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魅惑のぶどうゼリー
しおりを挟む「…………んふふふ、何これうまぁ……お酒も混ぜて大人の味……んへへへ」
小さなカップに入ったゼリーの試食をしている芽依はにやにやにやにやと笑っていた。
スライムを倒した後に出てきた黒い玉を湯でゆっくりと溶かしてから、絞り味を整えたぶどうと混ぜ合わせ冷やす。
その工程を工場の隅で行い出来たのが綺麗な紫のゼリーだ。
なんの飾り気のないぶどうだが味は抜群である。
「メディさーん!これ食べてみて」
『ん?……うまいな、食いやすい』
「やった!お墨付きでた!販売していいかな?」
『いいが、量産出来るのか?』
「工場でパパーッとやっちゃうよ!スライム切れたらまた連れて行って欲しいな」
『ああ、だがしばらくは大丈夫だろ』
「大丈夫」
実は芽依の作るゼリーのカップだとあの黒い玉で1000個程出来るのだ。
ぶどう通常販売に、ワイン、ジュース製造、そしてゼリーだとぶどうが足りなくなる可能性も出るのでそこら辺は加減を見る必要がある。
売れ行きを見てどれを多く作るかはもう少し売上を見てからになりそうだ。
「初物の売上が楽しみだね」
即売会会場到着、芽依は初お披露目のゼリーにワクワクしていた。
ゼリーにするまで味の調整はワインやジュースとも勿論違うのでそれなりの日数を掛けていた。
このぶどう関係だけはメディトークの手を借りずに芽依が作っている。
体格の問題もあるが、自分で勝手に買った負い目もあったりする。
1番助かったのは、元の世界のぶどうの手入れの仕方を芽依は知らないが、1人でも出来る範囲だった事だ。
大変だし、味が決まるまでは付きっきりだがそれさえ終われば後は工場で自動で作ってくれる。
あとはぶどうの手入れと収穫だけでたいした手間はかからない。
それもこれも、セイシルリードが売ってくれたぶどうの棚が上位の物で剪定やら何やら自動でやってくれる優れものだったからだ。
「よし、どうかぶどうの神様ゼリーが売れますように」
『ぶどうに神はいねぇ』
「祈るのは自由でしょー」
そう言いながら長テーブルに色々と物を出していく。
各種肉や卵、チーズや牛乳などの乳製品。
個数指定しているワインやジュース、ぶどう。
そして、初出しのゼリー。
実はワインの売れ行きが良く、おひとり様2本までとなっている。
「……ドキドキしてきた」
『いつもの即売会だろうが』
「そうなんだけど、今日はゼリーがあるんだよ」
『まあ、そうだがな……客だぞ』
「はっ!いらっしゃいませー!!」
「いらっしゃいましたー!ゼリーあるんでしょ?」
「フェンネルさん、何故毎回タイミングいいの」
並べているゼリーに気付いて1個取りにっこりするフェンネルは相変わらず芽依達に気付くのも新しい情報を知るのも早い。
「フェンネルさんは今日は出品ですか?」
「うん、ブース遠いんだよね」
あっち、と指さす方向は確かに遠い。どうやら他に売り子を雇ったのかブースには誰かがいて売り捌いている。
「雪虫が新しくゼリー作ってるって教えてくれたから今日楽しみにしてたんだ!」
「GPS機能だけじゃないんだ……しかも
堂々と言うなんてストーカー進化ー」
「ストーカーって誰のこと?」
真っ白な美しい妖精が首を傾げながら微笑んでいる。
はいはい、美しいのは正義ですね、わかります。
「何個いります?」
「とりあえず20個かな」
「20……」
「あと牛乳プリン30個と」
『非売品だって言ってんだろ』
ドシャ……と床に倒れ込みハラハラと涙を流すフェンネルの麗しい姿に周りにいた買い物客がどうしたどうしたと見に集まってくる。
しかし、芽依が居ない時もこのやり取りは何度も合ったらしく、常連客はメディトークを見て「またかー」と納得して離れていった。
「営業妨害ですよー」
「売ってくれないと動かないんだからね!」
『お前な……』
牛乳プリンは売りに出さないので持って来てすらいない。
しかし、だからといって他の客もいる中でフェンネルだけを特別扱いも出来ない。自分もしてくれと来るだろうから。
どうしよう、このダメな人……と思っている時に小さな少年が割り込んできた。
薄い水色の髪に黄色の瞳、ストライプのフリルたっぷりのブラウスにサスペンダー付きの短パン姿。
ショタ好きな訳じゃない芽依にクリティカルヒットした可愛い子だ。
今日もキラキラの羽を揺らしてトロンとした大きな目で芽依を見る。
「君は……」
「……ここ、お姉さんのお店だったんだね。僕ここのぶどうとジュース大好き。ワインは飲めないんだ……あ、ゼリー」
新しく売り出されたぶどうゼリーに気付いた少年は大きな目をキラキラさせてじっと見ている。
「た、食べてみる……?試食してみる!?」
先程のフェンネルには出さなかったゼリーの試食を芽依はギラギラとした眼差しで進める。
少年はじっとゼリーを見てから首を横に振った。
「ううん、いらないよ。お姉さんのぶどう美味しいからゼリーもきっと美味しい。僕、ぶどうとジュースとゼリー全部2個ずつ買うね」
「くっ!撃ち抜かれた……」
上目遣いで見られ、胸を抑えてハアハアする芽依。動悸が……と呟く。
『お前……大丈夫か?』
呆れた顔で芽依を見る表情豊かな蟻は、サクサクと購入品を袋に詰めて少年に渡していた。
「……ありがとう、お姉さん僕ぶどう好きなんだ。また買いに来るね」
「また来てねぇ!…………くぅ!何あれかわゆい」
あまり高揚の無い話し方だがじわりと可愛さが溢れる少年に芽依は胸を抑えながら言うと、息を吐き出したメディトークは強ばっていた体の力を抜いて足元を見た。
「メディさんどうしたの?」
『……いや、なんでもない……それよりアイツと知り合いだったのか?お姉さんって言われてたな?』
「ああ……うん、前即売会でちょっと話したんだ」
『…………そうか、離れんなよ』
「……うん」
何となく上の空なメディトーク。
言わない方がいいかなと勝手に思って言わなかった見知らぬ人外者との接触。
その時の出会いである先程のぶどう好きの少年をメディトークは何か警戒しているように見える。
「あの子、どうかした?」
『……あいつ、強いぞ』
「そうなの?」
「最近こっちに来た子みたいだよ、元は別の領地に居たみたいだね。小さな姿に大きな羽の子はここら辺には居ないからだいぶ目立つ」
復活したフェンネルが長テーブル越しに教えてくれる。
あまり見ない毛色の子だよ、とふわりふわりと揺れる大きな羽を持つ少年の後ろ姿を眺めた。
「で、牛乳プリンは?」
『ないっつってんだろが』
本日の売上は予想通り完売。
初めて売り出したぶどうゼリーもかなり好評で2時間しないで完売していた。
どれも出せば出すだけ売り切れ、さらには3時間かからず全ての商品が無くなる。
これは芽依たちだけでなく冬篭りが始まる為に買い込む客が増えたからどこの売り子のテーブルも直ぐに品薄状態になっていた。
その様子を見て首を傾げる芽依は片付けながらメディトークを見る。
「冬篭り?」
『冬に向けてものを買い込み食い物なら保存食を作るんだ。冬は1番豊穣と収穫の恩恵が薄いからな、更に冬は雪が深く買い物も天候を見ながら出ないと出来なくなんだよ』
「そっか、そんなに雪降るんだね。食料不足かぁ……定期的にでも野菜を売り出せたらいいんだけど。それには箱庭にしないといけないしね」
『出資者がいないとどうにもなんねぇな』
全ての荷物を片付け終わった時ににょきんと飛び出てきた巨大猫。
「ねぇ、もしかして箱庭を作るのかしら?羊はどうするの?私ずっと待ってるんだけど羊はまだなの?」
急に現れたヘルキャットにビクッと体を震わせると長テーブルに顔を乗せて大きな体に尻尾を巻き付けお座りをしている。
太い尻尾をくねらせてテーブルに乗せると、顎を突き出して芽依を見た。
「庭の持ち主はお姉さん?箱庭作るの?」
芽依はちらりとメディトークを見てからにっこりと笑った。
「これからも色々作りたいんですけど、私とメディさんだけだとどうしても人手不足で。箱庭、いいですよね。でも私達には直ぐに箱庭に出来るほどの余裕がなくて」
「あらそうなのね。じゃあ私出資するから羊買ってくださらない?羊のお肉がどうしても食べたいの。お姉さんの所の羊がいいの。ダメかしら?」
出資者キターーーー!喜んでーーーー!!
「悪い話じゃないと思うのよ!?お庭広くなる分新しい作物も出来るわ!手入れも簡単になるし、私への箱庭の対価は毎月羊5匹でいいから!ね?最大限まで大きな箱庭にしてもいいから!」
すぐに返事をしなかった為、焦ったように話すヘルキャットに芽依は可愛らしく首を傾げた。
「それだけでいいんですか?」
「ええ、羊が貰えればそれで」
くねくねした尻尾をまたテーブルにビタンと置くヘルキャットはクニィ……と口が割れるんじゃないかと言うくらいに開いて笑った。
芽依はそっとヘルキャットの隣に行きメディトークを確認してから白い手袋を外して毛並みに触れた。
「!?」
「………………どうですか?大丈夫ですか?私が近くにいても」
「……まあ、猫族の私の鼻を騙せるくらいに造りの良い外套ね。大丈夫、羊さえ貰えたら襲いかかったりしないから」
『良し、すぐに行くぞ』
「わっ!!メディさん!?」
ヘルキャットの提案にギラリと目を輝かせたメディトークは荷物を転送した後すぐに芽依を担ぎ上げ背中に乗せる。
急展開にヘルキャットは、はにゃ?と首を傾げながら急げと手で示すメディトークに理解していないまま着いていく事になった。
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