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第十九話
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ロットは、冒険者になって一年目の頃、四人くらいの初心者パーティーを組んでいた。
まだ冒険者になりたての経験の少ない者は、自分の実力を見誤りやすい。
ロットの所属していたパーティーも例に漏れず、安全マージンの取れていない、危険な依頼の受け方をしていたらしい。
そんな彼らに口うるさく、もっと簡単な依頼を受けた方がいいと言っていたのがウィードだったらしい。
しかし彼らはそれをウザがり、受け入れなかった。
そんなある日、ロットのパーティーが受けた依頼は失敗した。
討伐依頼された魔物との戦闘中、急な天候の変化で集中力が乱された前衛の冒険者が大きな怪我をした。
そして、なし崩し的に危険な状況になったパーティーをウィードが救った。
ウィードに感謝をしてる。そういう話をロットはした。
「だから僕は、ハルサックといて辛そうなウィードさんを見ていられません」
「そんなに辛そうだった?」
「僕にはそう見えました」
「そっかぁ」
ウィードはハルサックといた時のことを思い出して、そんなに分かりやすかったかと、すこし恥ずかしくなった。
「それに僕、何度もハルサックに言ったんですよ! ウィードさんと依頼受けろって。何酷いことしてるんだって。そしたらアイツお前には関係ねぇだろってキレてきて……」
ロットは一度大きくため息をついた。
「だから僕、途中からハルサックを更生させるのを諦めたんです。それで、ウィードさんができる限り早くハルサックに見切りをつけられるように途中から動いてました」
ウィードはなるほどと納得した。
ハルサックとロットは、ウィードが無理矢理ベッドに連れ込まれた日、初めて一緒に依頼を受けると言っていた気がする。
あれだけ仲良く話してたのに、初めてだったのは、そういう理由があったのか。
「ごめんなさい。僕もハルサックと一緒になってウィードさんを傷つけてしまいました」
ロットは深々と頭を下げた。
そして顔を上げ、また口を開く。
ウィードの胸が彼の顔を見て高鳴った。
「なのでウィードさん。ハルサックのいない場所に行きましょう? いつまたあのわがまま野郎がウィードさんに酷いことをするか分かりませんからッ!」
「うーん、嫌っ、かなぁ」
ウィードの気持ちはロットに何を言われたからと言って変わるものではなかった。
「たしかにハルサックは酷いかもっ、しれない。僕も、彼には失望したよ。でもそれでも、んっ、僕にとって彼は英雄でもあるんだ」
息が上がる。
さっきまで全然平気だったのに、何故だか急に暑くなった。
背中になにかゾクゾクした感覚が登ってくる。
「ウィードさん」
名前を呼ぶ声が心地いい。
ロットの顔を見ると、込み上げてくるなにかがある。
この感覚は見に覚えがある。
ハルサックの姿を見ても同じような感覚になることがたまにある。
「ごめんなさい」
ロットはまた謝った。
今日はよく彼に頭を下げられる。
なんでだろう?
なんで彼が謝るんだろう?
謝る必要なんてないのに。
ロットがすることだったら、僕は何でも受け入れるよ?
だって、僕はこんなに彼のことが
ーー好きなのだから。
ウィードの身体は急に平衡感覚を失った。
それをロットに支えられた。
「好き、好きだよ。ロットくん」
ウィードは抱きついて、頭を擦り付ける。
それを見てロットは困ったように眉を下げた。
「うん、ごめんね、ウィードさん。こんなこと本当はするべきじゃないんだけど」
「謝らないで、大丈夫だから。僕はロットくんになら何されてもいいよ」
「ありがとう、ウィードさん。でもやっぱり、ごめんね」
ウィードは頭を横に振り、ロットの言葉を否定した後、彼に顔を近づけた。
あと少しで口と口が触れ合いそうなところまで来て、ロットに顔を逸らされた。
「ウィードさん、眠いでしょ?」
顔を逸らされたことにいっしゅんムッとしたが、それもつかの間。言われて意識してみると猛烈な眠気に襲われる。
「たしかにぃ、ねむぃ……」
ウィードはロットに抱きついて、腕にぎゅうぎゅうと力を入れる。
「はなれ……たくなぃ……」
「はい、ちゃんとそばにいます。だから一度寝てください」
ロットはニコリと微笑んだ。
それを見て安心したウィードは微睡みの中へと意識を手放した。
まだ冒険者になりたての経験の少ない者は、自分の実力を見誤りやすい。
ロットの所属していたパーティーも例に漏れず、安全マージンの取れていない、危険な依頼の受け方をしていたらしい。
そんな彼らに口うるさく、もっと簡単な依頼を受けた方がいいと言っていたのがウィードだったらしい。
しかし彼らはそれをウザがり、受け入れなかった。
そんなある日、ロットのパーティーが受けた依頼は失敗した。
討伐依頼された魔物との戦闘中、急な天候の変化で集中力が乱された前衛の冒険者が大きな怪我をした。
そして、なし崩し的に危険な状況になったパーティーをウィードが救った。
ウィードに感謝をしてる。そういう話をロットはした。
「だから僕は、ハルサックといて辛そうなウィードさんを見ていられません」
「そんなに辛そうだった?」
「僕にはそう見えました」
「そっかぁ」
ウィードはハルサックといた時のことを思い出して、そんなに分かりやすかったかと、すこし恥ずかしくなった。
「それに僕、何度もハルサックに言ったんですよ! ウィードさんと依頼受けろって。何酷いことしてるんだって。そしたらアイツお前には関係ねぇだろってキレてきて……」
ロットは一度大きくため息をついた。
「だから僕、途中からハルサックを更生させるのを諦めたんです。それで、ウィードさんができる限り早くハルサックに見切りをつけられるように途中から動いてました」
ウィードはなるほどと納得した。
ハルサックとロットは、ウィードが無理矢理ベッドに連れ込まれた日、初めて一緒に依頼を受けると言っていた気がする。
あれだけ仲良く話してたのに、初めてだったのは、そういう理由があったのか。
「ごめんなさい。僕もハルサックと一緒になってウィードさんを傷つけてしまいました」
ロットは深々と頭を下げた。
そして顔を上げ、また口を開く。
ウィードの胸が彼の顔を見て高鳴った。
「なのでウィードさん。ハルサックのいない場所に行きましょう? いつまたあのわがまま野郎がウィードさんに酷いことをするか分かりませんからッ!」
「うーん、嫌っ、かなぁ」
ウィードの気持ちはロットに何を言われたからと言って変わるものではなかった。
「たしかにハルサックは酷いかもっ、しれない。僕も、彼には失望したよ。でもそれでも、んっ、僕にとって彼は英雄でもあるんだ」
息が上がる。
さっきまで全然平気だったのに、何故だか急に暑くなった。
背中になにかゾクゾクした感覚が登ってくる。
「ウィードさん」
名前を呼ぶ声が心地いい。
ロットの顔を見ると、込み上げてくるなにかがある。
この感覚は見に覚えがある。
ハルサックの姿を見ても同じような感覚になることがたまにある。
「ごめんなさい」
ロットはまた謝った。
今日はよく彼に頭を下げられる。
なんでだろう?
なんで彼が謝るんだろう?
謝る必要なんてないのに。
ロットがすることだったら、僕は何でも受け入れるよ?
だって、僕はこんなに彼のことが
ーー好きなのだから。
ウィードの身体は急に平衡感覚を失った。
それをロットに支えられた。
「好き、好きだよ。ロットくん」
ウィードは抱きついて、頭を擦り付ける。
それを見てロットは困ったように眉を下げた。
「うん、ごめんね、ウィードさん。こんなこと本当はするべきじゃないんだけど」
「謝らないで、大丈夫だから。僕はロットくんになら何されてもいいよ」
「ありがとう、ウィードさん。でもやっぱり、ごめんね」
ウィードは頭を横に振り、ロットの言葉を否定した後、彼に顔を近づけた。
あと少しで口と口が触れ合いそうなところまで来て、ロットに顔を逸らされた。
「ウィードさん、眠いでしょ?」
顔を逸らされたことにいっしゅんムッとしたが、それもつかの間。言われて意識してみると猛烈な眠気に襲われる。
「たしかにぃ、ねむぃ……」
ウィードはロットに抱きついて、腕にぎゅうぎゅうと力を入れる。
「はなれ……たくなぃ……」
「はい、ちゃんとそばにいます。だから一度寝てください」
ロットはニコリと微笑んだ。
それを見て安心したウィードは微睡みの中へと意識を手放した。
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