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第七章 特別な席に座る人
第二十四話
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玲一さんのお酒は美味しい。作ってもらったことが嬉しい。
でも、さすがにちょっと量が多くて……営業課で接待飲みに参加していた頃を思い出す。あの頃も大変だったなあ。私がなんでも飲んじゃうものだから、みんなして面白がってどんどんお酒を勧めてきて……。
「さて、凛ちゃん」
ぐわんぐわんと頭の中で玲一さんの低い声が響く。
目が回る。体が熱い。頭がぜんぜん働かない。
ブラウスの下から入り込んでくる手が、ブラジャーのホックを器用に外す。先っぽをきゅっと乱暴につままれて、はあっと吐き出した吐息にお酒以外の熱がこもる。
まっすぐに前を向くこともできずくたくたになった私の首を、玲一さんの長い指が支えるようにやわく掴んだ。痛い、と思ったのは、たぶん首筋に爪を立てられたからだ。そのまま彼はほんの少しずつ、指先に力を込めていく。
「あの後、あいつとは寝たの?」
鼻先が私の髪をかき分けて、唇が甘く耳たぶを噛む。
痛い――それに、苦しい。うまく息が吸えなくて、浅い呼吸を繰り返しながら、私は必死に首を横に振る。
「本当に?」
本当だ。松岡くんとはご飯を食べて、お酒を飲んで、楽しく喋った。ただそれだけ。
自分の言葉で弁明したいのに、アルコールでドロドロの脳みそが言葉の整理を許さない。身振り手振りで伝えようにも、掴まれている喉の痛みで身動きするのも難しい。
呼吸ができるぎりぎりの握力で私の首を静かに絞める、玲一さんはびっくりするほど優しく綺麗に笑っている。そうしながら瞬きの一つもせず、探るように、暴くように、じっと私の瞳だけをただまっすぐに見つめている。
「……だめだ。全然わかんない。俺やっぱり嘘見抜くの苦手だな」
唐突に喉を解放されたせいで、酸素が一気に全身を巡って唐突に頭が痛くなってきた。
ぜえぜえと息をしながら涙を流す私を見て、玲一さんは唇を寄せてそっと涙を吸い取ってくれる。
何かがおかしい。このままじゃ危険だ。
頭ではちゃんとわかっているのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「おっと」
立ち上がろうとした私の身体を、玲一さんがそっと抱き留めた。触れる身体の温もりは今までとずっと変わらないはずなのに、今日はなぜだかひどく怖くて反射的に離れようとする。
「だぁめ」
腰を強く抱き寄せられて、髪に頬をすり寄せられて。
いつもだったらすごく嬉しいはずのスキンシップが、身体の底を震わすほどの本能的な恐怖を煽る。怖い。逃げたい。でも、甘すぎるほど甘い抱擁が、私が彼から離れていくことを決して許さない。
「俺に寄りかかって。……そう、歩ける? ベッドはこっち。ソファでもいいけど……」
ふらつく私の身体を支えて、耳元から吹き込まれた言葉が脳の奥底に沈んでいく。
「――今夜は狂ってもらうからね」
ひどい頭痛で目が覚めた。
身体が痛い。腰が重い。喉がしびれて声が出せない。
ここはどこだとあたりを見ようとして、すぐ傍からカタンと物音が聞こえた。座布団であぐらをかいてゲームをしていたらしい玲一さんが、ヘッドホンを外しながら私の方を振り返る。
「あ……凛ちゃん」
身体を起こそうとした私を止め、玲一さんは軽く眉を寄せて、
「昨日はごめん」
と素直に頭を下げた。
「調子に乗って、ちょっと無理させすぎたね。身体は大丈夫? 喉は?」
「……いたい、です」
「うわ、声が」
ガッサガサのひどい声。玲一さんは慌てて立ち上がると、ペットボトルの水を持ってきてキャップを開けてくれた。
冷たい水を喉に流しながら、少しずつ昨夜を振り返る。まさか本当に言葉の通りに、おかしくなるまで絶頂させられ続けるとは思わなかった。
どれだけ抗っても与えられる快感。
意思を無視して反応する身体。
人としての矜持が強引に削ぎ落とされていく中で、恐怖と快楽がないまぜになり、私はただただ泣いていた気がする。
大丈夫だと、怖くないと、耳元に唇を這わせながら、呪文みたいに繰り返される優しい声は妙に怖くて。
今までのセックスとは違う、私の奥を無理にでも暴いて書き換えようとする一方的な行為に、最終的に私は負けて、ただ壊れたおもちゃみたいに低い嬌声を上げ続けた。
「……玲一さん」
「なに」
「昨日のは……怖かったです」
昨夜やたらと撫でさすられたおへその下を無意識に押さえる。
皮膚を隔てたずっと奥、自分では手の届かないところが、一晩明かした今でもまだじんじんと疼いている。はっきりと断言はできないけど、私の中で何かが変わった。彼の指が、唇が、私の底で眠っていたものを強引に目覚めさせてしまった。
玲一さんはふっと笑って、私の顔を覗き込んだ。
「ああいうのは、嫌?」
……怖かった。それは事実だ。
でも、嫌……だったのかな。改めて訊ねられると、うまく言葉が出てこない。
うつむいたまま言い淀む私に、玲一さんは小さく笑うと、私の髪をくしゃっと撫でてこめかみにそっとキスをした。
でも、さすがにちょっと量が多くて……営業課で接待飲みに参加していた頃を思い出す。あの頃も大変だったなあ。私がなんでも飲んじゃうものだから、みんなして面白がってどんどんお酒を勧めてきて……。
「さて、凛ちゃん」
ぐわんぐわんと頭の中で玲一さんの低い声が響く。
目が回る。体が熱い。頭がぜんぜん働かない。
ブラウスの下から入り込んでくる手が、ブラジャーのホックを器用に外す。先っぽをきゅっと乱暴につままれて、はあっと吐き出した吐息にお酒以外の熱がこもる。
まっすぐに前を向くこともできずくたくたになった私の首を、玲一さんの長い指が支えるようにやわく掴んだ。痛い、と思ったのは、たぶん首筋に爪を立てられたからだ。そのまま彼はほんの少しずつ、指先に力を込めていく。
「あの後、あいつとは寝たの?」
鼻先が私の髪をかき分けて、唇が甘く耳たぶを噛む。
痛い――それに、苦しい。うまく息が吸えなくて、浅い呼吸を繰り返しながら、私は必死に首を横に振る。
「本当に?」
本当だ。松岡くんとはご飯を食べて、お酒を飲んで、楽しく喋った。ただそれだけ。
自分の言葉で弁明したいのに、アルコールでドロドロの脳みそが言葉の整理を許さない。身振り手振りで伝えようにも、掴まれている喉の痛みで身動きするのも難しい。
呼吸ができるぎりぎりの握力で私の首を静かに絞める、玲一さんはびっくりするほど優しく綺麗に笑っている。そうしながら瞬きの一つもせず、探るように、暴くように、じっと私の瞳だけをただまっすぐに見つめている。
「……だめだ。全然わかんない。俺やっぱり嘘見抜くの苦手だな」
唐突に喉を解放されたせいで、酸素が一気に全身を巡って唐突に頭が痛くなってきた。
ぜえぜえと息をしながら涙を流す私を見て、玲一さんは唇を寄せてそっと涙を吸い取ってくれる。
何かがおかしい。このままじゃ危険だ。
頭ではちゃんとわかっているのに、身体が言うことを聞いてくれない。
「おっと」
立ち上がろうとした私の身体を、玲一さんがそっと抱き留めた。触れる身体の温もりは今までとずっと変わらないはずなのに、今日はなぜだかひどく怖くて反射的に離れようとする。
「だぁめ」
腰を強く抱き寄せられて、髪に頬をすり寄せられて。
いつもだったらすごく嬉しいはずのスキンシップが、身体の底を震わすほどの本能的な恐怖を煽る。怖い。逃げたい。でも、甘すぎるほど甘い抱擁が、私が彼から離れていくことを決して許さない。
「俺に寄りかかって。……そう、歩ける? ベッドはこっち。ソファでもいいけど……」
ふらつく私の身体を支えて、耳元から吹き込まれた言葉が脳の奥底に沈んでいく。
「――今夜は狂ってもらうからね」
ひどい頭痛で目が覚めた。
身体が痛い。腰が重い。喉がしびれて声が出せない。
ここはどこだとあたりを見ようとして、すぐ傍からカタンと物音が聞こえた。座布団であぐらをかいてゲームをしていたらしい玲一さんが、ヘッドホンを外しながら私の方を振り返る。
「あ……凛ちゃん」
身体を起こそうとした私を止め、玲一さんは軽く眉を寄せて、
「昨日はごめん」
と素直に頭を下げた。
「調子に乗って、ちょっと無理させすぎたね。身体は大丈夫? 喉は?」
「……いたい、です」
「うわ、声が」
ガッサガサのひどい声。玲一さんは慌てて立ち上がると、ペットボトルの水を持ってきてキャップを開けてくれた。
冷たい水を喉に流しながら、少しずつ昨夜を振り返る。まさか本当に言葉の通りに、おかしくなるまで絶頂させられ続けるとは思わなかった。
どれだけ抗っても与えられる快感。
意思を無視して反応する身体。
人としての矜持が強引に削ぎ落とされていく中で、恐怖と快楽がないまぜになり、私はただただ泣いていた気がする。
大丈夫だと、怖くないと、耳元に唇を這わせながら、呪文みたいに繰り返される優しい声は妙に怖くて。
今までのセックスとは違う、私の奥を無理にでも暴いて書き換えようとする一方的な行為に、最終的に私は負けて、ただ壊れたおもちゃみたいに低い嬌声を上げ続けた。
「……玲一さん」
「なに」
「昨日のは……怖かったです」
昨夜やたらと撫でさすられたおへその下を無意識に押さえる。
皮膚を隔てたずっと奥、自分では手の届かないところが、一晩明かした今でもまだじんじんと疼いている。はっきりと断言はできないけど、私の中で何かが変わった。彼の指が、唇が、私の底で眠っていたものを強引に目覚めさせてしまった。
玲一さんはふっと笑って、私の顔を覗き込んだ。
「ああいうのは、嫌?」
……怖かった。それは事実だ。
でも、嫌……だったのかな。改めて訊ねられると、うまく言葉が出てこない。
うつむいたまま言い淀む私に、玲一さんは小さく笑うと、私の髪をくしゃっと撫でてこめかみにそっとキスをした。
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