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東京ナイトスパロウ・15
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それから五日後、いよいよ俺の動画撮影の日になった。
「好きなように乱れていい。思いっきりやれ」との命令を松岡さんから受け、俺は気を引き締めて今日という日を待っていた。撮影場所は本社ビルから三駅分離れたところにあるスタジオをレンタルしている。移動車に乗り込んだ俺は、今日一緒に撮影することになった二人のモデルに挨拶した。
「おはようございます、桃陽です。今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。俺はリョウ。こいつはタカシだ」
「リョウとタカシだね、覚えた!」
正直名前なんて呼ぶことはないだろうから、モデルA、Bで構わない。しかし二人とも地味だけど、それなりに顔は整っていた。年齢は俺よりもだいぶ上だろう。二十代後半といったところか。
スタジオに着いた俺は、始めにシャワーを浴び、髪型をセットしてもらってから衣装に着替えた。用意されていた衣装は……メイド服、らしき物。
「なにこれ……。俺、女装は嫌だって前に言ったはずなのに」
俺の呟きを聞いたスタイリストのスタッフが苦笑して、両手を顔の前で合わせた。
「ごめんね、桃陽くん可愛いから絶対似合うと思ってさ。でもほら、スカートじゃないから女装とは違うよ。一応男の子用だから短いけどちゃんとズボンになってるし。ひらひらだけどさ」
「うー、まぁいっか。こんな機会もそうそうないしね」
太股が剥き出しになる、ぴったりとした黒のショートパンツ、パフスリーブの白いブラウス、赤いネクタイ。更に頭にカチューシャ、そしてひらひらのエプロン。
「………」
俺は姿見に映った自分の格好を見て、危うく戻しそうになってしまった。
──今日はこの服にしような。玲司のために、わざわざ買ってきてやったんだぞ。可愛いだろ?
「っ……」
そうか。俺が女装に対してこんなに拒絶反応が出るのは、理由があったのか。妙に納得しながら、頭の中で「これは違う。女装じゃない」と自分に言い聞かせる。
その時。
「なんだ、今日はずいぶん可愛い格好してんじゃねえか」
ふと顔を上げると、姿見に映る俺の背後に雀夜が立っていた。
「雀夜っ」
即座に振り返り、もはや挨拶代わりとなっている抱き付き攻撃を繰り出す。雀夜はカチューシャを付けた俺の頭を軽く撫で、馬鹿にしたような笑みで「似合ってるぞ」と言ってくれた。
「雀夜、見に来てくれたの?」
「違う。俺も一時間後に隣のスタジオで撮影だ」
それでも、わざわざこうして俺に会いに来てくれたことに変わりはない。嬉しくて、俺はつま先立ちになって雀夜の胸に何度も頬ずりした。雀夜は素っ気なく俺を体ごと引き剥がし、少しだけ身を屈めて俺の耳元で囁いた。
「今日なら都合がつきそうだ。終わったら俺の部屋、来るか?」
「っ……!」
「あのファミレスで待ってろ。九時過ぎには迎えに行ける」
「雀夜っ……」
両手を広げて、もう一度抱き付こうとする──が、雀夜の右手が俺の顔面を掴んであっさりとそれを拒否されてしまった。
「うー!」
「焦るな。今は撮影だけに集中しろ」
「う、うん分かった。じゃあファミレスで待ってるから。朝まで一緒にいてくれる? 何回もしてくれる?」
「話を聞くんじゃなかったのかよ。……まぁいいわ、久し振りだし、好きなだけしてやるよ」
「ゴム三箱用意しといて!」
呆れ顔の雀夜を前に、俺は両手をきつく握りしめて嬉しさを噛みしめた。
撮影を目前にして、興奮剤を打たれたみたいに体が熱くなってくる。これはいい作品になりそうだ。やる気全開モードの火がついた。
「桃陽、そろそろ準備しろー」
スタッフの声を聞き、雀夜が「後でな」と言ってスタジオを出て行った。
「よろしくお願いしますっ!」
身に付けた衣装の愛らしさとは裏腹に、俺はメラメラと燃えていた。
これから俺の相手をする「二人のご主人様」に扮したリョウとタカシが、それぞれの位置につく。ソファと大きなベッド、赤い絨毯、絵画の飾られた綺麗な壁。立派だけど、よく見ると安っぽい造りの部屋。俺は横長のソファに座り、スタートの合図を今か今かと待った。
ライツ、カメラ……
「じゃあいくぞ。はい用意……」
松岡さんが片手をあげる。
「スタート!」
二人のご主人様がやってきて、俺の両隣に座った。
「桃陽、今日は仕事でまたやらかしたらしいな?」
右側に座ったタカシが下手な演技で言った。
「はい、またお皿を割ってしまいました……あと料理も失敗したし、掃除もまだやってません」
「駄目すぎるだろ」
左側のリョウが吹き出す。
「駄目すぎます。だからご主人様、……俺に罰を与えて下さい」
その台詞を合図に、二人が身を乗り出して俺の頬に唇を寄せた。
「桃陽はいやらしい奴だな。自分から罰を望むなんてな」
「はぁ、う……」
両頬を舐められ、背中にゾクゾクとした戦慄にも似た感覚が走った。
「お仕置きしてやる」
ブラウスの上から、二人に体を撫でられる。そうしながら首筋や喉を舐められると、あっという間に全身が熱くなってきて、俺は小さく身悶えながら二人の頭を抱きしめた。
「ご主人様、もっと……良くして」
目の前まで近付いてきたカメラを上目に見つめ、それを雀夜だと思って懇願する。
「俺のこと、もっと虐めて……」
外されたボタンの隙間から、リョウの手が入ってきた。硬く尖った乳首を指先で擦られれば、もう完全に快感のことしか考えられなくなる。
ソファから降りたタカシが床に膝をつき、エプロンを捲って俺が穿いているショートパンツのファスナーを下ろした。
「ふあ、あ……、気持ち、いっ……!」
咥えられ、喘ぎ乱れる俺を、松岡さんを始めスタッフ全員が見ている。言い様のない快感が身体中を這いずり周り、俺は腰をくねらせて更に声をあげた。
それから、床に跪いた俺の左右に立った二人のペニスを交互に口に含み、たっぷりと顔射された後に一旦仕切り直して、ベッドの上で犯された。
俺の中で変化が起きたのは、その時だ。
「あんっ、あっ、あ……ご主人様ぁっ……」
タカシにバックから突かれて、喉の奥から濡れた声が溢れてくる。屹立した先端からも、透明な体液が溢れてくる。腰を振る音、擦られる感触……気持ちいい。気持ちいいのに、頭の中では「早く終われ」と繰り返している。
タカシをバックでイカせた後、リョウの上に乗って自ら腰を振った。
両腕を強く掴まれて、自分の中にリョウのペニスを突き刺すように何度も何度も、激しく腰を上下させた。騎乗は俺が一番好きな体位だ。だけどやっぱり、快感に声を張り上げていても頭の中では「さっさとイけ」──そればかりを思っていた。体は気持ちいいのに、頭では一刻も早く解放されたがっている。
だけどこれは撮影で、好き勝手に体位を変えたり射精していいというものじゃない。あくまでも「他人に見せる」セックスなんだ。俺は腰を上下させながら何度も首を振り、自分の中の勝手な思いを打ち消した。
集中しろ、桃陽!
自分自身への叱咤が雀夜の声となって、頭の中に響き渡る。
「っ、桃陽……」
「ご主人、様ぁっ……!」
最後に正常位で犯され、ようやく射精OKの相図が出た。
「い、イくっ……」
飛び散った精液が自分の腹に付着する。その後に、リュウとタカシがゴムの中に出した精液も同じように腹の上へ絞り出された。
息も絶え絶えになった俺の全身を、カメラが舐めるように映してゆく。
完璧だった。表情も、声も、イくタイミングも。
「お疲れ、桃陽良かったよ!」
渡されたバスローブを羽織り、フラフラの足取りで浴室に向かう。
完璧だったと思う。
「………」
だけど、どうして……
俺は、松岡さんが首を捻っていたのを見逃さなかった。
「知らないうちに、勝手な思いがプレイに出ちゃったのかな……」
相手が雀夜じゃないから? あんな服を着せられたから?
だとしたら俺は最低だ。自分でこの企画を提案しておきながら、無意識のうちに百パーセントの力を出さなかったことになる。
「……駄目だ。こんなんじゃ駄目だ」
頭からシャワーを浴び、しばらくの間目を閉じて考え込む。そのうち、体が震えてくるのを感じた。
あの日、雀夜が言っていたことが現実となってしまった。
──普通のセックスじゃあ、もう物足りねえだろうな。
たった一度雀夜に抱かれただけで、他の男とセックスが……できなく、なってしまった……?
「……嘘だ」
必死にそれを否定する。そんな馬鹿なことがある訳ない。事実、さっきまで俺は喘ぎ乱れ、あんなに興奮していたじゃないか。多少の演技はあったけど、気持ち良かったことには変わりはなかった。
じゃあどうして、松岡さんは……
「桃陽」
「っ……!」
開け放たれていた浴室の扉。そこに、いつの間にか腕組みをした松岡さんが立っていた。
「お、お疲れ様です……。見ないでくださいよ、恥ずかしいな」
「今回の撮影、何か感じるものがあったか?」
意味深な台詞を投げかけられ、俺は怒られる覚悟を決めてシャワーを止めた。全裸のまま、松岡さんと向き合う。
「俺、……自分でも、分からなくて……」
「何が分からない?」
「……逆に、松岡さんは何が駄目だったと思いましたか」
しばしの沈黙があった後、松岡さんがゆっくりと口を開いた。
「俺には、桃陽のプレイがどうも淡泊な感じに見えた。実際初めての絡み撮影だから、多少の緊張や、想像と違う部分なんかもあったかもしれねえ。だけどそれを別としても、桃陽らしくないと思った。雀夜が認めた男、ってほどでもねえ……そう思った。こんなんで売り専のナンバーワンだったのか。ってな」
……やっぱり。松岡さんは気付いていたんだ。
「何か気付いたこと、感じたことがあるなら言ってくれて構わない。それを加味して企画を練るのが俺らの仕事だからな」
それが許されるならば……
俺は濡れた手で頬を擦り、松岡さんから視線を逸らした。
「……俺はあの日雀夜とセックスして、知ってしまったんだと思います……。他の人とはどうやってもあれ以上の領域には行けない。できると思ってた。相手が誰でも、俺なら心から楽しんでてきると思ってた。だけど……」
「相手が雀夜じゃなきゃ、やる気でねえってことか?」
「そんなことは……」
「無意識のうちに、他の男を雀夜と比べてるってことか」
ぎゅっと目を閉じ、頷いた。松岡さんが溜息をつく。
「惚れるのは勝手だが、仕事に私情を挟むな。確か俺、お前にそう言ったよな?」
「……はい」
「少し頭を冷やせ。それで、今後について考えろ」
踵を返し、松岡さんが浴室を出て行った。
「……っ……。う……」
俺は複雑な思いに耐え切れず、声を押し殺して唇を噛んだ。
「好きなように乱れていい。思いっきりやれ」との命令を松岡さんから受け、俺は気を引き締めて今日という日を待っていた。撮影場所は本社ビルから三駅分離れたところにあるスタジオをレンタルしている。移動車に乗り込んだ俺は、今日一緒に撮影することになった二人のモデルに挨拶した。
「おはようございます、桃陽です。今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。俺はリョウ。こいつはタカシだ」
「リョウとタカシだね、覚えた!」
正直名前なんて呼ぶことはないだろうから、モデルA、Bで構わない。しかし二人とも地味だけど、それなりに顔は整っていた。年齢は俺よりもだいぶ上だろう。二十代後半といったところか。
スタジオに着いた俺は、始めにシャワーを浴び、髪型をセットしてもらってから衣装に着替えた。用意されていた衣装は……メイド服、らしき物。
「なにこれ……。俺、女装は嫌だって前に言ったはずなのに」
俺の呟きを聞いたスタイリストのスタッフが苦笑して、両手を顔の前で合わせた。
「ごめんね、桃陽くん可愛いから絶対似合うと思ってさ。でもほら、スカートじゃないから女装とは違うよ。一応男の子用だから短いけどちゃんとズボンになってるし。ひらひらだけどさ」
「うー、まぁいっか。こんな機会もそうそうないしね」
太股が剥き出しになる、ぴったりとした黒のショートパンツ、パフスリーブの白いブラウス、赤いネクタイ。更に頭にカチューシャ、そしてひらひらのエプロン。
「………」
俺は姿見に映った自分の格好を見て、危うく戻しそうになってしまった。
──今日はこの服にしような。玲司のために、わざわざ買ってきてやったんだぞ。可愛いだろ?
「っ……」
そうか。俺が女装に対してこんなに拒絶反応が出るのは、理由があったのか。妙に納得しながら、頭の中で「これは違う。女装じゃない」と自分に言い聞かせる。
その時。
「なんだ、今日はずいぶん可愛い格好してんじゃねえか」
ふと顔を上げると、姿見に映る俺の背後に雀夜が立っていた。
「雀夜っ」
即座に振り返り、もはや挨拶代わりとなっている抱き付き攻撃を繰り出す。雀夜はカチューシャを付けた俺の頭を軽く撫で、馬鹿にしたような笑みで「似合ってるぞ」と言ってくれた。
「雀夜、見に来てくれたの?」
「違う。俺も一時間後に隣のスタジオで撮影だ」
それでも、わざわざこうして俺に会いに来てくれたことに変わりはない。嬉しくて、俺はつま先立ちになって雀夜の胸に何度も頬ずりした。雀夜は素っ気なく俺を体ごと引き剥がし、少しだけ身を屈めて俺の耳元で囁いた。
「今日なら都合がつきそうだ。終わったら俺の部屋、来るか?」
「っ……!」
「あのファミレスで待ってろ。九時過ぎには迎えに行ける」
「雀夜っ……」
両手を広げて、もう一度抱き付こうとする──が、雀夜の右手が俺の顔面を掴んであっさりとそれを拒否されてしまった。
「うー!」
「焦るな。今は撮影だけに集中しろ」
「う、うん分かった。じゃあファミレスで待ってるから。朝まで一緒にいてくれる? 何回もしてくれる?」
「話を聞くんじゃなかったのかよ。……まぁいいわ、久し振りだし、好きなだけしてやるよ」
「ゴム三箱用意しといて!」
呆れ顔の雀夜を前に、俺は両手をきつく握りしめて嬉しさを噛みしめた。
撮影を目前にして、興奮剤を打たれたみたいに体が熱くなってくる。これはいい作品になりそうだ。やる気全開モードの火がついた。
「桃陽、そろそろ準備しろー」
スタッフの声を聞き、雀夜が「後でな」と言ってスタジオを出て行った。
「よろしくお願いしますっ!」
身に付けた衣装の愛らしさとは裏腹に、俺はメラメラと燃えていた。
これから俺の相手をする「二人のご主人様」に扮したリョウとタカシが、それぞれの位置につく。ソファと大きなベッド、赤い絨毯、絵画の飾られた綺麗な壁。立派だけど、よく見ると安っぽい造りの部屋。俺は横長のソファに座り、スタートの合図を今か今かと待った。
ライツ、カメラ……
「じゃあいくぞ。はい用意……」
松岡さんが片手をあげる。
「スタート!」
二人のご主人様がやってきて、俺の両隣に座った。
「桃陽、今日は仕事でまたやらかしたらしいな?」
右側に座ったタカシが下手な演技で言った。
「はい、またお皿を割ってしまいました……あと料理も失敗したし、掃除もまだやってません」
「駄目すぎるだろ」
左側のリョウが吹き出す。
「駄目すぎます。だからご主人様、……俺に罰を与えて下さい」
その台詞を合図に、二人が身を乗り出して俺の頬に唇を寄せた。
「桃陽はいやらしい奴だな。自分から罰を望むなんてな」
「はぁ、う……」
両頬を舐められ、背中にゾクゾクとした戦慄にも似た感覚が走った。
「お仕置きしてやる」
ブラウスの上から、二人に体を撫でられる。そうしながら首筋や喉を舐められると、あっという間に全身が熱くなってきて、俺は小さく身悶えながら二人の頭を抱きしめた。
「ご主人様、もっと……良くして」
目の前まで近付いてきたカメラを上目に見つめ、それを雀夜だと思って懇願する。
「俺のこと、もっと虐めて……」
外されたボタンの隙間から、リョウの手が入ってきた。硬く尖った乳首を指先で擦られれば、もう完全に快感のことしか考えられなくなる。
ソファから降りたタカシが床に膝をつき、エプロンを捲って俺が穿いているショートパンツのファスナーを下ろした。
「ふあ、あ……、気持ち、いっ……!」
咥えられ、喘ぎ乱れる俺を、松岡さんを始めスタッフ全員が見ている。言い様のない快感が身体中を這いずり周り、俺は腰をくねらせて更に声をあげた。
それから、床に跪いた俺の左右に立った二人のペニスを交互に口に含み、たっぷりと顔射された後に一旦仕切り直して、ベッドの上で犯された。
俺の中で変化が起きたのは、その時だ。
「あんっ、あっ、あ……ご主人様ぁっ……」
タカシにバックから突かれて、喉の奥から濡れた声が溢れてくる。屹立した先端からも、透明な体液が溢れてくる。腰を振る音、擦られる感触……気持ちいい。気持ちいいのに、頭の中では「早く終われ」と繰り返している。
タカシをバックでイカせた後、リョウの上に乗って自ら腰を振った。
両腕を強く掴まれて、自分の中にリョウのペニスを突き刺すように何度も何度も、激しく腰を上下させた。騎乗は俺が一番好きな体位だ。だけどやっぱり、快感に声を張り上げていても頭の中では「さっさとイけ」──そればかりを思っていた。体は気持ちいいのに、頭では一刻も早く解放されたがっている。
だけどこれは撮影で、好き勝手に体位を変えたり射精していいというものじゃない。あくまでも「他人に見せる」セックスなんだ。俺は腰を上下させながら何度も首を振り、自分の中の勝手な思いを打ち消した。
集中しろ、桃陽!
自分自身への叱咤が雀夜の声となって、頭の中に響き渡る。
「っ、桃陽……」
「ご主人、様ぁっ……!」
最後に正常位で犯され、ようやく射精OKの相図が出た。
「い、イくっ……」
飛び散った精液が自分の腹に付着する。その後に、リュウとタカシがゴムの中に出した精液も同じように腹の上へ絞り出された。
息も絶え絶えになった俺の全身を、カメラが舐めるように映してゆく。
完璧だった。表情も、声も、イくタイミングも。
「お疲れ、桃陽良かったよ!」
渡されたバスローブを羽織り、フラフラの足取りで浴室に向かう。
完璧だったと思う。
「………」
だけど、どうして……
俺は、松岡さんが首を捻っていたのを見逃さなかった。
「知らないうちに、勝手な思いがプレイに出ちゃったのかな……」
相手が雀夜じゃないから? あんな服を着せられたから?
だとしたら俺は最低だ。自分でこの企画を提案しておきながら、無意識のうちに百パーセントの力を出さなかったことになる。
「……駄目だ。こんなんじゃ駄目だ」
頭からシャワーを浴び、しばらくの間目を閉じて考え込む。そのうち、体が震えてくるのを感じた。
あの日、雀夜が言っていたことが現実となってしまった。
──普通のセックスじゃあ、もう物足りねえだろうな。
たった一度雀夜に抱かれただけで、他の男とセックスが……できなく、なってしまった……?
「……嘘だ」
必死にそれを否定する。そんな馬鹿なことがある訳ない。事実、さっきまで俺は喘ぎ乱れ、あんなに興奮していたじゃないか。多少の演技はあったけど、気持ち良かったことには変わりはなかった。
じゃあどうして、松岡さんは……
「桃陽」
「っ……!」
開け放たれていた浴室の扉。そこに、いつの間にか腕組みをした松岡さんが立っていた。
「お、お疲れ様です……。見ないでくださいよ、恥ずかしいな」
「今回の撮影、何か感じるものがあったか?」
意味深な台詞を投げかけられ、俺は怒られる覚悟を決めてシャワーを止めた。全裸のまま、松岡さんと向き合う。
「俺、……自分でも、分からなくて……」
「何が分からない?」
「……逆に、松岡さんは何が駄目だったと思いましたか」
しばしの沈黙があった後、松岡さんがゆっくりと口を開いた。
「俺には、桃陽のプレイがどうも淡泊な感じに見えた。実際初めての絡み撮影だから、多少の緊張や、想像と違う部分なんかもあったかもしれねえ。だけどそれを別としても、桃陽らしくないと思った。雀夜が認めた男、ってほどでもねえ……そう思った。こんなんで売り専のナンバーワンだったのか。ってな」
……やっぱり。松岡さんは気付いていたんだ。
「何か気付いたこと、感じたことがあるなら言ってくれて構わない。それを加味して企画を練るのが俺らの仕事だからな」
それが許されるならば……
俺は濡れた手で頬を擦り、松岡さんから視線を逸らした。
「……俺はあの日雀夜とセックスして、知ってしまったんだと思います……。他の人とはどうやってもあれ以上の領域には行けない。できると思ってた。相手が誰でも、俺なら心から楽しんでてきると思ってた。だけど……」
「相手が雀夜じゃなきゃ、やる気でねえってことか?」
「そんなことは……」
「無意識のうちに、他の男を雀夜と比べてるってことか」
ぎゅっと目を閉じ、頷いた。松岡さんが溜息をつく。
「惚れるのは勝手だが、仕事に私情を挟むな。確か俺、お前にそう言ったよな?」
「……はい」
「少し頭を冷やせ。それで、今後について考えろ」
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