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第1章
16話 街中でのエンカウント 2
ズラリと並ぶテーブルを全て覆い隠す程の料理に、周りの客が目を見開いている。
元々量の多い料理屋で冒険者や騎士の腹を満たす店だというのに 、そんな料理が所狭しと並んでいるのだ。
そのテーブルには有名な回復魔術師がいて、その前には一回りは違うだろう女性の姿。
ザワザワとしてしまうのも仕方ないだろう。
1階にいたら絡まれそうだ。
「美味しいかい?」
「………………うん」
スプーンでピラフを食べてから、フライドポテトを口にしたレティリアが頷いた。
パクパクと口を動かす姿は無表情ながら嬉しそうで笑ってしまう。
ユリウスから大食らいと聞いていたのだが、細く小さなレティリアの一体どこにおさまっているのだろうかと関心してしまう。
「いっぱい食べるねぇ 」
「……だめだった? 」
「いいや、全然。足りなかったらもっと頼んでいいよ」
言い切ったヴェルクレアに目を丸くする。
レティリアの食欲に驚き引き攣る人が多いのだ。
同じ解体員の高給取り以外、レティリアを奢る人はいないので、実はドキドキしていた。
「……財布、瀕死にならない?」
「ふは……大丈夫大丈夫。いっぱいお食べ」
「はぁい」
元気に挨拶して、本当に大丈夫かな? とチラチラ見ながら食事の皿を空にしていく。
その食べっぷりにヴェルクレアは常に笑みを浮かべていた。
「レティ、口に付いてるよ」
突然愛称で呼ばれ、指で自分の口をトンと叩き教えてくれるヴェルクレアに浮き足立ちそうな気分で口元を触るが見つけらない。
ヴェルクレアが伸び上がり、レティリアの口に触れた。
指先が唇に当たりポカンと見ると、変わらず笑っているヴェルクレアにレティリアは顔を赤らめる。
「…………あれ、ごめん嫌だったかな」
「…………おじさんこわい、こわい」
「こわい?!」
ガーン……と落ち込むヴェルクレアを見ながら、レティリアは赤らめた頬に手を当てていた。
「…………恥ずかしい」
「それは……ごめんね……いや、一緒に照れちゃうなぁ」
初めて会ったばかりとは思えない気さくな様子に思わず手を出して米粒を取ったが、そもそもそんな事をしたのはヴェルクレアも初めてで、少し戸惑っていた。
「ほら、食べよう?」
「……うん」
頷き食事を再開。
仕事中の騒がしい様子とは別人のようなレティリアだが、その食欲はどこまでも欲望に忠実だった。
「……それ、本当に頼むの?」
「駄目? お財布瀕死? 」
「いやいや! 瀕死じゃないけどね?! 食べれる? 」
「いける」
グッ! と右手を握りしめて言うレティリアが指さしてるのは、5人前は有るだろう巨大なパフェである。
まん丸金魚鉢みたいな可愛らしい器に、スポンジケーキ、アイス、生クリーム、果物が層になって、上には生クリームと果物、濃厚チョコケーキとチーズケーキ、ポッキーやチョコプレート、3角のサクサクビスケットが塔のように高くそびえている。
それを食後に満面の笑みで指さすのだ。
食べる量は6キロと戦々恐々していたら、何故か財布の心配をされた。
今の心配はそこじゃないよね? と首を横に振っている間に、レティリアは手を上げて店員を呼ぶ。
「すいません、このデリシャルゴージャスパフェと、カフェオレ。ヴェル……さんはどれ? 」
「ブラックコーヒーで」
「かしこまりましたー」
満面の笑みで注文を聞いた店員は、ヴェルクレアを見て顔を真っ赤にした。
ぽー……と見ている店員にレティリアは眉を寄せる。
「………………注文は? 」
「……………………はっ! 失礼しました! 」
慌てて頭を下げ、厨房にいった店員だったが、それからもチラチラと視線を集めている。
それは、他の店員も客もで、レティリアは嫌そうに顔を歪めた。
「…………仕事をサボる奴はクソだ」
「ぶふっ! 」
突然呟いたレティリアの内容に思わず吹き出す。
「クソ……なんだね」
「クソ野郎だよ。女性はクソ淑女……? 」
「ふはっ……やめて、お腹痛い……」
「なに、腹痛? ナインナイいる? 」
「い……いらない」
呼吸困難になりそうなヴェルクレアは、手を横に振って胃薬の拒否をする。
魔物の肝臓を用いた強めの胃薬なのだが、常備薬に持っているのだろうか? と思ったら、じっと見てくるレティリアが首を振った。
「同僚用。仕事中によく胃が痛くなる人がいるの…………特に可愛い魔物の時はしのびないって泣くんだよね。優しいのも困りもの」
「ん? 魔物? 」
「……………………あー、あー、なんでもない」
口元で指でバッテンを作って黙秘する。
可愛い魔物解体で泣く同僚が胃を痛めるから、それ用とは言えない。
何故か可愛い魔物ばかりよこされる不憫な同僚である。
今日も今頃泣きながら捌いているのではないだろうか。
「魔物関係の仕事? 」
「…………ギルド員」
「あ、そういえばユリウスが言ってたなぁ。素材関係とかでも運ばれるからたまに見ちゃう感じなんだね」
「そんな感じ」
まったく違うが、そうしておこう。
頷いたレティリアに笑ったヴェルクレアは何度も頷いた。
思いの外話しやすく居心地がいい。
そう思っていると、巨大パフェがドン! とテーブルに乗った。
丸テーブルの真ん中にデデン! である。
「お待たせしました! デリシャルゴージャスパフェです!! 」
2人がかりで持ってきた店員は、ヴェルクレアを見ながら言う。
すぅ……と笑みが消えたレティリアは店員を見てからスプーンを握るが、まだ帰らない店員をもう一度見上げた。
「…………まだ用事ありますか? 」
「あ……あの! お名前をお聞きしても?! 」
別の店員が聞くと、肘を着いたヴェルクレアが笑顔を浮かべた。
「………………女性が同席してるのに、そんな事聞くのかい? 」
「えっ…………あの……」
「お仕事、したらどうかな? 」
ビクッ! と震えて慌てて離れて行った店員を見送りため息をつく。
「仕事しないでナンパかぁ……貴方も大変だね」
哀れに思い眼差しを向けながらパフェを食べ始める。
喧騒から離れられる2階ではあるが、冒険者や騎士に話しかけ、あわよくば恋仲に発展したいウエイトレスは沢山いる。
有名な白服を着るヴェルクレアを分かっていて話のきっかけに名前を聞いたのだろう。
「ごめんね、嫌な思いしたよね」
「私じゃなくて貴方でしょ? これがずっとなら疲れるだろうなぁ」
うんうん、と頷きながらも食べ続けるパフェ。
小皿があり、そこにケーキを乗せたレティリアは、食べる? と差し出すが、首を横に振られた。
「それは……そうだねぇ……こんな草臥れたおっさんを捕まえてよくやるよね」
苦笑するヴェルクレアを見てから首を傾げる
「草臥れたって……顔だけじゃない? 素敵な筋肉いっぱいついてる」
あむっ! と食べながらジッとヴェルクレアの体を見るレティリアに、筋肉かい? と腕を触ったヴェルクレアだった。
みるみるうちに、すごい速さで食べ尽くすパフェを前に、ヴェルクレアは苦笑する。
長く大きなスプーンに変えたレティリアは、立ち上がって巨大な器にスプーンを差し込んでいた。
上品に口の周りを汚すこと無く、ニコニコと食べるその姿に、思わず口についた。
「…………一体どこに入っているんだい? 」
ピタリと止まりヴェルクレアを見ると、ポコっと膨らんだお腹を撫でた。
「ちゃんと質量は蓄積されてるよ」
「蓄積!!」
その表現が面白くて笑いだしたヴェルクレアに、レティリアも笑う。
「食べ終わった。次は……」
「まだ入るんだ? 」
「入る ……お財布瀕死?」
「だから、そこじゃないんだなぁ~」
クスクスと笑うヴェルクレアはレティリアが注文するのを止めることなく笑って促すだけだった。
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