、アデラインのことで自慢して歩く人に比べたら、自分からしていないのだから、そんなに対した相手ではないと思っていた。それが、大問題だった。人の手柄を簡単に横取りするようなことを婚約者にしたら、ずっとそうし続けるのだ。そこをわかっていなかった。
アデラインは内心で、男を見る目がなかったと思っていた。見る目がないことに今更、気づいてしまって、ため息を付きたくなっていた。
こんな風に言う男だったのにお互い想いあっていると思い込んだままだったらと思うとゾッとする。そんな相手と婚約することがなくなったのを喜びたくなった。そこは、よかった。
こんな風に裏の顔を知りたくはなかったが、それでも婚約する前だったことは良かったと思ってはいた。
「そんなことありませんわ」
その声に寝ているふりをしているアデラインが、思わず反応しそうになった。忘れもしない。この声の主こそ、今、アデラインが顔を包帯で巻くことになってベッドにふせっていることになった元凶だ。アデラインが、殺意を向ける相手だ。
普段なら、そんな風に話したりしない。アデラインを真似ているのではなかろうか。
それを気持ち悪いと寝たふりをしているアデラインは思わずにはいられなかった。
「お姉様は、お優しい方ですもの。あなたの幸せを邪魔したりするはずがありませんわ」
「……それを言うなら、姉として妹の幸せを願わないわけがないはずだ」
何やら茶番が始まったようだ。
「えぇ、とても優しい姉ですから。目が覚めたら、2人で謝罪しましょう。そうすれば、わかってくれるはずです」
「そうだな。私たちの幸せのためだとわかってくれるよな」
「えぇ、わかってくれるはずですわ。信じられないくらい優しい姉ですから」
アデラインは、そのやりとりを白々しいと思わずにはいられなかった。
そこから、目が覚めているのに気づかれないようにしながら、他のことも聞くことになった。顔のこともあるから動き回るようになるまで、アデラインは時間があるはずだと思っていた。
だから、眠ったままだと思っていれば、ボロを出してくれるのではないかと思っていたが、本当にボロを出すとは思っていなかった。
やたらと眠いのも、顔のことで強い薬が使われているからだとアデラインは思っていた。それでも、やたらと目が冴えて昼間になると眠れなかった。眠れないというか。意識はっきりしているが、動き回るのは身体が怠くて無理だった。
そんな風に動き回るのが無理な状態のアデラインのところに妹が、アデラインは眠っていると思って色々言って来たのは、王太子のことがあった後だった。
まだ、言い足りないことがあったようだ。姉の顔を台無しにしただけでなくて、言葉でも傷つけたかったようだ。
そこまで嫌われているとはアデラインは思っていなかった。殺意を持たれる程には嫌われていたようだ。
「残念だったわね。見た目が一緒なのにお姉様ばっかりが一番美しいなんて言われて、そもそも、そこからおかしいと思っていたのよ。何で、お姉様だけが、美しいと騒がれるのよ。私たち、そっくりなのに」
この妹と包帯を巻いて眠っているふりをしているアデラインは双子の姉妹だったりする。
そっくりな見た目をしていると妹の方は思っているようだが、そんなことはない。それは、彼女の勘違いだ。
姉の顔を台無しにした妹の名前は、ディアドラ・マルティネス。そして、姉の方は、アデライン・マルティネスという名前で、美しいと騒がれていたのは、昔からアデラインだけだった。
ディアドラは、見た目が一緒と言っているが、そんなことはない。そう思っているのは、アデラインだけでなく周りも思っていることだが、ディアドラだけが頑なに認めていない。
目が悪いわけではないと思う。双子だから、そっくりだと言わんばかりにしている。双子に対する偏見が根強くあるようだ。
だが、アデラインはたゆまぬ努力をして美しくあり続けていることをディアドラは知りもしないし、見ようともしていなかったから、その辺が狡いと妹からしたら言いたいようだ。全く狡いことなんてないのが、彼女には理解できていなかった。
それに比べてディアドラは、アデラインなんて大したことないのにと言わんばかりにずっとしていて、言っているだけで何もしてはいなかった。勉強も、見た目がいいから頑張る必要なんてないと本気で思っているような残念な令嬢だ。
そして、短絡的な妹は姉の顔さえ、どうにかできたら問題ないかのように思ってしまったようだ。そうなれば、一番美しいのは自分になると信じ切っているようでもあった。
だから、アデラインの顔を醜くすることを事故を装って実行したのは、この妹だ。アデラインは、それを知っていたが、中身が何かも知らなかったし、私にやるつもりだったとも思っていなかった。あっという間のことだった。
そんな準備ができると思っていなかったから、油断していたとも言える。
その上、アデラインが彼に見初められて想いあっていて、婚約するとどこかから聞きつけて、こんなことをして奪うことにしたようだ。
アデラインが婚約するはずだった相手はエイベル国の王太子だった。そんな相手を逃せないとばかりに自分のものにしたくなったにしても、こんなことを思いつく頭もなければ、アデラインがそんな妹に気づかずにまんまとやられるなんてことは、これまでの妹のやることなすことを見ていればわかる。絶対に不可能だ。
想い人とようやく婚約できると思って浮かれていたのかもしれないが、妙な引っ掛かりをアデラインは感じずにはいられなかった。
眠るに眠れないアデラインは、目を閉じながら妹の話を聞きつつ、あれこれと考えていた。
王太子が、中身のことをちょっと残念な方とディアドラのことを言っていたが、ちょっとどころではないことを思い知ることになるのも、そう遠くはないはずだ。王太子は、そこで失敗したと思うに決まっているが、そんなことでアデラインの気が済むなんてことはない。
それで許す気にはなれない。そんなものでは足りない。
2人に復讐してやるために奮起することになったのは、そんなことを聞いてからだった。
更には、そんな妹を野放しにしていた両親にもアデラインは怒りをぶつけることにした。
それにこんなことをディアドラが1人で考えつくはずがない。その辺も調べて、全てに復讐することを密かに誓った。
元には戻らないのなら、壊し尽くしてやりたいとアデラインは思うまでになっていた。
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