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6.橋の上のコロウ
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「この卵は、拾った時点で持ち主の状態とリンクする」
「リンク?」
「そ。持ち主の体力ゲージや状態変化が卵の生育に影響して、持ち主が得た経験値が卵の孵化に影響する」
「……えっと、卵が孵って猫又になるには、持ち主が物怪退治をしたり依頼を受けたりして経験値をためないといけないけど、その間に《瀕死》になったり《毒》になったりすると卵に悪い影響が出ちゃうってこと?」
「そういうこと。その中でも特に悪い影響ってやつが出やすいのが《死亡》だ。卵を持った状態で死ぬと、高確率で卵が割れてなくなる」
割れてなくなる。つまり、あのとき鬼面が死んでしまっていたら、猫又も死んでしまっていたかもしれないってことだ。「だから」と、鬼面がそこで軽く息をはく。
「こいつを助けたのはアンタだ。アンタが育ててやって」
僕の鼻先に突きつけたままの球体を、早く受け取れとばかりに鬼面が軽く振った。しばらく迷う僕に「猫、嫌い?」と、からかうような声が飛んでくる。
「……嫌いじゃないよ」
そう答えて、僕はゆっくりと卵へ手を伸ばした。視界の中央で自動的に開いたウインドウが、ほかのプレイヤーとのアイテム受け渡しについての説明を表示している。心の中で「はい」という選択肢を選びながら、僕は両手で抱えるようにして卵を受け取った。
「ありがとう。大事に育てるね」
「おう。……はー。孵化すると受け渡しができなくなるし、そもそもこいつがいると満足に戦えねぇから、アンタを見つけられてマジでよかったわ」
「ずっと探してくれてたんだ?」
「そうだよ。わざわざ毒の泉に飛び込んで赤の他人を回復して死んだ変な巫女だってことくらいしかわかんねぇから探すの大変だった。それっぽいのを見つけたら見つけたで、特コス着てるから雰囲気ゼンゼン変わってるし」
「そ、それは、なんかごめんなさい。わざわざ、ありがとう」
「いいって。礼を言うのは、こっちだし。泉のときもだけど、さっきの橋のときも」
意外なセリフに、思わず目をぱちぱちさせてしまう。
「橋から突き落とした件については、君は怒ってるのかと思ってたけど」
「なんでだよ。そりゃびっくりしたし、やっぱりおかしなヤツなんだなと改めて思ったけどさ」
ハハッ、と。気持ちのいい笑い声が、青空に高く高く響く。
「なんか、ちょっと楽しかった」
そう言う鬼の面の向こうでは、きっと無邪気な笑顔が広がってるんだろう。目元を隠してしまっているせいで、誰にもそれを見ることができないのは、とてももったいないと思った。
「お、ちょうどいいとこに。――じゃあな、よっと」
フィールドを巡回していたバスの、あろうことか走行中の屋根の上へ、鬼面は身軽に飛び乗る。水の上を歩いていたことといい、一体どういう身体能力をしているんだ。そもそも職業はなんなんだ。どうして呪われているらしき鬼の面をつけているんだ。そこまで考えて、僕は相手の名前すら聞いてないことに気づいた。
「僕はハルキ! 君は!?」
「コロウだ!」
「コロ! また会える!?」
「おい、犬みたいに呼ぶな! さあな!」
コロを乗せたバスは、あっという間に見えなくなってしまった。あの状態だと、運賃はどうなるんだろう。払わなくてもいいんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えている僕の手のひらの上にある卵が、ほんのり熱を帯びて脈打ったような気がした。
「リンク?」
「そ。持ち主の体力ゲージや状態変化が卵の生育に影響して、持ち主が得た経験値が卵の孵化に影響する」
「……えっと、卵が孵って猫又になるには、持ち主が物怪退治をしたり依頼を受けたりして経験値をためないといけないけど、その間に《瀕死》になったり《毒》になったりすると卵に悪い影響が出ちゃうってこと?」
「そういうこと。その中でも特に悪い影響ってやつが出やすいのが《死亡》だ。卵を持った状態で死ぬと、高確率で卵が割れてなくなる」
割れてなくなる。つまり、あのとき鬼面が死んでしまっていたら、猫又も死んでしまっていたかもしれないってことだ。「だから」と、鬼面がそこで軽く息をはく。
「こいつを助けたのはアンタだ。アンタが育ててやって」
僕の鼻先に突きつけたままの球体を、早く受け取れとばかりに鬼面が軽く振った。しばらく迷う僕に「猫、嫌い?」と、からかうような声が飛んでくる。
「……嫌いじゃないよ」
そう答えて、僕はゆっくりと卵へ手を伸ばした。視界の中央で自動的に開いたウインドウが、ほかのプレイヤーとのアイテム受け渡しについての説明を表示している。心の中で「はい」という選択肢を選びながら、僕は両手で抱えるようにして卵を受け取った。
「ありがとう。大事に育てるね」
「おう。……はー。孵化すると受け渡しができなくなるし、そもそもこいつがいると満足に戦えねぇから、アンタを見つけられてマジでよかったわ」
「ずっと探してくれてたんだ?」
「そうだよ。わざわざ毒の泉に飛び込んで赤の他人を回復して死んだ変な巫女だってことくらいしかわかんねぇから探すの大変だった。それっぽいのを見つけたら見つけたで、特コス着てるから雰囲気ゼンゼン変わってるし」
「そ、それは、なんかごめんなさい。わざわざ、ありがとう」
「いいって。礼を言うのは、こっちだし。泉のときもだけど、さっきの橋のときも」
意外なセリフに、思わず目をぱちぱちさせてしまう。
「橋から突き落とした件については、君は怒ってるのかと思ってたけど」
「なんでだよ。そりゃびっくりしたし、やっぱりおかしなヤツなんだなと改めて思ったけどさ」
ハハッ、と。気持ちのいい笑い声が、青空に高く高く響く。
「なんか、ちょっと楽しかった」
そう言う鬼の面の向こうでは、きっと無邪気な笑顔が広がってるんだろう。目元を隠してしまっているせいで、誰にもそれを見ることができないのは、とてももったいないと思った。
「お、ちょうどいいとこに。――じゃあな、よっと」
フィールドを巡回していたバスの、あろうことか走行中の屋根の上へ、鬼面は身軽に飛び乗る。水の上を歩いていたことといい、一体どういう身体能力をしているんだ。そもそも職業はなんなんだ。どうして呪われているらしき鬼の面をつけているんだ。そこまで考えて、僕は相手の名前すら聞いてないことに気づいた。
「僕はハルキ! 君は!?」
「コロウだ!」
「コロ! また会える!?」
「おい、犬みたいに呼ぶな! さあな!」
コロを乗せたバスは、あっという間に見えなくなってしまった。あの状態だと、運賃はどうなるんだろう。払わなくてもいいんだろうか。
そんなどうでもいいことを考えている僕の手のひらの上にある卵が、ほんのり熱を帯びて脈打ったような気がした。
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