[完結]古の呪いと祝福を送る魔女の口付け

くみたろう

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「…………………………」

「ミ……ミラ?どうしたの?」

「亜梨子が写真撮ってる……」
 
 隣のクラスの女子が地団駄を踏んでいるミラージュに声を掛けると、恨みがましく呟いた。
 女子はえ?と振り返りミラージュの視線の先を探すと写真を撮っている亜梨子達の姿。

「あ……と、ミラの彼女?」

「そう」

「………………そ……っか」

 しょんぼりしたその女子に視線を向けることなく亜梨子を見ていると、ミラージュの隣に来た桃葉が腕をパシパシと叩いてきた。

「ミラ君!亜梨子ちゃんが写真ンンン!!桃も撮りたいよぉぉ!!」

「桃葉はまだいいじゃん!第1走者でしょ!?俺4番目!最後!!」

「ミラ君残念!桃は先に亜梨子ちゃんと写真撮るぅ」

「羨ましい!それ言いに来たの!?桃葉ズルい!」

「……………………その為には地獄を乗り越えようね、ミラ君」

「……………………うん」

 一気に落ち込む2人に女子はアワアワと見ていた。

 並ぶように号令が掛けられ、桃葉は1番前に並ぶと先程の女子が桃葉の隣に立った。

「…………あの、橘さん」

「あ、誠君と同じクラスの子だねぇ、なぁに?」

「ミラの彼女って……えっと……」

「亜梨子ちゃん?がどうしたの?」

「どんな子ですか!?」

「…………え、どんな子って……」

 [位置について]

 頑張って話しかけたが第1走者の為直ぐにスタートである。
 2人は一緒にスタート地点に立った。

「…………が、頑張ろうねぇ」

「う、うん…………」

 この競技だけは、ライバルである相手とも激励し合う唯一の種目であった。



 [パァァァァン]

 響くピストルの音に合わせて走り出した。
 小さな体に似合わぬたゆんと揺れるそれを惜しげも無く晒しながら走る桃葉は、沢山ある紙の中から1枚を取り、深呼吸したあと開いた。

「………………うううぅぅぅ」

 小さく唸り紙をくしゃりと握ってから走り出した桃葉は副担任へと真っ直ぐ向かうと、副担任もビクリと体を揺らして身構えた。

「…………せんせえぇ…………」

「……た、たちばな……」

 借り物競争は勿論先生も含まれている。
 しかもこの借り物競争は1つではなく複数なのだ。

「……先生のぉ……その髪をくださぁい!!」

「うわぁぁぁぁぁ!!離せ橘ぁぁぁ!!」

「ごめんなさぁい!」
 
 飛び掛った桃葉は背の低い副担任の頭に手を伸ばして指先に触れた前髪を上手く掴んだ。
 それを引っ張りゲットしたカツラを握り締めまた次のターゲットへと向かう。
 残された座り込む副担任は心を抉られ俯くものだから、その残念な頭を全員に晒していた。

 次に向かったのも教師だった。
 まさかの体育祭で体のラインが見えるスーツを着て白衣を羽織り、ブランドのパンプスを履く保健の先生である。
 かっこいい男子生徒をくまなくチェックするのが趣味であわよくば卒業後に付き合ってくれる男子募集中の結婚願望の強い28歳。

「鈴木先生ぇごめんなさぁい」

「やだ、借り物競争でこっち来ないで橘さん!」

「貸してくださぁい、パンプス!!」

「いやよ!出たばかりの新色なのよ!?」

「だからですぅ!」

 桃葉の紙にはカツラとブランドのパンプス、そして

「…………嫌だけど嫌だけど、田中玲美……一緒に来てぇ」

「え?私ですか?」

 腕を引っ張られてよろけながらも着いていく田中玲美だったが、他にも連れていかれそうな生徒が必死に抵抗している。

「嫌だァ!離せぇ!!」
  
「来てよ!ほらぁ!!」

 そんな様子を田中玲美は心配そうに見ている

「な、なんであんなに必死なんですか?」

「…………この借り物競争を誰もやりたがらない理由だよぉ……田中さんもね、来年になったらああなるよぉ」
  

 [ゴーール!!!さぁ、1位の人は借り物を言ってください!!]

「…………カツラとブランドのパンプスと…………」

 マイクを向けられ話している桃葉。
 競技に出ている選手すら動きを止めて固唾を呑んでいる。

「今1番嫌いな人ぉぉぉ!理由は彼氏に付き纏って大変だったからぁ!今は友達の彼氏に付きまとって迷惑でぇす!!」

「んなっ!?」

 [はーい!ありがとうございましたー!!]

 ワナワナと震えている田中玲美に桃葉は顔を上げて言った。

「毎年恒例の借り物競争は内容が酷いのぉ……複数の借り物と最後はお題にあった人を連れてきてその理由を話すのよぉ」

 はぁ、終わった終わった、と得点が加算されたのを見た後桃葉は亜梨子たちの所に戻って行った。
 放置された田中玲美は呆然としている。
 その後あの桃葉の隣にいた女子もゴールしていた。
 男子が一緒に来ていて、震えながら見ているが、やはりお題は酷いものだった。

「……………………見た目マザコンに見える男子……です」

「うわぁぁぁぁん!!ママー!!」

 男子は、言われた言葉にハッ!として、逆に乗ることにしたのか笑顔でクネクネしながらママー!と叫んだ。
 笑いを取った男子はホッとしたように笑い、女子はペコペコと頭を下げている。

「…………い、嫌な競技……」

 初めて見る1年は戦慄し、体を寄せ合いう。
 出場者には勿論1年もいるから誰が借り物で呼ばれるか戦々恐々としていた。
 毎年恒例の好きな人(告白)があり、異様な盛り上がりを見せる時もあるのだ。

「亜梨子ちゃーん!!」

 桃葉が帰ってきた。
 両手を広げて亜梨子に抱き着く桃葉に皆でお疲れ様と伝えた。
 本当にお疲れ様なのだ。

「桃、好きな人とかのが方が良かったよぉ……それなら誠君と行けたのになぁ」 

「嫌いな人だったな」

「ねぇ……亜梨子ちゃん桃とも写真!」

「はい、わかりました」

 すぐに撮影を始めた桃葉はご機嫌で数枚撮り、待ち受けにしよー!と喜んでいる。
 スマホを触れる時間は限られていて、仮装リレー終わりのこの時間や、昼休みくらいしかない。
 桃葉がキャッキャと写真を撮っていると後ろから桃葉の隣にいた女子が近付いてきた。

「……あの、金剛さん」

「はい」

「と、隣のクラスの加瀬部と言います!ミラと付き合ってるのは本当ですか!?」

「…………またですか。なんなのですか、他人の恋愛に首を突っ込みたいのですか。暇人ですか」

 加瀬部が聞いた瞬間、さっきまで微笑んでいた亜梨子からストンと表情が消えた。
 目からも光が消えて機嫌がまた悪くなる。
 郁美があー……と言いながら加瀬部に近付いていった。

「……あーのさ、ごめんね亜梨子ピリピリしてるの。ずーっと引切りなしに人が来てミラとの事聞いてくるから。結構嫌な事言う人も居るから」

「まぁ、金剛は全部言い返してるがな」

「キツく聞こえるけど、普段はいい子なんだよ」

 あははは……と郁美がとって付けたみたいに言うと、その女子は「そう、なんだ」と呟いた。

「…………私みたいに聞きに来る子いるんだね」

「15人過ぎた頃から数えるの辞めました……それで、何の用でしょう…………」

 ため息を吐き出しながらも用事を聞いた時だった。
 魔法使いな亜梨子をにっこにこの笑顔で捕まえるミラージュ。もう片方の手が紙をヒラヒラさせていた。

「……………………離しなさい」

「ごめんね、借り物は亜梨子みたい」 

「やめなさい!!」

「ごめんね、大好き」

「騙されませんよ!!」

 抱き上げられて笑いながら走るミラージュに一斉に悲鳴が上がった。
 しかもその相手が今話題の亜梨子なのだ。
 ミラージュの頬を力一杯押すが、笑うミラージュはあっという間にゴールしてしまった。

 [では、借り物をどうぞ!!]

「えっと……色つきリップと男子用ジャージのズボン」

 2年の男子で短パンの生徒がいやーん!をしているのを周囲が笑っていた。

「最後は無人島に一緒に流れてしまった人は誰?…………亜梨子がいないと俺死んじゃうから」

「「「「「ぎゃあああああああああ!!」」」」」

「「いやぁぁぁ!!」」





 阿鼻叫喚の中、無表情で亜梨子は力一杯ミラージュの足を踏んだ。
 いっ…………!と声を上げてはいるが、亜梨子の掴んだ手を話そうとはしない。

「なぜわざわざ目立つ事をするんです」

「だって、亜梨子と一緒がいいでしょ?たとえ無人島だって。側にいて触れていたいって言ったじゃないか。…………拒否したら閉じ込めちゃうよ?」

「離しなさい変態」

「わっ!ごめんってばー!」




 
 

 サクサクと桃葉や万里のいる場所に戻ってきたミラージュと亜梨子。
 亜梨子は先に魔法使いの衣装を脱いだため、結局魔法使い亜梨子との撮影会が出来ず落ち込みながら戻って来た。

「まさか無人島で一緒にいる人とはな」
 
「東屋君を選びなさい」

「えぇ、万里ぃ?やだぁ」

「嫌だとはなんだよ、嫌だとは」

 笑いながら話をする亜梨子とミラージュ、そしてその友達達をみてまだ此処に残っていた女子はそっと離れて行った。

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