23 / 29
23
しおりを挟む「…………………………」
「ミ……ミラ?どうしたの?」
「亜梨子が写真撮ってる……」
隣のクラスの女子が地団駄を踏んでいるミラージュに声を掛けると、恨みがましく呟いた。
女子はえ?と振り返りミラージュの視線の先を探すと写真を撮っている亜梨子達の姿。
「あ……と、ミラの彼女?」
「そう」
「………………そ……っか」
しょんぼりしたその女子に視線を向けることなく亜梨子を見ていると、ミラージュの隣に来た桃葉が腕をパシパシと叩いてきた。
「ミラ君!亜梨子ちゃんが写真ンンン!!桃も撮りたいよぉぉ!!」
「桃葉はまだいいじゃん!第1走者でしょ!?俺4番目!最後!!」
「ミラ君残念!桃は先に亜梨子ちゃんと写真撮るぅ」
「羨ましい!それ言いに来たの!?桃葉ズルい!」
「……………………その為には地獄を乗り越えようね、ミラ君」
「……………………うん」
一気に落ち込む2人に女子はアワアワと見ていた。
並ぶように号令が掛けられ、桃葉は1番前に並ぶと先程の女子が桃葉の隣に立った。
「…………あの、橘さん」
「あ、誠君と同じクラスの子だねぇ、なぁに?」
「ミラの彼女って……えっと……」
「亜梨子ちゃん?がどうしたの?」
「どんな子ですか!?」
「…………え、どんな子って……」
[位置について]
頑張って話しかけたが第1走者の為直ぐにスタートである。
2人は一緒にスタート地点に立った。
「…………が、頑張ろうねぇ」
「う、うん…………」
この競技だけは、ライバルである相手とも激励し合う唯一の種目であった。
[パァァァァン]
響くピストルの音に合わせて走り出した。
小さな体に似合わぬたゆんと揺れるそれを惜しげも無く晒しながら走る桃葉は、沢山ある紙の中から1枚を取り、深呼吸したあと開いた。
「………………うううぅぅぅ」
小さく唸り紙をくしゃりと握ってから走り出した桃葉は副担任へと真っ直ぐ向かうと、副担任もビクリと体を揺らして身構えた。
「…………せんせえぇ…………」
「……た、たちばな……」
借り物競争は勿論先生も含まれている。
しかもこの借り物競争は1つではなく複数なのだ。
「……先生のぉ……その髪をくださぁい!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!離せ橘ぁぁぁ!!」
「ごめんなさぁい!」
飛び掛った桃葉は背の低い副担任の頭に手を伸ばして指先に触れた前髪を上手く掴んだ。
それを引っ張りゲットしたカツラを握り締めまた次のターゲットへと向かう。
残された座り込む副担任は心を抉られ俯くものだから、その残念な頭を全員に晒していた。
次に向かったのも教師だった。
まさかの体育祭で体のラインが見えるスーツを着て白衣を羽織り、ブランドのパンプスを履く保健の先生である。
かっこいい男子生徒をくまなくチェックするのが趣味であわよくば卒業後に付き合ってくれる男子募集中の結婚願望の強い28歳。
「鈴木先生ぇごめんなさぁい」
「やだ、借り物競争でこっち来ないで橘さん!」
「貸してくださぁい、パンプス!!」
「いやよ!出たばかりの新色なのよ!?」
「だからですぅ!」
桃葉の紙にはカツラとブランドのパンプス、そして
「…………嫌だけど嫌だけど、田中玲美……一緒に来てぇ」
「え?私ですか?」
腕を引っ張られてよろけながらも着いていく田中玲美だったが、他にも連れていかれそうな生徒が必死に抵抗している。
「嫌だァ!離せぇ!!」
「来てよ!ほらぁ!!」
そんな様子を田中玲美は心配そうに見ている
「な、なんであんなに必死なんですか?」
「…………この借り物競争を誰もやりたがらない理由だよぉ……田中さんもね、来年になったらああなるよぉ」
[ゴーール!!!さぁ、1位の人は借り物を言ってください!!]
「…………カツラとブランドのパンプスと…………」
マイクを向けられ話している桃葉。
競技に出ている選手すら動きを止めて固唾を呑んでいる。
「今1番嫌いな人ぉぉぉ!理由は彼氏に付き纏って大変だったからぁ!今は友達の彼氏に付きまとって迷惑でぇす!!」
「んなっ!?」
[はーい!ありがとうございましたー!!]
ワナワナと震えている田中玲美に桃葉は顔を上げて言った。
「毎年恒例の借り物競争は内容が酷いのぉ……複数の借り物と最後はお題にあった人を連れてきてその理由を話すのよぉ」
はぁ、終わった終わった、と得点が加算されたのを見た後桃葉は亜梨子たちの所に戻って行った。
放置された田中玲美は呆然としている。
その後あの桃葉の隣にいた女子もゴールしていた。
男子が一緒に来ていて、震えながら見ているが、やはりお題は酷いものだった。
「……………………見た目マザコンに見える男子……です」
「うわぁぁぁぁん!!ママー!!」
男子は、言われた言葉にハッ!として、逆に乗ることにしたのか笑顔でクネクネしながらママー!と叫んだ。
笑いを取った男子はホッとしたように笑い、女子はペコペコと頭を下げている。
「…………い、嫌な競技……」
初めて見る1年は戦慄し、体を寄せ合いう。
出場者には勿論1年もいるから誰が借り物で呼ばれるか戦々恐々としていた。
毎年恒例の好きな人(告白)があり、異様な盛り上がりを見せる時もあるのだ。
「亜梨子ちゃーん!!」
桃葉が帰ってきた。
両手を広げて亜梨子に抱き着く桃葉に皆でお疲れ様と伝えた。
本当にお疲れ様なのだ。
「桃、好きな人とかのが方が良かったよぉ……それなら誠君と行けたのになぁ」
「嫌いな人だったな」
「ねぇ……亜梨子ちゃん桃とも写真!」
「はい、わかりました」
すぐに撮影を始めた桃葉はご機嫌で数枚撮り、待ち受けにしよー!と喜んでいる。
スマホを触れる時間は限られていて、仮装リレー終わりのこの時間や、昼休みくらいしかない。
桃葉がキャッキャと写真を撮っていると後ろから桃葉の隣にいた女子が近付いてきた。
「……あの、金剛さん」
「はい」
「と、隣のクラスの加瀬部と言います!ミラと付き合ってるのは本当ですか!?」
「…………またですか。なんなのですか、他人の恋愛に首を突っ込みたいのですか。暇人ですか」
加瀬部が聞いた瞬間、さっきまで微笑んでいた亜梨子からストンと表情が消えた。
目からも光が消えて機嫌がまた悪くなる。
郁美があー……と言いながら加瀬部に近付いていった。
「……あーのさ、ごめんね亜梨子ピリピリしてるの。ずーっと引切りなしに人が来てミラとの事聞いてくるから。結構嫌な事言う人も居るから」
「まぁ、金剛は全部言い返してるがな」
「キツく聞こえるけど、普段はいい子なんだよ」
あははは……と郁美がとって付けたみたいに言うと、その女子は「そう、なんだ」と呟いた。
「…………私みたいに聞きに来る子いるんだね」
「15人過ぎた頃から数えるの辞めました……それで、何の用でしょう…………」
ため息を吐き出しながらも用事を聞いた時だった。
魔法使いな亜梨子をにっこにこの笑顔で捕まえるミラージュ。もう片方の手が紙をヒラヒラさせていた。
「……………………離しなさい」
「ごめんね、借り物は亜梨子みたい」
「やめなさい!!」
「ごめんね、大好き」
「騙されませんよ!!」
抱き上げられて笑いながら走るミラージュに一斉に悲鳴が上がった。
しかもその相手が今話題の亜梨子なのだ。
ミラージュの頬を力一杯押すが、笑うミラージュはあっという間にゴールしてしまった。
[では、借り物をどうぞ!!]
「えっと……色つきリップと男子用ジャージのズボン」
2年の男子で短パンの生徒がいやーん!をしているのを周囲が笑っていた。
「最後は無人島に一緒に流れてしまった人は誰?…………亜梨子がいないと俺死んじゃうから」
「「「「「ぎゃあああああああああ!!」」」」」
「「いやぁぁぁ!!」」
阿鼻叫喚の中、無表情で亜梨子は力一杯ミラージュの足を踏んだ。
いっ…………!と声を上げてはいるが、亜梨子の掴んだ手を話そうとはしない。
「なぜわざわざ目立つ事をするんです」
「だって、亜梨子と一緒がいいでしょ?たとえ無人島だって。側にいて触れていたいって言ったじゃないか。…………拒否したら閉じ込めちゃうよ?」
「離しなさい変態」
「わっ!ごめんってばー!」
サクサクと桃葉や万里のいる場所に戻ってきたミラージュと亜梨子。
亜梨子は先に魔法使いの衣装を脱いだため、結局魔法使い亜梨子との撮影会が出来ず落ち込みながら戻って来た。
「まさか無人島で一緒にいる人とはな」
「東屋君を選びなさい」
「えぇ、万里ぃ?やだぁ」
「嫌だとはなんだよ、嫌だとは」
笑いながら話をする亜梨子とミラージュ、そしてその友達達をみてまだ此処に残っていた女子はそっと離れて行った。
11
あなたにおすすめの小説
『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします
卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。
ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。
泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。
「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」
グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。
敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。
二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。
これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。
(ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中)
もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!
私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」
帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。
混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。
ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。
これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語
【完結】薬屋たぬきの恩返し~命を救われた子狸は、茅葺屋根の家で竜と愛を育む~
ジュレヌク
恋愛
たぬき獣人であるオタケは、生贄にされそうになった所を、冒険者のリンドヴルムに助けられる。
彼は、竜人族最強を目指すため、世界中を巡り自分より強い竜を探し求めていた。
しかし、敵を倒してしまった彼は、家族を亡くした上に仲間に生贄にされた彼女を置いていくことができず、母国に連れ帰ることにする。
そこでオタケは、夜行性であることと、母より受け継いだ薬草の知識があることから、「茅葺き屋根の家」を建てて深夜営業の「薬屋たぬき」を営み始める。
日中は気づくものがいないほど目立たない店だが、夕闇と共に提灯を灯せば、客が一人、また一人と訪れた。
怪我の多い冒険者などは、可愛い看板娘兼薬師のオタケを見ようと、嬉々として暖簾をくぐる。
彼女の身元引受人になったリンドヴルムも、勿論薬屋の上顧客になり、皆に冷やかされながらも足繁く通うようになった。
オタケは、教会が行う「ヒール」に似た「てあて」と言う名の治癒魔法が使えることもあり、夜間の治療院代わりも担う。
特に怪我の多いリンドヴルムに対しては、助けてもらった恩義と密かな恋心があるからか、常に献身的だ。
周りの者達は、奥手な二人の恋模様を、焦れったい思いで見守っていた。
そんなある日、リンドヴルムは、街で時々起こる「イタズラ」を調査することになる。
そして、夜中の巡回に出かけた彼が見たのは、様々な生き物に姿を変えるオタケ。
どうやら、彼女は、ただの『たぬき獣人』ではないらしい……。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
悪役令嬢の役割は終えました(別視点)
月椿
恋愛
この作品は「悪役令嬢の役割は終えました」のヴォルフ視点のお話になります。
本編を読んでない方にはネタバレになりますので、ご注意下さい。
母親が亡くなった日、ヴォルフは一人の騎士に保護された。
そこから、ヴォルフの日常は変わっていく。
これは保護してくれた人の背に憧れて騎士となったヴォルフと、悪役令嬢の役割を終えた彼女とのお話。
『生きた骨董品』と婚約破棄されたので、世界最高の魔導ドレスでざまぁします。私を捨てた元婚約者が後悔しても、隣には天才公爵様がいますので!
aozora
恋愛
『時代遅れの飾り人形』――。
そう罵られ、公衆の面前でエリート婚約者に婚約を破棄された子爵令嬢セラフィナ。家からも見放され、全てを失った彼女には、しかし誰にも知られていない秘密の顔があった。
それは、世界の常識すら書き換える、禁断の魔導技術《エーテル織演算》を操る天才技術者としての顔。
淑女の仮面を捨て、一人の職人として再起を誓った彼女の前に現れたのは、革新派を率いる『冷徹公爵』セバスチャン。彼は、誰もが気づかなかった彼女の才能にいち早く価値を見出し、その最大の理解者となる。
古いしがらみが支配する王都で、二人は小さなアトリエから、やがて王国の流行と常識を覆す壮大な革命を巻き起こしていく。
知性と技術だけを武器に、彼女を奈落に突き落とした者たちへ、最も華麗で痛快な復讐を果たすことはできるのか。
これは、絶望の淵から這い上がった天才令嬢が、運命のパートナーと共に自らの手で輝かしい未来を掴む、愛と革命の物語。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
これで、私も自由になれます
たくわん
恋愛
社交界で「地味で会話がつまらない」と評判のエリザベート・フォン・リヒテンシュタイン。婚約者である公爵家の長男アレクサンダーから、舞踏会の場で突然婚約破棄を告げられる。理由は「華やかで魅力的な」子爵令嬢ソフィアとの恋。エリザベートは静かに受け入れ、社交界の噂話の的になる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる