私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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53.朝のお祭り

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「あれ?エマ様お早いですね?おはようございます。…お一人ですか?」

クラスメートのバル子爵令息が挨拶をしてくる。

「ええ。おはようございます、バル様。課題で気になることがありまして……早めに登校して、少し調べものをしておりましたの」

私は聖女の顔で挨拶を返す。

「さすが、熱心ですね」

「まあ、おほほ……」


そう、昨晩悩んだ私が出した結論は、一人で早めに登校しようということだった。……チキンですが、何か?


割と夜の早い時間にその結論を出せた私は、また寝不足になると大変なので頑張って早寝をし、いつもより一時間早く起床して、着替えて、食堂が開いたと同時に朝食をいただき、ローズに殿下への伝言を頼み、今に至る。


ローズに伝言を頼んだ時は、ちょっと驚いたように苦笑されたけど、「分かったわ」と了承してくれた。後でまたお礼をしなくては。




教室には、段々とクラスメートが登校してくる。

「はよー、バル。昨日のさあ……って、エマ様?おはようございます!」

「おはようございます、ダン様」

ダン子爵令息。バル様と仲良しのようだ。私に気付き、慌てて丁寧に挨拶をしてくれる。

「今朝はお早いのですね?」

「バル様にも言われましたわ。少し所用がありまして」

「そうでしたか。今日はラッキーだな、バル?」

「そうだね」

「ラッキー?ですか?」

私は何だろうと首を傾げる。


「ええ、エマ様とお話が出来て。普段はいろいろと……難しくて」

ダン様が言う。そんなに話掛けづらいオーラを出してるつもりはないけれど。

「そうでしたか?何だか申し訳ないわ。遠慮なさらず、いつでもどうぞ?」

「「いつでも……」」

二人がぼやく。

「?はい」

な、何かあるのかしら。

すると、

「おはよう!バル!ダン!昨日の……って、エマ様?」

かわいらしい女性の声が響く。セリフがダン様と似てるけど。

「ふふ、おはようございます、セシル様。先ほどダン様も言いかけていらしたけれど、昨日のことは大丈夫なのですか?三人でお話があるのでは?」

女性はセシル男爵令嬢。確か、この三人は幼馴染みだ。

私は邪魔かと思い、引こうとする。


「い、いえ!どうぞそのまま!そもそもこちら、エマ様のお席ですし!な、何だか私、はしたなくて申し訳ありません」

セシル様が赤面して、両手を胸の前で振りながら言う。

「そんなことはないわ。皆さま確か幼馴染みでいらっしゃるのよね?仲がよろしいのね」

「「「腐れ縁です」」」

三人で同時に言っては、わあわあしている。やっぱり仲良しだ。私が微笑ましく見ていると、

「あの、エマ様!図々しいのですが、昨日の『魔力の体内循環について』で、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?三人で検討していても、躓く所がありまして……」

と、おそるおそるな感じでセシル様が聞いてきた。

勉強、大歓迎ですよ!!

「まあ!もちろんよ!私でお役に立てるなら」

満面の笑顔になってしまう。魔法の話は楽しいし、お役に立てるのも嬉しい。


「……っっつ、あ、りがとうございます!」

あら、セシル様、顔が真っ赤ですけれど。ん?バル様にダン様まで。

「皆さま、何やらお顔が……大丈夫ですか?」

「「「全く!問題ございません!」」」

「……そう?」

なら、いいけれど。


そうして四人で昨日の課題の話をしていると、次々と他のクラスメート達も集まって来た。

「エマ様、光魔法を使うときの感覚はどのような」

「そうですね、私は……」

最近、クラスメートとゆっくり話すことが無かったから、何だか新鮮だ。こんな平和な時間も大切だよなあ……と、しみじみしてしまう。


「はあ、エマ様とお話出来て勉強になりました!さすがです!」

「セシル様、大袈裟よ。でも嬉しいわ。私で良ければ、いつでもお声掛けをして下さいな。…皆様も」

わあ、と歓声が上がる。こんなに喜んで頂けるとは。何だか逆に恐縮だわ。

「あ、あの!でしたら今度、私達のお茶会に…」

「それはダメ」

セシル様の言葉を遮って、入って来る人。

そ、そして私、バ、バックハグをされておりますが……こ、これは……

「ら、ラインハルト殿下?!」セシル様が驚きながら言う。

……ですよね。

そ、そして、この状態は……。


「セシル嬢。申し訳ないけれど、それはダメ。君たちのお茶会には、そっちの二人も来るだろう?」

バル様とダン様を見据えて話す殿下。

「ま、あ、その……」

「ねぇ、エマ嬢?今朝はどうして先に登校したの?」

しどろもどろな三人を放置して、殿下は私に話しかける。周りのクラスメートも動けずにいる状態だ。わあん、申し訳ないし、恥ずかしいよぉ!


「あ、あの、殿下。皆さんに失礼ですよ。そんな……」

「だってエマ嬢が一人で行くから。どれだけ心配したと思ってるの?……案の定、誘われかけてるし…」

最後の方は聞こえなかったけど、ちょっと、私のせいにするのはどうなの?それに心配って、学校に来るだけじゃん!そしていつまでバックハグでいるのー!

「し、心配と申されましても……」

「心配だよ」

ラインハルト様の声が、真剣なものになる。そしてハグをしていた腕をほどき、私を椅子の横向きに座らせ、自分の方に向ける。

「殿下…?」

私が首を傾げると、目の前で殿下が跪き私の右手を取る。

えっ、……えっっ?!


「エマ嬢。私は君が好きだよ。私の唯一だと思っている。……婚約者にしたいのは、国の為だとでも思っていた?」

「……!だっ、だって、その……」

思わず手を引こうとする私。その手をしっかり握られる。

「……何で自己評価が低いかな…」

「え?」

「いや。ともかく私は、努力家で、家族思いで、友達思いで優しくて、しっかりしているのに時々やらかすエマ嬢が……可愛くて仕方ない。エマ嬢が聖女でも聖女じゃなくても、側にいて欲しいと願っているよ。……誰にも渡したくないんだ。愛している」

「!!っ、……で…」

「一生共に歩きたい。……改めて、私と婚約をしていただけますか?」

殿下の真剣な顔。驚き過ぎて固まっていた私の頭に、だんだんと殿下の言葉が染み込んで来る。じわじわ、じわじわ、顔が赤くなるのが分かる。言葉が全部届いたら、涙が止めどなく出てしまう。……嬉しすぎて。

「……エマ嬢…?…返事は?」

ラインハルト様が指で涙を拭いながら、優しい顔で聞いてくれる。

「……はい。よろしく、お願いします……わ、私も、ラインハルト様が好きです」


わあっ、と、歓声と悲鳴といろいろな音が、教室中に響き渡る。まるでお祭りだ。そして殿下は顎に手を当てて顔を天井に向けている。


「で、殿下…?」

「う、うん、大丈夫。ちょっと破壊力が……」

「破壊?」

「いや、大丈夫。それより、エマ嬢ありがとう。凄く嬉しいよ。……エマと呼んでも?」

ラインハルト様が蕩けるような甘い顔で微笑む。

「は、はい!わ、私も凄く嬉しいです!」

キラキラスマイルに押されて、つい、大声になってしまった。

「ありがとう」

殿下がぎゅっと抱きしめてくる。教室の中は、更に大騒ぎだ。さすがに恥ずかしい。……さすがに。


「あ、あの、殿下……」

「ハルト」

「はい?」

「ハルトって呼んで?エマも。そうしたら離す」

こ、この人は、こんな所で何を……!い、今更なのは理解してますが!

「あの、でもですね」


「ハルト。浮かれるのも分かるけど、いい加減にしなさいな」

ローズ様のご登場!わーん、女神様~!救世主~!

「……義姉上。…分かりました」

ラインハルト様は渋々腕をほどく。やっぱりちょっと可愛いと思ってしまう。何しても可愛いとか、もう駄目なやつです。

「全く。正式な書類を交わしてからが婚約者よ!弁えなさい」

「はーい。……では、そろそろ自分の教室に戻ります。皆様お騒がせしました」

ラインハルト様は、皆に軽く頭を下げる。

そして私に向き直る。

「エマ、帰りはまた迎えに来ても、いい?」

「は、はい。お願いします、……は、ハルト、さま」

でん…ハルト様が一瞬目を見開いて、破顔一笑する。
私は恥ずかしくて目線を合わせられない。

「うん、待っててね」

ハルト様はそう言って、さらっと私の頬にキスをした。

「~~~~~!!」

落ち着き始めた教室が、また大騒ぎだ。もちろん、私はそれどころではないけれど。

「ハルト!」

ローズが諌めるように呼ぶ。

「だって、エマが可愛くて!もうしない(みんなの前では)!もったいないから!」

「全く!!」

「ごめん、またね、エマ!」


爽やかな笑顔で去っていくハルト様。

クラスは朝からお祭り騒ぎだ。


……わ、私の心臓は持つのだろうか……。
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