『魔物解体と奢られ飯』 今日も回復術師のおっさんに奢られる。

くみたろう

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第1章

27話 出張解体ショー 3

下で毒袋の処理を終わらせている間、上ではまだ終わらないと見ている人たちがざわついていた。
 行ったのがまだ若い、細く小さな女だったから、できないのではないかと騒がしいのだ。

 そんな時、糸を求めて解体班の先輩が降りてくる。

「ギィ! レティはどうした? 時間かかってるな」

 それは第2、第3師団や回復術師も聞いていた。
 もちろん、そこにはあの図書館員を罵倒したランディもいる。
 無理だろう……と内心思っていたのだが、その会話に目を見開いた。

「喉の毒袋がすでに破裂、さらに巾着型で今縫い終わった。
ただ……破裂がかなり酷くてあて布がいるから、今から皮をはぐって」

「はぐったって……両腕首に突っ込んでるだろう」

「だから、上でレティを支えてる回復術師の人が皮側を手伝うって……
あと、毒が体内にかなり回っててレティの両腕が燃えてただれてる。だいぶ震えがきてるから……早くしねぇと溶ける」

「………………なんだと」

 全員の顔が険しくなる。
 その場にいる騎士団や回復術師たちがすぐに上を見るが、回復術を使っている様子が見られない。
 回復するなら独特の光を放つからだ。

「ヴェルクレアがいるはずだが」

 アレクセイが呟く。
 ヴェルクレアがいて何もしないはずがないと。
 だが、解体班は首を横に振った。

「無理だ。毒が出ないように腕を突っ込んで抑えてるだろうから、手を離して出せない。できたとしてもレティならしない」

「自分の腕の状態は自分でもわかるだろうから……だがな……レティだし」

「とりあえず、糸届ける」

「あっ! 溶けてんでしょ?! 手袋持っていって!」

 女性解体員が自分がしていた手袋を外して投げ渡す。
 受け取り、糸を持ってすぐにジャンプして上がっていった。

「…………解体って……大変なんだな……」

「あんなでけぇの細かく切るんだ……そりゃ……大変だよな……」

「てか、あの人でB級なんだろ。それであの身体能力か……S級とか化け物だろ」

「…………あの子、B級でできない魔物解体ができるってことはA級以上だよな」

「…………姿がここからじゃ見えないが……女だって言ってたよな」

 あっという間に魔物の喉元に行ったレティリアをちゃんと見ている人は少ないし、後から来た人たちは最初性別すら知らなかった。
 ただ、レティリアの名前がちらちら出たから、解体でも有名なレティリアなんじゃないかと全員が注視していた。

 そして、走り寄るギルドの受付嬢たち。
 魔物の書類関係に受付嬢たちは欠かせない。
 そこにはマリーウェザーもいて、彼女を含めた新人たちは緊急時の動きを知る見学として参加している。
 状況は分からないが、普段解体現場に来ることのない彼女たちは顔を青ざめ、ガタガタと震えていた。
 それほど、魔物への衝撃が強すぎたのだ。
 それに比べて、ベテランたちは落ち着き、数十枚ある書類をバインダーに挟んで確認をしている。

「…………見たことない種類の魔物ね。誰か説明できそう?」

 ギルド受付嬢の1人が聞くと、解体班も微妙な反応をしている。
 レティリアが先導していると言うと、頷いて書類に何かを書いていた。

「…………あ、あの……何をすれば……」

「見てるだけでいいわ。今はゆっくり教える時間はないから」

「……そ、そうなんですか」

 マリーウェザーがちらりと書類を見ると「別の地方の魔物の可能性大」と書かれていて悪寒が走った。

 誘導して市民を遠ざけた第二師団は、そのまま市民を抑えながら魔物を見ていた。
 毒がばら撒かれるかもしれないと言われて、本当は恐怖で逃げたい人がたくさんいる。
 街中の治安維持を中心にしていて、巡回もそれほど大変ではない第二師団。
 市民と話をしながら笑みを浮かべ、時には犯罪者を捕まえる騎士団が、今は滅多に見ない魔物を前にしている。

 何かをするわけじゃないし距離もあるが、続々と集まるギルド職員や第3騎士団に回復術師を見て、今はヤバい状況なんじゃないかと震え上がっていた。
 そんな時に聞こえた毒袋の状態と、腕を怪我してまで除去にあたる解体員の話。
 それを聞いたら怖くても逃げ出せないと震える足に力を入れた。

 実際に女性が多いギルド受付嬢たちが自分たちよりもずっと魔物に近い位置で仕事をしているのだ。
 逃げ出したいなんて、腑抜けたことは言えないと奥歯を噛みしめて必死に立った。

「ここを切り取る。大体これくらい」

「結構大きいね」

「毒袋が派手に破裂してるから」

 ナイフをベルトから外して、足場の悪い場所で踏ん張ると、ヴェルクレアが場所を移動してレティリアを支える手を一度離した。
 そして、首の皮膚を触る前に右腕の負傷を治療した。

「…………あ」

「切るにしても、怪我は治そうか」

「……ありがとう……」

 ナイフを握る手の怪我が一気に治癒した。
 毒は様々な症状を引き起こす。
 ブルブルと震える手だが痛みはあり、重度のやけどのような症状だったのが一気に治せるのは、回復術師でも難しい。
 それをあっという間に治したヴェルクレアをポカンと見ると、切ろうかと促されて無意識に頷いた。

「……えっと、じゃあナイフを入れると皮膚がぐにゃっとするから、しっかり抑えててほしい。このタイプの皮は引っ張って切ると伸びて形状記憶するから貼り付けるのに適してる。ちぎれないくらいの力で皮が緩まないように抑えて」

「了解」

 ナイフを持つ位置を変えて、指先でグッ……と皮膚を押す。
 弾力と硬さを確認してからナイフを45度で当てた。

「切る」

「はいよ」

 一気にスパッと線を引くように切る。
 それにヴェルクレアが目を見開いた。
 次、と向きを変えてナイフを入れてヴェルクレアを見ると、抑える位置を変える。
 コの形になるまで真っ直ぐ切り込みを入れてからナイフを横に寝かせて皮と肉ギリギリにナイフを差し入れて一気に引き剥がした。

「…………はっ……凄いな」

「…………だめ、片手が使えないからバランス取りにくい。肉片ついた」

 眉をひそめてそう言い、ヴェルクレアに一番近い位置側の皮を切るために身を乗り出した。
 足場が悪く安定していないのでヴェルクレアが支えると、半身乗り出した状態で皮を断ち切る。

 ちょうどギィが糸を持ってくる。
 ナイフをしまって糸を受け取るレティリアの怪我のない腕に目を見開いていた。

「ケガは……」

「治してもらった……すぐ縫うね」

 切ったばかりの皮をなめすこともしないまま、首の中に入れて毒袋に貼り付けた。
 すぐに針と糸を使い縫い付けていく。
 1度治った腕も、また毒で負傷するが巾着の上部分を縫った時よりずっといい。
 急いで、だが丁寧に縫い終わり皮膚に着いている毒袋を切り離すと、溢れ出す毒は止まり、破裂の危険もなくなった。

「…………はぁ。取れた」

 ふぅ……と息を吐き出すと、ギィが「麻袋っ!」と声を上げて下に取りに行った。
 まだ喉の奥で毒袋を持ったまま待機していると、心配そうにレティリアを見た。

「腕は出さないのかい? 早く治療をしないと」

「麻袋が先……もし縫いきれてなかったら毒が漏れちゃうから」

「……なるほど……レティ、君が解体部署の有名なレティリアだったんだねぇ。男かと思ってたが、いやぁ、おじさん騙されたね」

「騙したわけじゃ……」

「うん、わかってる」

 労わるように頭を撫でられたレティは、自分よりも10歳以上年上の男を仰ぎ見た。
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