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エピローグ
しおりを挟む――レオン。
あの戦いから一年経った。
王国は帝国に改め、初代皇帝にはアリシアが就いた。
新たにフォルカード公の爵位を継いで、内務卿の立場になったレオンだったが、新体制においては貴族のみならず、平民も登用され、事実上の貴族制度は廃止された。
そして、王城内部に設けられている執務室にてレオンは――羽ペンをへし折った。
「――こン国がアリシアのモンになったは良いけどさ……!」
レオンは机の上に並べられた書類の山をひっくり返しながら、叫んだ。
「肝心の皇帝陛下はどこに行ったよ!」
初代皇帝になったまでは良い。
初めは覇道皇帝の異名を取ったも良い。
だが、玉座がほとんど間、不在――もぬけの空だった。
この国の皇帝様は椅子に座るのが大嫌いだったのだ。
不在の間、レオンやアリシアの父親であるヴェアトリー候に任せっぱなしと来た。
そんな荒ぶっているレオンを、気の毒そうに入って来た一人の男は、苦笑いを浮かべている。
「レオン。そう皇帝の悪口を言うものじゃない」
「メルグリス。来てたのか」
農地担当大臣であるメルグリスは、床に散乱した書類を手に取り、薄ら笑いを浮かべている。
メルグリスは初代皇帝陛下が即位すると、すぐさま爵位もナシで農地担当大臣なる新しい役職に押し込められた。
他にも様々な役職をアリシアによって定められ、王城内部は有力諸侯も平民も交えて、いつも大忙しであった。
メルグリスもまた、そんな大忙しに付き合わされている一人だが、本人は不満がなさそうだ。
「彼女は皇帝になった段階で、目的を達成していたのだ」
レオンは机に腕を伸ばしながら突っ伏した。予備の羽根ペンを鼻と口の間で挟んでみるが、それで何も解決しないわけで。
アリシアは政治にはかかわっているが、玉座に座って大人しく事務仕事をするような皇帝陛下ではない。
適材適所に人材を置いて、上手く国が回せれば、後は自分の出来ることを、目で見て、最適化を目指す。それがアリシアという女性なのだ。
「今はどこでほっつき歩いてるかねェ……?」
レオンは窓の外を眺めながら、鳥の動きをボーッと見てた。今度の休暇には引退した父と一緒に釣りにでも行きたいところだ。
――アリシア
アリシアは剣を腰に下げて、王都郊外の森へとやってきた。
「団長! 夜盗の根城っすけど」
ユリゼンの報告に耳を傾けるアリシアは、地図を眺めながら戦況を確認していた。
そんなアリシアの後ろには、アリシアが率いる傭兵団の面々がずらりと並んでいる。
「大した脅威ではないが、黙らせておくか」
アリシアの言葉に傭兵たちは頷いた。
そんなアリシアをユリゼンは、呆れた瞳で見つめながら小声で呟く。
「……なんで身分隠して、世直ししてんっすか?」
ユリゼンが言いたいのは、要するに皇帝の仕事をしろ、ということだ。
「私は私のやり方で覇道を貫くだけだ」
市井では、『下町貴族のアリシアさん』などと呼ばれて、うろちょろしているのが今のアリシアだ。
皇帝として天から国を見るよりも、地道に地べたから世を見て、問題を解決するのが性に合っている。
「夜盗の根城を潰したら、城に戻る。ヴィクトールが下手なことをしない内にな」
「はいっす!」
――ヴィクトール
「だから、オレ様はこの国の王子だ! 分かっているのか!」
ヴィクトールは市井の中で必死に王都奪還のための部隊を集めようとしたが、中々集まらない。
反皇帝派もいるにはいたのだが、アリシアがあっと言う間に懐柔してしまったのだ。
兵士一人一人に話を聞き、アリシア派にならないなら、そのままでも良し。アリシア派になるなら、待遇などもしっかりと話し合ったと言う。
その結果、反皇帝派たちはアリシアとしっかりと話合った結果、過激な者たちは皇帝派に鞍替えし、穏健な者たちは反皇帝派を貫きつつも、目立った行動を移さない。
彼らがどんな思想でアリシア側についたかは知らないし、ヴィクトールには分からない。
唯一分かることは……。
「オレ様はこの国の王子だぞ……! 皇帝など、認めない……! 認めないぞ……!」
ヴィクトールが騒ぐ中、一人のふくよかな女がヴィクトールの襟首を掴んだ。
「早く仕事しな! お金がないから雇ってくれって泣きついてきたのはあんただろう!」
このおばさんはヴィクトールが泣きついた結果、なんとか手に入れた下水掃除の仕事を管理している人だ。
「お、オレ様はこの国の王子だぞ! そんな臭くて汚い、低俗な仕事など――」
「その低俗な仕事でも、帝国の美化問題に直結する誇りある仕事だよ! さあ、働きな!」
「い、嫌だアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
ヴィクトールは一人連れられ、懐に忍ばせていた反乱軍募集のお手製チラシが風に飛ぶ。
頑張って書いたお手製のものなのに……無惨にも風に煽られて、天へと飛んでしまった。
――ヴィクトールは知る由がなかったのだが、彼の行動は既にアリシアによって先に掴まれており、先回りして行動の数々を潰されていることを……ヴィクトールは知る由もなかった。
即ち、このおばさんもまた、ヴィクトールを監視する皇帝の部下なのである。
――アリシア
城に戻ったアリシアは、玉座に戻るが、すぐに支度を始める。
「隣国からテュルソ副首長からの対談の要請だ。空席の外務卿には、市民の中から優れた者を席に着かせる」
アリシアが指示を出しながら支度を進める中、内務卿に命じたレオンがやってきた。
「皇帝陛下。外務卿の席を埋める前に、この優秀な内務卿にも楽な仕事をくれませんかねェ? 旅行とセットになっている仕事がいいなァ」
腕を組みながら壁にもたれ掛る新・内務卿にアリシアは薄らと笑い浮かべる。
「いいだろう。同席するといい」
指パッチンして、同行する気満々のレオンは、手を頭の後ろに回しながらアリシアに付いてくる。
「お世継ぎ、どうするよ。アリシア」
「いらん」
「なんでェ? 考えとけよ」
「血縁である必要はない」
「いや、そんな話じゃなくてさー。あー」
アリシアが不快そうな顔を浮かべたことに、レオンは気が付いたようだ。
「もしかして、ヴィクトールとの世継ぎを産むことがメチャクチャ嫌だったとか」
当たりだ。
害虫を手で潰したようなほど、絶望した顔を浮かべるアリシアに、レオンは笑う。
「あーはっはっはっはっ! 抱かれるとか、そんな話するだけで逃げてたモンなァ、お前さん」
「……手を出される前に婚約破棄されて良かった」
「お前さんに手を出す勇気ある漢はいンのかねェ」
「…………」
「手を出したら、手を斬られそうだ」
わはは、と笑うレオンに、思わずアリシアも薄らと笑い、元・メール領へ向かって歩んでいく。
この国の、未来に向けて……。
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