私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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43.聖女の不養生

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剣術、魔術訓練の担当の先生は、スラン先生とカーラ先生だ。お二人とも剣術も魔術も凄腕で、まだ未熟な生徒たちに危険がないように、二人体制で授業をしてくれる。スラン先生もイケメンで人気だけれど、カーラ先生も女性ながら剣術も騎士団に入れるほどで、宝塚のように女生徒からの人気が高い。

贅沢な教師陣なのだ。


とはいえ、もちろん生徒全員が魔法剣士を目指す訳ではないので、授業では大まかなグループ分けがされている。

その1、ガッチリ魔法剣士を目指すグループ。

その2、護身術程度の剣術と、魔術を使いたいグループ。

その3、剣術はひとかじりして、魔術に力を入れたいグループ。

と、そんな感じ。

ローズと私は3つ目の魔術グループだけど、レイチェルとカリンは何と、2つ目のグループだ。二人いわく、魔力がそこそこなので、護身術程度に剣も使いたいと。カッコいい。

もちろん、ガッチリ魔法剣士のグループにも、女生徒がいる。カッコいい。


「魔法剣士も憧れるけど、私、運動神経からっきしなのよね……」

「エマ。地がでてるわよ」

「は、しまった」

ローズの言葉にハッと我に返る。

「こちらのグループも始まるわ。行きましょう」

「ええ」

今日は、防御魔法の練習です。どの属性でも、使い方によっては防御に使えるもんね。魔法壁を作ったりして。


「では、こちらのグループは、今日は予定通り防御魔法の訓練をします。まずは自分の周りに魔法壁を纏わせる練習をしましょう」

カーラ先生がよく通る声で話される。

「じゃあ、エマ。見本を見せてくれる?」

「はい」

光を纏うイメージで……自分の周りだけなので、軽く念じる。私の周りにキラキラした光が集まり、そしてその光の中に包まれるような形になる。

おお~、と、感嘆の声が上がる。こそばゆい。

「うん、さすがね。エマ、どんな風に念じてる?」

「自分が、魔力に包まれるように……ですかね」

「うん、そうね。慣れるまで調整が難しいと思うけど、しっかりやっていきましょう!」

先生の言葉に、皆で「はい!」と返事をして、それぞれ練習を始める。


その時だった。


「危ない!!」

スラン先生の声が響く。その声に振り返ると、ガッチリ魔法剣士のグループの生徒が、魔力を暴走させてしまっている。やっかいな事に、火魔法だ。まあ、どの魔法でも暴走したら大変だけど。とか言ってる場合じゃなくて。

どうやら、剣に魔法を纏わせる練習中だったようだ。強く念じ過ぎたのかな。見ると、本人はもう、大パニックだ。ああ、彼はリック=カートン伯爵令息だ。魔力量も結構あるせいか、自信過剰なところがある人だった。

「落ち着いて深呼吸だ!」

スラン先生は水魔法を使えるので、緩く水の鎖で抑えようとしている。万が一があると大変だし、直接生徒に大きな魔法をぶつける訳にもいかない。本人が落ち着ければいいけど、…って、ダメだ、余計に大大パニックだ!彼の周りに火柱が立ち、四方八方に炎の塊が飛び始めてしまった。

周りの生徒もパニックだ。


「エリアシールド!」

私はこの場にいる全員に光の防御壁をつける。光の結界が、全ての火を弾く。でも、それだけではダメだ。暴走している本人が力尽きて、最悪燃え尽きてしまう。

「ローズ、お願い、リック様を鎮めて!きっとできる!」

「はっ、分かったわ、やってみる!」

ローズが両手を広げる。その手から、美しいオーロラの夜のような魔力が出現し、暴走している彼を包み込んだ。

10秒くらいは経っただろうか。火柱は収まり、暴走させた本人が地面に倒れ込む。…のを、ローズの魔力がそっと包む。

「できた……!」

「さすがローズ!後は私が!」

すぐにリック様の元に行く。火傷が思ったより重度だ。これはかなりの魔力を使ってのヒールじゃないと!私は集中して彼の身体に手をかざす。治癒の光が彼を包み込む。少しすると爛れていた皮膚も元に戻り、呼吸も落ち着いて来た。

「良かった……」

彼を含めた全員が助かった安心感と共に、寝不足、朝食抜きの上に魔力を全開で使った私は、気力体力を使い切り、そのまま気を失ってしまった。


……やっぱり休養と食事は大切、だ。反、省、しない、と……


◇◇◇


ああ、温かい魔力が流れ込んでくる……

ここは……

「エマ!」

「ローズ……?あれ?私……」

「エマ!済まなかった…!大丈夫か?」

「?スラン先生……」

はっ、思い出した!学園だ!ここは保健室だ!


「目が覚めたかい?良かったよ。まさか聖女様にヒールを使う日が来るとは思ってなかったわ」

「うっ、サーラ先生……ありがとうございました」

サーラ先生は、長年学園にお勤めのいわゆる保健室の先生だ。平民出だけれど、とても優秀なお医者さまなのだ。光魔法も使える。厳しくも優しい方で、時々治療院で一緒にお手伝いもしたりする。

「で?」

「はい?」

「何があったんだい?確かに普通には難しい魔法だが、エマがあれだけで倒れるわけが無いだろう?」

「あ、ははははは……」

「ははは、じゃない。不養生したね」

「いやっ、そこまででは!」

じっ、と見つめられる。サーラ先生のこの目には弱いのだ。

「昨日……あまり眠れなくて…朝もその、食欲がなくてですね、朝食を抜きました……」

もごもごと言い訳をする。

はーっ、とため息を吐かれる。おば、お母さんに怒られている気持ちです。

「全く!そんなこったろうと思ったよ!そんなガス欠の状態であんな魔法を使えばぶっ倒れるさ!」

「すみません……」

「午前中はここで寝てな!何か食べられるかい?」

言葉は雑だけど、温かい。下町の懐かしさを感じる。

「まだ、食欲は……」

「じゃあ、まだ寝てるんだ」

サーラ先生にベッドに押し付けられる。


「サーラ先生……エマと少し話をしても?」

スラン先生が恐る恐るという感じで、サーラ先生にお伺いを立てる。

「スラン。少しならね!そうだね、エマも状況が気になるか」

「はい、それは」

「仕方ないね。少しだけだよ」

「ありがとうございます。……エマは、大丈夫か?」

「はい。ご心配をおかけしました」

「いや……今回のことは、全てこちらの責任だ。生徒も危険な目に遭わせ……申し開きもない」


スラン先生は今までに見たことの無いような、険しい顔をしていた。
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