婚約破棄されたので国家に反旗を翻す ~許してください? そんな事よりもお前の国を明け渡せ~

かざはなよぞら

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第四十四話

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 アリシアは王城内でバラン公と対峙していた。
 しかし、

「降伏せよ。この国は私が手に入れる」

 野砲を王都内に向けられ、王国民たちが人質に取られた。
 その上で、この男の指示一つで野砲が王都内に飛ぶという。

「すぐに決めろ。決断出来ぬ人間に、頂点には立てない」

 ……なるほど。
 これが最後通牒という奴だろう。
 アリシアはすでに手詰まりとなり、オマケに相手は強力な攻撃手段を持っている。
 諦めて、観念しろ……ということなのだ。
 アリシアはただただ静かに息をしながら、瞳を閉じる。

「――降伏だ」

 周りのバラン公の部隊たちが「は?」という言葉が漏れた。
 アレほどまで一騒動を起こした人物が、簡単に降伏すると口にしたのだ。
 想像に余りある。

「くっくっくっ。はーっはっはっはっはっ!!!」

 バランは大きな声で笑い、アリシアは剣を収めた。

「この国は私のものだ! 私は、ついに王をも超える神となったのだ!」

 アリシアは静かに目を閉じながら顔を下に向けた。
 そんなバランは勝ち誇るかのように大きな笑い声を続ける。

「降伏したことを今から民達に知らせねば」

 バランは目を輝かせ、鉄格子の向こう側を一瞥する。
 さながら希望の未来を見定めたかのように。
 野望が成就した、その瞬間であるかのように。

「さあ、共に参ろうか」

 アリシアに手を差し伸べてきたバラン。
 アリシアはただただ黙って、再び目を閉じる。

 レオンとは腐れ縁だった。
 彼の命が危機であるならば……アリシアは……。
 ただ瞳を閉じて、考えるのは彼のことだった。
 昔から笑い続け、どこか底知れぬ策を考えている。
 誰かの影響かは知らないが、コネを作り、各貴族の情報をやたらめったら調べ尽くした。
 面白いから、アリシアに付いていくなどとほざく。
 底の知れない彼に、いつ寝首を掻かれるか警戒せざるを得なかった。
 どうしてアリシアに付いていくと言っているのか、真意も分からなかった。
 ヴィクトールと結婚することを運命付けられていたアリシアに、その話題になると一言も発しなかった。
 婚約破棄が決まり、処刑されそうになって彼が余計なことをした時。
 その時、どこか表情が穏やかだったのを、なんとなく覚えている。

 士官学校時代からずっと不快だった。
 事あるごとに出てきて、アリシアをおちょくってくるのだ。
 余計なことばっかりをしてくれた。

 そんな彼の命にかかわる。
 なら、アリシアは自ら屈辱としている言葉を発してでも、彼を……。

「ヴェアトリー候嬢。何を考え事をしている?」
「少しばかり――」

 アリシアはバランの手を取らず、腕を組んで……微笑んだ。
 何よりも、美しく。

「嫌な奴のことを思い出していた」

 本当に嫌な奴だ。

「私が“一度足りとも勝てなかった”奴のことだ」

 アリシアは優秀な人間を配下に加える、覇王然とした令嬢だ。
 だが、そんなアリシアにとって、レオンを配下に加えたがらない最大の理由はただ一つ。
 彼が――アリシアよりも上手だからだ。

「お待たせさん」

 ドォオオオオオオオオオオオオオオオンン!!! と轟音が鳴り響いて、壁が崩れた。
 鉄の弾が壁を破壊したのだ。
 ワザワザ鉄格子を破壊せずに壁の方を破壊したのは単なる嫌がらせか。

 その男は、ただ一人。
 ニヤニヤしていた。

「配達、届けに来たぜ。アリシアお嬢様」

 野砲なる煙突状の兵器から煙りが吐かれていた。
 その武器がレオンや、ヴェアトリーの兵士によって、こんなところにまで運ばれている。
 その事実に、バランは忌ま忌ましそうに奥歯を噛みしめている。

「レオン・フォン・フォルカード……!」
「バラン公爵。失礼な入場方法で申し訳ない。ちとばかし、驚かせてやりたくてなァ」

 野砲に足を掛けて、さながら波止場で働く海の男のようなポーズでアリシアを見つめている。
 ――どこまでも不快な男だ。

「で。アリシアお嬢様。なんで剣を納刀したんだ?」
「うるさい奴を待っていた」
「うるさいってひっでェなァ?」
「誰もお前だとは言っていない。……が、その誰かのせいで時間稼ぎのために、屈辱的なコトを言わされた」
「あー。悪い悪い。嘘でもプライド傷つけられる言葉は嫌いだもんな、お前さん」

 で、と指パッチンした後、レオンは人差し指をバランに向けた。

「バラン。人質はすでに王城内にぞろぞろ入っているぜ?」
「何?」
「さすがに老人やら、病に伏せている者たち全員を連れて来るのは難しかったがなァ。そいつらには悪いが、ちとばかし優先順位を下げて貰った。被害ゼロは無理だしなァ」

 本来ならば真っ先に救助しなければいけない対象だったが、同時に救助するのが最も手間が掛かる者たちだ。
 レオンはしたり顔を続ける辺り――その辺もどうにかするつもりなのだろう。

「一応、言っておくけど、野砲を撃つなら奥の手にしておくべきだぜ?」
「…………」
「ここにいる観客の皆様が、王城から砲弾を飛ばしている姿を見せられたら――さすがにブチ切れて、二度目の叛乱が始まるだろうしなァ。そこまで求心力を下げるっつーなら、どうぞって感じだな」
「……くっ」
「最後にヤケクソでやるならいいけど、タイミングはキッチリ考えておけよ。なァ、バラン公爵様?」

 国民に対して攻撃するなど、世間は許しはしない。
 今までは脅しや、多少の誤魔化しが利けども、王城内に国民たちがいれば……さすがにもうどんな言い訳も通用しないだろう。
 アリシアは剣を抜く。

「バラン。そういうことだ。一度はお前がこの国を手に入れたが、次はそうはいかない」

 嘘でも降伏したのだ。
 今のこの国の主は、バラン公である。
 ならば、アリシアが言うことは――一つ。

「お前の国を明け渡せ」

 剣の切っ先をバランに向け、アリシアは己の戦意を全て向ける。
 尖るに尖りきった殺意と、戦うために育ててきた集中力を、総身に宿して。
 バランは静かに笑うと、再び二刀を構えた。

「……ヴェアトリー候嬢!」

 バランは二刀の攻撃をより苛烈に攻めて来る。

「私は……! 私はこの国の王にならねば、良くならないと! 長年、ずっと戦い続けたのだ!」

 右手、左手、回転。
 それらを巧みに混ぜ合わせて、その都度、紐が舞う。
 美しい技だ。
 その美しい技を合図に、銃弾がアリシアに向けて放たれる。

「だが、血縁で王が決まる限り! 私に光は当たらぬ! だから、私は腐敗をどうにかしようと」

 アリシアは剣を鞘に戻して――構える。

「バラン」

 息を吐き、相手の動きに合わせて――剣を抜く!

「お前の妄言は聞き飽きた」

 二刀の隙間を掻い潜るように。
 抜かれたアリシアの剣はバランに逆袈斬りの傷跡をつけた。
 鮮血が宙を舞い、バランの兵士たちが信じられない目つきをしている。
 バランは再び笑い、

「ヴェアトリー候嬢」

 剣を落とし、アリシアをじっと見つめている。

「お前は、私と同じだ」

 ゆっくりと膝から崩れ去るバランは、どこか表情が穏やかだ。

「お前は、全てを失わなかった私と、同じだ……」

 倒れたバランはそのようなことを宣いながら、絶命する。
 アリシアは静かに剣から血を拭うと。

「バラン公。お前は私と同じだ。全てを犠牲にするようになった私と」

 手向けのように、呟いた。
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