私を捨てたのは貴方達

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第一章 神の子

五話 それは不味い食事(1)

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『それで?どーするのさ』
「あいつは勝手に自爆するとして、あいつらを地獄に落とすには、私自身の力が必要よ。最初に私が当主に相応しいと世間に認めなくさせなくては……」
『……あぁ、なるほど…ふふ…っ、それで?何をすればいい?』

 何かを察したように裏のあるような表情で微笑むエル。私が頼もうとしたことを先読みしている、エルは敵にまわしてはいけないタイプだと心底思った。

「……この時期に流行るのは、シンプルなドレスよ。今までフリルをふんだんと使い、ピンク、赤、黄色、発色類のドレスしかなかったわ。けれど、今回は白、淡い色が注目されてる。利用する手はないわ」
『へぇ……それで僕に作った人の居場所を調べてほしいんだね?』

 表情は変わらず、満面の笑みで答えた。私は呆れたような視線を送る。続けて説明を付け足す。

「えぇ、このブームを呼んだ中心人物は謎よ、探しても見つからない。けれど、風ならば見つけるのは簡単でしょう?」
『いいよ、朝飯前さ!仲間に伝えてくるとしよう。でも、それなら他の精霊も呼べばいいじゃないか。火、水、天、別に呼んだって平気だと思うけれど?』
「いいわ、めんどくさいもの」

 そう答えると、ふーんと興味なさそうに顔を背ける。他の精霊を呼ぶことはできる、きっと他の子も力を貸してくれるはずだ。
 でも、単純に代償を支払うのが好きじゃない。

『そう?ま、それじゃ!探してくるとするよ』
「えぇ、期待してるわ」

 エルはバイバイというように手を振った。外から来る風が強くなり、たちまち体が散り散りと、そして風と共に舞っていなくなってしまった。
 エルがいなくなると、張り詰めていた緊張感がなくなったのか、お腹の音が鳴る。

「…ちょっと、小腹が空いたわね」

 そう呟いて、へ向かった。




「え…!な、何やってるの!エンリル!!」

 大きなテーブルが一室を埋めている。そんな中、一番奥の席へと座った。
 それを見た使用人が焦りながら、怒るような口調で言ってくる。

「はぁ…、貴方なんかに名指しされる覚えはないわ」
「な、何言ってるの!そこは当主が座る場所よ!!」
「えぇ、次期、当主なのだから当然でしょう?」

 な…っ!と今にも殴りかかりそうなほどに怒りは限界とも見えた。同時に、こいつは何言ってるんだという軽蔑な目を見える。

「それよりも、料理、運んできなさい。二度は言わないわ、それともなに?クビにされたいの??」

 鋭い視線、重い空気にやられたのか、何も言わずに一度礼をし、しばらくすると料理が運ばれてきた。

 この使用人、アルカというのだが、実に聡明な性格をしているのを知っていた。自分が敵わないと思った相手には最善をつくし、また自分に劣ると判断した相手は捨てゆくのだ。
 慣れた手付きで料理をテーブルにおいていく。

 ーーー普通の、料理

 今まで食べてきたものは、硬いパンと冷たいスープだ。それしか食べてはいけないと言われていた。
 けれど、目の前に出されたのは、白身魚のカルパッチョ、厚みがあり肉汁が溢れるステーキ、様々な彩りを見せるサラダ、そしてとうもろこしの粒が残り湯気が立つコーンスープ。

 ーーー私は、忘れないわ

 虫を踏み潰したかのように苦い表情をしながらも、ステーキを、フォークで刺した。

       ☆過去話☆

「わぁ…っ!いいの?…アルカ!!」
「はい、構いません。秘密ですよ」
「うん!もちろんよ!」

 目の前にある湯気がたつ肉汁溢れるステーキに興奮が隠せなかった。こんなの食べたことも見たこともないと目を輝かせる。
 始まりは、アルカが私のためにステーキを用意してくれたことだった。
 始めて手に取る物を恐る恐る口に運び、咀嚼する。

「美味しい!こんなの食べたことない!!」
「それは、良かったですね」

 口の中が幸せでいっぱいだとアルカの方を向いて伝える。アルカは笑っている。口角をあげ、その場でずっと。

 何かを待ってるようだった。

「うん!……ぁ?れ…ぇ」

 元気な応答。けれど、おかしいことに気づく。痛いのだ、苦しいのだ。口の中が炎で焼かれるような痛みが襲う。
 脳は複数の針で刺され、喉はナイフで切られているような感覚を覚えた。その場で崩れ落ち、アルカに助けを求める。

「いたぁい!たいの!……たす…けぇ!……て!いたい!ぁい!」

 何も反応がなかった。いや、反応があるといえばあった。私を見下ろし、笑っている。

 ごほごほと咳き込み、口は幸せの味覚から反転し鉄の味しかしなくなった。床は血だらけになり、手も口周りも真っ赤に染まっていた。

「ねぇ、良いことを教えてあげる。貴方なんかがこんな物を食べれると思っていたの?味方がいるとでも?」
「ある…か!たす…けてぇ」

 それでもなお、助けを求める。
 絶望を感じる中、もしかしたら解毒剤をくれるのではないか、そんな小さな希望を信じてしまうほどに幼い子供だった。

 床に這いつくばりながら、アルカの足を震えた小さな手で掴む。

 けれど、アルカはそれを振り払い、その小さな手を勢いよく踏んだ。声にもならない悲痛の喚きをあげ、ぼきっと骨が折れるような音を感じた。

「知ってる?ここで人を呼んでも、あんたの証言と私の証言どっちを信じると思う??」
「ぇ…?」

 嫌な予感が走る。息もそろそろ途絶えてしまいそうなほどに弱っていた。

「きゃぁぁぁ!!!お嬢様が…!お嬢様が……っ!」

 突如、アルカは悲劇のヒロインかのような叫び声を上げた。途端に急ぎの足音がこちらに近づいてくる音が聞こえた。

「あら、アルカじゃないの!どうしたのよ!!……なんでここに下民の子が?」
「エンリル様が…!つまみ食いをしようとして、喉につまらせたようで……っ」
「な…っ!エンリル!!あんたって子は!!!」

 違う、そう言いたかった。けれど、舌も焼けきり、座ることもできず、冷たい床に寝そべることしかできない。
 アルカはすすり泣きながら、話を続ける。

「奥様、やめてください……エンリル様は悪くありません、私が見てなかったのが悪いんです……っ」
「アルカ……やっぱり貴方は優しい子ね……」

 そんな茶番劇の言葉達が聞こえなくなったかと思えば、体は浮き、どこかに飛ばされた。着地したさきは真っ白で、冷たく、寒く、氷の床かと思ったくらいであった。

「エンリル!あんたはずっと外で転がってなさい!!!」

 その言葉でここが外なのだとわかった。今は雪が降っている。

 違うの、私じゃないの、やってないの。

 そんな小さな声は雪にかき消され、意識も薄れていった。
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