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しおりを挟む「猿渡。おはよー」
「おぅ」
「今日は、おばさんが散歩したみたいだね。兄さんが公園の近くで見たらしいよ」
挨拶もそこそこに目撃情報を元に探りを入れた。
(普通なら、こんなこと毎朝のようにしてれば、監視してるのかとか言われる気がするけど、毎日のように散歩の事情を会話に盛り込んでいるんだもの。周りには気づかれるのも時間の問題な気がするな。……私が犬好きだと思われてそうで、それが嫌かも知れない)
すっかり、そんな会話に慣れている一希が監視してるのかと言うことは今のところ一度もない。
家族が会うのが毎日のことのようになっていて、当たり前になり過ぎていて、それを会い過ぎると思わないところが一希とその家族だ。
「そういえば、あの辺で花が咲いてるって聞いたとかで行くって言ってたな」
「え? 花見に行ったの? おばさん、花粉症だって言ってたのに大丈夫なの?」
「朝なら目や鼻をガードして鑑賞しても大丈夫だろうからって、完全防備で行くって言ってた。まっ、本人がそれで花見を楽しめるなら、止められないからさ。犬連れてれば、変質者にはならないだろうし」
「……そうなんだ」
(朝でも、犬連れてても、変質者に間違われそうだけど。……ん? そんな格好してたら、兄さんが何か言いそうだけど、そんなこと一言もなかったな)
千沙都は、ふと気になって、一希の母親の格好について兄に尋ねると一希の言っていたのと違っていた。
(今日は、ワンコを忘れなかった代わりに完全防備する予定を忘れたみたいね。……まぁ、その格好で麻呂サンを忘れてたら、通報されてただろうな。前に完全防備のおばさんを見た時、不審者にしか見えなかったし。声をかけられて、こっちがビビったくらいだものに。それなのに向こうは完全防備なのを忘れて、普通にし過ぎててて、周りに遠巻きにされてたっけ。私も、遠巻きにされたかったわ)
もう、そんなことが合ったことすら覚えてないようだ。
千沙都が、一希の母親の格好について兄に尋ねたことで、どういう意味だとなり、一希に聞いたままを文章にして送るとそれが共有されていたことで、千沙都の家族は朝から笑いのツボにハマってしまったようだ。
先生に怒られたじゃないかと理不尽に怜久にキレられ、父は部下に心配されたとか。母は家にいたが、その後、出かけた先で思い出して笑いのツボにハマって大変だったようだ。
千沙都は、家族に色々と言われたが、それらを無視した。千沙都が悪いわけではないはずだ。
(流石に兄さんに聞いて、おばさんが完全防備を忘れてるって猿渡に話したら、逐一そんなことを聞いてるのかって思われるわよね。おばさんも、花粉症が酷いっていつも言ってたし、今日はその話題で猿渡のところも、天然なことに気づくわよね)
だが、千沙都と思っていた方向には進まなかったようだ。
一希は、夕方に犬を忘れて散歩に出かけてしまったらしく、暗がりになってしまって花見なんてできなかったとぼやき、彼の母親は凄く綺麗だったと言いながら、花粉症で鼻水が止めどなく出て、目が痒くて大変になっていても、その原因が完全防備を忘れたせいだとは欠片も気づかなかったようだ。
更に暗がりだったせいだと思っていた一希が、そもそも公園のことで勘違いを起こしていることに幼なじみの家族は気づかなかったようだ。
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