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番外編
閑話 二人の兄心2 スラン=スクート
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今日は、かわいい元教え子二人の結婚式だ。……片方は、かわいいと言うには語弊を感じたりもしてしまうが……ごほん、ともかく、佳き日だ。
ありがたいことに、学園の教師陣は教会の前方の席へ招待されていて、二人の幸せそうな表情がよく見える。
……本当に幸せそうだ。
やはりエマには、太陽の光がよく似合う。
◇◇◇
「スラン。新四年生からAクラスの担任になるように。聖女様も編入してくるので、宜しく頼む」
「……学園長。まだ教師三年目の自分には、荷が重いかと…」
「だからこそ、だよ。決定事項だ。変更はない」
「……承知致しました」
だからこそって何だ。と、思いつつ、学長室を後にする。悪い評判は聞かなかった聖女様だが、俺は面倒事を押し付けられた気持ちでいた。ああ、それともやはり、学園長も警戒しているのかと。
実は俺は水魔法の他に、闇魔法の適性も持っているのだ。
今は二人の聖女のお蔭で、闇ではなく、月の力とか宵闇の癒し魔法とか、プラスの認識になっているが、俺の能力が判明した当時は、家が全力で隠すべき力だった。
下手に魔力量も多く、深い藍色の髪と何代か振りに先祖がえりした黒い瞳は、両親の心配を深くした。もともと、一人が好きな俺の性格も、両親の心配に拍車をかけたのだろう、と、今は思う。が、当時は煩わしさしかなかった。周りに相談しにくい事でもあったろうし、仕方がないのだろうが、両親は闇には光と単純に思ったらしく、数少ない光魔法持ちの子どもを探し出してきて、何人かと引き合わされた。俺にとってはそれがまた、迷惑で、自信を失くされるだけだった。
会う奴会う奴が自意識過剰で、自信に溢れていて。聖女でもないのに(男もいたが)、光魔法に選ばれた?自分に酔っている奴もいた。え、女神様も見る目が無くないか、と、真剣に思ったが。でもこれも今思えば、子ども時代の話だ。ちやほやするであろう周囲に囲まれていれば、仕方がない部分もあったろう。
が、闇と違い、声を大にして言える力。同じ希少魔法なのに、この差は何だと当時は思わずにはいられなかった。
ますます俺が捻くれると、両親は遠縁の学園長を頼った。さすがに教育の長というべきか、彼は一切の偏見も出さず、俺に魔力制御を教え込んでくれた。
「闇魔法は文献が少ないけれど、制御が大切と聞く。まあ、それを言ったら、どの属性も同じだがな。それに、人の気持ちも同じだな。何事もコントロールだ。そう考えると、何て事はないな?全て同じだ」
ニカッと笑って練習に付き合ってくれた。感謝だ。
そして、人付き合いがすっかり苦手になった俺に、教職を勧めて来た。曰く、
「いろいろな奴等がいて、楽しいぞ」
とのことで。
確かに、いろいろだ。教師になると、生徒同士とは違う視点からも見られるようになるので、同じ学園にいても、感覚はかなり違った。けれどずっと、自分を覆う分厚い壁は何だか破れずで。幼い頃の偏見と刷り込みは、なかなか抜けないらしい。
そんな時に会ったのがエマだ。
第一印象は、いわゆる光魔法持ちのお嬢様だった。聖女なのだから、当然なのだが。淑女然としていて、学園なんてついでなのだろうと。
そんな思い込みを、一瞬で壊される。
エマは幅広い事に興味津々の、勉強熱心なただの生徒だった。自分が偏見で見られる事から逃げていたくせに、聖女を、光魔法を偏見で見ていた自分に気づかされた。
ああ、この子は本当に聖女だ。
きっと学園長は、俺が闇魔法持ちとか、そんな心配じゃなく、人として欠けているものに気づかせる為に、エマに引き合わせてくれたのだろう。
彼女の明るさ、朗らかさ、前向きな強さ、そして何よりも平等な優しさは、周りの者を惹き付けずにはいられない。全てが浄化されるようだった。俺も、楽しさや人を大切に思う心を、久しぶりに思い出した心地だった。
……そう、自分だけのものにしたいであるとか、そういう気持ちではなく。……自然と、当たり前に人のために動くエマが。それを幸せそうに笑うエマが。人の過ちにも寛大なエマが。
眩しくて仕方がなかっただけだ。……どこか危なっかしくて、兄のように心配だっただけだ。
◇◇◇
そう、思うのに。
この、心の奥の澱のようなものは何だろう。
などと物思いに耽っていると、式は滞りなく終わり、会場を後にする二人を見送る時間だ。
入場時とは異なり、客席に手を振りながら退場する二人。学園関係者の横を通り過ぎる時に、エマが可憐な笑顔を向けてくれ……たのに、可愛くない元生徒が、エマの頬にキスを落とす。
「ハ、ハルト!」
「何?いいじゃない、結婚式だよ。……それに、牽制しないと」
「けんせい?何に?」
「うん、分からなくていいよ」
相変わらず腹黒い笑顔だな。そして、エマの言う通り、牽制とは何だ。
周りの先生方の、苦笑した空気感も気になるが。
可愛くない元生徒、ラインハルト殿下の底の読めなさは気になるが、文句なしに優秀だ。何より、エマを心から愛しているのが伝わる。大事に、大切にしてくれるだろう。
この、胸の痛みは、妹を嫁がせる兄心と似たものなんだろう。
エマの太陽のような笑顔が、ずっと曇ることのないように祈っている。
もし、……もしそんな事があったりしたら。俺が。
……いや、何だ?俺が?どうするって?
違うだろ、もしもなんて、祈らない。
彼が、そんな下手を打つとも思えないしな。
いつでも兄のように、元担任として。いつでも頼りにはして欲しいけれど。
そんな時は来なくていいことだ。
二人のこれからに、ますますの幸せを。
ありがたいことに、学園の教師陣は教会の前方の席へ招待されていて、二人の幸せそうな表情がよく見える。
……本当に幸せそうだ。
やはりエマには、太陽の光がよく似合う。
◇◇◇
「スラン。新四年生からAクラスの担任になるように。聖女様も編入してくるので、宜しく頼む」
「……学園長。まだ教師三年目の自分には、荷が重いかと…」
「だからこそ、だよ。決定事項だ。変更はない」
「……承知致しました」
だからこそって何だ。と、思いつつ、学長室を後にする。悪い評判は聞かなかった聖女様だが、俺は面倒事を押し付けられた気持ちでいた。ああ、それともやはり、学園長も警戒しているのかと。
実は俺は水魔法の他に、闇魔法の適性も持っているのだ。
今は二人の聖女のお蔭で、闇ではなく、月の力とか宵闇の癒し魔法とか、プラスの認識になっているが、俺の能力が判明した当時は、家が全力で隠すべき力だった。
下手に魔力量も多く、深い藍色の髪と何代か振りに先祖がえりした黒い瞳は、両親の心配を深くした。もともと、一人が好きな俺の性格も、両親の心配に拍車をかけたのだろう、と、今は思う。が、当時は煩わしさしかなかった。周りに相談しにくい事でもあったろうし、仕方がないのだろうが、両親は闇には光と単純に思ったらしく、数少ない光魔法持ちの子どもを探し出してきて、何人かと引き合わされた。俺にとってはそれがまた、迷惑で、自信を失くされるだけだった。
会う奴会う奴が自意識過剰で、自信に溢れていて。聖女でもないのに(男もいたが)、光魔法に選ばれた?自分に酔っている奴もいた。え、女神様も見る目が無くないか、と、真剣に思ったが。でもこれも今思えば、子ども時代の話だ。ちやほやするであろう周囲に囲まれていれば、仕方がない部分もあったろう。
が、闇と違い、声を大にして言える力。同じ希少魔法なのに、この差は何だと当時は思わずにはいられなかった。
ますます俺が捻くれると、両親は遠縁の学園長を頼った。さすがに教育の長というべきか、彼は一切の偏見も出さず、俺に魔力制御を教え込んでくれた。
「闇魔法は文献が少ないけれど、制御が大切と聞く。まあ、それを言ったら、どの属性も同じだがな。それに、人の気持ちも同じだな。何事もコントロールだ。そう考えると、何て事はないな?全て同じだ」
ニカッと笑って練習に付き合ってくれた。感謝だ。
そして、人付き合いがすっかり苦手になった俺に、教職を勧めて来た。曰く、
「いろいろな奴等がいて、楽しいぞ」
とのことで。
確かに、いろいろだ。教師になると、生徒同士とは違う視点からも見られるようになるので、同じ学園にいても、感覚はかなり違った。けれどずっと、自分を覆う分厚い壁は何だか破れずで。幼い頃の偏見と刷り込みは、なかなか抜けないらしい。
そんな時に会ったのがエマだ。
第一印象は、いわゆる光魔法持ちのお嬢様だった。聖女なのだから、当然なのだが。淑女然としていて、学園なんてついでなのだろうと。
そんな思い込みを、一瞬で壊される。
エマは幅広い事に興味津々の、勉強熱心なただの生徒だった。自分が偏見で見られる事から逃げていたくせに、聖女を、光魔法を偏見で見ていた自分に気づかされた。
ああ、この子は本当に聖女だ。
きっと学園長は、俺が闇魔法持ちとか、そんな心配じゃなく、人として欠けているものに気づかせる為に、エマに引き合わせてくれたのだろう。
彼女の明るさ、朗らかさ、前向きな強さ、そして何よりも平等な優しさは、周りの者を惹き付けずにはいられない。全てが浄化されるようだった。俺も、楽しさや人を大切に思う心を、久しぶりに思い出した心地だった。
……そう、自分だけのものにしたいであるとか、そういう気持ちではなく。……自然と、当たり前に人のために動くエマが。それを幸せそうに笑うエマが。人の過ちにも寛大なエマが。
眩しくて仕方がなかっただけだ。……どこか危なっかしくて、兄のように心配だっただけだ。
◇◇◇
そう、思うのに。
この、心の奥の澱のようなものは何だろう。
などと物思いに耽っていると、式は滞りなく終わり、会場を後にする二人を見送る時間だ。
入場時とは異なり、客席に手を振りながら退場する二人。学園関係者の横を通り過ぎる時に、エマが可憐な笑顔を向けてくれ……たのに、可愛くない元生徒が、エマの頬にキスを落とす。
「ハ、ハルト!」
「何?いいじゃない、結婚式だよ。……それに、牽制しないと」
「けんせい?何に?」
「うん、分からなくていいよ」
相変わらず腹黒い笑顔だな。そして、エマの言う通り、牽制とは何だ。
周りの先生方の、苦笑した空気感も気になるが。
可愛くない元生徒、ラインハルト殿下の底の読めなさは気になるが、文句なしに優秀だ。何より、エマを心から愛しているのが伝わる。大事に、大切にしてくれるだろう。
この、胸の痛みは、妹を嫁がせる兄心と似たものなんだろう。
エマの太陽のような笑顔が、ずっと曇ることのないように祈っている。
もし、……もしそんな事があったりしたら。俺が。
……いや、何だ?俺が?どうするって?
違うだろ、もしもなんて、祈らない。
彼が、そんな下手を打つとも思えないしな。
いつでも兄のように、元担任として。いつでも頼りにはして欲しいけれど。
そんな時は来なくていいことだ。
二人のこれからに、ますますの幸せを。
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