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しおりを挟む「……そうか。死んで抗議しようとしていたのか」
「えぇ、その覚悟を最初はしていました。でも、やめたんです。あんな人たちと一緒に地獄に堕ちようなんてせず、あったことをみんなに伝えて結婚をやめようとしたところで、誰かが浮気を暴露してくれていたんです。正直、私がやろうとしていたことよりも、全てが良い方向に向かっていて、あなたには感謝しかありません。ですから、どうか、謝らないでください」
ディミトリウスは、ジャスミンの言葉に鎮痛な顔をしていた。
「ジャスミン。君が死のうとしていたなんて、そんなことにならなくてよかった」
「私も、そう思っています。それと私が、ここにこの姿でいたのは、結婚式に未練があってのことではありません」
「だが、ここは女性たちの憧れの場所だと聞いたが……?」
「えぇ、この世界の女性なら、ここでの結婚に誰もが憧れます。私も、憧れていました」
「っ、」
ジャスミンの言葉にここでぶち壊すなんてしなければよかったとディミトリウスは思っているようだ。
「この姿でいたのは、あなたをどんなことをしても探すと誓いたかったんです」
「え?」
「この姿の私をあなたに見てほしいと思ったんです。隣に並ぶのなら、あなたがいいと思っていました」
「それは、つまり、君も覚えているのか……?」
「覚えています」
「っ!?」
(ついさっきだけど。この出合いの前に思い出せて、よかったわ)
「ジャスミン!」
ディミトリウスは、ジャスミンを抱きしめていた。ジャスミンも、彼の背中に腕を回していた。身体中が、喜びに湧き上がっていた。
「ジャスミン。私と結婚してくれ」
「えぇ、喜んで。この世界でも、天寿をまっとうしましょう」
「君を幸せにするよ」
「私も、あなたを幸せにしてみせます。うんと幸せになりましょうね」
「あぁ、なろう」
二人は、そう言ってキスをした。
その後で、二人はお互いの両親に結婚することに決めたと告げてしまい、そもそも婚約もしていないのにいきなり結婚と言い出した二人に騒ぎ立てるのを見て、ジャスミンたちは……。
(しまった。色々とすっ飛ばしてしまったわ)
「……しまった。君が覚えてくれていたのが嬉しくて、段取りを間違えたな」
ぽつりと呟くディミトリウスの声にジャスミンは、そちらを見て二人は苦笑してしまった。
まぁ、何はともあれ、あの教会で二人は誓いあったのだ。想いも同じだとわかったことで、二人が周りに何を言われようとも、結婚を取りやめようと思うことはなかった。
「それにしても、驚いたわ。あんなことになったから、どうしてるかと思って様子を見に行ったら、もう次の相手を見つけていて、婚約どころか。結婚するって言い出すんだもの」
「そうそう。こっちは、どうやって慰めようかって話ながら、あなたのところに行ったのに。こっちが驚かされてしまったわ」
前の結婚式から、半年が過ぎていた。再び、同じ控室でジャスミンは友達の令嬢たちと一緒にいた。
「こんなにすぐに結婚が決まるなんてね。私の結婚式の方が早いと思っていたのに」
「あなたのお式って、来月だったかしら?」
「そうよ。ここの予約が取れたのが、来月だったの。ジャスミンは、よく取れたわね」
「そりゃ、取れるわよ。婚約者が、彼だもの。ここで結婚式をして、彼の母国でもあげるんでしょ?」
「えぇ、こっちまで来てもらうのが難しいから、あちらに行ってから、もう一度するわ」
それを聞いて羨ましい!と友達の令嬢は騒いでいた。
ディミトリウスは、この世界では隣国の公爵令息だったのだ。隣国の令息が、ここで式をあげるなんて前代未聞だったが、出会いを少しばかり捏造した。ここにたまたま寄ったディミトリウスが、結婚式をあげるはずだったジャスミンと運命的な出会いをして、恋に落ちたと。
それによって、教会の面々も、ディミトリウスやジャスミンの両親たちも、その出会いに感激したようだ。特にお互いの母親は、そんな出会いをして婚約するよりも結婚したいと言い出したことに最初は熱に浮かされていると思っていたようだが、段々と本気で想いあっていると伝わったようで、母親たちの盛り上がりに父親たちが巻き込まれ、周りも巻き込まれていくことになったのだ。
(その手の話は、女性が好むものだものね)
キャーキャーと年若い令嬢のように騒ぐ母親たちにジャスミンは苦笑していた。
隣では、ディミトリウスが何とも言えない顔をしていたが、二人共、何も言わずにいた。そのままにしているだけで、暴走した二人によって美化され、トントン拍子にあの教会での結婚式をやれることになったのだ。
「さてとそろそろ、私たちも席につくわね」
「えぇ、みんな、都合をつけて来てくれて、ありがとう」
「いいのよ。その代わり、うんと幸せになってね」
「そうよ。その幸せをわけてちょうだい」
友達たちは、そんなことを言ってくれてジャスミンは泣きそうになってしまったが、化粧が崩れるからと泣いちゃ駄目よと言われて、笑ってしまった。
手伝ってくれていた使用人たちも、ジャスミンが落ち着けるようにと控室を出て行った。
前回とは違う面持ちでジャスミンは、そこにいた。
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