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1.コンニャク妖怪と巫女の謎
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巨大なコンニャクの妖怪が、太くて長い腕を野球のバットのように大きくスイングさせる。刀を振りかざして飛びかかってきた侍の胴を横からなぎ払うと、そのまま野球のボールみたいに吹き飛ばしてしまった。
「メイくん!」
思わず現実世界でのニックネームをさけびながら後を追った僕の目の前で、侍がべしゃりと音を立てながら落下する。普通なら大事故だし、大けがをしているところだ。けれど、地面に仰向けに転がった侍は空を見上げたまま、自分がホームランになったことなど忘れたかのように淡々と口を開いた。
「こらこら。オンラインで軽々しく個人情報を口に出すなって、先生にも言われたでしょ。オレのことは、ちゃんとシュレットガルドさんと呼んでくださいよ」
「長いんだってば。前も聞いたと思うけど、もう一回だけ聞いてもいい? このゲームは和風の世界観なのに、どうしてメイくんのアバターは名前も見た目も外国人風なの?」
「オレも何度も答えたと思うけど、もう一回だけ答えとくよ。金髪で青い目のサムライが、今のオレのマイブームなんだって。だいたい、そっちこそどうなの」
それを言われてしまうと、僕はのどを空気の固まりでふさがれたかのように言葉が出なくなってしまう。
だって知らなかったんだ。このゲームのアバターが、自分が心の底から望んでいる姿を投影して自動的に作られてしまうなんて。それを知っていたら――いや、それでこの姿になることを事前に知っていたら、僕はこのゲームを絶対にやらなかったのに。
「って、のんきに話してる場合じゃなかった。早く立って、メイくん。コンニャク妖怪が、またこっちに来るよ」
「あー、無理。今ので瀕死になった」
「えっ」
慌てた僕は眼球だけを左側に動かして、視界の隅を確認する。そこには、ほんのりと淡い光を帯びた半透明の図形が浮かび上がっていた。細長い四角の中に、文字や数字が敷きつめられている。
一般的にステータスウインドウと呼ばれる、ゲームではおなじみのシステムだ。自分やパーティを組んでいる仲間の情報がひと目でわかるように常に表示されている。もうその状態にも慣れてしまったので、邪魔だと思うことはない。
シュレットガルドという名前の下にある細長いゲージは残りわずかで消えてしまうところまで減っていて、色も緑から赤に変わっていた。これは体力が少なくて危険な状態だということを表している。
コンニャク妖怪との戦闘前には、たしかに僕がメイくんを回復してゲージを満タンにしたはず。つまり、あのたった一撃で、ここまでのダメージを受けてしまったということになる。フニャフニャのコンニャクとは思えない、おそるべき破壊力だ。
「……うわー、こわ。前衛職のメイくんがこれなら、僕が攻撃を受けていたら完全に戦闘不能だったよ。やっぱり、コンニャク妖怪と戦うのは早かったんだって」
「んー。塗り壁はまだ無理でも、塗り壁の亜種くらいなら倒せると思ったのに」
「僕たち、レベル十になったばかりだよ? どうして討伐推奨レベル二十のコンニャク妖怪に挑戦しようと思えたの?」
「レベルの差が二倍ってことは、相手より二倍オレが頑張れば勝てるってことでしょ?」
「ごめん、ちょっとよくわからない」
ステータス上では《瀕死》――死んでしまう寸前という意味。もちろん、現実の自分が本当に死んでしまったりはしない――という状態異常にかかっているメイくんだけど、そもそもゲームなので痛みは感じない。体を動かしにくくなるというペナルティはあるものの、本人はいたって元気だ。回復系の処置を行って、ゲージを赤から緑に戻してあげれば、すぐになんでもなかったように飛び起きるだろう。
そのために、やらなければいけないことがある。僕はちらりと首をめぐらせて、周囲の様子を確認した。
「メイくん!」
思わず現実世界でのニックネームをさけびながら後を追った僕の目の前で、侍がべしゃりと音を立てながら落下する。普通なら大事故だし、大けがをしているところだ。けれど、地面に仰向けに転がった侍は空を見上げたまま、自分がホームランになったことなど忘れたかのように淡々と口を開いた。
「こらこら。オンラインで軽々しく個人情報を口に出すなって、先生にも言われたでしょ。オレのことは、ちゃんとシュレットガルドさんと呼んでくださいよ」
「長いんだってば。前も聞いたと思うけど、もう一回だけ聞いてもいい? このゲームは和風の世界観なのに、どうしてメイくんのアバターは名前も見た目も外国人風なの?」
「オレも何度も答えたと思うけど、もう一回だけ答えとくよ。金髪で青い目のサムライが、今のオレのマイブームなんだって。だいたい、そっちこそどうなの」
それを言われてしまうと、僕はのどを空気の固まりでふさがれたかのように言葉が出なくなってしまう。
だって知らなかったんだ。このゲームのアバターが、自分が心の底から望んでいる姿を投影して自動的に作られてしまうなんて。それを知っていたら――いや、それでこの姿になることを事前に知っていたら、僕はこのゲームを絶対にやらなかったのに。
「って、のんきに話してる場合じゃなかった。早く立って、メイくん。コンニャク妖怪が、またこっちに来るよ」
「あー、無理。今ので瀕死になった」
「えっ」
慌てた僕は眼球だけを左側に動かして、視界の隅を確認する。そこには、ほんのりと淡い光を帯びた半透明の図形が浮かび上がっていた。細長い四角の中に、文字や数字が敷きつめられている。
一般的にステータスウインドウと呼ばれる、ゲームではおなじみのシステムだ。自分やパーティを組んでいる仲間の情報がひと目でわかるように常に表示されている。もうその状態にも慣れてしまったので、邪魔だと思うことはない。
シュレットガルドという名前の下にある細長いゲージは残りわずかで消えてしまうところまで減っていて、色も緑から赤に変わっていた。これは体力が少なくて危険な状態だということを表している。
コンニャク妖怪との戦闘前には、たしかに僕がメイくんを回復してゲージを満タンにしたはず。つまり、あのたった一撃で、ここまでのダメージを受けてしまったということになる。フニャフニャのコンニャクとは思えない、おそるべき破壊力だ。
「……うわー、こわ。前衛職のメイくんがこれなら、僕が攻撃を受けていたら完全に戦闘不能だったよ。やっぱり、コンニャク妖怪と戦うのは早かったんだって」
「んー。塗り壁はまだ無理でも、塗り壁の亜種くらいなら倒せると思ったのに」
「僕たち、レベル十になったばかりだよ? どうして討伐推奨レベル二十のコンニャク妖怪に挑戦しようと思えたの?」
「レベルの差が二倍ってことは、相手より二倍オレが頑張れば勝てるってことでしょ?」
「ごめん、ちょっとよくわからない」
ステータス上では《瀕死》――死んでしまう寸前という意味。もちろん、現実の自分が本当に死んでしまったりはしない――という状態異常にかかっているメイくんだけど、そもそもゲームなので痛みは感じない。体を動かしにくくなるというペナルティはあるものの、本人はいたって元気だ。回復系の処置を行って、ゲージを赤から緑に戻してあげれば、すぐになんでもなかったように飛び起きるだろう。
そのために、やらなければいけないことがある。僕はちらりと首をめぐらせて、周囲の様子を確認した。
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