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番外編
あの日あの時と後日談 リーゼ=レコット1
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「旦那様!奥様!た、大変です!リーゼお嬢様が!」
私、リーゼ=レコットは、グリーク王国の筆頭伯爵家の長女だ。長女と言っても、3つ上に兄がいるけれど。更に3つ下に、妹もおります。
レコット家は、伯爵家の筆頭と言えば聞こえがいいが、今や歴史が長いだけの、形だけの筆頭になりつつある。無駄遣いであるとか、そういったことはないが、領地にめぼしい産業などもないのだ。
そんな時、私つきの侍女エリーが、お父様とお母様に大声で報告をする。
「リーゼお嬢様は、光魔法の素養があるようです!!」
……と。私の将来が、(一時的に)縛られた瞬間だった。
◇◇◇
ーーーそう、あれは、もうすぐ8歳になる頃の話。
「自宅の庭の散歩中に巣から落ちた雛鳥を見つけて、無意識に治癒魔法を使っちゃったのよね」
もうすぐ学園に入学する私は、自分の部屋で一人言る。
なぜ、そんな昔を思い出しているのかというと。
婚約者がアレなせいで、面倒そうだなとか思ってしまうのだ。
「はあ……うちからは解消できないしなあ……」
お相手は、魔法省長官のご子息だ。しかも侯爵家。落ち目の筆頭伯爵家が、どうこうできる訳もなく……と言うより、親戚一同含めての祝賀事状態だ。
「まあ、無理もないけれど……」
私の光魔法は、一族からすれば、降って湧いたような幸運だ。
……私も始めは嬉しかったのだ、光魔法。残念ながら聖女様ではなかったけれど(聖女だと、水晶から七色の光が溢れるらしい)、魔力量も上の中くらいはあるし、水魔法の適性もあったし、もし、聖女様が現れたりしたら。
「お手伝いとか出来るかしらって、夢を見たのよね……」
儚く散った。
せっかく、聖女様が現れたのに。
駄目だ、気分が落ちていってしまう。こういう時は、無理をしても上がって来られないものだ。とことん落ちて、お茶の時間になったらエリーに甘えよう。
「うん、そうしよう!そもそも、他に好きな子がいる婚約者って、キッツいわよね」
不思議と周りは気付いていないようだけど。……きっと本人も。
そう、彼はセレナ様が好きなのだ。いつも無意識に、彼女を目で追っている。だからだろう、トーマス様にちょっかいをかけるのは。あの二人が壊れたら自分が、とでも考えているのだろうか。無理だと思うけど。
セレナ様には申し訳なくも思う。彼が少しでも私を視界に入れてくれたら。興味を持ってもらえたら。迷惑をかけずに済んだかもしれない。とも、思う。
けれど、現状、無理!!
私はただ、光魔法が使える、アクセサリーのような婚約者で。たまに話せば、「セレナは…セレナが…」だし。
婚約者に好きな人が、という話も珍しくない。ないけれど、気持ちの消化には時間がかかる。
でも、結婚は避けられない。
エトルも思っているでしょうけれど、避けられないから仕方ないと思っているのは、お互い様なのよ。
「結婚すれば……少しは信頼関係くらいは築けるかしら……」
聖女様との夢よりも、夢物語のような気がする。
「駄目だ……浮き上がる要素がない……」
結局その日は、もうすぐ入寮なのだからとワガママを言って、エリーに散々と甘えながらお茶をして、大量のスイーツを消費した。
学園に入学後は、まあ、想定通りでしたね。想定通り過ぎて、笑いたくなるくらいだ。他の女性に絡んで来られるのも、勝ち誇ったような顔をされるのも、気を使われるのさえ煩わしい。好きで婚約をした訳ではなくても、自分で思う以上に疲れていたのだろう。
そんな頃にお会いした聖女さまは、本当に聖女らしい人だった。
そして、とても可愛い人。外見だけじゃなくて、人柄が。あっという間に虜になった。
そして何と、彼女と共同事業を起こすことになったのだ。急に、夢が叶った瞬間だった。
エマ呼びも許され、友達にもなれて。私達の事を私達以上に心配して、怒ってくれて、一人一人を認めてくれて。エマ曰くの『魔力の質』とやらを誉めてもらえた時なんて、どうにかなるかと思うくらい嬉しかった。ギリギリ、淑女として耐えられた…と、思う。たぶん。
エマとの出会いは、私達の運命を大きく変えてくれた。
「お父様、エトル様との婚約を解消したいの」
やっと言えた。父は、わざわざ週末に家に帰って来た娘が、執務室に乗り込んできて言い出した事に、目を白黒させている。
「リ、リーゼ?急にどうしたんだい?ま、まあ、いろいろあるとは思うが、しかし……」
噂は認識していても、家の事を考えると難しかったのでしょう。理解はしますわ。
でも。
「お父様。私、先日から聖女であられるエマ様と懇意にさせて頂いているの」
マナー違反だが、父の言葉に被せて話す。
ここは譲れない。
「そして彼女から、有り難くも共同事業を進めないかとお話を頂きました。私は、そちらに参加をしたいのです」
父が、「ほう?」と興味を示す。
「しかも、陛下からのお墨付きも頂いているようで」
「更に、利益分は当家ごとの参加でしたら、ほぼ当家に入れてしまっても良いと」
ここで、やはり驚いた顔をする父。
「なんと……それは、本気でなのかね」
「私達も何度も確認しましたわ。もう……ご本人は、驚く程に当たり前のようにおっしゃって……国が、民が過ごしやすくて元気でいてくれたら、それでいいのですって。本当に聖女様よ」
「……なんと……確かに清廉とされた印象のある方だったが……そうか……」
「そうよ。本当に素敵な方。だからね、利益はきっちり働いてくれる人に還元してね、って。皆で幸せになりましょうと」
「……そうか……」
父は目を閉じる。何か考えているようだ。
「……すまない、リーゼ」
えっ、感動していたようなのに、駄目なの?
「あ、ああ、違うよ。その、エマ様の事業には、是非とも参加させていただこう。レコット家として」
私のがっかりした顔を見て、父が続けて訂正してくれる。
「本当?良かった!ありがとう、お父様!!私も今以上に頑張りますわ!エマ様に恥をかかせられないもの!」
視界が開けるって、すごく明るい!いろいろな所が!
久し振りに、人生が楽しくなってきた。
「ああ、そうだね。頑張ろう。……リーゼ、私が謝ったのは、エトル君との婚約だ」
「あっ」
「なんだい、もう忘れているくらいなのか」
「も、申し訳ございません……」
しまったですわ。少々、浮かれすぎました。
そんな私の様子を、父は愛おしそうに微笑んで見てくれている。
「いや、謝らないでいいよ。……本当に、謝るのはこちらだ……お前のそんな楽しそうな顔、久し振りに見たよ」
「お父様……」
「すまんな。噂は……聞いていたんだ。先日は、とうとう王太子殿下に叱責されたのだろう?」
「………………」
沈黙で肯定してしまう。父は苦笑しながら続ける。
「その後、先方からも謝罪があった。そして婚約続行を願い出てきた。……私は、家の為にそれを受け入れた」
「リーゼが……きちんと笑えなくなっていることに気付いていたのに……すまない、情けない父親で」
父が、泣いている。私のことで。ずっと、心配をしてくれていたのだ。きっと、家族の心配は、私の心に届いていた。だからエマに誉めて貰えた『魔力の質』を持ち続けられたんじゃないかな。……うん、きっと。
「お父様!謝らないで下さいませ!領地や領民を考えたら、我が家が潰れる訳には参りませんもの!当然のことですわ!」
私は背中から父に抱き付く。
「私、魔力の質をエマ様に誉められたのよ!」
「質?初めて聞くな」
「そうでしょう?エマ様しか分からないみたいなの!魔力の性格みたいなものっておっしゃっていたわ」
「ほう」
「私ね、水魔法は美しい生命力を感じて、光魔法もとても優しくて大好きと言われたの、もう、嬉しくて。お父様とお母様と、家の皆がそう育ててくれたからよ。だからこそ、エマ様に見つけて貰えた」
「リーゼ……」
「うちの家族、使用人も皆優しいもの。だから、ありがとう、お父様」
「~~リー、ゼ……っ」
「もう泣かないでよ~!お母様に私が怒られるじゃない~!」
結局その後、二人でしばらく泣いた。
少しして、出来る私のエリーが、そっとお茶の準備をして執務室に運んでくれた。タイミング、さすがだ。
……そしてお父様は、婚約解消に向けて話し合いをすると約束してくれた。
道が拓けた。
私、リーゼ=レコットは、グリーク王国の筆頭伯爵家の長女だ。長女と言っても、3つ上に兄がいるけれど。更に3つ下に、妹もおります。
レコット家は、伯爵家の筆頭と言えば聞こえがいいが、今や歴史が長いだけの、形だけの筆頭になりつつある。無駄遣いであるとか、そういったことはないが、領地にめぼしい産業などもないのだ。
そんな時、私つきの侍女エリーが、お父様とお母様に大声で報告をする。
「リーゼお嬢様は、光魔法の素養があるようです!!」
……と。私の将来が、(一時的に)縛られた瞬間だった。
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ーーーそう、あれは、もうすぐ8歳になる頃の話。
「自宅の庭の散歩中に巣から落ちた雛鳥を見つけて、無意識に治癒魔法を使っちゃったのよね」
もうすぐ学園に入学する私は、自分の部屋で一人言る。
なぜ、そんな昔を思い出しているのかというと。
婚約者がアレなせいで、面倒そうだなとか思ってしまうのだ。
「はあ……うちからは解消できないしなあ……」
お相手は、魔法省長官のご子息だ。しかも侯爵家。落ち目の筆頭伯爵家が、どうこうできる訳もなく……と言うより、親戚一同含めての祝賀事状態だ。
「まあ、無理もないけれど……」
私の光魔法は、一族からすれば、降って湧いたような幸運だ。
……私も始めは嬉しかったのだ、光魔法。残念ながら聖女様ではなかったけれど(聖女だと、水晶から七色の光が溢れるらしい)、魔力量も上の中くらいはあるし、水魔法の適性もあったし、もし、聖女様が現れたりしたら。
「お手伝いとか出来るかしらって、夢を見たのよね……」
儚く散った。
せっかく、聖女様が現れたのに。
駄目だ、気分が落ちていってしまう。こういう時は、無理をしても上がって来られないものだ。とことん落ちて、お茶の時間になったらエリーに甘えよう。
「うん、そうしよう!そもそも、他に好きな子がいる婚約者って、キッツいわよね」
不思議と周りは気付いていないようだけど。……きっと本人も。
そう、彼はセレナ様が好きなのだ。いつも無意識に、彼女を目で追っている。だからだろう、トーマス様にちょっかいをかけるのは。あの二人が壊れたら自分が、とでも考えているのだろうか。無理だと思うけど。
セレナ様には申し訳なくも思う。彼が少しでも私を視界に入れてくれたら。興味を持ってもらえたら。迷惑をかけずに済んだかもしれない。とも、思う。
けれど、現状、無理!!
私はただ、光魔法が使える、アクセサリーのような婚約者で。たまに話せば、「セレナは…セレナが…」だし。
婚約者に好きな人が、という話も珍しくない。ないけれど、気持ちの消化には時間がかかる。
でも、結婚は避けられない。
エトルも思っているでしょうけれど、避けられないから仕方ないと思っているのは、お互い様なのよ。
「結婚すれば……少しは信頼関係くらいは築けるかしら……」
聖女様との夢よりも、夢物語のような気がする。
「駄目だ……浮き上がる要素がない……」
結局その日は、もうすぐ入寮なのだからとワガママを言って、エリーに散々と甘えながらお茶をして、大量のスイーツを消費した。
学園に入学後は、まあ、想定通りでしたね。想定通り過ぎて、笑いたくなるくらいだ。他の女性に絡んで来られるのも、勝ち誇ったような顔をされるのも、気を使われるのさえ煩わしい。好きで婚約をした訳ではなくても、自分で思う以上に疲れていたのだろう。
そんな頃にお会いした聖女さまは、本当に聖女らしい人だった。
そして、とても可愛い人。外見だけじゃなくて、人柄が。あっという間に虜になった。
そして何と、彼女と共同事業を起こすことになったのだ。急に、夢が叶った瞬間だった。
エマ呼びも許され、友達にもなれて。私達の事を私達以上に心配して、怒ってくれて、一人一人を認めてくれて。エマ曰くの『魔力の質』とやらを誉めてもらえた時なんて、どうにかなるかと思うくらい嬉しかった。ギリギリ、淑女として耐えられた…と、思う。たぶん。
エマとの出会いは、私達の運命を大きく変えてくれた。
「お父様、エトル様との婚約を解消したいの」
やっと言えた。父は、わざわざ週末に家に帰って来た娘が、執務室に乗り込んできて言い出した事に、目を白黒させている。
「リ、リーゼ?急にどうしたんだい?ま、まあ、いろいろあるとは思うが、しかし……」
噂は認識していても、家の事を考えると難しかったのでしょう。理解はしますわ。
でも。
「お父様。私、先日から聖女であられるエマ様と懇意にさせて頂いているの」
マナー違反だが、父の言葉に被せて話す。
ここは譲れない。
「そして彼女から、有り難くも共同事業を進めないかとお話を頂きました。私は、そちらに参加をしたいのです」
父が、「ほう?」と興味を示す。
「しかも、陛下からのお墨付きも頂いているようで」
「更に、利益分は当家ごとの参加でしたら、ほぼ当家に入れてしまっても良いと」
ここで、やはり驚いた顔をする父。
「なんと……それは、本気でなのかね」
「私達も何度も確認しましたわ。もう……ご本人は、驚く程に当たり前のようにおっしゃって……国が、民が過ごしやすくて元気でいてくれたら、それでいいのですって。本当に聖女様よ」
「……なんと……確かに清廉とされた印象のある方だったが……そうか……」
「そうよ。本当に素敵な方。だからね、利益はきっちり働いてくれる人に還元してね、って。皆で幸せになりましょうと」
「……そうか……」
父は目を閉じる。何か考えているようだ。
「……すまない、リーゼ」
えっ、感動していたようなのに、駄目なの?
「あ、ああ、違うよ。その、エマ様の事業には、是非とも参加させていただこう。レコット家として」
私のがっかりした顔を見て、父が続けて訂正してくれる。
「本当?良かった!ありがとう、お父様!!私も今以上に頑張りますわ!エマ様に恥をかかせられないもの!」
視界が開けるって、すごく明るい!いろいろな所が!
久し振りに、人生が楽しくなってきた。
「ああ、そうだね。頑張ろう。……リーゼ、私が謝ったのは、エトル君との婚約だ」
「あっ」
「なんだい、もう忘れているくらいなのか」
「も、申し訳ございません……」
しまったですわ。少々、浮かれすぎました。
そんな私の様子を、父は愛おしそうに微笑んで見てくれている。
「いや、謝らないでいいよ。……本当に、謝るのはこちらだ……お前のそんな楽しそうな顔、久し振りに見たよ」
「お父様……」
「すまんな。噂は……聞いていたんだ。先日は、とうとう王太子殿下に叱責されたのだろう?」
「………………」
沈黙で肯定してしまう。父は苦笑しながら続ける。
「その後、先方からも謝罪があった。そして婚約続行を願い出てきた。……私は、家の為にそれを受け入れた」
「リーゼが……きちんと笑えなくなっていることに気付いていたのに……すまない、情けない父親で」
父が、泣いている。私のことで。ずっと、心配をしてくれていたのだ。きっと、家族の心配は、私の心に届いていた。だからエマに誉めて貰えた『魔力の質』を持ち続けられたんじゃないかな。……うん、きっと。
「お父様!謝らないで下さいませ!領地や領民を考えたら、我が家が潰れる訳には参りませんもの!当然のことですわ!」
私は背中から父に抱き付く。
「私、魔力の質をエマ様に誉められたのよ!」
「質?初めて聞くな」
「そうでしょう?エマ様しか分からないみたいなの!魔力の性格みたいなものっておっしゃっていたわ」
「ほう」
「私ね、水魔法は美しい生命力を感じて、光魔法もとても優しくて大好きと言われたの、もう、嬉しくて。お父様とお母様と、家の皆がそう育ててくれたからよ。だからこそ、エマ様に見つけて貰えた」
「リーゼ……」
「うちの家族、使用人も皆優しいもの。だから、ありがとう、お父様」
「~~リー、ゼ……っ」
「もう泣かないでよ~!お母様に私が怒られるじゃない~!」
結局その後、二人でしばらく泣いた。
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