惚れ薬をもって敵国に嫁いだんですが、持参してきたのがバレました。

新田 ゆえ

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私は母親譲りの美しいハニーブロンドの髪と父親譲りのアメジストのような紫の瞳を持って生まれた。

それもこの国の第一王女として。

でもそんなことなんて私にしたら無意味なものだった。

今は亡き側室の子供。王宮からは離された小さな城で隔離され、一人寂しく暮らしていた。

それは王が側室との子供を望まなかったから。

王は確かに側室を愛していた。

でも子供はいらなかった。

王は側室が身篭った時、堕ろせと言った。

側室は断った。

死んでもこの子だけは守ると言って譲らなかった。

その結果王は激怒し、側室に刺客を背けた。

かろうじて生き残ってしまったのは、このいらない私。

でも王は私を殺せなかった。

子を生んだ側室が殺されたのは皆に知れ渡っていたからだ。

だから私を殺せば、側室を殺したのは自分だと公表するようなもの。

だから王は殺さない代わりに、生きたまま私を飼い殺していたのだ。

この小さな城で、ただ一人使用人かのように惨めに暮らさせて。

そんな私も一生ここで暮らすのだと、信じて疑わなかったのだが、今日からここに戻ってくることはないらしい。

それは、私と、敵国である大国の王太子、ライハルト殿下との婚約が決まったからである。



私はせめてもの持ち物として、バレないように、お母様の遺書と共に置かれてあった、謎のくすりをそっと自分の谷間に仕舞い込んだ。

破廉恥だと言われるだろうけど、ドレスに仕舞ったらバレるもの、仕方ない。

なんの薬かは手紙をみないとわからない。

実はこの手紙、まだ読んでいないのだ。

私は馬車の中でバレないように手紙をひっそりと開いた。

『愛するリリーローズへ。これを読んでいるということは、もう私はきっとこの世には存在していないのでしょう、そしてこのメモは小さいのであまりかけることがありません。本当は生きて、もっと貴方とお話ししたかったけど、それも叶うことはありません。本題です、この薬は我が国の伝説の秘薬、惚れ薬です。あの王には決して渡してはなりません。困ったらガルフザーグ王国の国王に頼りなさい。あの方は貴方の味方です。そして私もずっと貴方の味方です。貴方に母親が居てやれないことをどうか許してください。頑張ってください。私の愛しい子。』

これは私を出産してすぐに書いた遺書だということ。

王もとても歪んだ愛をしていたと思う。

二人は幸せになれなかったけど、もし王が安らかに眠れて、次の生に生まれたなら、お母様とは存分に愛し合ってほしい。

あんな言い方だけど、お母様は確かにお父様を愛していたはず。

私を下さなかったのはお父様との子供だったからだろう。

国王なんて立場さえなければ...と、私は二人を哀れんだ。

...まあ一番哀れまれるべきなのは私だと思うけど。

本来王女ってああいう生活ではないと思うんだよね。

もっと、午前は庭で優雅にお茶をして、午後は室内でまったりダンスを踊るような生活だと思うの。

そんなこと言ったって、お母様のお腹から生まれた以上叶わないことだけど。

あぁ、我ながらにちょっとかわいそうだわ。



馬車がストンと穏やかに止まる。

どうやら目的の場所についたらしい。

そして、馬車から降りると...

「わぁ...」

私は思わず声を漏らした。

眩しいほどに磨かれた立派な門に、白く輝くお城。

そんな私を無視して、案内してくれている人はつかつかと進んでしまう。

私、小国の王女だから舐められているのね...

私はしょんぼりと肩を落としてあせあせと、案内人の後を追った。



惚れ薬...ねぇ。

ガルフザーグ国王に頼れと言っていたよね...ガルフザークといえば私の嫁ぎ先の王国であり、大国。

つまり私が今立っている地ともいえる。

惚れ薬なんて何に使うのかな...

いや、もちろん人を惚れさせるためなんだろうけど...誰かにあげるようなものでもないし...いっそのこと私が使ってみる?

いや、意味ないかぁ...

そもそも好きになるとかいう感情がよくわからない。

もし誰かを好きになれたら、この生きる意味もないと思える人生も、楽しく感じるのかな...

私は全く使用方法のわからない惚れ薬についてもんもんと考えていたのであった。



挨拶は特にこれといって良いものでも悪いものでもなく、特徴のないものとなった。

形式的な挨拶を交わし、にこりと微笑むだけ。

ただ、一つ言うとするなれば、相手がめちゃくちゃイケメンだったと言うことだ。

ガッチリとした、芯のある体格に、少し目つきの悪い整った顔。

まるで騎士のよう。

それに反して、銀髪はさらさらしていそうで、思わず手が出そうになった。

ただ、その瞳が私とよく似ていた。

全てに興味がなさそうな、本来綺麗な色のはずのルビー色が曇っているのだ。

そう、瞳に映り込んだ私の目とまったく同じだった。


そうして私たち二人が出会ったその日はあっけなく終わりを迎えた。

部屋は前住んでいたところよりもずっと豪華だったけど、侍女が話しているのを聞く限り、これでもひどい待遇なんだそうだ。

そんなことないんだけど...

毎日三食温かいご飯が食べれて、比べようもないほどに柔らかいベッドですやすやと眠れる。

これは私にとって紛れもなく幸せと言えるものだった。

ただ、そんな私の幸せは一瞬にして壊れた。



「おい。お前の部屋からこんなものが見つかった。まったく、生贄のくせに。立場がわからないようだな。」

夕食から部屋に戻ってきた時、王太子であり婚約者でもあるその人はドアに寄りかかりながら、私をきっと睨んで忌々しそうにみた。

「こんな部屋を与えられていると言うのに、立場がわからないのか?まさか俺が直接言わないとわからないわけではなないだろう?」

それは、確かな私への侮辱。

でも耐えなきゃ。

私に居場所なんてどうせない。

人質として、生贄のように送られてきたのだから。

ここで言い返せば、もっとひどい仕打ちを受けてしまう。

「ふん、まあいい。この薬、誰に使うつもりだった?」

私は先ほどまで立場を弁えろ、やら、生贄のくせに、など言われていた、王太子の質問に、こてんと首をかしげた。

「...?それ?あ、あぁ!お母様からいただいた秘薬のことですか。ごめんなさい。これは、多分あまり知られていい奴ではないと思うので...あまり、喋らないでくれると嬉しいのですが」

「...お前は頭が相当に悪いのだな、誰に使うのかと聞いた。」

「す、すみません...使う予定はないのですが、強いて言うなら多分使うのは私だと思いますよ?」

「...これは惚れ薬だろう。誰に惚れるんだ」

「...そりゃあ、貴方しか居ないですよ?」

何を当然のことを言っているのだろう。

これは私がお母様からいただいたものである。

他の人に譲るつもりはないし、お母様もきっと、死んでしまったお詫び程度につけていたんだと思う。

だから活用できるなら私が使いたいところだけど...

婚約者を好きになれたら幸せなのかな?

でも、それは普通の場合であって、これは形式上だけだから、好きになったら辛いのかなぁ...?

でも好きになれたらその人のためだけに頑張れるのかな。

私は王太子そっちのけで、もんもんと部屋の前で立ったまま考え込むのだった。


って、あれ...?なんか、考えてることも何だったのかわかんなくなって、気が遠くなるような——。

——バタン。

そこで私の意識は途切れた。


「...い!おい!おい...!あぁ...も、もういい!もういいから休め。お前にさいてやる時間なんてこれ以上ないんだからな。どうせお前は」

そこで王太子は言葉を切らした。

気づけば私はベッドの上だった。

ここは...?

いつものベットよりシーツの触り心地が良くて気持ちいい...

「んぅ...?」

「っ...!」

王太子殿下は少し顔を歪めながら私を覗き込んでいた。

そんなに顔を歪めるほど私が嫌いなのだろうか。

でもまあ、そう言われて仕舞えば仕方ない。

もともと誰にも好かれることのなかった私だ。

別にこの人に嫌われたって構わない。

——ツキリ。

構わない。



私は眠気に落とされ、再び目を閉じた。



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