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3.火ノ都の麗春祭
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「そこのバンカラスタイルがよくお似合いのかわいいお嬢さん! お祭りを楽しんでますか? はいこれ、曇天堂の春の新作! よかったら食べていってください!」
「隣のイケてる異国風のお兄さんも! ほらほら、サービスだから遠慮しないでパクッといっちゃって!」
おそらくはNPCと思われる、甘味処の制服を来た店員が二人。満面の笑みを浮かべながらものすごい勢いでやってくると、僕とメイくんを両側から挟み込んだ。
手渡されたのは、目にも鮮やかなお花見団子。四つの白いおもちの上で、桜色や若葉色などの和風な色合いのあんこたちが礼儀正しくお座りしている。花の形のアラザンをいくつも頭に乗せているのが、とてもオシャレでかわいかった。
「これからも曇天堂をごひいきに! イベントを楽しんでくださいね!」
お金を強引に奪い取ったりすることもなく、店の人は僕たちに団子を渡すだけ渡すと、またすぐに別のアバターに声をかけはじめる。きっと今回のイベントにおいて、運営からそういうお仕事を与えられた人たちなんだろう。
本当に食べてもだいじょうぶなんだろうかと、手に持った団子をしげしげと眺める小心者の僕と違って、隣にいるメイくんは、もうすでに上から二番目の団子にかぶりついていた。
「これが特コスの効果。NPCがめちゃくちゃサービスしてくる」
「そ、そうなんだ。なんか夢の国のバースデーシールみたいだね」
注目されるのはあまり好きじゃないけど、気さくに声をかけてもらえることは純粋にうれしい。受け取った団子も、ありがたくいただくことにした。ほかのアバターの邪魔にならないように、メイくんを連れて店の前に用意されていた赤い布の敷かれた長椅子に腰掛ける。花だらけの野点傘を見上げながら、僕もぱくりと一口。
「うん、おいしい……と思う」
「まあ、味は悪くない。ゲームの中でどれだけ食べても現実で腹はふくれないから、満足感には欠けるけど」
「でも、それが女性プレイヤーには好評なんだっけ? 食べても食べても太らない、って」
ヒノモトで食事をしても、なんとなくこんな味がするんだろうなという、ぼんやりした感覚が残るだけだ。お母さんの作ってくれたホットケーキを食べたときのように、ジュワッとしてフワッとしてトロッとするようなダイレクトな感動を得られることはないから、正直に言うと僕としてはちょっとだけ物足りない。
でも世のお姉さんたちは、質より量を重視するのかもしれなかった。今も目の前をハイカラさんの団体が、おまんじゅうやタピオカを手にしながら楽しそうに横切っていく。
「この曇天堂ってお店、現実世界にも実際にあるんだって」と、風にたなびく暖簾をあごの先で指し示しながら、メイくんが教えてくれた。
「あ、聞いたことある。ヒノモトでプロモーションをしてるんでしょ? ゲームの中で試食をしてもらって、おいしかったら次は現実のお店に買いに来てください、ってことなんだよね」
ヒノモトはゲームだけど、こんなふうにリアルの世界とも密接につながっている。それがとても不思議で、とてもおもしろいと思った。
「隣のイケてる異国風のお兄さんも! ほらほら、サービスだから遠慮しないでパクッといっちゃって!」
おそらくはNPCと思われる、甘味処の制服を来た店員が二人。満面の笑みを浮かべながらものすごい勢いでやってくると、僕とメイくんを両側から挟み込んだ。
手渡されたのは、目にも鮮やかなお花見団子。四つの白いおもちの上で、桜色や若葉色などの和風な色合いのあんこたちが礼儀正しくお座りしている。花の形のアラザンをいくつも頭に乗せているのが、とてもオシャレでかわいかった。
「これからも曇天堂をごひいきに! イベントを楽しんでくださいね!」
お金を強引に奪い取ったりすることもなく、店の人は僕たちに団子を渡すだけ渡すと、またすぐに別のアバターに声をかけはじめる。きっと今回のイベントにおいて、運営からそういうお仕事を与えられた人たちなんだろう。
本当に食べてもだいじょうぶなんだろうかと、手に持った団子をしげしげと眺める小心者の僕と違って、隣にいるメイくんは、もうすでに上から二番目の団子にかぶりついていた。
「これが特コスの効果。NPCがめちゃくちゃサービスしてくる」
「そ、そうなんだ。なんか夢の国のバースデーシールみたいだね」
注目されるのはあまり好きじゃないけど、気さくに声をかけてもらえることは純粋にうれしい。受け取った団子も、ありがたくいただくことにした。ほかのアバターの邪魔にならないように、メイくんを連れて店の前に用意されていた赤い布の敷かれた長椅子に腰掛ける。花だらけの野点傘を見上げながら、僕もぱくりと一口。
「うん、おいしい……と思う」
「まあ、味は悪くない。ゲームの中でどれだけ食べても現実で腹はふくれないから、満足感には欠けるけど」
「でも、それが女性プレイヤーには好評なんだっけ? 食べても食べても太らない、って」
ヒノモトで食事をしても、なんとなくこんな味がするんだろうなという、ぼんやりした感覚が残るだけだ。お母さんの作ってくれたホットケーキを食べたときのように、ジュワッとしてフワッとしてトロッとするようなダイレクトな感動を得られることはないから、正直に言うと僕としてはちょっとだけ物足りない。
でも世のお姉さんたちは、質より量を重視するのかもしれなかった。今も目の前をハイカラさんの団体が、おまんじゅうやタピオカを手にしながら楽しそうに横切っていく。
「この曇天堂ってお店、現実世界にも実際にあるんだって」と、風にたなびく暖簾をあごの先で指し示しながら、メイくんが教えてくれた。
「あ、聞いたことある。ヒノモトでプロモーションをしてるんでしょ? ゲームの中で試食をしてもらって、おいしかったら次は現実のお店に買いに来てください、ってことなんだよね」
ヒノモトはゲームだけど、こんなふうにリアルの世界とも密接につながっている。それがとても不思議で、とてもおもしろいと思った。
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