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失踪7〜8日目 夜間
18話
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「なんでついてくるのよ」
滝田の話の後、さっさと園内を進もうと歩き出した加藤が、機嫌悪そうに3人を睨む。
「いや、1人は流石に危ないって」
「そうね、殺人鬼が居るかも知れないし」
坂上の言葉を成田が補足すると、滝田は惚けた顔で「殺人鬼?」と呟く。
「知らなかったの?私達が行った日の夜、あの公園でも廃墟でも、人が殺されてるの」
坂上が説明すると、説得は無駄そうだと感じた加藤が嘆息し、前を向いて更に歩いていく。3人はそんな彼女を追って歩きながら話を続けた。
「そうなのか?俺心霊現象以外は興味薄くてな。そんな面白そうなネタがあるなら、もっと早く教えてくれよ」
「そういう言い方止めてよ。志穂さんはその犯人を追ってここに来たの」
「まあ、半分は真由美ちゃんの護衛だけどね」
志穂に頭をポンポンとされた坂上の頬が少し赤くなる。それぞれスマホのライトで歩いており、顔が見え難くて助かったと坂上は息を吐いた。
「なんで犯人を?もしかして警察かなんかなのか?な訳ないか」
共に不法侵入を果たした滝田が鼻で笑う。成田は簡単に自身の友人の末路を説明した。
「なるほどね。それならゆずちゃんは尚更ひとりになるべきじゃないわな」
「関係無いわよ」
滝田の言葉に冷たく答える加藤。歩みは止めず、振り向きもしない。
「でも犯人はレイプが目的なんだろ?」
「あんたがその犯人かも知れないでしょ」
そう言って今度は一度足を止めた加藤に続き、全員その場で止まり顔を見合わせる。
「なるほど、なるほどねぇ。確かに」
うんうんと頷く滝田が1人でなにか納得している。
「そもそもあんた、本当に記者なの?」
「そんなに疑り深いゆずちゃんが、名刺貰って会社に電話しないわけないよな?」
滝田の言う通り加藤は、実際出版社に電話して、滝田という男がオカルト雑誌の記者として存在することを確かめていたが、その上で言っているのだ。
「あんたが本当にあの名刺に書かれてる、滝田って男なのかって聞いてるの」
確かに名刺などいくらでも用意出来る。実際に存在する人間の名刺を作って、その人物になりすますことは難しくない。
「証明ねえ。出来なくも無いけど、あ、駄目だわ圏外か」
ふざけた格好の滝田が、ライトが点いたままのスマホを操作して笑う。
「いよいよ怪しくなってきたわね。都合良く遊園地への入り方を知ってるのも、先に着いてたのに1人で入らなかったのも、今思えば怪しく感じちゃうかな?」
成田の話を聞きながら、そう言えば浜中に電話するのを忘れていたと思った坂上が、自身も圏外なのを見て動揺する。目の前の男が殺人犯なら、足立を連れ去った男である可能性もあるのだ。
「もしかして奈々恵が一緒に居たって男の人、あなたじゃないわよね?」
全員から疑いの目を向けられた滝田が、流石に苦笑いになっていたその時。全員のスマホから一斉に音楽が鳴る。
「な、なに?」
「剣闘士の入場?またこの曲か」
「またなの?あんた今度は大丈夫?」
1人意味がわからず焦る成田をよそに、滝田と加藤は坂上を見る。
「ラッキーピエロ」
意外にも冷静に見える坂上だが、実際は震えた声でそう言った。そして滝田が叫ぶ。
「おい!これ見ろ!」
楽し気な曲が流れたままの滝田のスマホには、黄泉通信が開かれている。そこには本来10個のサムネイルが並ぶ筈だが、今はひとつしか表示されていない。
それを見た3人は急いで自分のスマホを確認した。そして自分達の物も同じ写真が1枚だけ表示されていることに気付いたのだ。
「奈々恵」
直視出来ない坂上が、それでも気付いて友の名を呼ぶ。暗闇でピースするひとりの女子。その顔はピエロメイクの加工が施されてはいるが、何度も他3枚の足立の写真を見ていた4人には、すぐにそれが足立奈々恵本人であるとわかった。
全員が一度アプリを再起動して音楽を切り、表示された写真を観察する。どこか古い建物の前で撮られた写真で、服装も他3枚と同じ。
「暗いな、どこだここ」
「待って、なんなのこれ?更新時間じゃないし、全ユーザーに一斉でこの写真送って来たってこと?いや、そもそも私ずっと圏外なんだけど」
成田がひとり混乱していたので坂上が説明する。今まで何度も坂上のスマホに、不自然なタイミングでラッキーピエロの通知と曲が流れたことを。
「じゃあ心霊現象ってのと関係あるかも知れないのね?それじゃあここでなにか、起こるってこと?」
「そんなのはどうでも良い。ヒントが増えただけよ」
加藤はスマホを再びライトにして持ち、歩き始めた。
「おい、どこ行くんだ?」
「決まってるでしょ、その写真の場所よ」
「わかったの?」
「ミラーハウス」
「んー?確かに、もしこれがこの遊園地内なら、ミラーハウスが1番それっぽいな」
この中で1番この廃遊園地に出入りしている男がそう言った。そしてすぐに加藤を追い掛けて移動を開始しようとしたが。
「え、なにか聞こえた?」
坂上が言って、加藤もまた歩みを止めて、右手を見る。
「なんだって?」
滝田だけが不思議そうにしているが、成田も聞こえたらしく呟いた。
「叫び声?」
「なんだ、誰か襲われてるのか?」
「違う、そんなんじゃなくて」
3人が聞いたのは「きゃああああ」という複数の人間の叫び声。しかしそれは妙に楽し気な──。
「ジェットコースター?」
加藤が視線の先にあるそのアトラクションの名前を呟いた。
「そう、ちょうどジェットコースターに乗ってる人の悲鳴みたいな」
動くはずもない、レーンだけのジェットコースターを見ながら、聞こえるはずのない声を聞いて茫然とする3人。
「今更その程度の心霊現象でビビんなって。行かねえのか?」
滝田が先を急ぎ手招きする。我に返った3人が滝田を追って走ると、すぐにミラーハウスが見えてきた。
「本当だ、確かにあの写真の場所」
成田が感心してそう言うと同時に、中からガラスの割れる音が聞こえて立ち止まる。
「なっ」
「今のって」
「中になにか居るのは確定したわね」
「誘ってんのか?」
4人はミラーハウスの入り口前までゆっくりと歩く。扉は鍵が壊れているのか開いているが、それがまた罠にも見える。
「行こう」
坂上は震える足で一歩前に出る。1番怯えている人間がそう言ったことで、他3人も動き出した。
滝田の話の後、さっさと園内を進もうと歩き出した加藤が、機嫌悪そうに3人を睨む。
「いや、1人は流石に危ないって」
「そうね、殺人鬼が居るかも知れないし」
坂上の言葉を成田が補足すると、滝田は惚けた顔で「殺人鬼?」と呟く。
「知らなかったの?私達が行った日の夜、あの公園でも廃墟でも、人が殺されてるの」
坂上が説明すると、説得は無駄そうだと感じた加藤が嘆息し、前を向いて更に歩いていく。3人はそんな彼女を追って歩きながら話を続けた。
「そうなのか?俺心霊現象以外は興味薄くてな。そんな面白そうなネタがあるなら、もっと早く教えてくれよ」
「そういう言い方止めてよ。志穂さんはその犯人を追ってここに来たの」
「まあ、半分は真由美ちゃんの護衛だけどね」
志穂に頭をポンポンとされた坂上の頬が少し赤くなる。それぞれスマホのライトで歩いており、顔が見え難くて助かったと坂上は息を吐いた。
「なんで犯人を?もしかして警察かなんかなのか?な訳ないか」
共に不法侵入を果たした滝田が鼻で笑う。成田は簡単に自身の友人の末路を説明した。
「なるほどね。それならゆずちゃんは尚更ひとりになるべきじゃないわな」
「関係無いわよ」
滝田の言葉に冷たく答える加藤。歩みは止めず、振り向きもしない。
「でも犯人はレイプが目的なんだろ?」
「あんたがその犯人かも知れないでしょ」
そう言って今度は一度足を止めた加藤に続き、全員その場で止まり顔を見合わせる。
「なるほど、なるほどねぇ。確かに」
うんうんと頷く滝田が1人でなにか納得している。
「そもそもあんた、本当に記者なの?」
「そんなに疑り深いゆずちゃんが、名刺貰って会社に電話しないわけないよな?」
滝田の言う通り加藤は、実際出版社に電話して、滝田という男がオカルト雑誌の記者として存在することを確かめていたが、その上で言っているのだ。
「あんたが本当にあの名刺に書かれてる、滝田って男なのかって聞いてるの」
確かに名刺などいくらでも用意出来る。実際に存在する人間の名刺を作って、その人物になりすますことは難しくない。
「証明ねえ。出来なくも無いけど、あ、駄目だわ圏外か」
ふざけた格好の滝田が、ライトが点いたままのスマホを操作して笑う。
「いよいよ怪しくなってきたわね。都合良く遊園地への入り方を知ってるのも、先に着いてたのに1人で入らなかったのも、今思えば怪しく感じちゃうかな?」
成田の話を聞きながら、そう言えば浜中に電話するのを忘れていたと思った坂上が、自身も圏外なのを見て動揺する。目の前の男が殺人犯なら、足立を連れ去った男である可能性もあるのだ。
「もしかして奈々恵が一緒に居たって男の人、あなたじゃないわよね?」
全員から疑いの目を向けられた滝田が、流石に苦笑いになっていたその時。全員のスマホから一斉に音楽が鳴る。
「な、なに?」
「剣闘士の入場?またこの曲か」
「またなの?あんた今度は大丈夫?」
1人意味がわからず焦る成田をよそに、滝田と加藤は坂上を見る。
「ラッキーピエロ」
意外にも冷静に見える坂上だが、実際は震えた声でそう言った。そして滝田が叫ぶ。
「おい!これ見ろ!」
楽し気な曲が流れたままの滝田のスマホには、黄泉通信が開かれている。そこには本来10個のサムネイルが並ぶ筈だが、今はひとつしか表示されていない。
それを見た3人は急いで自分のスマホを確認した。そして自分達の物も同じ写真が1枚だけ表示されていることに気付いたのだ。
「奈々恵」
直視出来ない坂上が、それでも気付いて友の名を呼ぶ。暗闇でピースするひとりの女子。その顔はピエロメイクの加工が施されてはいるが、何度も他3枚の足立の写真を見ていた4人には、すぐにそれが足立奈々恵本人であるとわかった。
全員が一度アプリを再起動して音楽を切り、表示された写真を観察する。どこか古い建物の前で撮られた写真で、服装も他3枚と同じ。
「暗いな、どこだここ」
「待って、なんなのこれ?更新時間じゃないし、全ユーザーに一斉でこの写真送って来たってこと?いや、そもそも私ずっと圏外なんだけど」
成田がひとり混乱していたので坂上が説明する。今まで何度も坂上のスマホに、不自然なタイミングでラッキーピエロの通知と曲が流れたことを。
「じゃあ心霊現象ってのと関係あるかも知れないのね?それじゃあここでなにか、起こるってこと?」
「そんなのはどうでも良い。ヒントが増えただけよ」
加藤はスマホを再びライトにして持ち、歩き始めた。
「おい、どこ行くんだ?」
「決まってるでしょ、その写真の場所よ」
「わかったの?」
「ミラーハウス」
「んー?確かに、もしこれがこの遊園地内なら、ミラーハウスが1番それっぽいな」
この中で1番この廃遊園地に出入りしている男がそう言った。そしてすぐに加藤を追い掛けて移動を開始しようとしたが。
「え、なにか聞こえた?」
坂上が言って、加藤もまた歩みを止めて、右手を見る。
「なんだって?」
滝田だけが不思議そうにしているが、成田も聞こえたらしく呟いた。
「叫び声?」
「なんだ、誰か襲われてるのか?」
「違う、そんなんじゃなくて」
3人が聞いたのは「きゃああああ」という複数の人間の叫び声。しかしそれは妙に楽し気な──。
「ジェットコースター?」
加藤が視線の先にあるそのアトラクションの名前を呟いた。
「そう、ちょうどジェットコースターに乗ってる人の悲鳴みたいな」
動くはずもない、レーンだけのジェットコースターを見ながら、聞こえるはずのない声を聞いて茫然とする3人。
「今更その程度の心霊現象でビビんなって。行かねえのか?」
滝田が先を急ぎ手招きする。我に返った3人が滝田を追って走ると、すぐにミラーハウスが見えてきた。
「本当だ、確かにあの写真の場所」
成田が感心してそう言うと同時に、中からガラスの割れる音が聞こえて立ち止まる。
「なっ」
「今のって」
「中になにか居るのは確定したわね」
「誘ってんのか?」
4人はミラーハウスの入り口前までゆっくりと歩く。扉は鍵が壊れているのか開いているが、それがまた罠にも見える。
「行こう」
坂上は震える足で一歩前に出る。1番怯えている人間がそう言ったことで、他3人も動き出した。
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