18 / 122
第1章
18話 偶然のエンカウント
仕事が終わり、着替えをする。
作業着を脱ぎ捨て、私服のサロペットに足を入れた。
白のTシャツに、かぼちゃパンツのように膨らんでいるサロペット。
その上からグレーのおしりが隠れる長さのカーディガンを着て外に出ると、さっそくヒロインとのエンカウントを果たした。
「あ! レティさん!! お疲れ様です! 」
「………………………………」
望んでいない出会いにレティリアは仕事終わりの疲れ以上の疲労を感じた。
ぐったりとしていると、腕を取られて顔を覗き込まれる。
小さいレティリアだが、マリーウェザーはさらに身長が小さい。
「これからカイト達とご飯なんです! 一緒に行きましょう! 」
キラッキラの目で言われゲッソリとする。
残念ながら、今ここには2人以外誰もいないのだ。
「…………いや。私は帰るよ」
「えっ! どうしてですか? ワイワイ楽しいですよ? 」
心底驚いた様子のマリーウェザーに、断ったくらいでその反応……? とたじろぐ。
解体班にも良く食事に誘われ、気分で行く行かないを決めるが、断ったところであっさりとしているから思わぬ反応に目を丸くする。
[なんだよー、行かないのかよー!じゃあまたなー]
[レティの分も食うわー]
[いや、ぜってぇ食えねぇって]
ぎゃはは! と笑いながら手を振る仲間たちを思い出す。いつもはこんな感じで、たまにその日の夜お土産だと家に突撃されて食べ物を貰う時もある気さくなおじさんたちだ。
レティリアがいなくて食べきれない量が残り持ち帰りした時もあるのだが。
だから、断ってもこんなに粘る子は中々いない。
今も腕を掴み誘い続けている。激しく面倒。
「前はカイト達ともお話出来なかったじゃない? だから、今日はゆっくりお話出来ますよ! 沢山いる訳じゃないから!」
5人だけです!
胸を張って言うマリーウェザーに首を横に振る。
知らない人5人にマリーウェザー。死ぬ。
「いきましょー! この前会ったリオネルもいますよ!! 」
リオネル。
それは主人公の弟の名前だ。
性格が真逆の弟は、レティリアのリボンを大人しく受け取り、あれからリボンを愛用しているらしい。ユリウスからの情報だ。いらない。
行きたくない行きたくない……と首を振るが、ごねるマリーヴェザーにどんどんしんどくなってきた。諦めないコイツ……とカクリと頭を垂らした。
「………………わかった、行く」
「わぁ、やったー! 」
「…………お金下ろしていい? 」
「え?奢ってくれるよ? 」
「…………え、奢り前提……」
フワフワの頭は相変わらずフワフワだった。
引き攣る顔を必死に耐えて、マリーヴェザーにお金を降ろすと言い張った。
ちなみに、ヴェルクレアの時はちゃんと払おうとしたが、おじさんに見栄を張らせてよと笑って言われて引き下がったのだった。
親友の常識にはちゃんと銀行が存在した。
だから、この世界にも銀行と同じ組織があって、安全にお金や貴金属を預けられる。
銀行には地下に巨大通路があり、個人資産がしまわれている。
小さな部屋だったり、大きな部屋だったり様々なのだが、そこにレティリアも勿論預けている。
銀行窓口で受け取る事も出来るし、直接部屋にも行けるのだ。
管理目的で行くのは本人か子供の場合は親のみである。
レティリアは窓口でお金を貰いそれを財布に入れると、その金額にマリーウェザーは目をむいた。
新人ギルド員の3ヶ月分程の給料だ。
これでもレティリアは勤続年数が長く、特S級も捌ける解体班の中でもかなりの高給取りである。
インセンティブだけでギルド職員平均二ヶ月分をひと月で稼ぐ。
その他に給料、特A級S級解体のボーナスと年2回の通常ボーナスが付くので大食いレティリアでも使い切れない程の貯蓄が出来ていた。
さらに定期的に義兄ユリシスからの入金もある。
あちらも言わずもがな高給取りである。
ご飯をたらふく食べるレティリアが空腹にならないようにとの事だが、銀行の部屋はもういっぱいだ。
「…………え、凄いお金」
「ご飯食べるから」
「えっ……私も持って行った方がいいかな……」
恐る恐る銀行からお金を下ろすマリーウェザー。
勿論常識的な金額である。
しかし、先程のレティリアを見ているから不安そうだ。
マリーウェザーと数回昼食を食べていて、山のようなサンドイッチを食べているのにマリーウェザーは見ていないのか大食いに気付いていない。
ちなみに、サンドイッチは昼食時間に間に合う為の食べやすさからで、仕事終わりには空腹で死にそうになっている。
だから、今も空腹なのだ。お腹がキュルキュルと鳴いた。
「お腹すいたよね、早く行こう」
お財布を鞄にしまって中央広場へと向かったふたりは、端の方で立っている5人の男性を見つけた。
そのうちの2人は良く似た顔をしている。
片方は短髪で、片方はセミロング。
どちらもフワフワしているが、カイトは髪を撫でつけて騎士らしくセットしている。
リオネルティールはあの日あげた茶色のリボンで緩く結んでいるようだ。
他にも騎士がいて、5人で賑やかに話をしていた。
「あの5人、特に仲良しなの」
「………………そうなんだね」
よく男5人の中に女1人で飛び込めるものだと関心する。
近付きいつもならカイトの名前を大声で呼ぶのだろうマリーウェザーが手を上げようとした時、レティリアが気付いて腕を掴んだ。
「外だから大声はやめて」
「え? そっか、ごめんね」
顔を赤らめて慌てるマリーウェザーは、教えてくれてありがとう……と呟いた。
「カイト、皆お待たせ」
「マリー!!…… と、君はこの間の」
カイトの顔が見てわかるくらいに明るくなったが、レティリアを見てから眉を寄せる。
女友達にはマリーウェザーがべったり引っ付くからカイト的には注意している事だった。
「仕事終わりに会ったから誘ったの! 皆で食べに行こう! 」
「………………そうだね」
チラッとレティリアを見てからマリーウェザーを見るカイトは目尻を下げて笑った。
「この間来てた子だよね、よろしく!おれツィード 」
「回復術師のマティスです」
「なぁなぁ、なんで肩車してんの? 」
いきなり話しかけられて困惑したレティリアは、小さく頭を下げてから1歩後ろに下がった。
あれ? と首を傾げる男性陣、マリーヴェザーはレティリアに近づき聞いた。
随分と顔を歪ませてびっくりしている。
「どうしたの?!」
「人いっぱい、死ぬ」
「あっ……ごめんね! いきなりほぼ初対面5人は多かった?!」
「ガツガツ来るとぶっ飛ばしたくなる」
「……回復術師いるから安心かな? 」
「………………安心するところそこ? 」
首を傾げあい、まったり話すふたりを周りは見ていた。
真逆なタイプのレティリアとマリーヴェザー。
ちゃんと話を聞くなら会話は問題ないのだ。
ただ、めんどくさいだけで。
挨拶をしてからさっそくご飯となったレティリアたち。
お店に入るのではなく屋台にある料理や飲み物を自由に買って食べると決まり、まずは場所取りをしようとパラソルのある席を指さすカイト。
レティリアがチラリと見たのはその場所ではなく店にほど近い場所取りだった。
「……向こうがいいの? 」
「お店もゴミ箱も近いから」
「……なるほどね?」
たまたまその視線に気付いたリオネルが聞いてきた。
ゴミ箱? と首を傾げながらも頷いたが、すでに指さしていたパラソルの場所に座っているマリーウェザーを見てレティリアは歩き出した。
食べれるかなぁ……と思いながら。
ちなみに、解体班でレティリア参加の時は最初から店に近い場所でゴミ箱を店側から借りてくる。
店側もレティリアを見てにこやかに直ぐに貸してくれる。顔パスである。
「何食べますか? 」
「好きなの端から順番に」
「えー? 食べきれませんよー」
ニコニコと聞いてきたから素直に答えると、笑って流されてしまった。ちゃんと答えたのにな……。
「レティリアさんお酒は飲めます?」
「ごめんなさい、飲めません」
「じゃあ、ジュースかな」
「……………………お水で」
「え? 水?」
フレンドリーに話しかけてくる騎士たちに小さな声で返事をする。
水と言ったレティリアに、え? いいの? といった反応で、居心地が悪いと落ち着かない。
そんなレティリアの前にコトリと水が並々入ったコップが現れた。
ふわりと風が吹き茶色のリボンが揺れている。
「あ、良く水って分かったなリオネル」
「たしかユリウス副隊長が前言ってたから」
「……………………リオネルが女に優しい」
目を見開きリオネルを見る仲間たち。レティリアは黙って見るだけにしたが、ユリウスに後で問い詰めようと決意する。妹の情報をなぜ垂れ流すのだ。
「………………凄い目で見られてる」
結局女性ふたりはパラソルに残り、リオネル達が料理を取りに行く事になった。
レティリアは空腹の為、何を食べたいとか食事を思い浮かべていると、マリーウェザーが見てくる。
「…………なに」
「ユリウス副隊長が職場で話題に出すくらい仲がいいのね」
「……まぁね、仲はいいかな」
「いいなぁぁ、羨ましい! 」
テーブルに頭を乗せ足をバタバタとさせるマリーヴェザーを見つめた。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
空港清掃員58歳、転生先の王宮でも床を磨いたら双子に懐かれ、国王に溺愛される
木風
恋愛
羽田空港で十五年、黙々と床を磨いてきた清掃員・田中幸子(58)は事故死し、没落寸前の子爵令嬢エルシアとして転生する。
婚約破棄の末に家を追われた彼女が選んだのは、王宮の清掃員――前世の技で空気まで変わるほど磨き上げていく仕事だった。
やがて母を亡くした双子王子王女に懐かれ、荒れた執務室の主である喪中の国王とも距離が縮まり……。
「泣くなら俺の胸で」――床も心も磨き直す、清掃令嬢の溺愛成り上がり。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした
こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】
伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。
しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。
そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。
運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた――
けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった――
※「小説家になろう」にも投稿しています。
「妾の子だから」と呑気に構えていたら、次期公爵に選ばれました
木山楽斗
恋愛
父親であるオルガント公爵が大病を患った、その知らせを聞いた妾の子のヘレーナは、いい気味であるとさえ思っていた。
自分と母を捨てた父のことなど、彼女にとっては忌むべき存在でしかなかったのだ。ただ同時にヘレーナは、多くの子がいるオルガント公爵家で後継者争いが起こることを予感していた。
ただヘレーナは、それは自分には関係がないことだと思っていた。
そもそも興味もなかったし、妾の子の中でも特に存在感もない自分にはそんな話も回ってこないだろうと考えていたのだ。
他の兄弟達も、わざわざ自分に声をかけることもない。そう考えていたヘレーナは、後継者争いを気にせず暮らすことにした。
しかしヘレーナは、オルガント公爵家の次期当主として据えられることになった。
彼の兄姉、その他兄弟達が彼女を祭り上げたのだ。
ヘレーナはそれに困惑していた。何故自分が、そう思いながらも彼女は次期当主として務めることになったのだった。
※タイトルを変更しました(旧題:「どうせ私は妾の子だから」と呑気にしていたら、何故か公爵家次期当主として据えられることになりました。)
平凡な令嬢と平凡じゃない友人たち
ぺきぺき
恋愛
身分問わず優秀な学生が通う、王立学園。その中で目立たない茶髪にハシバミ色の瞳を持ち、真ん中よりちょっと下くらいの成績の、平凡な伯爵令嬢であるはずのセイディ・ヘインズはなぜか学園の人気者たちに囲まれて平凡ではない学園生活を送っていた。
ーーーー
(当社比)平凡なヒロインと平凡じゃない友人たちが織り成す恋愛群像劇を目指しました。
カップル大量投入でじれもだラブラブしてます。お気に召すカップルがいれば幸いです。
完結まで執筆済み。
一日三話更新。4/16完結予定。