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3巻
3-2
しおりを挟む「女たちは――女たちの話もしていたようではあるがな。私は彼岸の、ニホンという国の話をいくつも訊いた。その国には、身分という考えがないらしい。信仰や生まれにかかわらず、誰もが自由に学び、自由に道を選べるという。また、王は君臨すれど統治せず、政は民が自ら行うのだそうだ。私は考える。私の役目は何か。背負った宿命は何か。一つは、家長としての役目だ。“家”を受け継ぎ、家族を守り、次代へ遺していくことだ。もう一つは、王としての役目だ。民を守り、貴族たちを束ね、国を保持していくこと。この役目を、私の代においてはどうにか果たすことができたと自負しておる。だが、我が子は、我が孫は、その孫はどうだろうか? 家長としての役目、王としての役目、この二つを果たしきることができるだろうか。できると考えるのは、少々楽観に過ぎると、そうは思わぬか」
エルナト王国は、建国王ミッシェルの築いた強大な基盤のおかげで絶対王政的な側面はあるものの、基本的には封建制をとっている国だ。王国軍の力が大きく衰えた今もなお貴族たちがまとまっているのは、平穏だからだ。国が乱れれば、王家はあてにならぬと離反する者も出るだろうし、これを機にとって代わろうとする者も現れるに違いない。大きな乱もなく大身を保持してこられたのは、ただ単に幸運であったのだとエドワードは考えている。
だがこれからは違う。教会の力は衰え、後ろ盾を失った王国貴族の威信も緩やかに崩れ、今までのやり方は通用しなくなる。そうなる前に手を打たないと、エルナト王国は間違いなく崩壊する。それを防ぐための時間も力も、エドワードにはなかった。そしておそらく、ヴィクトリアにも、アルバートにも、スタンリーにも、そうするだけの力はあるまい。
しかし――
「サツキは私に一つの話をした。三本の矢という、ある騎士の逸話だそうだ。その騎士は今際の際に、三人の子にこのような遺言をしたという。一本の矢は容易く折れても、三本の矢を束ねれば、易々とは折れぬ。だからお前たちも力を合わせて家を守るのだと」
言わずと知れた毛利元就の逸話だ。騎士という言い方をしたのは、この世界の人間にも分かりやすくするためだろう。
「実に陳腐な逸話であろう? 三本の矢を束ねたところで、力ある者なら折ることはできる。だがこれが十本ならどうだ? 百本なら、千本ならどうだ? この王国に住まう人々の全てが知恵を、力を持ち寄れば、容易く折れぬ国が生まれるのではないか。民の全てがまとまることなど簡単にはできまい。しかし、そこに王という旗印が立っていればどうだ。知恵も力も持たないが、慈しみ深く、朗らかで、美しく――ただ愛されるだけの王がいればどうだ」
エドワードは静かに呼気を吸う。夢物語に過ぎないことは自分でも分かっている。だが、夢物語なればこそ、その国の主には夢物語らしい王が似つかわしいと考えたのだ。
「誰も王のために、などとは思うまい。されど、王がいることで、己が王国にいるのだと知ることはできよう。家や村や町ではなく、国というものが己の故郷だと、知ることができよう。頭のできはそう褒められたものではないが――ヴィクトリアならば、全ての民の母として、ただ微笑んでいることができるだろう。政も、戦も、そなたらが支えれば良い。アルバートも、スタンリーもおる」
どうだ、と問うと、しばしの間をおいて、まずアダレードが口を開いた。
「どうもこうもございません。五本目の矢となるのは極めて不本意ゆえ」
ニヤリと獰猛な笑みを浮かべ――
「私は四本目の矢となりましょう」
続けて、口髭を弄っていたゼアディール公爵が口を開く。
「将軍殿は、そのようなご立派な体格をしておられるのに、些細なことに拘られるのですな。どうせ、千本、万本とまとまる矢なのですから、四本目であろうと五本目であろうとそう変わりはございますまい。それも武人の性ですかな」
「そっちこそ口の減らない爺さんだね。社交界に入り浸ってると、そういう意地の悪い物言いしかできなくなるのかい」
「お二方とも、陛下の御前ですぞ」
将軍と公爵の言い合いをやんわり窘めたのは、今までむっつりと佇んでいた近衛隊長のグスタヴだ。二人の重鎮は表情を引き締め、一度は口を閉じるが――
「それより、ヴィクトリア殿下が継ぐとなれば、納得せぬ者もいるでしょう。これを機によからぬ野心を抱く者もおるやもしれません。王国軍の力だけで対処しきれるとは思えませんぞ」
真剣な顔で、アダレードが懸念を口にした。答えたのはエドワードでもグスタヴでもなく、同じく黙って控えていた密偵のアイヴァンだ。
「それについては、スタンリー殿下より言伝があります。殿下はかねてより二心ある者たちに目星をつけていたようですな。その者たちが間もなく王家で一斉に動くと。そして、将軍殿と公爵閣下、お二人で先手を打てとのことです。詳しくは執務室で直接お話をされますので、この後面会をなさると良いでしょう。アルバート殿下も同席されるそうです」
「あの坊ちゃん殿下が、スタンリー殿下と同席だって? 一体全体、どうした風の吹き回しだい」
「ふむ? スタンリー殿下がなぜそのような確信を持たれているのか、いささか不可思議ではありますな」
アイヴァンの言葉に、将軍と公爵がそれぞれ当然の疑問を口にする。
「聞いての通りだ。そなたらは、このままスタンリーの執務室で話を聞いてくれ」
将軍と公爵はそれ以上は何も言わずに立ち上がり、部屋を辞そうとした。しかしアダレードは他に動く者がないのを見て、少し不思議そうに訊く。
「近衛隊長、あんたは来ないのかい」
アダレードの問いに、グスタヴは笑って答える。
「私もいい年ですのでな。何より私はエドワード陛下にお仕えしております身なれば、そろそろ潮時でしょう」
アダレードは「そうかい」と答えると、一礼して公爵とともに国王の寝室を去っていった。
* * *
藤山春日神社の建立時期がいつなのかは、いまひとつ曖昧なところがあり、郷土史の専門家の間でも意見が割れている。ただ、少なくとも安土桃山時代には存在したらしいので、最低でも四百年の歴史を持っていることになる。
これが商店か何かであれば、老舗として持てはやされるところであろうが、神社としてはそう珍しくもない。
それ以外でも、藤山春日神社には特別変わったところはない。強いてあげるなら、秋に行われる花笠や提灯を一斉に飾り立てる盛大な祭りだ。だがこれは、この神社がというより自治体が主体となって行っているものであって、やはり藤山春日神社自体は“どこにでもあるありふれた神社”の域を出ることはなかった。
しかし、この世界においては違う。
神社、ひいては日本建築そのものが、奇妙奇天烈で奇異なものだった。
レヴィアタン、ベルゼブブの一件以降、神社が転移してしまったこの王都周辺は閑古鳥が鳴いている。立て続けに強大な《悪魔》が出現したきな臭い土地に、進んで立ち寄る者などいるはずもない。自警団が機能停止している状況にあってはなおさらである。
そのせいで、暇を持て余しはじめた近所の人々――概ねおばさん連中が、異世界の建築物、異端の《退魔士》を一目見ようとなんとなく神社に集まるようになっていた。
そんな神社にお忍びでやって来たのが、ヴィクトリア(とお供役のファル)だ。彼女があれやこれやと彼岸の話を聞いていたところ、祭りの話がたむろっていた街の人々の耳に入り、なら自分たちもやってみようという話になった。
というわけで今、藤山春日神社は生まれた頃からここにいる爽悟自身も見たことがないくらい賑わっている。
静かな境内のそこかしこに色とりどりの端切れや枯れ枝でつくられた提灯がぶら下がっている。どれも形はいびつで、あまり見目が良いとは言えないが――
「ティム何某の映画みたいに幻想的で良いわよね」
などと透子はぬかすのだった。流行りに疎い爽悟にはティム何某が分からぬ。だが雷矢も賛同していたので、これはこれでおしゃれなのであろう。
「しかし、最近の若者の考えることはよく分からない」
爽悟も立派に最近の若者なのだが、完成品の提灯を手に取り、いつもの仏頂面でそんなことを言う。
「これが美麗とは僕も思いませんけど、降ってわいた話でこれなら十分じゃないんですか」
隣にいる爽悟の方を見ず、ファルは答えた。なにせ気分転換の暇潰しであるから、しゃれている必要などないと考えるのだ。
ファルはヴィクトリアのお目付け役であると同時に、護衛でもある。ただ、ここにいるジプシャンの中にはスタンリーの手先として動く手練の者もいる。だから刺客がいても自分に何かできるとは思ってはいないが、それでも何かあればすぐ動かなければならない。
当のヴィクトリアは呑気に奥方たちと世間話をしている。市井の者とでもこうして構えずに話せるのは、彼女の美点であろう。
「――そういえば、ミリーさんがよくお城にいらしていますよ。リア様の影になるための訓練を本格的に受けるようです」
遠目にヴィクトリアの姿を眺めながら、ファルがこの場にいない町娘の話を持ち出した。ミリーは、この神社の向かいにある《老婆のふんばり》亭の看板娘である。
「確かに最近留守にされてることが多いとは思ってましたけど、あれはとりあえずのその場しのぎじゃなかったんですか」
ベルゼブブの一件の際、城から神社に避難しても騒ぎにならないよう、ミリーをヴィクトリアの身代わりに立てたのだ。だがヴィクトリアとミリーの容姿は、身長以外似ても似つかない。二人とも美人ではあるが、体型すら違うのだ。それでもどうにかなったのは、ジプシャンたちの長老、偉大なる魔女を自称するビアトリスの力添えあってのこと。もっとも、老齢の彼女はその一件で術を使いすぎたのか体調を崩し、床に臥せっている。
「実際のところ、影なんて瓜二つである必要はないんですけどね」
ファルはそこで声を潜めて話し出す。
「これは、ここだけの話にしてほしいんですけど」
「ここだけの話って大体際限なく広まっていきますよね」
「話すのやめようかな……」
「冗談です」
「ソーゴ様の冗談は分かりづらいのでもうやめた方が良いですよ」
半眼でそう言うと、ファルは一度大きなため息をついた。
「実のところ、影というのは表向きの話です。ミリーさんは、アルバート殿下の花嫁候補なんですよ」
その言葉に、爽悟は数度目を瞬かせた。王子と飯屋の娘。どう見ても不釣り合いなカップルだ。
「何が狙いなのかは僕にも分からないんですが、王城の『奥』はその噂で持ち切りみたいです」
何事もなければいいんですが、と心配性のファルはまたため息をついた。
「まあ、ミリーさんなら何かされてもビンタくらいはしそうですが」
「はは、そうですね」
ファルは笑うと、逆にそれが心配なんです、と胸中で呟いた。
* * *
いつになく賑やかな境内を覗き込んで、ジェイル・ウル・ランシードは少し怪訝な顔をした。彼の知る限りここは常に静謐だった。
――ここのところずっと王城にいた彼に、人々が暇を持て余しているという事情など分かる由もない。
ジェイルは鳥居を潜ろうとして、真ん中は神様の通り道、という爽悟の言葉を思い出し、わずかに左にずれて境内に入る。そういえば、ここに来る道中もあまり人とすれ違わなかった。最近の騒動のせいか引きこもっているのかと思ったら、この界隈の人々はこんなところに集まっていたらしい。しかし、ジェイルに声をかけてくる者はいない。そもそも気付かれていないのだろう。
髪をきっちりと整え、仕立ての良い服を着た今のジェイルは、しがない自警団をやっていたときとは随分印象が違っている。気付かれなくても無理はないが、二年ほどこの街で過ごした彼にとっては、少し寂しく思えるのだった。
(でもまあ、盛大に見送られても困るしな)
それもジェイルの正直な気持ちだった。お貴族様のことを、街の人たちはあまりよく思っていない。魔物などの外敵が多い農村はともかく、こういう都市では貴族なんて偉そうにしている連中くらいにしか思われていない。手の平を返したように邪険にされても、バカ丁寧にされても、どちらにしても傷つくものだ。
ジェイルはこれからこの街を発ち、故郷アスケラへ戻る。ランシード領の再建のためだ。本来多忙を極める身だが、せめて爽悟たちには別れを告げておきたくてここに来ていた。
境内に入ったジェイルが周囲を見渡すと、黒髪の女と目があった。この神社の禰宜――管理者代理の早良透子だ。ジェイルの立場を察してか、近くにいた女性に何事か告げると、透子の方からこちらに歩み寄ってきた。
「なんだか随分久々な気がするわね、ジェイルくん」
柔らかく微笑まれて、ジェイルはなぜか気恥ずかしくなった。例えば、姉を相手にするとこういう感覚になるのだろうか。肉食獣の相手ばかりしていたせいか、絶対に“そういう”間柄にならない距離感に、少し戸惑いがある。
「ああ、うん。ゆっくり話なんてできなかったからな」
「今日はどうしてここに?」
忙しいんじゃないの、と透子が当たり前の疑問を口にする。
「王都を発つことになったから、せめてあんたたちには挨拶を、と思ってな」
「気を遣わなくていいのに。お礼は出世払いでいいのよ」
「あんたも結構、大概だよな……」
今の気遣いよりも将来の寄進を暗に求めてくる透子に、ジェイルは思わず白けた声を返してしまった。
「まあ、実際働いたのはわたしじゃないから、どっちだっていいわよ。どうぞ、お心のままに」
こういうのって気持ちの問題だからね、と透子は笑う。
「お礼なら神様にもしていって。お力を貸してくださったのは事実だから」
「俺、一応アルティス信徒なんだけど」
「形は違えど同じ存在、ていう設定だから」
「設定」
爽悟が言いはじめた出まかせである。透子もそれに乗っているらしかった。というより、アルティス信仰以外が否定されているこの国では、そのように主張するしかあるまい。
「まあ、いいや。でも俺、あんたたち流の作法とか知らねえんだけど」
「いいわよ、そっち流で」
「そうなのか?」
「そりゃ、作法の一つ一つにもちゃんと意味があって、それはとても大事なことだけど、信仰の根本ってそこじゃないでしょ?」
「そうかもな」
いい加減そうに見えて、存外含蓄のあることを言う透子に感心しつつ、ジェイルは歩みを進める。いつもより境内は賑やかだ。なのになぜか、拝殿の前にこうして立つと、そこだけは静けさに満ちているように思える。
「わたしたちの世界では、この世界のように霊的な存在が力を持たないの。だから、神様も目に見える形で手助けをしてはくれない。でも、見守っていてはくださるわ」
透子の言葉を受けて、ジェイルは拝殿を見上げた。この建物も、数百年前からずっとここを訪れる人々の願いを聞き、見届けてきたのだろう。異世界の信仰のことを、ジェイルは知らない。しかし、百年先も、千年先も、自分が果てた後の未来を見届けてくれる誰かが本当にいるとしたら――
ジェイルは跪き、目を閉じ、手を組んだ。壊すのは容易くとも、元に戻すのは生半可なことではない。自分の代で故郷の再興を成し遂げることは、人外の存在の力を借りてなお不可能かもしれない。
それでもジェイルは祈る。自分の願いが叶った遠い先を、見届けたいと。
深く祈りを捧げると、喧噪は消え、ジェイルの世界は静けさで満たされた。
――大丈夫、きっと叶う。
ジェイルは、はっと顔を上げて、周囲を見渡した。
白衣に身を包んだ少年――爽悟が、じっとこちらを見つめている。彼は綺麗に整った礼をすると、そのままそっぽを向き、何事もなかったかのように立ち去っていった。
「不器用な子なの。悪く思わないであげてね」
透子の言葉に曖昧な笑みを返すと、ジェイルは気になっていたことを口にした。
「透子姐さんはどう思う?」
「何を?」
「俺が兄さんを――セロンを殺したことだよ」
思わぬ問いに透子は一瞬目を見開いたが、ふうむと真剣に考え込む。
「あなたが気にしているのは、結果として、お兄さんを生かそうとした爽悟くんの厚意を無下にしてしまったことについてでしょう」
ジェイルは素直に頷く。
「正解はないわよね。いっそ命を絶った方が救いになるというのも間違いではないし、生きていればいつかきっと、という考えも間違いではないわ。多分、爽悟くんは、少なくともあなたの手を汚させたくなかったんだと思う。仮にあなたのお兄さんの命を奪われるとしても、それはこの国の法のもとに行われるべきと考えてたんでしょ」
透子はジェイルの肩に手を置いた。
「でもそれは、爽悟くんが勝手にそう考えていただけのことよ。あなたが気にする必要はないわ。ねえ、それより大願成就のお守り買っていかない? 願掛けには絵馬なんていうのもあるわよ。どっちも一つ五ズベンなんだけど」
辛気臭くなった空気を打ち払うかのように、透子が早口でまくしたてる。肩に込められた力は存外強く、ジェイルは結局両方買わされることになった。
絵馬には、爽悟宛のメッセージを残した。使い方は間違っているのだが、透子は特に何も言わなかった。
木製のボードで別れのメッセージを残す風習は、しばらくこの辺りで流行ることになるが、それはどうでもいい話だ。
* * *
「あらアルバート殿下。『奥』に何か御用でいらっしゃるのかしら」
王女付きの侍女であるナタリは、通路に立ちはだかると、両足を開き、腰を低くして、両腕を広げ、シュッ、シュッ、と反復横飛びを繰り返した。
妹の顔を見に、女性たちの住まいである『奥』の塔へやって来たアルバートは、「またお前か」と言わんばかりの冷めた眼差しでナタリを見下ろす。
このふざけた侍女、相手にすると余計につけ上がるのだ。お転婆王女をコントロールできる貴重な人材なので、多少アレな行動があっても大目に見られている。加えて言えば、侍女としても護衛としてもずば抜けて優秀なのは、残念ながら事実だった。
「ヘイ、ヘイ、王子ビビッてるゥ」
この侍女は、ふざけている上に、しつこかった。これほど家臣を手打ちにしたいと思ったことが、これまでの人生であったろうか。いや、ある。相手は大体こいつだったが……
ヘイ、ヘイ、カバディ、カバディ、と謎の掛け声を上げながら反復横飛びを続けるナタリを、アルバートは何も言わずに冷え切った眼差しで眺め続ける。
「ヘイ……ヘイ……」
五分くらい続いただろうか。そろそろナタリの息が上がりはじめている。
「ヴィクトリアは部屋にいるか?」
アルバートは手短に、それだけを言った。
「……ええ。お部屋に、いらっしゃいます」
「そうか」
そのままアルバートは、侍女の横をすり抜けて通路を進む。背後から「ンンンンンッ! 新機軸ッ!」という不可解な声が聞こえるが無視。
ヴィクトリアの居室の前には別の侍女が控えていた。なにかにつけ高圧的な態度を取るアルバートの評判はあまり芳しくない。アルバートの姿を確認した侍女の顔がさっと強張る。しかしそこは彼女も王家に仕えるほどの人間だ。すばやく優美な笑みを作ると、恭しく一礼をしてみせる。
「ご機嫌麗しゅう。アルバート殿下が『奥』にいらっしゃるとは珍しいことですわね」
「ヴィクトリアと話をしようと思ってな」
「え? ああ、姫様は……」
そこで侍女は、突然言葉を濁した。ちらちらと、扉の方に視線が向いている。おかしい。着替えなどをしているのなら、その旨をはっきり告げるはずだ。
「また脱走か?」
「まあ! スタンリー様じゃあるまいし、姫様はちゃんと一言おっしゃってから脱走なさいますわ!」
急に侍女が大声で反論する。だが、そういう問題ではなかろう。アルバートが口を開きかけると、扉の向こうから声がした。
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