16 / 96
第1章
16話 街中でのエンカウント 2
しおりを挟むズラリと並ぶテーブルを全て覆い隠す程の料理に、周りの客が目を見開いている。
元々量の多い料理屋で冒険者や騎士の腹を満たす店だというのに 、そんな料理が所狭しと並んでいるのだ。
そのテーブルには有名な回復魔術師がいて、その前には一回りは違うだろう女性の姿。
ザワザワとしてしまうのも仕方ないだろう。
1階にいたら絡まれそうだ。
「美味しいかい?」
「………………うん」
スプーンでピラフを食べてから、フライドポテトを口にしたレティリアが頷いた。
パクパクと口を動かす姿は無表情ながら嬉しそうで笑ってしまう。
ユリウスから大食らいと聞いていたのだが、細く小さなレティリアの一体どこにおさまっているのだろうかと関心してしまう。
「いっぱい食べるねぇ 」
「……だめだった? 」
「いいや、全然。足りなかったらもっと頼んでいいよ」
言い切ったヴェルクレアに目を丸くする。
レティリアの食欲に驚き引き攣る人が多いのだ。
同じ解体員の高給取り以外、レティリアを奢る人はいないので、実はドキドキしていた。
「……財布、瀕死にならない?」
「ふは……大丈夫大丈夫。いっぱいお食べ」
「はぁい」
元気に挨拶して、本当に大丈夫かな? とチラチラ見ながら食事の皿を空にしていく。
その食べっぷりにヴェルクレアは常に笑みを浮かべていた。
「レティ、口に付いてるよ」
突然愛称で呼ばれ、指で自分の口をトンと叩き教えてくれるヴェルクレアに浮き足立ちそうな気分で口元を触るが見つけらない。
ヴェルクレアが伸び上がり、レティリアの口に触れた。
指先が唇に当たりポカンと見ると、変わらず笑っているヴェルクレアにレティリアは顔を赤らめる。
「…………あれ、ごめん嫌だったかな」
「…………おじさんこわい、こわい」
「こわい?!」
ガーン……と落ち込むヴェルクレアを見ながら、レティリアは赤らめた頬に手を当てていた。
「…………恥ずかしい」
「それは……ごめんね……いや、一緒に照れちゃうなぁ」
初めて会ったばかりとは思えない気さくな様子に思わず手を出して米粒を取ったが、そもそもそんな事をしたのはヴェルクレアも初めてで、少し戸惑っていた。
「ほら、食べよう?」
「……うん」
頷き食事を再開。
仕事中の騒がしい様子とは別人のようなレティリアだが、その食欲はどこまでも欲望に忠実だった。
「……それ、本当に頼むの?」
「駄目? お財布瀕死? 」
「いやいや! 瀕死じゃないけどね?! 食べれる? 」
「いける」
グッ! と右手を握りしめて言うレティリアが指さしてるのは、5人前は有るだろう巨大なパフェである。
まん丸金魚鉢みたいな可愛らしい器に、スポンジケーキ、アイス、生クリーム、果物が層になって、上には生クリームと果物、濃厚チョコケーキとチーズケーキ、ポッキーやチョコプレート、3角のサクサクビスケットが塔のように高くそびえている。
それを食後に満面の笑みで指さすのだ。
食べる量は6キロと戦々恐々していたら、何故か財布の心配をされた。
今の心配はそこじゃないよね? と首を横に振っている間に、レティリアは手を上げて店員を呼ぶ。
「すいません、このデリシャルゴージャスパフェと、カフェオレ。ヴェル……さんはどれ? 」
「ブラックコーヒーで」
「かしこまりましたー」
満面の笑みで注文を聞いた店員は、ヴェルクレアを見て顔を真っ赤にした。
ぽー……と見ている店員にレティリアは眉を寄せる。
「………………注文は? 」
「……………………はっ! 失礼しました! 」
慌てて頭を下げ、厨房にいった店員だったが、それからもチラチラと視線を集めている。
それは、他の店員も客もで、レティリアは嫌そうに顔を歪めた。
「…………仕事をサボる奴はクソだ」
「ぶふっ! 」
突然呟いたレティリアの内容に思わず吹き出す。
「クソ……なんだね」
「クソ野郎だよ。女性はクソ淑女……? 」
「ふはっ……やめて、お腹痛い……」
「なに、腹痛? ナインナイいる? 」
「い……いらない」
呼吸困難になりそうなヴェルクレアは、手を横に振って胃薬の拒否をする。
魔物の肝臓を用いた強めの胃薬なのだが、常備薬に持っているのだろうか? と思ったら、じっと見てくるレティリアが首を振った。
「同僚用。仕事中によく胃が痛くなる人がいるの…………特に可愛い魔物の時はしのびないって泣くんだよね。優しいのも困りもの」
「ん? 魔物? 」
「……………………あー、あー、なんでもない」
口元で指でバッテンを作って黙秘する。
可愛い魔物解体で泣く同僚が胃を痛めるから、それ用とは言えない。
何故か可愛い魔物ばかりよこされる不憫な同僚である。
今日も今頃泣きながら捌いているのではないだろうか。
「魔物関係の仕事? 」
「…………ギルド員」
「あ、そういえばユリウスが言ってたなぁ。素材関係とかでも運ばれるからたまに見ちゃう感じなんだね」
「そんな感じ」
まったく違うが、そうしておこう。
頷いたレティリアに笑ったヴェルクレアは何度も頷いた。
思いの外話しやすく居心地がいい。
そう思っていると、巨大パフェがドン! とテーブルに乗った。
丸テーブルの真ん中にデデン! である。
「お待たせしました! デリシャルゴージャスパフェです!! 」
2人がかりで持ってきた店員は、ヴェルクレアを見ながら言う。
すぅ……と笑みが消えたレティリアは店員を見てからスプーンを握るが、まだ帰らない店員をもう一度見上げた。
「…………まだ用事ありますか? 」
「あ……あの! お名前をお聞きしても?! 」
別の店員が聞くと、肘を着いたヴェルクレアが笑顔を浮かべた。
「………………女性が同席してるのに、そんな事聞くのかい? 」
「えっ…………あの……」
「お仕事、したらどうかな? 」
ビクッ! と震えて慌てて離れて行った店員を見送りため息をつく。
「仕事しないでナンパかぁ……貴方も大変だね」
哀れに思い眼差しを向けながらパフェを食べ始める。
喧騒から離れられる2階ではあるが、冒険者や騎士に話しかけ、あわよくば恋仲に発展したいウエイトレスは沢山いる。
有名な白服を着るヴェルクレアを分かっていて話のきっかけに名前を聞いたのだろう。
「ごめんね、嫌な思いしたよね」
「私じゃなくて貴方でしょ? これがずっとなら疲れるだろうなぁ」
うんうん、と頷きながらも食べ続けるパフェ。
小皿があり、そこにケーキを乗せたレティリアは、食べる? と差し出すが、首を横に振られた。
「それは……そうだねぇ……こんな草臥れたおっさんを捕まえてよくやるよね」
苦笑するヴェルクレアを見てから首を傾げる
「草臥れたって……顔だけじゃない? 素敵な筋肉いっぱいついてる」
あむっ! と食べながらジッとヴェルクレアの体を見るレティリアに、筋肉かい? と腕を触ったヴェルクレアだった。
みるみるうちに、すごい速さで食べ尽くすパフェを前に、ヴェルクレアは苦笑する。
長く大きなスプーンに変えたレティリアは、立ち上がって巨大な器にスプーンを差し込んでいた。
上品に口の周りを汚すこと無く、ニコニコと食べるその姿に、思わず口についた。
「…………一体どこに入っているんだい? 」
ピタリと止まりヴェルクレアを見ると、ポコっと膨らんだお腹を撫でた。
「ちゃんと質量は蓄積されてるよ」
「蓄積!!」
その表現が面白くて笑いだしたヴェルクレアに、レティリアも笑う。
「食べ終わった。次は……」
「まだ入るんだ? 」
「入る ……お財布瀕死?」
「だから、そこじゃないんだなぁ~」
クスクスと笑うヴェルクレアはレティリアが注文するのを止めることなく笑って促すだけだった。
142
あなたにおすすめの小説
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
砕けた愛
篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。
あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。
異世界で大往生した私、現代日本に帰還して中学生からやり直す。~最強の補助魔法で、冴えないおっさんと最強美女を操って大金持ちになります~
タカノ
ファンタジー
異世界へ転移し、聖女として崇められ、愛する家族に囲まれて88歳で大往生した……はずだった。 目が覚めると、そこは現代日本。 孤児の中学2年生、小金沢ヒナ(14)に戻っていた。
時間は1秒も進んでおらず、待っていたのは明日のご飯にも困る極貧生活。 けれど、ヒナの中身は酸いも甘いも噛み分けたおばあちゃん(88歳)のまま!
「もう一度、あの豊かで安らかな老後(スローライフ)を手に入れてみせる!」
ヒナは決意する。異世界で極めた国宝級の【補助魔法】と【回復魔法】をフル活用して、現代社会で大金を稼ぐことを。 ただし、魔法は自分自身には使えないし、中学生が目立つと色々面倒くさい。 そこでヒナがビジネスパートナー(手駒)に選んだのは――
公園で絶望していた「リストラされた冴えないおっさん」と、 借金取りに追われる「ワケあり最強美女」!?
おっさんを裏から魔法で強化して『カリスマ社長』に仕立て上げ、 美女をフルバフで『人間兵器』に変えてトラブルを物理的に粉砕。 表向きはニコニコ笑う美少女中学生、裏では彼らを操るフィクサー。
「さあ善さん、リオちゃん。稼ぎますよ。すべては私の平穏な老後のために!」
精神年齢おばあちゃんの少女が、金と魔法と年の功で無双する、痛快マネー・コメディ開幕!
王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする
葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。
そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった!
ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――?
意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる