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第24話:魔王の世界
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勇者と仲間が街に戻ってきた。
勇者が負けるわけがないと人々は信じていたが、それでも無事な姿を見て喜んでいた。
その側には居なくなったはずの子供がおり、街の住民は子供を救った勇者を褒め称えた。
「あの忌まわしき根の元に向かうと聞いた時は驚きましたが、よくぞ無事にお戻りになられました!」
「あの根がまだあるということは、壊せなかったのですか? まさか、魔王の邪魔があったのですか?」
人々は矢継ぎ早に質問を投げかけ、勇者はそれに答えようとする。
「魔王は……魔王…………は……ッ!」
しかし、勇者は何かを言いかけて……そして口をつぐんでしまった。
「今の我々じゃ、まだ魔王に太刀打ちできない。だが、弱点を見つけることはできた。次は勝つ」
ブッカーが後ろから住民の問いに答える。
その答えを聞き、勇者は不思議そうな顔で見つめた。
「人は愚かかもしれん。だが、それだけではないはずだ。いつか法と社会の仕組みによって、やつの言う魔王という言い訳を使わない高潔な者達が生まれて来るはずだ。その時こそ、我らは魔王を倒したと言えるだろう」
ブッカーは小さな声で、勇者にだけ聞こえるようにそう囁いた。
勇者はその言葉を、肯定できなかった。
自分が元いた世界でも多くの犯罪や死者が生まれていたのだ、彼女が言ったことが不可能であると、無意識に理解していたのだ。
神官のメイアは子供のルノを親元へと連れて行った。
魔王との邂逅は彼女の信仰心に大きな影を落としてしまったが、それでも親子の絆というものを信じていた。
「ルノ、無事だったか!」
右目を負傷している父親は、その傷の痛みを忘れたかのように子供へ駆け寄っていった。
「あの……あの男性に何が?」
「子供に化けたドッペルゲンガーに刺されたようでして……すぐに我々の手で始末しました」
その証拠として、父親の衣服にはドッペルゲンガーの青い返り血がついていた。
子供はそれを見て、どう思うのだろうか。本当に父親だと思えるのだろうか?
ちなみに、ルノは屋敷から出る前に魔王からあるモノを渡されていた。
『もう僕がキミを守ることはできないからね。もしも、また危ない目に会いそうになったのなら……それを使うんだ。キミなら、きっと戦えるはずだ』
ルノは自分の命の恩人の言葉を信じ、それを受け取った。
そしてそれを使うべき時が今なのだと悟った。
父親が両手を広げて子供を抱きしめようとした感動の場面は、鮮血に彩られた。
ルノは隠し持っていたナイフを握り締め、無防備だった父親の首を突き刺した。
周囲は悲鳴で埋め尽くされ、その中心にいるルノは、何が起きているのか分かっていなかった。
「まさか……あれもドッペルゲンガー!」
兵士が剣を抜き、父親の死体の前で呆然としているルノに向けて振り下ろした。
現場は、さらに赤い鮮血で彩られた。
どうして子供が父を刺したのか、どうして子供を兵が殺したのか、周囲の人々は怒号と共にメイアに詰め寄った。
「どういうことですか、メイア殿!」
「あの子はどうして父親を!?」
「あなたは何を連れてきたのですか!」
何も分からない少女は、ただ一つの言葉しか発することができなかった。
「魔王の……せい……です……」
神に仕えた少女には、魔王の用意した言い訳にすがりついた。
腐肺の胞子に怯えて震える人々、ゾンビとゴーストが蔓延る外の世界から逃れる人々、他者を疑ったり排斥することが正しいと信じる人々、そして魔王が作り出した快楽を与える薬にすがりつく人々。
今、この世界は魔王が望んだ通りの世界となったのだ。
魔神でも、悪魔でも、ましてや世界を変える力を持たないただ一人の不幸な人間……。
元は普通の学生であった彼は、この世界に来てまさしくガン細胞として生まれ変わったのであった。
勇者が負けるわけがないと人々は信じていたが、それでも無事な姿を見て喜んでいた。
その側には居なくなったはずの子供がおり、街の住民は子供を救った勇者を褒め称えた。
「あの忌まわしき根の元に向かうと聞いた時は驚きましたが、よくぞ無事にお戻りになられました!」
「あの根がまだあるということは、壊せなかったのですか? まさか、魔王の邪魔があったのですか?」
人々は矢継ぎ早に質問を投げかけ、勇者はそれに答えようとする。
「魔王は……魔王…………は……ッ!」
しかし、勇者は何かを言いかけて……そして口をつぐんでしまった。
「今の我々じゃ、まだ魔王に太刀打ちできない。だが、弱点を見つけることはできた。次は勝つ」
ブッカーが後ろから住民の問いに答える。
その答えを聞き、勇者は不思議そうな顔で見つめた。
「人は愚かかもしれん。だが、それだけではないはずだ。いつか法と社会の仕組みによって、やつの言う魔王という言い訳を使わない高潔な者達が生まれて来るはずだ。その時こそ、我らは魔王を倒したと言えるだろう」
ブッカーは小さな声で、勇者にだけ聞こえるようにそう囁いた。
勇者はその言葉を、肯定できなかった。
自分が元いた世界でも多くの犯罪や死者が生まれていたのだ、彼女が言ったことが不可能であると、無意識に理解していたのだ。
神官のメイアは子供のルノを親元へと連れて行った。
魔王との邂逅は彼女の信仰心に大きな影を落としてしまったが、それでも親子の絆というものを信じていた。
「ルノ、無事だったか!」
右目を負傷している父親は、その傷の痛みを忘れたかのように子供へ駆け寄っていった。
「あの……あの男性に何が?」
「子供に化けたドッペルゲンガーに刺されたようでして……すぐに我々の手で始末しました」
その証拠として、父親の衣服にはドッペルゲンガーの青い返り血がついていた。
子供はそれを見て、どう思うのだろうか。本当に父親だと思えるのだろうか?
ちなみに、ルノは屋敷から出る前に魔王からあるモノを渡されていた。
『もう僕がキミを守ることはできないからね。もしも、また危ない目に会いそうになったのなら……それを使うんだ。キミなら、きっと戦えるはずだ』
ルノは自分の命の恩人の言葉を信じ、それを受け取った。
そしてそれを使うべき時が今なのだと悟った。
父親が両手を広げて子供を抱きしめようとした感動の場面は、鮮血に彩られた。
ルノは隠し持っていたナイフを握り締め、無防備だった父親の首を突き刺した。
周囲は悲鳴で埋め尽くされ、その中心にいるルノは、何が起きているのか分かっていなかった。
「まさか……あれもドッペルゲンガー!」
兵士が剣を抜き、父親の死体の前で呆然としているルノに向けて振り下ろした。
現場は、さらに赤い鮮血で彩られた。
どうして子供が父を刺したのか、どうして子供を兵が殺したのか、周囲の人々は怒号と共にメイアに詰め寄った。
「どういうことですか、メイア殿!」
「あの子はどうして父親を!?」
「あなたは何を連れてきたのですか!」
何も分からない少女は、ただ一つの言葉しか発することができなかった。
「魔王の……せい……です……」
神に仕えた少女には、魔王の用意した言い訳にすがりついた。
腐肺の胞子に怯えて震える人々、ゾンビとゴーストが蔓延る外の世界から逃れる人々、他者を疑ったり排斥することが正しいと信じる人々、そして魔王が作り出した快楽を与える薬にすがりつく人々。
今、この世界は魔王が望んだ通りの世界となったのだ。
魔神でも、悪魔でも、ましてや世界を変える力を持たないただ一人の不幸な人間……。
元は普通の学生であった彼は、この世界に来てまさしくガン細胞として生まれ変わったのであった。
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