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後編
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結局修学旅行中はずっとおむつをつけさせられ、恥辱にあふれた修学旅行となってしまった。そして優子と美奈、奈恵の関係も変わっていき、学校でもおむつ着用を命じられてしまうのだった。歯向かおうにもおねしょをしてクラスカースト最下位にまで落ちぶれた優子に味方はなく、修学旅行中に撮影されたおむつ交換の様子を盾にされては従うほかなかった。
「あそこにいる子、おしっこ漏れちゃったのかな?」
隣に座る小学生くらいの男の子が、私の足元を指さして言った。膝丈の制服スカートから覗く太ももの付け根——そこには確かに白の紙おむつが見えていた。
「バカ!そういうこと大声で言わないの!」
母親らしき女性が慌てて息子の口を押さえ、申し訳なさそうに私を見た。頬が火照る。でも、ここで怒ったり悲しんだりしたら、もっと惨めになるだけだ。だから私は小さく微笑んで「大丈夫です、、」と答えた。嘘だ。
窓ガラスに映る自分の姿が目に入る。白いブラウスに紺のプリーツスカート。普通の女子高生のはずなのに、スカートの下には明らかに異物が存在している。
ガタン。
電車が揺れた瞬間、右側のポケットから何かが滑り落ちそうになった。慌てて抑える。危なかった——もし今落ちていたら、紙おむつの中に入れてある失敗用の予備おむつまで丸見えになってしまうところだった。
「おい、おもらし女。ちゃんと座ってろよ」
後方の席から声が聞こえた。振り返らなくても分かる。美奈と奈恵の声だ。彼女たちの周囲にいる取り巻きたちのクスクス笑いまで耳に入ってくる。
修学旅行での失態以来、私は完全に標的にされていた。「十八歳にもなってオネショするなんて」「赤ちゃんのお世話が必要だよね」「特別に紙おむつ買ってきたよ~」そう言って笑いながら渡されたのが、この大人用紙おむつだ。
教師陣も知っているはずなのに、見て見ぬふりをする。校則違反者への懲罰として認めた以上、止められないらしい。そして何より——
(今日、まだ一回もトイレに行ってないのに……)
朝食時に飲んだ紅茶が効き始めている。膀胱が重たい。しかし、この状態で公共のトイレに行くのは不可能に近かった。個室に入れば確実にバレる。替えの紙おむつは持ち歩いているけれど、人目につかない場所での着替えなどできるわけがない。
「次は京都駅~京都駅~」
アナウンスが流れた瞬間、隣に座っていた老婦人が立ち上がった。その拍子に、バッグから飛び出していたペットボトルが私の膝に当たる。
「すみません!」
「いいえ、大丈夫です……」
会釈しながら、内心では最悪の事態を考えていた。もし今おしっこが出てしまったら?どうすればいい?駅のホームで紙おむつ交換なんて絶対できない……
電車が減速し始める。早く着いてほしい。でも降りたら人混みの中で移動しなければならない。紙おむつが膨らんできているのを感じる。もう限界だ。
「ねぇ、あの子お尻が変だよ?」
「シッ!見ちゃいけません!」
小さな子ども連れの親子の声が聞こえた。私の顔から血の気が引いていく。
(お願い……誰か助けて……)
涙が溢れそうになるのを堪えながら、私は紙おむつの感触に耐えていた。これがいつまで続くのか。次の駅でまた新しい恥辱が待っているかもしれないと思うと、胸が締めつけられるような痛みに襲われた。
電車が減速を始めた時、既に私の体内では最悪の事態が始まっていた。
温かな液体が臀部全体を覆う感覚。まるでバケツをひっくり返されたかのような量だ。紙おむつが瞬く間に膨張していくのを感じる。
「……っ」
思わず口元を押さえようとした瞬間、電車が停車した。ドアが開き、ぞろぞろと降り始める乗客たち。その流れに逆らうようにして、私は席から腰を浮かせることができなかった。
「おい、優子。行くぞ」
美奈が後方から呼びかける。奈恵と一緒にスマホを構えているのが視界の端に見える。撮影の準備をしているのだ。
「早く来ないと置いていくぜ? それとも……」
言葉の途中で美奈が近づいてきた。周囲の乗客たちも異変に気づき始めている。
「あれ、あの子のスカート……」
誰かが呟いた瞬間、私は咄嗟に鞄で下半身を隠した。だが時すでに遅し。白色の紙おむつがスカートからはっきりと見えていた。しかもパンパンに膨らんでいる。
「ちょっと、本当に漏らしたの?」
「マジで? 高校生で?」
「わー! すごい匂いする!」
乗客たちのヒソヒソ話が徐々に大きくなる。逃げ場はない。
「ほら、立って」
美奈が腕を引っ張ってくる。引きずられるようにして電車から降りると、駅のホームで更なる地獄が待っていた。
「お姉ちゃん、なんで赤ちゃんみたいなパンツ履いてるの?」
「おしっこ漏れちゃったの?」
小さな女の子が無邪気に尋ねてくる。その後ろでは母親らしき女性が慌てて謝罪するが、そんなことで誤魔化せる問題ではない。
「うわぁ、あの人おむつしてる!」
「写真撮っちゃダメかな?」
「先生呼ばなくていいの? 犯罪じゃない?」
好奇の目線が四方八方から突き刺さる。視線が刃物のように肌を切り裂いていく。鼻をつくアンモニア臭が漂い始めると、さらに人々の反応は激しくなった。
「やめてください……お願いします……」
声を震わせながら懇願すると、奈恵が私の耳元で囁いた。
「これからもっと面白いことが起こるよ。だって——」
彼女の言葉は最後まで聞けなかった。突然、駅員の制服を着た男性が走ってきたからだ。
「失礼ですが、保護者の方はいらっしゃいますか?」
混乱した表情で尋ねてくる。当然だろう。高校生の少女が公衆の面前で紙おむつを着用し、しかも明らかに失禁している状況なのだ。
「いえ、あの……これは罰で……」
私が言いかけた途端、美奈が割り込んできた。
「こいつ、おねしょしちゃったんです! だから先生から紙おむつ履くように言われてるんですよ~♪」
奈恵も加勢する。
「ねえ駅員さん、これ犯罪じゃないですよね? だって本人も同意してるし」
「そうそう、ほら証拠に先生からの指示書もあるし」
二人が差し出したスマートフォンには、担任教師からのメール画面が表示されていた。"本日は一日中紙おむつ着用を命じる"という内容だ。
駅員は困惑した様子で私を見つめた。助けを求めても無駄だと悟った瞬間、急に視界が歪み始めた。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
駅員が支えようとする手を反射的に振り払ってしまう。そして、人垣をかき分けようと踏み出したその時—
「ピチャッ」
足元で奇妙な音がした。紙おむつから溢れ出た液体が靴底に触れたのだ。恥辱の極みだった。
「ごめんなさい……本当に……もう……」
声にならない声で謝罪しながら、私は全力で駅のトイレへと走り出した。背後から響く笑い声とカメラのシャッター音を聞きながら、涙が止まらなかった。この日が終わることはないのかもしれないと、心の底から思った。
京都駅の男子トイレしか空いていないのは偶然ではないだろう。美奈たちが先回りして確保していたのだ。
「ほら、行ってこいよ。みんな待ってるぞ」
背中を押されて入ると、便器に向かって並ぶ人々の視線が一斉に集まった。ビジネスマン風の男性、修学旅行と思しき他校の生徒たち。全員が驚愕の表情を浮かべている。
「おい、あそこ……」
「え、女子高生?マジかよ」
スカートをたくし上げただけで溢れ出す臭気。紙おむつからは黄ばんだ液体が滴り、床に染みを作っていく。それでも交換しなければならない。
「すいません……少し……」
言いかけた瞬間、個室のドアが閉まる音がした。残されたのは洗面台近くの狭い空間だけ。こんなところで着替えるしかないのか。
震える手でホックを外そうとした時、隣で用を足していたサラリーマンが咳払いした。
「ここじゃ迷惑だろ? ほら」
そう言って鏡越しにスマホ画面を見せつけてくる。先ほど駅のホームで撮られた私の姿。紙おむつを履いた下半身が、鮮明に映し出されていた。
「消してください!」
声を荒げた瞬間、他の利用者たちが一斉に振り返った。誰かが小声で「マジで濡れてる……」「ヤバすぎ」と囁いているのが聞こえる。
焦りで頭が真っ白になりつつ、なんとかホックを外したものの—新しい紙おむつを取り出す際に鞄を落としてしまった。
パサッ!
床一面に広がる大人用紙おむつの山。使用済みのものから新品のものまで、まるで展示会のように整列してしまう。
「うわ、これ全部使ってるの?」
「エグい量……一日分じゃないの?」
周りの嘲笑が耳に突き刺さる。その時、個室から出てきた別の男性客が不快そうな顔で言った。
「すみませんが、早くどいてもらえます? 使うんですけど」
選択肢はなかった。泣きながら使用済みおむつを片手に抱え、急いで新しいものを履く。濡れた股間部分が不快で仕方ない。そしてそのまま荷物を拾い上げようとした瞬間—
「あっ!」
新しい紙おむつを素早く取り過ぎてしまい、前の袋を破いてしまった。つまり、二枚重ねになった状態で履いていることになる。
「……変なの」
「ダブル使い? 赤ちゃんかよ」
耐えきれずに駆け出すと、前方から歓声が聞こえた。
「あー!紙おむつ女だ!」
「マジで漏らしたんだってー!」
男子中学生グループがスマホを向けている。SNSに投稿でもしようというのだろう。
「やめてください……!」
声を上げた瞬間、スカートが捲れ上がってしまった。二枚重ねになった不自然な厚みのある紙おむつが露わになる。
「うわっ! ハイパー装備じゃん!」
「重戦士かよ!」
「これで動けるの?ギャハハ!」
(いつまで続くんだろう……この罰は)
その日一日、歩く度に視線を感じた。観光客たちの好奇の目、他の生徒たちの冷笑。そして何より辛かったのは、時折訪れる尿意と、そのたびに紙おむつの中へ漏らしてしまう自分自身の無力さだった。
教室の扉を開ける前から胸が苦しかった。廊下には人影がなく、それでも足音が誰かに聞かれていないか不安になる。
鞄の中には予備の紙おむつが三枚。生理用品入れとは別に忍ばせてある。制服スカートの下にある違和感が、ずっと私を責め続ける。
席に着くと、すぐ隣から嘲笑が飛んできた。
「あれ~? 今日も赤ちゃんスタイルなの?」
美奈が机を小突きながら言う。奈恵も加わって肩を震わせて笑っている。おむつを付けていることなど通学中の様子から一目瞭然だっただろうに、他のクラスメイトにも周知させるためにわざわざ聞いてきた。
「命令通りにして偉いじゃん。先生にチクったら退学になるかもね?」
修学旅行の最終日、駅のトイレで美奈から一方的に告げられた言葉。
『これから毎日紙おむつ履いてきてよ。じゃないとネットに全部バラすから』
脅迫だ。でも学校側もあの失態を公にしたくないようで、美奈の要求を黙認している。この状況を打破する方法が見つからない。
「……黙ってよ」
小声で抗議するのが精一杯だった。すると予鈴が鳴り、担任の先生が現れた。私を見るなり眉をひそめる。
「安西さん、忘れ物はないですか? 特に……必要な物は持ってきた?」
教室中が静まり返る。皆わかっているのだ。先生まで共犯者になっているということを。
午前の授業は最悪だった。数学の難解な問題を前に固まっていると、急に尿意が込み上げてきた。修学旅行のトラウマが蘇り、体が勝手に反応してしまう。
(我慢しなきゃ……これ以上醜態をさらすわけには、、、)
そう思えば思うほど膀胱が縮んでいく。ノートを取るふりをして内腿をこすり合わせるも、効果なし。そしてついに—
シュワアッ……
暖かい液体がおむつの中に広がっていく感覚。授業中の密閉空間に独特のアンモニア臭が漂い始める。
「ん? 誰か水こぼした?」
前列の男子生徒が鼻をくんくんさせる。幸いすぐに先生が訂正してくれた。
「気のせいでしょう。続きます」
しかし私の背筋は凍りついていた。後ろの席の美奈がスマホで私を撮影している。録画機能の赤いランプが点滅していた。私はおむつを濡らしたまま授業が終わるのをひたすら耐えるしかなかった。
昼休み、図書室に逃げ込んだ私を追いかけてきたのは意外な人物だった。
「安西さん、これ……」
同じクラスの委員長、佐藤君がタブレットを差し出す。画面には校内の匿名掲示板が表示されていて、私の情報が晒されていた。
『【朗報】紙おむつ娘のタイムスケジュール判明! 昼休みは決まって西校舎4階の階段裏』
「こんな……嘘だ……」
震える手でタブレットを受け取る私に、佐藤君は真剣な眼差しで言った。
「このままじゃまずいよ。俺、校長先生に直接相談する」
その瞬間、廊下から足音が聞こえた。
「あら~? 二人きりで何やってんの?」
奈恵の甘ったるい声。振り返ると美奈も一緒だ。
「もしかして援交? だったら写真撮っとこうかな~」
美奈が携帯電話を向ける。佐藤君が慌ててタブレットを隠そうとするが、もう遅い。
「これ……まさか生徒会の奴? 通報されちゃったのかな~」
奈恵が勝ち誇った表情で告げる。
「安心しなよ。今ここで泣けば許してあげる。それにさ、今夜もパーティーあるから来てよね」
断れるはずがなかった。夜十時、学校近くの廃工場で行われる恒例の集まり。私も何度か無理やり連れて行かれたことがある。
「もちろん、おむつ履いてこないとね♡」
美奈の一言で、佐藤君の顔色が変わった。
「やめろ、犯罪だぞ!」
叫びかけて口を閉ざす。私たちの周りにはいつの間にか数人の不良仲間が集まっていた。優子は不良生徒ではあったが、せいぜい未成年飲酒、深夜外出くらいしかやったことがなかったが、集まった生徒の大半は暴力、乱交、薬などにの経験があるものばかりであり、自分には逃げ場がない、逆らっても無駄であることを再認識させられる。
放課後、家に帰る道すがら、何度も泣きそうになった。鞄の中で新品の紙おむつが一枚増えている。今夜のための準備品だ。母親にも父親にも言えない秘密。ましてや教師陣も敵同然。
(いつまで続くの……?)
夕暮れの空を見上げながら、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。明日の朝も紙おむつを持って学校に行かなければならない。それが終わっても、きっと新しい地獄が待っている。
遠くでカラスが鳴いた。その声が、まるで私を嘲笑うように聞こえた。修学旅行が終わったと思ったのは幻想だったのだ。本当の拷問は今、まさに始まったばかりなのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
短編というわけで、一応今回で終わりのつもりです。もしかしたら後日談としてパーティーの様子を書くかもしれませんが、正直そうした描写をうまく表せる自信はないので期待しないで待っていてください。
おむつやおねしょといった題材なので過去作と同じような描写になってきてしまいました。もっと様々なシチュエーションを描けるよう精進いたします。
他の作品もよろしくお願いします。ご愛読ありがとうございました。
「あそこにいる子、おしっこ漏れちゃったのかな?」
隣に座る小学生くらいの男の子が、私の足元を指さして言った。膝丈の制服スカートから覗く太ももの付け根——そこには確かに白の紙おむつが見えていた。
「バカ!そういうこと大声で言わないの!」
母親らしき女性が慌てて息子の口を押さえ、申し訳なさそうに私を見た。頬が火照る。でも、ここで怒ったり悲しんだりしたら、もっと惨めになるだけだ。だから私は小さく微笑んで「大丈夫です、、」と答えた。嘘だ。
窓ガラスに映る自分の姿が目に入る。白いブラウスに紺のプリーツスカート。普通の女子高生のはずなのに、スカートの下には明らかに異物が存在している。
ガタン。
電車が揺れた瞬間、右側のポケットから何かが滑り落ちそうになった。慌てて抑える。危なかった——もし今落ちていたら、紙おむつの中に入れてある失敗用の予備おむつまで丸見えになってしまうところだった。
「おい、おもらし女。ちゃんと座ってろよ」
後方の席から声が聞こえた。振り返らなくても分かる。美奈と奈恵の声だ。彼女たちの周囲にいる取り巻きたちのクスクス笑いまで耳に入ってくる。
修学旅行での失態以来、私は完全に標的にされていた。「十八歳にもなってオネショするなんて」「赤ちゃんのお世話が必要だよね」「特別に紙おむつ買ってきたよ~」そう言って笑いながら渡されたのが、この大人用紙おむつだ。
教師陣も知っているはずなのに、見て見ぬふりをする。校則違反者への懲罰として認めた以上、止められないらしい。そして何より——
(今日、まだ一回もトイレに行ってないのに……)
朝食時に飲んだ紅茶が効き始めている。膀胱が重たい。しかし、この状態で公共のトイレに行くのは不可能に近かった。個室に入れば確実にバレる。替えの紙おむつは持ち歩いているけれど、人目につかない場所での着替えなどできるわけがない。
「次は京都駅~京都駅~」
アナウンスが流れた瞬間、隣に座っていた老婦人が立ち上がった。その拍子に、バッグから飛び出していたペットボトルが私の膝に当たる。
「すみません!」
「いいえ、大丈夫です……」
会釈しながら、内心では最悪の事態を考えていた。もし今おしっこが出てしまったら?どうすればいい?駅のホームで紙おむつ交換なんて絶対できない……
電車が減速し始める。早く着いてほしい。でも降りたら人混みの中で移動しなければならない。紙おむつが膨らんできているのを感じる。もう限界だ。
「ねぇ、あの子お尻が変だよ?」
「シッ!見ちゃいけません!」
小さな子ども連れの親子の声が聞こえた。私の顔から血の気が引いていく。
(お願い……誰か助けて……)
涙が溢れそうになるのを堪えながら、私は紙おむつの感触に耐えていた。これがいつまで続くのか。次の駅でまた新しい恥辱が待っているかもしれないと思うと、胸が締めつけられるような痛みに襲われた。
電車が減速を始めた時、既に私の体内では最悪の事態が始まっていた。
温かな液体が臀部全体を覆う感覚。まるでバケツをひっくり返されたかのような量だ。紙おむつが瞬く間に膨張していくのを感じる。
「……っ」
思わず口元を押さえようとした瞬間、電車が停車した。ドアが開き、ぞろぞろと降り始める乗客たち。その流れに逆らうようにして、私は席から腰を浮かせることができなかった。
「おい、優子。行くぞ」
美奈が後方から呼びかける。奈恵と一緒にスマホを構えているのが視界の端に見える。撮影の準備をしているのだ。
「早く来ないと置いていくぜ? それとも……」
言葉の途中で美奈が近づいてきた。周囲の乗客たちも異変に気づき始めている。
「あれ、あの子のスカート……」
誰かが呟いた瞬間、私は咄嗟に鞄で下半身を隠した。だが時すでに遅し。白色の紙おむつがスカートからはっきりと見えていた。しかもパンパンに膨らんでいる。
「ちょっと、本当に漏らしたの?」
「マジで? 高校生で?」
「わー! すごい匂いする!」
乗客たちのヒソヒソ話が徐々に大きくなる。逃げ場はない。
「ほら、立って」
美奈が腕を引っ張ってくる。引きずられるようにして電車から降りると、駅のホームで更なる地獄が待っていた。
「お姉ちゃん、なんで赤ちゃんみたいなパンツ履いてるの?」
「おしっこ漏れちゃったの?」
小さな女の子が無邪気に尋ねてくる。その後ろでは母親らしき女性が慌てて謝罪するが、そんなことで誤魔化せる問題ではない。
「うわぁ、あの人おむつしてる!」
「写真撮っちゃダメかな?」
「先生呼ばなくていいの? 犯罪じゃない?」
好奇の目線が四方八方から突き刺さる。視線が刃物のように肌を切り裂いていく。鼻をつくアンモニア臭が漂い始めると、さらに人々の反応は激しくなった。
「やめてください……お願いします……」
声を震わせながら懇願すると、奈恵が私の耳元で囁いた。
「これからもっと面白いことが起こるよ。だって——」
彼女の言葉は最後まで聞けなかった。突然、駅員の制服を着た男性が走ってきたからだ。
「失礼ですが、保護者の方はいらっしゃいますか?」
混乱した表情で尋ねてくる。当然だろう。高校生の少女が公衆の面前で紙おむつを着用し、しかも明らかに失禁している状況なのだ。
「いえ、あの……これは罰で……」
私が言いかけた途端、美奈が割り込んできた。
「こいつ、おねしょしちゃったんです! だから先生から紙おむつ履くように言われてるんですよ~♪」
奈恵も加勢する。
「ねえ駅員さん、これ犯罪じゃないですよね? だって本人も同意してるし」
「そうそう、ほら証拠に先生からの指示書もあるし」
二人が差し出したスマートフォンには、担任教師からのメール画面が表示されていた。"本日は一日中紙おむつ着用を命じる"という内容だ。
駅員は困惑した様子で私を見つめた。助けを求めても無駄だと悟った瞬間、急に視界が歪み始めた。
「ちょっと、大丈夫ですか?」
駅員が支えようとする手を反射的に振り払ってしまう。そして、人垣をかき分けようと踏み出したその時—
「ピチャッ」
足元で奇妙な音がした。紙おむつから溢れ出た液体が靴底に触れたのだ。恥辱の極みだった。
「ごめんなさい……本当に……もう……」
声にならない声で謝罪しながら、私は全力で駅のトイレへと走り出した。背後から響く笑い声とカメラのシャッター音を聞きながら、涙が止まらなかった。この日が終わることはないのかもしれないと、心の底から思った。
京都駅の男子トイレしか空いていないのは偶然ではないだろう。美奈たちが先回りして確保していたのだ。
「ほら、行ってこいよ。みんな待ってるぞ」
背中を押されて入ると、便器に向かって並ぶ人々の視線が一斉に集まった。ビジネスマン風の男性、修学旅行と思しき他校の生徒たち。全員が驚愕の表情を浮かべている。
「おい、あそこ……」
「え、女子高生?マジかよ」
スカートをたくし上げただけで溢れ出す臭気。紙おむつからは黄ばんだ液体が滴り、床に染みを作っていく。それでも交換しなければならない。
「すいません……少し……」
言いかけた瞬間、個室のドアが閉まる音がした。残されたのは洗面台近くの狭い空間だけ。こんなところで着替えるしかないのか。
震える手でホックを外そうとした時、隣で用を足していたサラリーマンが咳払いした。
「ここじゃ迷惑だろ? ほら」
そう言って鏡越しにスマホ画面を見せつけてくる。先ほど駅のホームで撮られた私の姿。紙おむつを履いた下半身が、鮮明に映し出されていた。
「消してください!」
声を荒げた瞬間、他の利用者たちが一斉に振り返った。誰かが小声で「マジで濡れてる……」「ヤバすぎ」と囁いているのが聞こえる。
焦りで頭が真っ白になりつつ、なんとかホックを外したものの—新しい紙おむつを取り出す際に鞄を落としてしまった。
パサッ!
床一面に広がる大人用紙おむつの山。使用済みのものから新品のものまで、まるで展示会のように整列してしまう。
「うわ、これ全部使ってるの?」
「エグい量……一日分じゃないの?」
周りの嘲笑が耳に突き刺さる。その時、個室から出てきた別の男性客が不快そうな顔で言った。
「すみませんが、早くどいてもらえます? 使うんですけど」
選択肢はなかった。泣きながら使用済みおむつを片手に抱え、急いで新しいものを履く。濡れた股間部分が不快で仕方ない。そしてそのまま荷物を拾い上げようとした瞬間—
「あっ!」
新しい紙おむつを素早く取り過ぎてしまい、前の袋を破いてしまった。つまり、二枚重ねになった状態で履いていることになる。
「……変なの」
「ダブル使い? 赤ちゃんかよ」
耐えきれずに駆け出すと、前方から歓声が聞こえた。
「あー!紙おむつ女だ!」
「マジで漏らしたんだってー!」
男子中学生グループがスマホを向けている。SNSに投稿でもしようというのだろう。
「やめてください……!」
声を上げた瞬間、スカートが捲れ上がってしまった。二枚重ねになった不自然な厚みのある紙おむつが露わになる。
「うわっ! ハイパー装備じゃん!」
「重戦士かよ!」
「これで動けるの?ギャハハ!」
(いつまで続くんだろう……この罰は)
その日一日、歩く度に視線を感じた。観光客たちの好奇の目、他の生徒たちの冷笑。そして何より辛かったのは、時折訪れる尿意と、そのたびに紙おむつの中へ漏らしてしまう自分自身の無力さだった。
教室の扉を開ける前から胸が苦しかった。廊下には人影がなく、それでも足音が誰かに聞かれていないか不安になる。
鞄の中には予備の紙おむつが三枚。生理用品入れとは別に忍ばせてある。制服スカートの下にある違和感が、ずっと私を責め続ける。
席に着くと、すぐ隣から嘲笑が飛んできた。
「あれ~? 今日も赤ちゃんスタイルなの?」
美奈が机を小突きながら言う。奈恵も加わって肩を震わせて笑っている。おむつを付けていることなど通学中の様子から一目瞭然だっただろうに、他のクラスメイトにも周知させるためにわざわざ聞いてきた。
「命令通りにして偉いじゃん。先生にチクったら退学になるかもね?」
修学旅行の最終日、駅のトイレで美奈から一方的に告げられた言葉。
『これから毎日紙おむつ履いてきてよ。じゃないとネットに全部バラすから』
脅迫だ。でも学校側もあの失態を公にしたくないようで、美奈の要求を黙認している。この状況を打破する方法が見つからない。
「……黙ってよ」
小声で抗議するのが精一杯だった。すると予鈴が鳴り、担任の先生が現れた。私を見るなり眉をひそめる。
「安西さん、忘れ物はないですか? 特に……必要な物は持ってきた?」
教室中が静まり返る。皆わかっているのだ。先生まで共犯者になっているということを。
午前の授業は最悪だった。数学の難解な問題を前に固まっていると、急に尿意が込み上げてきた。修学旅行のトラウマが蘇り、体が勝手に反応してしまう。
(我慢しなきゃ……これ以上醜態をさらすわけには、、、)
そう思えば思うほど膀胱が縮んでいく。ノートを取るふりをして内腿をこすり合わせるも、効果なし。そしてついに—
シュワアッ……
暖かい液体がおむつの中に広がっていく感覚。授業中の密閉空間に独特のアンモニア臭が漂い始める。
「ん? 誰か水こぼした?」
前列の男子生徒が鼻をくんくんさせる。幸いすぐに先生が訂正してくれた。
「気のせいでしょう。続きます」
しかし私の背筋は凍りついていた。後ろの席の美奈がスマホで私を撮影している。録画機能の赤いランプが点滅していた。私はおむつを濡らしたまま授業が終わるのをひたすら耐えるしかなかった。
昼休み、図書室に逃げ込んだ私を追いかけてきたのは意外な人物だった。
「安西さん、これ……」
同じクラスの委員長、佐藤君がタブレットを差し出す。画面には校内の匿名掲示板が表示されていて、私の情報が晒されていた。
『【朗報】紙おむつ娘のタイムスケジュール判明! 昼休みは決まって西校舎4階の階段裏』
「こんな……嘘だ……」
震える手でタブレットを受け取る私に、佐藤君は真剣な眼差しで言った。
「このままじゃまずいよ。俺、校長先生に直接相談する」
その瞬間、廊下から足音が聞こえた。
「あら~? 二人きりで何やってんの?」
奈恵の甘ったるい声。振り返ると美奈も一緒だ。
「もしかして援交? だったら写真撮っとこうかな~」
美奈が携帯電話を向ける。佐藤君が慌ててタブレットを隠そうとするが、もう遅い。
「これ……まさか生徒会の奴? 通報されちゃったのかな~」
奈恵が勝ち誇った表情で告げる。
「安心しなよ。今ここで泣けば許してあげる。それにさ、今夜もパーティーあるから来てよね」
断れるはずがなかった。夜十時、学校近くの廃工場で行われる恒例の集まり。私も何度か無理やり連れて行かれたことがある。
「もちろん、おむつ履いてこないとね♡」
美奈の一言で、佐藤君の顔色が変わった。
「やめろ、犯罪だぞ!」
叫びかけて口を閉ざす。私たちの周りにはいつの間にか数人の不良仲間が集まっていた。優子は不良生徒ではあったが、せいぜい未成年飲酒、深夜外出くらいしかやったことがなかったが、集まった生徒の大半は暴力、乱交、薬などにの経験があるものばかりであり、自分には逃げ場がない、逆らっても無駄であることを再認識させられる。
放課後、家に帰る道すがら、何度も泣きそうになった。鞄の中で新品の紙おむつが一枚増えている。今夜のための準備品だ。母親にも父親にも言えない秘密。ましてや教師陣も敵同然。
(いつまで続くの……?)
夕暮れの空を見上げながら、私はただ立ち尽くすことしかできなかった。明日の朝も紙おむつを持って学校に行かなければならない。それが終わっても、きっと新しい地獄が待っている。
遠くでカラスが鳴いた。その声が、まるで私を嘲笑うように聞こえた。修学旅行が終わったと思ったのは幻想だったのだ。本当の拷問は今、まさに始まったばかりなのである。
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短編というわけで、一応今回で終わりのつもりです。もしかしたら後日談としてパーティーの様子を書くかもしれませんが、正直そうした描写をうまく表せる自信はないので期待しないで待っていてください。
おむつやおねしょといった題材なので過去作と同じような描写になってきてしまいました。もっと様々なシチュエーションを描けるよう精進いたします。
他の作品もよろしくお願いします。ご愛読ありがとうございました。
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