[第一部完結]美しくも残酷な世界に花嫁(仮)として召喚されたようです~酒好きアラサーは食糧難の世界で庭を育てて煩悩のままに生活する

くみたろう

文字の大きさ
48 / 588

魅惑のぶどうゼリー

しおりを挟む

「…………んふふふ、何これうまぁ……お酒も混ぜて大人の味……んへへへ」

 小さなカップに入ったゼリーの試食をしている芽依はにやにやにやにやと笑っていた。
 スライムを倒した後に出てきた黒い玉を湯でゆっくりと溶かしてから、絞り味を整えたぶどうと混ぜ合わせ冷やす。
 その工程を工場の隅で行い出来たのが綺麗な紫のゼリーだ。
 なんの飾り気のないぶどうだが味は抜群である。

「メディさーん!これ食べてみて」

『ん?……うまいな、食いやすい』

「やった!お墨付きでた!販売していいかな?」

『いいが、量産出来るのか?』

「工場でパパーッとやっちゃうよ!スライム切れたらまた連れて行って欲しいな」

『ああ、だがしばらくは大丈夫だろ』

「大丈夫」

 実は芽依の作るゼリーのカップだとあの黒い玉で1000個程出来るのだ。
 ぶどう通常販売に、ワイン、ジュース製造、そしてゼリーだとぶどうが足りなくなる可能性も出るのでそこら辺は加減を見る必要がある。
 売れ行きを見てどれを多く作るかはもう少し売上を見てからになりそうだ。




  「初物の売上が楽しみだね」

 即売会会場到着、芽依は初お披露目のゼリーにワクワクしていた。
 ゼリーにするまで味の調整はワインやジュースとも勿論違うのでそれなりの日数を掛けていた。
 このぶどう関係だけはメディトークの手を借りずに芽依が作っている。
 体格の問題もあるが、自分で勝手に買った負い目もあったりする。
 1番助かったのは、元の世界のぶどうの手入れの仕方を芽依は知らないが、1人でも出来る範囲だった事だ。
 大変だし、味が決まるまでは付きっきりだがそれさえ終われば後は工場で自動で作ってくれる。
 あとはぶどうの手入れと収穫だけでたいした手間はかからない。
 それもこれも、セイシルリードが売ってくれたぶどうの棚が上位の物で剪定やら何やら自動でやってくれる優れものだったからだ。

「よし、どうかぶどうの神様ゼリーが売れますように」

『ぶどうに神はいねぇ』

「祈るのは自由でしょー」

 そう言いながら長テーブルに色々と物を出していく。
 各種肉や卵、チーズや牛乳などの乳製品。
 個数指定しているワインやジュース、ぶどう。
 そして、初出しのゼリー。
 実はワインの売れ行きが良く、おひとり様2本までとなっている。

「……ドキドキしてきた」

『いつもの即売会だろうが』

「そうなんだけど、今日はゼリーがあるんだよ」 

『まあ、そうだがな……客だぞ』

「はっ!いらっしゃいませー!!」

「いらっしゃいましたー!ゼリーあるんでしょ?」

「フェンネルさん、何故毎回タイミングいいの」

 並べているゼリーに気付いて1個取りにっこりするフェンネルは相変わらず芽依達に気付くのも新しい情報を知るのも早い。

「フェンネルさんは今日は出品ですか?」

「うん、ブース遠いんだよね」

 あっち、と指さす方向は確かに遠い。どうやら他に売り子を雇ったのかブースには誰かがいて売り捌いている。

「雪虫が新しくゼリー作ってるって教えてくれたから今日楽しみにしてたんだ!」

「GPS機能だけじゃないんだ……しかも
 堂々と言うなんてストーカー進化ー」

「ストーカーって誰のこと?」

 真っ白な美しい妖精が首を傾げながら微笑んでいる。
 はいはい、美しいのは正義ですね、わかります。

「何個いります?」

「とりあえず20個かな」

「20……」

「あと牛乳プリン30個と」

『非売品だって言ってんだろ』

 ドシャ……と床に倒れ込みハラハラと涙を流すフェンネルの麗しい姿に周りにいた買い物客がどうしたどうしたと見に集まってくる。
 しかし、芽依が居ない時もこのやり取りは何度も合ったらしく、常連客はメディトークを見て「またかー」と納得して離れていった。

「営業妨害ですよー」

「売ってくれないと動かないんだからね!」

『お前な……』

 牛乳プリンは売りに出さないので持って来てすらいない。
 しかし、だからといって他の客もいる中でフェンネルだけを特別扱いも出来ない。自分もしてくれと来るだろうから。
 どうしよう、このダメな人……と思っている時に小さな少年が割り込んできた。
 薄い水色の髪に黄色の瞳、ストライプのフリルたっぷりのブラウスにサスペンダー付きの短パン姿。
 ショタ好きな訳じゃない芽依にクリティカルヒットした可愛い子だ。
 今日もキラキラの羽を揺らしてトロンとした大きな目で芽依を見る。

「君は……」

「……ここ、お姉さんのお店だったんだね。僕ここのぶどうとジュース大好き。ワインは飲めないんだ……あ、ゼリー」

 新しく売り出されたぶどうゼリーに気付いた少年は大きな目をキラキラさせてじっと見ている。 

「た、食べてみる……?試食してみる!?」 

 先程のフェンネルには出さなかったゼリーの試食を芽依はギラギラとした眼差しで進める。
 少年はじっとゼリーを見てから首を横に振った。

「ううん、いらないよ。お姉さんのぶどう美味しいからゼリーもきっと美味しい。僕、ぶどうとジュースとゼリー全部2個ずつ買うね」

「くっ!撃ち抜かれた……」

 上目遣いで見られ、胸を抑えてハアハアする芽依。動悸が……と呟く。

『お前……大丈夫か?』

 呆れた顔で芽依を見る表情豊かな蟻は、サクサクと購入品を袋に詰めて少年に渡していた。

「……ありがとう、お姉さん僕ぶどう好きなんだ。また買いに来るね」

「また来てねぇ!…………くぅ!何あれかわゆい」
 
 あまり高揚の無い話し方だがじわりと可愛さが溢れる少年に芽依は胸を抑えながら言うと、息を吐き出したメディトークは強ばっていた体の力を抜いて足元を見た。

「メディさんどうしたの?」

『……いや、なんでもない……それよりアイツと知り合いだったのか?お姉さんって言われてたな?』  

「ああ……うん、前即売会でちょっと話したんだ」

『…………そうか、離れんなよ』  

「……うん」

 何となく上の空なメディトーク。
 言わない方がいいかなと勝手に思って言わなかった見知らぬ人外者との接触。
 その時の出会いである先程のぶどう好きの少年をメディトークは何か警戒しているように見える。

「あの子、どうかした?」

『……あいつ、強いぞ』
   
「そうなの?」

「最近こっちに来た子みたいだよ、元は別の領地に居たみたいだね。小さな姿に大きな羽の子はここら辺には居ないからだいぶ目立つ」

 復活したフェンネルが長テーブル越しに教えてくれる。
 あまり見ない毛色の子だよ、とふわりふわりと揺れる大きな羽を持つ少年の後ろ姿を眺めた。

「で、牛乳プリンは?」

『ないっつってんだろが』








 本日の売上は予想通り完売。
 初めて売り出したぶどうゼリーもかなり好評で2時間しないで完売していた。
 どれも出せば出すだけ売り切れ、さらには3時間かからず全ての商品が無くなる。
 これは芽依たちだけでなく冬篭りが始まる為に買い込む客が増えたからどこの売り子のテーブルも直ぐに品薄状態になっていた。
 その様子を見て首を傾げる芽依は片付けながらメディトークを見る。

「冬篭り?」

『冬に向けてものを買い込み食い物なら保存食を作るんだ。冬は1番豊穣と収穫の恩恵が薄いからな、更に冬は雪が深く買い物も天候を見ながら出ないと出来なくなんだよ』

「そっか、そんなに雪降るんだね。食料不足かぁ……定期的にでも野菜を売り出せたらいいんだけど。それには箱庭にしないといけないしね」

『出資者がいないとどうにもなんねぇな』

 全ての荷物を片付け終わった時ににょきんと飛び出てきた巨大猫。

「ねぇ、もしかして箱庭を作るのかしら?羊はどうするの?私ずっと待ってるんだけど羊はまだなの?」

 急に現れたヘルキャットにビクッと体を震わせると長テーブルに顔を乗せて大きな体に尻尾を巻き付けお座りをしている。
 太い尻尾をくねらせてテーブルに乗せると、顎を突き出して芽依を見た。

「庭の持ち主はお姉さん?箱庭作るの?」

 芽依はちらりとメディトークを見てからにっこりと笑った。

「これからも色々作りたいんですけど、私とメディさんだけだとどうしても人手不足で。箱庭、いいですよね。でも私達には直ぐに箱庭に出来るほどの余裕がなくて」

「あらそうなのね。じゃあ私出資するから羊買ってくださらない?羊のお肉がどうしても食べたいの。お姉さんの所の羊がいいの。ダメかしら?」

 出資者キターーーー!喜んでーーーー!!

「悪い話じゃないと思うのよ!?お庭広くなる分新しい作物も出来るわ!手入れも簡単になるし、私への箱庭の対価は毎月羊5匹でいいから!ね?最大限まで大きな箱庭にしてもいいから!」

 すぐに返事をしなかった為、焦ったように話すヘルキャットに芽依は可愛らしく首を傾げた。

「それだけでいいんですか?」

「ええ、羊が貰えればそれで」

 くねくねした尻尾をまたテーブルにビタンと置くヘルキャットはクニィ……と口が割れるんじゃないかと言うくらいに開いて笑った。
 芽依はそっとヘルキャットの隣に行きメディトークを確認してから白い手袋を外して毛並みに触れた。

「!?」

「………………どうですか?大丈夫ですか?私が近くにいても」

「……まあ、猫族の私の鼻を騙せるくらいに造りの良い外套ね。大丈夫、羊さえ貰えたら襲いかかったりしないから」
 
『良し、すぐに行くぞ』

「わっ!!メディさん!?」
  
 ヘルキャットの提案にギラリと目を輝かせたメディトークは荷物を転送した後すぐに芽依を担ぎ上げ背中に乗せる。 
 急展開にヘルキャットは、はにゃ?と首を傾げながら急げと手で示すメディトークに理解していないまま着いていく事になった。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

私をいじめていた女と一緒に異世界召喚されたけど、無能扱いされた私は実は“本物の聖女”でした。 

さら
恋愛
 私――ミリアは、クラスで地味で取り柄もない“都合のいい子”だった。  そんな私が、いじめの張本人だった美少女・沙羅と一緒に異世界へ召喚された。  王城で“聖女”として迎えられたのは彼女だけ。  私は「魔力が測定不能の無能」と言われ、冷たく追い出された。  ――でも、それは間違いだった。  辺境の村で出会った青年リオネルに助けられ、私は初めて自分の力を信じようと決意する。  やがて傷ついた人々を癒やすうちに、私の“無”と呼ばれた力が、誰にも真似できない“神の光”だと判明して――。  王都での再召喚、偽りの聖女との再会、かつての嘲笑が驚嘆に変わる瞬間。  無能と呼ばれた少女が、“本物の聖女”として世界を救う――優しさと再生のざまぁストーリー。  裏切りから始まる癒しの恋。  厳しくも温かい騎士リオネルとの出会いが、ミリアの運命を優しく変えていく。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?

氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。 しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。 夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。 小説家なろうにも投稿中

【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~

魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。 ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!  そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!? 「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」 初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。 でもなんだか様子がおかしくて……? 不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。 ※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます ※他サイトでも公開しています。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...