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第三章 建国祭と学園と

50.手芸部見学

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予定より10分ほど遅れて、展示教室に着く。

「あっ、来た来た!リリー、イデア!遅かったわね?道に迷った?」

私たちが約束の時間に遅れて到着したので、マリーアが心配そうに駆け寄って来てくれた。

「ごめんね、途中で愉快な知り合いに声をかけられて」
「ゆかいな?」
「マリー、あの、グローリア様たちに」
「あ~」

「ごめんね、迷惑をかけたわよね?」と、眉を下げるマリーアに、イデアと二人でぶんぶんと首を振る。

「グリッタ様は姉さまがフィスのお妃候補と思っているみたいですね」
「……そうみたいね。あり得ないって何度も言ってるのだけれど」
「なんだかんだ、一緒にいる機会が多いからなあ。愛称呼びが許されているし」
「テンダー!」

むむむ、と三人で話していると、ひょこっとテンダーが入ってきた。

「おう、リリー来てくれてありがとな!ドゥルキス嬢もありがとうございます。セラータ辺境伯が次男、テンダーです。どうぞ、テンダーと」
「よろしくお願い致します。わたくしもイデアとお呼びください」

にこっと穏やかな二人の挨拶に、心が落ち着く。愛し子ちゃんたちは穏やかだよね。精霊さんが気に入るのだから、そうなんだろうな。あれ、私は大丈夫なやつ?ま、よきよき、何事も例外はある。うん、自分で認めますよ。き、気にしてないからね?!

「せっかく来てくれたんだから、楽しんでくれ。マリーの作品、かわいく出来てるぞ」

みんなで「そうだよね」となり、テンダーの案内に付いていく。そしてその途中ですれ違う部長さんたち先輩にもご挨拶をした。みんな優しそうだ。

「これだ。いい出来だろう?マリーらしいよな」
「わ、これって」

そこに展示されていたマリーアの作品は、『家族』と題されたサバンズ家の面々を模したぬいぐるみだった。さらに私たち四人の周りに、見守るようなセバスチャンたちの姿もある。

「わたしたちだよね?すごい、かわいい!見て、スザンヌもいるよ!」
「えっ、わたくしもですか?」
「ええ、使用人のみんなも、共に暮らす家族だもの!ちょっと全員は間に合わなかったけど」
「マリーアお嬢様……!ありがとうございます。とても、とても嬉しく思います」

照れ笑いのマリーアに、スザンヌは感動しきりだ。展示が済んだら、みんなもらってくれるかしら?とのマリーアの言葉に、「当然でございます!」と、すごい気合いで応えていた。気持ちは分かる。

「本当、素敵よ、マリー!皆さんとても似ているし、フォルムがとってもかわいくて。羨ましくなるくらい!リリー、いいなあ」
「イデアも思うだろ?俺も欲しいんだ」
「お世辞でも嬉しいわ。ありがとう、二人とも。ゆっくりでよければ、二人も作りましょうか?」

マリーアの言葉に、「ぜひ!!」と、二人の声が重なり、ふふっと微笑み合う。何と、ぬいぐるみ作りに嵌まったマリーアは、使用人全員もコツコツ作るつもりでいるらしい。すごいぞ、ヒロイン。そして、相変わらずのギャップ萌えテンダーと、おっとりイデアのとても喜んでいる姿に、私まで嬉しくなる。二人もあっという間に打ち解けたようだ。

それから他の部員さんたちの力作も見学して歩く。どれもこれも個性的で、見ていて楽しい。昔も今も裁縫が苦手の私にとって、器用な皆様は羨ましい限りだ。何で人間って、得手不得手があるんでしょうね。

「うう……。みんなすごい……何でこんなに作れるの?」
「リリーも思う?」
「え、だってイデアは魔道具を」
「リリー。魔道具と手芸は別物なのよ」
「イデア……!」

イデアと二人、両手を取り、見つめ合う。同士だ、同士がいた。感動の私たちを余所に、周りの部員さんたちは優しく生温かい目で見ているけれど、器用さんには不器用さんの悲しみは分かるまい。

「手芸までできたら、リリーは完璧すぎるじゃない!ひとつくらいの苦手はかわいいわ!」
「えぇ……?」

完璧ヒロインのマリーアにそう言われると嫌味に聞こえそうだが、ただのシスコンムーヴだときちんと認識している私は、苦笑するしかない。「リリーの欲しいものは、わたしが作るから!」との言葉に、マリーは相変わらずだなと、テンダーとイデアに楽しそうに笑われる。

「二人とも、最後にこっちよ。テンダーのタペストリーは日に当たらないように、奥の準備室なの」
「「ふわあ……!!!」」

マリーアに連れられて入った準備室は、綺麗に整頓されてすっかり展示室になっており、テンダーのタペストリーを囲うように魔道具ランプが照らされて、とても幻想的だ。二人で感嘆の声を上げる。

「すごい……本当に生きてるみたい……!わあ、ルシーだ、サラも、そのまま……!すごい……!ごめん、すごいしか出てこない」
「イルも、そのままイルだわ!すごい、綺麗……!ええ、綺麗とすごいしか出てこないわ」

人って綺麗過ぎるものを見ると、言葉を忘れるらしい。語彙力がすっかり失われている私たちの言葉にも、テンダーは嬉しそうに笑ってくれている。

四大精霊のそれぞれの色がグラデーションを作って、優しく微笑んでいる。最早一枚の絵画だ。

「前にマリーが言っていたけど、テンダーの優しさと力強さが表れた、とってもとっても素敵な作品だね!」

感動を改めて伝えると、テンダーは耳まで赤くなりながら「おう」とだけ言った。ふふっ、相変わらずの照れ屋さんめ。

綺麗なものを見て心が洗われた私は、愉快な仲間たちに不快にされたことなぞ、すっかり忘れたのであった。

この後の出来事で思い出すまで。
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