幻魅桃~げんみとう~

秋月みゅんと

文字の大きさ
15 / 18

それからの(1)

しおりを挟む
「紡、アイス食べてかね?」
 いつもの角で、直史は言う。


 夏休み直前の土曜日。
 部活後、一年の部員で昼食を食べに食堂へ行き、解散した後だった。
 太陽が照りつける中、眩しさで目を細めた紡は頷く。

 直史は家に着くと冷蔵庫からアイスの入った箱を取り出すと紡へ向けた。
「どっち?」
 スイカと桃とぶどう味、三種類のスティックアイスが入っていた。
 桃好きな紡は躊躇なく桃のアイスを取った。直史はスイカ味を取り、部屋へと移動した。

「いただきます」
 紡は、嬉しそうに袋を破く。
「お前、桃嫌いにならないの?」
「何で?」
 もはやアイスをほおばっている紡。
「俺はもう……桃が怖い」
 ふいに直史は真顔になる。
「本当に暗示消えてるのか?」
「まだ言うの、それ」
 紡は、小さくため息をついた。
「じゃあ……直史の知らない話、聞きたい?」
「何だよ」
 紡は、もったいつけるようにひと呼吸してから口を開いた。
「亮さ、気づいてた。俺の気持ちに」
「は?」
 直史は一瞬青ざめる。
――それって……ヤバくね?
「俺達、入学してすぐ仲良くなったでしょ? というか、俺が直史にべったりだったんだよね。身長も顔もすっごい羨ましくてさ」
 紡は、アイスをなめる。
 そういえば、と直史は入学当初のことを思い出した。


 紡は「背高いね、バスケに興味ない?」と直史に話しかけてきた。
 部活の見学に行ったのは、紡と直史、亮と健人。今ではお馴染みのメンバーだ。
 三人は同じ中学出身だと言っていた。


「四月の後半くらいだったかな……亮が言ったんだよね。直史見てる時の俺は、恋した顔してるって」
「マジ?」
 紡は、頷く。
「それって……小野寺は四月に気づいたって? ……俺が、鈍いのか?」
「俺も……そんなはずないよって思ってたから……何とも言えない」
――恐るべし小野寺……

「じゃあ……今の状況ってヤバくねぇの?」
「何で?」
「何でって……前より、べったりじゃねぇのか……」
――付き合ってるって状況だしな……
「あぁ、その事だったのかな?」
 紡は、思い出したように言う。
「昨日、亮に言われたんだ。幸せそうだとかなんとか……」
 直史は、むせこんだ。
「ヤバイだろっ! お前そういう事はすぐ言えよっ」
「え、別に。うん、幸せだよって答えたけど……なんか問題あった?」
 直史は頭をかかえた。
「俺、月曜に小野寺と会いたくない……」

 紡の電話が鳴り、メッセージが届く。
「あ、亮だ」
 一瞬にして、直史の顔が凍りつく。
「明日、スポーツセンターに行かないかって。どうする?」
「行けばいいだろ。お前が誘われたんだから」
 やる気ない直史の答えに、紡の声が明るくなる。
「も、もしかしてヤキモチ焼いてる?」
「焼くか!」
――お前の話聞いて、小野寺に会いたくないんだよっ!
「でも、直史も誘えって」
 言って、紡は画面を直史に向けた。
――最悪だ……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。 ※8/10 本編の後に弟ルネとアルフォンソの攻防の話を追加しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...