異世界ラーメン屋台～俺が作るラーメンを食べるとバフがかかるらしい～

一杯目 出会いのニンニク醤油ラーメン

第５話 ラーメン屋、街はずれのお屋敷に住まう

■アルカディア王国・ヴァルディール『夜鴉』ホーム

　冒険者ギルドを後にした俺達は街はずれに立っている小さな屋敷にたどり着いた。
　やや古めかしい外観のため、お化け屋敷に見えなくもない。
　ギィッと門を開けて敷地内に入ると管理を任されている執事の爺さんが姿を見せた。

「おかえりなさいませ、カリン様。そちらの男性はお客様でしょうか？」
「食客というよりかは、料理人見習いという形かしら？　エドガー、使用人と同じ扱いで対応を頼むわね」

　カリンがエドガーと呼ばれた爺さんに向けて指示を出すと夜鴉のメンバーは二階にある各自の部屋へ戻っていく。
　残された俺はエドガーさんに握手を求めた。

「お世話になります。タケシです。料理でしたら、多少自信があります」
「エドガーです。屋敷の管理を任されております。屋敷の案内をさせてもらいますね」

　握手を返すエドガーの掌は固く、鍛えているもののようである。
　この爺さん大分できるなと俺は背中に流れる冷たい汗を感じた。
　その後、庭に屋敷の全体、使用人用の一階の個室、風呂場と案内されて最後にキッチンへとたどりつく。

「こちらが主な仕事場になる食堂ですね。セリーナ、彼は料理人見習いとして屋敷に住まうタケシさんです」
「タケシです。よろしくお願いいたします」
「あいよ、よろしく頼むさね。早速だけど、簡単なツマミを作っとくれ、酒も適当に用意して食堂のテーブルにおいてくれれよ」
　
　セリーナから早速使えるかのテストのような注文が出された。
　ここで満足させれないと追い出される気がするので、驚くものを用意したい。

「食材は何がありますか？」
「今多いのは芋かねぇ？」

　セリーナが見せてくれたのはジャガイモだった。
　これで酒のつまみと言ったら、フライドポテトだろう。
　すぐにできるし、夜に揚げ物は悪魔的に美味いものだ。

「じゃあ、この芋を使いましょう。油を使うので底の深い鍋に油入れて温めてください」
「揚げ物なら、肉を使うもんじゃないのかい？」
「そこは見てのお楽しみという奴です」

　俺は芋をくし切りにしながら、俺はセリーナに笑いかける。


■ヴァルディール『夜鴉』ホーム　食堂

　お風呂に入って、部屋着に着替えた『夜鴉』の面々が食堂に集まってきた。
　ラフな格好なので、胸や尻など女性らしい部分が強調されている。
　余り女性の体を見つめるのも悪いので、俺は出来上がったフライドポテトをテーブルに置き、酒をコップについでいった。

「タケシ、ありがとう。この料理はタケシの故郷の？」
「ああ、フライドポテトというんだ。そのまんまだろ？」

　俺は横に来てフライドポテトを摘まんで食べるカリンを微笑ましくみる。
　ダンジョンでは頼れるリーダーとして動いていたが、ちょっと子供っぽい部分もあるんだなと思った。

「塩を振っただけでも十分酒に合うはずだ。本当ならケチャップやマヨネーズが欲しいところだけど、市場を見てみないとわからないなぁ」
　
　ホクホクな芋に塩を振っただけの料理だが、ついつい食べてしまう中毒性がある。
　ケチャップやマヨネーズでさらに美味くなるはずだ。

「これだけでも……おいしい……『けちゃぷ』と『まよねー』……ほしい」
「美味いっす！　お代わりっす！」

　もぐもぐとフライドポテトを食べるフェリシアとミアの二人は相変わらず美味しく料理を食べてくれて、うれしくなる。
　芋はまだあったから、作りに行こう。

「それじゃあ、改めてダンジョン攻略おめでとう！　かんぱーい！」
「「「かんぱーい！」」」

　キッチンに向かう俺の背後からカリン達の乾杯の声が聞こえてきた。
　

■『夜鴉』ホーム　タケシの自室

　ダンジョン帰還後の打ち上げは恒例のようで大盛り上がりになる。
　ただ、俺の存在を忘れているのか、かなり酔っ払ってアレな光景になりかけていたのが大変だった。
　エドガーさんとセリーナに任せて、俺は自室に戻っている。

「いつの間にか来ていた異世界で……俺の料理を喜んでくれる人がいるのか……」

　つい最近まで、ブラック企業に勤めて感謝などされない生活をしていた俺にとって、今の環境は心地よかった。
　地球に帰る必要はまるでないように思える。

「ただ、食材の仕入れができないとラーメン屋台を続けることができないんだよな」
　
　俺は俺自身の力についてもっと知る必要があると感じた。
　明日から屋敷の仕事をしながらスキルの確認をしていこう。

　目標ができてすっきりした俺は布団でゆっくり眠ることにした。