48 / 53
48
しおりを挟む(あ、麻呂サンだ)
久しぶりに遠目で、千沙都は麻呂サンを見た。
(……なんか、一気に老け込んだな。でも、普通なのかな? ワンコのことは全くわからないな)
以前までは美犬だと思っていたが、そう見えなくなっていた。前まで雄犬たちから見事な健脚ぶりを披露していたが、今は散歩もゆっくりしている。シニアに差し掛かるくらいのはずだが、それにしてはかなりの歳に見える。
散歩していたのは、夕方なのに一希の母親がしていた。一希が受験生となって、散歩の担当を変えたのかも知れない。物覚えがいまいちなこともあり、成績もかなり悪くなっていて、忘れ物も多くなっているようだ。
(そういえば、塾に行き始めたとかって噂を聞いたような気がするな。学年があがるごとに成績が下がっていっても、兄さんはちゃんと大学に入れたけど。一希は、その大学選びすら、アドバイスとか。周りがすすめるところではなくて、自分の行きたいところに受かる気満々らしいとか聞いた気がするな。確か、獣医を目指すとか聞いた気がするけど……)
物覚えがいまいちな一希には難しい気がするが、やりたいことを止められても、自分の方が知識が上だと思っているのだろう。アドバイスをしている担任にすら、噛みついているようだ。
そんなことを考えていると近くで、こんな会話が聞こえて来た。
「あの、奥さんでしょ?」
「犬を連れて来て、スーパーで買い物しては、犬を忘れて行くらしいわ」
「え? 私は、連れて来てもいないのに犬がいなくなったって騒いでたって聞いたけど?」
千沙都は、そんな会話が聞こえてきて目をパチクリとしてしまった。
(相変わらずみたいね)
そんなことを思ったが、何やら前よりも酷さが増している気がする。
「他にも、高校生の眼鏡をかけた男の子が犬を連れて帰ろうとして揉めてたわよね?」
「自分が連れて来たって、騒ぎ立てていたけど、結局は違ってたらしいわ。あの奥さんみたいに連れて来てると思って勘違いしたらしいけど」
「それ、あの奥さんの息子さんらしいわよ」
そこまで耳に入ってしまい、千沙都は遠い目をしてしまった。ついに犬間違いまでするようになったようだ。
(なんか、色々と悪化してるな)
そんなことを思っているところに理人がやって来た。
「悪い。待たせた。レジが意外に込んでた。……どうした?」
「ううん。なんでもない」
理人が、買い物があるというので待っていた。ぼんやりとしていて不思議そうにされたが、千沙都は見聞きしたことを口にすることはなかった。
3年にもなるとデートなんて言ってられず、受験勉強ばかりとなっていたが、お互いの家で勉強をしていて、どちらも相手の猫に癒やされながら勉強をしていた。
この日は、千沙都のところで勉強する日だったため、理人はアインシュタインを息抜きに猫じゃらしで遊ばせようとしていたが、じーっと猫じゃらしではなくて理人を見ている愛猫に千沙都は笑ってしまった。
「……何でだ?」
「貸して。アインシュタイン」
千沙都が猫じゃらしを持って振ると目がランランとなって、荒ぶって猫じゃらしを奪うとそのままどこかに行ってしまった。
「強奪してくんだな」
「うん。持ってかれるけど、遊びたくなったら、猫じゃらし持って戻って来るのよ」
「……凄い、独特な遊び方だな」
その遊び方が、変わることはなかった。
怜久や父は理人のように観察されることもなく、うとうとと寝始めるまでになっていて、千沙都のようにアインシュタインが遊ぶ姿を見せることはなかった。
(何がそんなに違うのかがわからないけど)
千沙都は、優越感を持ってはいるが、愛猫のテンションの違いがよくわかっていなかった。
千沙都の兄の怜久は家族に大学受験は上手くいかないだろうと思われていたが、そんなことはなかった。驚いたことに合格したのだ。だが、詩とは別々の大学に行くことになった。それでも、怜久たちは遠距離でもやっていけると頑張っていたが半年ほどで破局することになった。
それはもう、この世の終わりのように落ち込んだ怜久を家族は慰めるのが大変だったが、詩の方はすぐに新しい恋を見つけたらしく、その違いに千沙都は流石だなと思ってしまった。
(まぁ、詩は美人で機転もユーモアもあるし、話しやすいから、フリーってなれば取り合いになるのも無理ないとは思っていたけど。義姉になってくれるのを期待していたのにな)
千沙都は、そんなことを思っていた。
千沙都たちも、大学が別々になることもあり、思い悩んで別れようともしたが、それでも遠距離で付き合うことにした。
色々とあったが、それでも破局することはなかった。お互いのことのみならず、実家の猫たちがいたことで遠距離でも話題に事欠くことがなかったのだ。猫様々である。
幼なじみは、大学受験に失敗した辺りで一希の父親が転勤になったらしく、一家で麻呂サンを連れて引っ越して行ってからは、どこで何をしているかを千沙都は全く知らない。
14
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
夫「お前は価値がない女だ。太った姿を見るだけで吐き気がする」若い彼女と再婚するから妻に出て行け!
❤️ 賢人 蓮 涼介 ❤️
恋愛
華やかな舞踏会から帰宅した公爵夫人ジェシカは、幼馴染の夫ハリーから突然の宣告を受ける。
「お前は価値のない女だ。太った姿を見るだけで不快だ!」
冷酷な言葉は、長年連れ添った夫の口から発せられたとは思えないほど鋭く、ジェシカの胸に突き刺さる。
さらにハリーは、若い恋人ローラとの再婚を一方的に告げ、ジェシカに屋敷から出ていくよう迫る。
優しかった夫の変貌に、ジェシカは言葉を失い、ただ立ち尽くす。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる