私は仕事がしたいのです!

渡 幸美

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54.祭の後

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そして今日は一日中、クラスどころか学園全体が浮かれた雰囲気に包まれていた。私は廊下で人とすれ違う度におめでとうございますと言われ、恥ずかしいと思う間もなく、いつも以上に表情筋が笑顔固定だ。

それはお昼休みの食堂に向かっている間も、同様で。


「つ、疲れた……」

食堂のいつものテラス席でいつもの四人だけになり、ようやく一息つく。本当はセレナ達も誘いたかったけど、目立ちすぎるので我慢した。

「何だかごめんなさいね、エマ。気持ちは分かるけど、ハルトったら浮かれすぎよね」

すっかりお姉ちゃん顔のローズが言う。

「う、うん、大丈夫、だけど……」

ローズがお姉ちゃん……何だか気恥ずかしくなってきた。もじもじしてしまう。


「何はともあれ、良かったこと!まさかの、昨日の今日での急展開には驚いたけど」

「ほんとよね」

レイチェルとカリンも笑顔で言ってくれる。

「昨日?」

「あ、ローズは知らないわよね、実は、」

カリンが説明しようとする。

「か、はず、かしいから!」

私は慌てて止めに入る。

「ローズだって気になるわよねぇ?」

「そうよぉ。寂しいわ、エマ?」

ぐ……この顔には弱い私。ガクッと項垂れる。それを了承と受け取り、カリンはそのまま話を続けた。


「あらあら、そんな事があったのね!」

「そうなのよ、エマったら可愛いわよねぇ」

「セレナ達も瞬殺だったわ」

生温かい言葉に包まれた私は、下を向いて黙々とパスタを食べる。耳まで熱いです。

「だから、朝早く登校したのね?」

ローズが得心した顔で、私の方を見ながら言う。

「う、うん。……皆に見守られるのが、すごく恥ずかしく思えて」

「結果、嬉しいながらも、もっと恥ずかしい結果になったけどね?」

レイチェルがイタズラっぽく言う。

「……言わないで……」

私の赤面が引く日は来るのか?


「でも、殿下の朝の顔ったら!!エマにも見せたかったわよ!ねぇ?」

カリンが思い出し笑いしながら言う。

「本当よ!サーっと真顔になってね」

後に続くレイチェル。

「未来の義弟ながら、少し引いたもの……」

「引くって、ローズ」

「だって、いつも飄々としている子だから。こんな顔もするのね、って」

「確かに、結構な迫力だったかも」


そ、そうなの?


「「「……きっと逃げられないわ、頑張ってね、エマ」」」


えぇ~~~?!


「そ、それは、どういう……」

何でしょうか、ちょっと背筋が寒いです。

「や、でもあれよ、ものすごく大事にしてくれると思うわ」

「うん、そうそう」

「大丈夫、大丈夫」

何だか怪しいけど……。

「でも、わ、私もハルト様と離れるつもりは無いので!」

真っ赤になりながら宣言する。だ、大事なことだもの。宣言します!


「あら、よく言ったわ!」と三人に囃し立てられながら、今日もきゃっきゃとランチをし、お昼休みは終了した。


◇◇◇


「エマ、迎えに来たよ。帰れる?」

放課後、約束通りにお迎えに来てくれるハルト様。

「は、はい。帰れます!」

私は荷物を持って、ハルト様の元へ行く。

「ん、持つよ」

ハルト様はそう言って、さらっと私の荷物に手をかける。

「じ、自分で持てます!」

「……持たせて?俺の特権でしょ?」

顔を覗き込まれながら、甘えた顔で言われる。はい、逆らえないです。

「で、では、お願いします……」

私はまたまた真っ赤になりながら、荷物をハルト様に差し出す。

「うん。じゃあ行こうか。ローズ義姉さん、皆さん、また」

「み、皆さんごきげんよう」

二人で教室を後にする。


「……当分、甘いものは食べられないわね……」

との、レイチェルの一言に、クラスの皆が沈黙で肯定したことは、私は知らない……。



「あの、ハルト様」

「エマに呼ばれると響きが違う……何?」

甘甘な顔で言われる。

「も、もう!何を言って……ではなくて、私、今日も治療院に行きたいので、せっかく送っていただいてますけど、学園の馬車止めまでで……」

「何を言ってるの?一緒に行くよ?」

ハルト様が何て事のないように言う。

「で、でも公務とかも心配ですけど、殿下が治療院に頻繁に行かれても大丈夫なのですか?」

「大丈夫、大丈夫。国立病院を俺の管轄にしてもらったから」

「は……えっ?!」

「聖女の旦那になるんだから、当然でしょ?」

「と、当然ですかね……?」

「うん。当然だね。ちなみに、兄上とローズ義姉さんが婚姻したら俺は王家のシェール公爵を預かるから。エマの事業も手伝うし、病院もエマのいいように変えて?あ、公爵夫人としての役割は、ほどほどで大丈夫!嫌な言い方かもしれないけど、エマであるだけで充分だから。仕事に集中して」

「あ、あの、ハルト様!」


「ん?何か不満?」

「い、いえ、不満なんてとんでもないです。た、ただ、驚いたと言うか、何と言うか……」

私はしどろもどろになってしまう。頭が追い付かない感じだ。ハルト様は、は~っと深いため息をつき、右手で口を押さえながら横を向いてしまう。

「あの、嫌じゃなくてですね」

私は慌ててフォローする。

「ごめん。……分かってる、ありがとう。自分が思っている以上に浮かれているみたいだ。先走り過ぎで困るよね。恥ずかしいよ」

てっ、照れ顔!!か、かわっっ…!

……それに、浮かれてくれているんだ。こんなに考えてくれているんだ。……嬉しくて胸がぎゅっとなる。


私はえいやっ、と、ハルト様の腕にしがみつく。

ビクッとする、ハルト様。

「エ、エマ?」

「ハ、ハルト様がいろいろと考えてくれていて、こ、困る事なんてないです!ただ、ちょっと驚いてしまっただけで。わ、私も浮かれていますし、嬉しいです!!」

気持ちはきちんと伝えなければ。それが大切な事であることは、前世の数少ない経験からも立証済みだ。

私は、全く引く気配のない赤面で必死に伝える。


ハルト様は驚いた顔をした後、私に負けないくらいに真っ赤な顔になる。

「そうか、ありがとう」

そうして、ふにゃっと笑う。もう、言葉に出来ないくらい可愛い。またドギマギしてしまう。私は何だか必死に話を続ける。

「こ、こちらこそ、ありがとうございます!いろいろ考えて下さって……そうだ、私は母のことも……」


「お母上のことも心配しないで?公爵家に同居は難しいけれど、近くに家を用意してあるから。今のお家も思い入れがおありになるだろうが、警備を考えてもこちらに来ていただくしかなくてね、申し訳ないけれど。ずっと神殿の結界に任せる訳にも……エマ?」

ハルト様がにっこりと首を傾げる。


「い、いえ……ありがとうございます……母には私からも話しますね?」

「うん、よろしくね?」


とってもいい笑顔のハルト様。


私は早まってはいない……はずよね?


目が合うと優しく微笑まれる。やっぱり絆される。

ちょっと怖くても早まったとしても、いいや!この笑顔が大好きなんだ。


……ちょっと、ドキドキするけれど……。
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