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しおりを挟むアデラインが、とんでもない復讐を誓っていた頃、学園では、こんなことになっていた。
「まぁ、顔が醜くなったアデライン様と婚約はしないとは思っていたけど……」
「あちらを選ぶとは思わなかったわね」
学園で、そんなことを話している令嬢たちが何組もいた。学園のあちらこちらでかたまっては、そんなことを話していた。
アデラインが大怪我をしたのを聞いて、その令嬢たちはあの美しい顔を醜くしたと知って、ざまぁみろと思っていた。わざわざ口にして大喜びした令嬢もいたほどだ。
それを見て、その婚約者の子息が幻滅して婚約しているのが嫌だと思っているのも気づいていないほど、浮かれていた。
その時の会話は、本当に酷いものだった。誰もアデラインのことを心配せずにもう二度とあの顔を見なくて済むことを喜んでいたのだ。そこにアデラインに対して心配する気持ちなんて、彼女たちにはなかった。
次にしたのは、王太子と婚約するチャンスが自分たちにも向くと思ったのだ。
「あら、おはよう」
「おはよう」
途端に仲良く話をしていた令嬢たちは余所余所しくなった。挨拶程度で、アデラインのことを悪く言って馬鹿にしていたのもやめて、程よい距離感をたもっていたが、それはつかの間のことだった。ライバルになると思っていたからこそ、余所余所しくなったが、それは杞憂でしかなかった。
それが、王太子がアデラインの双子の妹のディアドラと婚約したと聞いて、再び一緒になって、ボロクソに言い始めたのは、すぐだった。
「信じられないわ」
「本当よね」
まだ、アデラインが大怪我を負ってから目覚めていないというのにあっさりとディアドラと婚約したのだ。そのことを知ってから、以前にも増して酷いことを言うようになった。
王太子とディアドラはアデラインが目を覚めたら、事後報告して終わらせる気なのは、そこからわかる。アデラインなら、許してくれると言いたいのだ。
アデラインが許してくれることを周りが何を言おうとも、どうでもいいかのようにもしていたが、ディアドラたちはそんな気はないのだろう。
「それにしても、酷いわよね。アデライン様、まだ目が覚めていないのでしょう?」
「そうみたいよ」
そう言いながら、大して興味なさそうにしていた。
「あんなに仲良くしていたのにその妹とあっさり婚約するなんてね」
「どうせ、あの方も、他の子息たちと同じで顔で選んでいたってことよ」
「顔ではないって散々言っていたのに」
だからこそ、アデラインが除外されたら自分が選ばれると思っていた令嬢たちは、それに怒っていた。
大怪我から目覚めていないのに王太子は、散々一緒にいて口説きまくっていた相手を見限って、その妹とあっさり婚約したと思われてもいた。
そんな風に見られているのに間違いはない。王太子は、そういう男だったのだ。
そして、大怪我を負わせたアデラインの妹がまんまと奪ったことまでは気づかなかった。流石にそこまでするとは思っていなかったからだ。
隣国からも、この国からもアデラインのせいで、婚約を台無しにされたと思っている令嬢たちですら、そんなことをしようとまでは思っていなかった。
でも、事故でそうなったのなら、日頃の行いのせいだと思っている者が多かったが、元婚約者の子息たちはアデラインのことを知って心配していた。
男性たちは、アデラインの顔が醜くなったことを残念がるだけでなく、心配している者の方が多かった。
そういう面々以外の何の被害にもあっていない令嬢たちは、アデラインが王太子と婚約していても不満や嫉妬やらをいつも通りにアデラインにぶつけていただろう。
ディアドラと王太子が婚約したと知ってディアドラのみならず、選んだ王太子にもありえないと言って、ボロクソに言っていたのも、自分が選ばれないことへの八つ当たりでしかない。
自分たちのチャンスがあっさりと何もしないままなくなったことへの不満もそこにあった。もっとも、そのおかげで彼女たちは友達と仲違いせずにいる。
「あんなのを選ぶとは、思わなかったわ」
「この間の試験も酷かったというのに」
「あんな点数を取っているのを選ぶなんて、信じられないわ。見る目がなさすぎるわ」
「本当だよね。勉強嫌いどころか。顔さえ良ければ、勉強なんてしなくても幸せになれると思っているようなのを王太子が選ぶなんて、おかしすぎるわ」
「アデライン様の次にそっちを選ぶなんて、本当に見る目がないわ」
「全くだわ」
令嬢たちは、ディアドラに顔のことで馬鹿にされているのを思い出して眉を顰めていた。
見た目は確かに勝てないかもしれないが、それ以外では負けているとは思っていない。顔とて、アデラインには勝てずとも頑張ればいい勝負だと思っている者も多かった。
アデラインは、顔のことで周りを馬鹿にしたことはない。この令嬢たちが馬鹿にしても、あからさまにディアドラのように顔の良し悪しで全て解決できるかのように言ったりしない。
その辺のことより、ディアドラと王太子への不満を口にする者たちばかりになったのは、すぐだった。顔のことを持ち出すより、その不満を言い続けた方が嫌な思いをしないと思ってのことだ。
ほとんどの者が、アデラインのことを心から心配してはいなかった。全くいなかったわけではないが、かなり偏っていた。
「酷い話よね」
「アデライン様は顔だけじゃなくて、心も美しい方だったのに」
「まだ、目覚めていないのでしょう? それなのにさっさと婚約してしまうなんて、見限ったと言っているようなものよね」
「隣国の王族も、アデライン様のことを狙っていたとか聞いたけど、こんなことになれば王太子みたいに見限りそうね」
「そうでしょうね。醜く婚約者なんて、王族が持ちたがるわけがないもの」
アデラインのことを悪く言っている令嬢たちは、アデラインには勝てずとも他の令嬢たちには負けないと思っている者たちばかりだった。
絶対に負けないどころか。勝負にもならないと思われている令嬢たちは、婚約者も決まっていなかった。そんな面々だけが、アデラインのことを心配していた。
彼女たちは、アデラインに困っていた時に助けられたりしたことがあった。それだけではない。勉強でわからないところを教わったりしてもいた。
先生たちに聞いても、中々理解しないことで苛つかせてしまう程の者もいたが、そんな人を相手にしてアデラインが苛ついたことはない。何を聞いても、理解しきれるまで見放すなんてしたことはなかった。
そのため、アデラインのことを本当に心配するほどの仲となっていた。
「あの人たちは、所詮は顔で物事を見ているのよね」
「アデライン様のことを顔だけだと思っているなんて、とんでもないわ」
「全部のことに努力して、頑張っていたからこそ、あんなに美しかったのに」
「あら、アデライン様なら、他も素晴らしいから大丈夫よ」
「そうよね」
顔がどうなろうとも、あれだけ頑張り続けているのだからと彼女たちは、アデラインが早くよくなればいいと話していた。
それこそ、顔だけでなく心が美しいと言っていたが、その心が王太子とディアドラとしたことを知って、腸を煮え繰り返して復讐に燃えているとも知らず、アデラインを本気で怒らせたら、どれほど恐ろしいかを誰も知らなかった。
何もかも、頑張っていたアデラインほど、怒らせてはいけない存在だったことを身をもって知ることになる者たちは、その恐ろしさを知らないから、呑気にしている者が多かった。
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