婚約破棄されたので国家に反旗を翻す ~許してください? そんな事よりもお前の国を明け渡せ~

かざはなよぞら

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第四十二話

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 バランの繰り出す剣技も、アリシアが見たことのないものばかりだった。
 右手で突き、左手で振り下ろし、両手で回転斬り。最後に二刀を構えた状態での突撃。
 一連の動作の一つ一つが武術とは大幅に異なる。
 貴族のお遊びで覚える剣でもない。
 鍛錬もされているのだ。
 アリシアはその一つ一つの技を剣で捌いていく。

「お前が武術に富んでいるとは聞いたことがない」

 軍務卿ヴェアトリー候ならば……アリシアの父ならば、その剣術は有名である。
 しかし、外務卿バラン公がこのような技を持っている話など聞いたことはない。

「不思議か」

 バラン公が二刀をアリシアに向けて飛びかかってきた。
 それを、アリシアは後ろへと素早く周り込んで背中を狙う。
 獲った――つもりだった。

「っ」

 本来であればがら空きの背中。
 隙でしかないそこには、二本の剣が阻んでいた。
 両手を背中に回し、剣を受け止める。
 これもまた、武術の世界では聞いたことのない技だ。
 一撃を止められれば、二撃目、三撃目もまた、バランが素早く反転して受け止めてくる。

 アリシアが少し驚いているのも束の間、バラン公は大きく後ろに飛んで、アリシアから距離を取る。

「放てっ!」

 その一言で、バランの兵士たちから弾丸が放たれる。
 アリシアはすんでのところでしゃがんで躱してみせた。

「ほう。今のを躱す、か」

 アリシアはゆっくりと立ち上がり、汗を拭う。

「演舞、か」

 二本を操る剣は、戦においては聞いたことがない。
 だが、演舞の世界では違う……らしい。
 戦闘において全く意味を感じさせない長い紐も、二刀を操る剣術も、ほとんど必要な場面がない背中へのガードも。
 どちらも魅せるための演舞の世界で用いられている技だ。

「いくら武術に秀でたヴェアトリー候嬢でも、私の剣と銃は避けられまい」

 バランの二刀が交差するように切りつけてくる。
 それらを両方とも受けきるのも、一苦労。そこに銃弾が飛んでくる状態が厄介さが増すばかりである。

「…………」

 二刀で受け止められるのであれば、止められにくい攻撃手段に変えるのみ。
 アリシアは剣を構えて、突きを繰り出す。
 しかしバラン公は左手の剣で受け止め、右手の剣を振り下ろす反撃に出てきた。
 オマケに銃弾もアリシアを狙ってくるためアリシアは飛び退かなければいけない。

「息が挙がってきたか、アリシア・デ・ヴェアトリー。予断を許さない戦に慣れている貴様と言えども、常に攻撃される戦いは初めてか」

 攻撃すれば二刀による反撃と、銃弾が待っている。
 なるほど、マスケット銃もこのような使い方をされれば、対処不可能なほどの脅威度にまで跳ね上がるというワケだ。
 一人を確実に狙い撃ちしたい時に有効だ。

「…………」
「言葉も出ないか。それとも」

 それとも……なんだ。
 バランは続けざまに剣を振り下ろし続ける。
 右手を躱しても、左手が追撃し、それまた躱してもまた右手が動いてくる。
 オマケに反撃に出れば片方の剣で受け止められ、もう片方の剣がアリシア目掛けて振られるのだ。
 さらに訓練されているバラン公の部隊は、アリシアの動きにピッタリと合わせて銃を放つため、攻撃に移りにくい。それにアリシアは剣を振りにくい理由がある。

「王都の民も、フォルカード公子も事実上の人質だ。貴様も、命は奪えない」

 この男の指示一つで、きっと王城のどこかに配備された野砲なる兵器が、レオンたちに襲い掛かるのだ。

「貴様に、民も。士官学校時代からの学友も。命は奪えまい」

 それが貴様の弱点だ……とでも言いたいのか。
 その優しさが弱さとでも。
 ――反吐が出る。
 言葉の紡げぬ程余裕をなくしたアリシアに、バランは左手の剣を立て、右手の剣を真っ直ぐにアリシアへと向ける。次の演舞らしい。

「命の奪えぬ貴様に。非情になれぬ人間に、覇王になる資格など、ない」

 バランの二刀をアリシアは剣で受け止める。
 しかし、銃が再びアリシアを狙い、手元を狂わされた。

「っ!」
「ふんっ!」

 結果として、バランが手の甲でアリシアを殴りつけ、吹き飛ばされてしまった。

「所詮、ヴェアトリー候の娘と言えども、たかが令嬢に過ぎない」

 初めて。
 初めて、一撃を貰った。
 アリシアは剣で身体を支えながら立ち上がる。
 それをバランは静かに見ていた。

「……まだ立ち上がるか。ヴェアトリー候嬢」

 どこか高圧的で。
 どこか慈愛が満ちたような。
 そんな言葉だ。

「もう、いいだろう。それ以上戦えば、野砲を放つ」
「…………」
「時間さえあれば見つけ出せると思ったか? 野砲は王都内にもいくつか仕組んである。貴様の配下たちが幾ら頑張ろうが、終わりなのだ」

 アリシアの頭の中には、詰みだ……と笑うレオンの顔が浮かんだ。
 あの男と同じ……笑い方だ。

「降伏せよ。この国は私が手に入れる」
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