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無能の少女
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「ふんっ! やっぱりね! この現場を捕らえるために、際だけ守りを緩くしたんだ。お前はとんでもないあやかし憑きだね! そんなにあやかしが好きなら、その身をあやかしに捧げれば良い。邑を襲いに来るあやかしにお前を屠らせれば、暫くの間はあいつらもおとなしくしてるだろう。邑長からはまた邑を大きくしたいとの願い出があったところだ。あいつらがお前を屠って大人しくしているうちに、結界をひろげれば、あたしらは報酬がもらえる、目障りなお前は居なくなる、邑は大きくなる、で、万々歳だ。お前だって、あたしらに怒鳴られてるより、大好きなあやかしの為に命を使いたいだろう?」
口の端を吊り上げて笑う市子に、芙蓉も賛成した。
「そうね。名無しが居なくても、家は私が継ぐから安心して。もともと破妖の力のない名無しが、婿取りなんて出来る筈もなかったわよね」
市子と芙蓉の言葉を合図に、邑の人が咲を捕らえる。咲は地面にうつぶせに倒され、後ろ手に縄を掛けられると、あっという間に市子たちによって結界の外に連れ出された。結界の外に出たのは初めてだったが、邑の中と空気が違う。うすら寒くて、視界も悪い。体感的なことでぶるりと震えると、芙蓉が笑った。
「あら、名無し。破妖の力はなくても、あやかしの気配は感じるの? 周りにうようよ居るわね。あやかしはお前の骨の髄まで食べてくれるから、お前は跡形も残らないわね。ふふっ、目障りだったお前とも、ここでお別れ。せいぜい、お前の大好きなあやかしたちに、美味しく食べられてしまいなさい」
芙蓉の言うような、あやかしの気配は感じない。ただ、今後、邑には帰れないのだという絶望と、結界の外、つまりあやかしの支配する場所で、自分の命がどれだけ持つのかという恐怖で、足がすくんだ。
「ふふふ。最期にお前のその顔を見られて、満足よ。役立たずは、最初からこうしていればよかったんだわ」
家族によってそこらの木の幹に縛り付けられ、置き去りにされる。ひやりと冷たい空気が流れ、辺りを覆う靄で何も見えない中、傍に寄って来たハチとスズが咲に話し掛けてきた。
『大丈夫だ。大きなあやかしも、小さなあやかしも、手あたり次第には人を襲ったりしない』
『咲はここいらの小さなあやかしたちの恩人だもの。今、咲が結界の外に出たことを、伝令が長に伝えたから、きっと悪いようにはならないはず』
口の端を吊り上げて笑う市子に、芙蓉も賛成した。
「そうね。名無しが居なくても、家は私が継ぐから安心して。もともと破妖の力のない名無しが、婿取りなんて出来る筈もなかったわよね」
市子と芙蓉の言葉を合図に、邑の人が咲を捕らえる。咲は地面にうつぶせに倒され、後ろ手に縄を掛けられると、あっという間に市子たちによって結界の外に連れ出された。結界の外に出たのは初めてだったが、邑の中と空気が違う。うすら寒くて、視界も悪い。体感的なことでぶるりと震えると、芙蓉が笑った。
「あら、名無し。破妖の力はなくても、あやかしの気配は感じるの? 周りにうようよ居るわね。あやかしはお前の骨の髄まで食べてくれるから、お前は跡形も残らないわね。ふふっ、目障りだったお前とも、ここでお別れ。せいぜい、お前の大好きなあやかしたちに、美味しく食べられてしまいなさい」
芙蓉の言うような、あやかしの気配は感じない。ただ、今後、邑には帰れないのだという絶望と、結界の外、つまりあやかしの支配する場所で、自分の命がどれだけ持つのかという恐怖で、足がすくんだ。
「ふふふ。最期にお前のその顔を見られて、満足よ。役立たずは、最初からこうしていればよかったんだわ」
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