私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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42.今日もぐるぐる

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朝になりました。

……全っ、然、寝られなかった……。

昨日はかなり疲れたはずなのに。何だかこう、いろいろと考え事を……。


そもそもさ、まともに話したのがあの王城での晩餐で。あれだけで、本当に私をすっ…気、気に入る?

やっぱり聖女だからなのかな。そう言えば、婚約者に、とは言われているけれど、好きだと言われた訳じゃないし。でも、あんなに気遣ってくれて。くっ、口説いてるって。でもでも、本当はどう思っているんだろう?ラインハルト殿下は……って、

「ちがーう!違ってないけど、ちがーう!」

がばっと、布団をめくって起き上がる。

「もう、なにやってんの、私……」


ため息を吐きながら、ベッドから降りる。

「支度、しなくちゃ」

自分に言い聞かせて、顔を洗って、制服に着替える。そして自分に軽く回復魔法をかける。うん、少しは楽だ。

「今日は朝ごはん、いいかな」

いつもは朝食第一主義だけど、さすがに食欲が湧かない。軽くお茶だけ飲んで行こうっと。



寮のエントランスに近づくと、何だかいつもよりザワザワしている。何かあったのかしら?

……そして、何だか妙に見られているような?

???と思いながら、靴に履き替える。ちなみに、グリーク王国も日本みたいに外と中で靴を履き替える。これも嬉しい。

「エマ嬢、おはよう」

私がエントランスを出ると、横からラインハルト殿下が挨拶をしてきた。いや、なぜここに?

「おっ、おはようございます?な、なんで?」

驚きすぎて、敬語を忘れる。

「うん、今日も安定の疑問符ついてるね」

ははは、と、楽しそうな殿下。いや、ははは、では無くてですね。

「何で、って。口説いているからね。お迎えに来た」

きゃー!!と、絶叫に近い悲鳴が聞こえる。

私も叫びたい所だけど、パクパクするだけで声が出ない。

「はは。また真っ赤だ。……少しは脈アリかな?」

「……っつっ、知りません!」

「残念」

「~~~!」

残念と言いながら、何故か嬉しそうな殿下。私はもう、自分にかけた回復魔法が切れそうだ。


結局、殿下に押し切られる形で一緒に登校した。

もう、昨日の朝なんてメじゃないくらいの騒ぎですよ……。

そりゃそうですよね……王太子とその婚約者でさえも、毎朝一緒ではないのに。もう、すごく恥ずかしい。恥ずかしいのだけれど、どこかで喜んでいる自分にも気づいたりして。心の中が大パニックだ。

「…嬢、エマ嬢、大丈夫?」

「っ、はい!」

しまった、考え事をし過ぎて生返事になってしまっていた。

「ぼんやりしてるの珍しいよね?体調が良くないんじゃないの?そう言えば、顔色が良くないような」

「い、いえ!大丈夫です。昨日、ちょっと遅くまで調べ物をしてしまって」

「…そうなの?頑張るのもいいけど、ほどほどにね?」

「はい、ありがとうございます。気をつけます」

ほんとにしっかりしないと。


ラインハルト殿下は私を教室の前まで送り、今日はすぐに自分の教室へと去って行った。


「おはようございます、エマ様」

「セレナ様!おはようございます。昨日はありがとうございました」

私たちの挨拶に、クラスが少しざわざわする。

「ふふ、こちらこそ。…今朝も熱烈ですわね?」

後半をこそっと耳打ちされる。

「か、からかわないで下さい!」

私も小声で返す。恥ずかしいよー。

「ごめんなさいね。可愛らしくて、つい」

セレナ様との笑顔でのやり取りに、驚きと安堵のような空気が流れる。

「…皆様とも、昨日のうちにお話しましたの。皆様とても興味をお持ちになって。エマ様のご都合がよろしい時に、またお茶会を開いてもいいかしら?」

「まあ、是非!」

「ありがとうございます。では後程、予定をお聞かせ願えますか?」

「はい。よろしくお願いいたします」

やったー!セレナ様、仕事が早い!楽しみだあ。

えっと、先週末から治療院行けてないから、今日は行くとして。その後は皆さんの都合に合わせようっと。

一気に気分が上がる。


「おはようございます、ローズ様」

「おはようございます、エマ様」

先に席に座っているローズに挨拶をしながら、私も着席する。

人がいる所では、私達もちゃんと様付けしますよー。

「良かったわね、エマ」

「うん、ありがとう」

こそこそっと、耳打ちする。


ホームルーム開始のチャイムが鳴る。今日も学園のスタートだ。


本日の時間割は、一限目は外国語の授業。そして、二限目が。

「そうだ、剣術、魔法訓練がある日だった…」

更衣室で体操着のような動き易い服に着替えながら、思わずぼやく。朝食抜いて失敗したなあ。まあ、無理をしなければ大丈夫だろうけど。

「…エマ様?大丈夫ですか?」

ぼやきを聞いて、ローズが声をかけてくれる。

「ええ、大丈夫です。ありがとうございます、ローズ様」

「ほんとに大丈夫?顔色が良くない気もするけれど」

レイチェルとカリンも心配してくれる。

「ほんとに平気よ!」

セレナ様のお陰で、テンション上がってますし!もともと体力には自信がありますので!

「そう?無理はなさらないでね」

「はい、ローズ様」

笑顔で答える。

「では皆様、参りましょうか」

「ええ」

カリンの言葉で、四人で訓練場に向かう。


私は気楽に考えていたが、結局この後、やはり睡眠と朝食は大事だと思い知る事になるのだった。
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