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 無駄に大きいソファはガタイのいい嶺二が四つん這いの姿勢になっても窮屈ではなかった。その四つん這いを下から見ている僕はこの状況を何も把握出来ていない。絶賛困惑中だ。

「え、えっと……嶺二?」

 返事は返ってこない。黙ったまま僕の寝巻きのボタンを一つずつ外している。伏し目がちな嶺二の瞳からは感情が読み取れない。怒っているのか、何を考えているのか、よく分からない。
 上半身はすぐに脱がされ寝巻きは嶺二の手により床に放り出された。その手には僕の寝巻きの代わりに紐が掴まれている。ここまでくれば嶺二がこれから何をしようとしているのか分かってしまう。
 硬直していた身体が反射的に起き上がり僕は逃げようとする。服を脱がされていた時は馬乗りになられていたが、紐を取るために身体を浮かせていた嶺二の股下からするりと抜け出すことができた。
 自室に向かって走る。

────なんでなんでなんで!…これも………僕のせい?

 ふと、そんな思考に陥る。反射的に逃げてきてしまったが今の状況を引き起こしたのは自分自身だ。僕がアイドルを辞めると言ったから、何故か嶺二がこんな行動に出た。

 この状況を受け入れるべきなのかもしれない。現実逃避するように逃げ出したけど、さっきまで殴られる覚悟はしていたのだ。この件で怒らせたなら何をされても仕方がないと腹を括っていたつもりだった。

────なんで僕は逃げてるの?

 そう思うと僕の足は止まっていた。するとすぐに追いかけてきていた嶺二に手首を強く掴まれる。そして手首を起点として僕の体を縫い付けるように壁に押し付けた。少し勢いがあった為背中を殴打し、痛みに顔をしかめる。間近にきた嶺二の目と目があう。その瞳には怒りや焦燥感、悲しみや諦めといった色んな感情がごちゃ混ぜになっているようだった。しかしそれ以上に熱を孕んでおり、暴力的な獣がその瞳を乗っ取ろうとしているようだった。

「逃げるな…逃げるなよ。優しく出来なくなるだろ…………。いや、無理か。」

 何かに耐えるように震えた声が頭上から聞こえた。その声は最後は諦めたように投げやりになった。嶺二の顔を見ようと自分の意思で上を見上げる前に顎を乱暴に掴まれ顔を上げさせられる。その瞬間嶺二の顔が急接近し、口付けられる。噛みつかれるようなその口付けに僕の身体はピクリと反応し、強ばった。
 そんな僕のことはお構いなしに嶺二は口内を乱暴に犯す、犯す、犯す。

「んっ、ふっ……んんっ……はっ……んっ、んっ。」

 生理的な涙が頬を伝う。掴まれた顎を起点に顔の角度を変えられ口内の至るところ、奥深くまで侵食される。長いキスにより分泌される唾液はヨダレとなって垂れる。顎を掴む指が濡れているようだが外される気配はない。
 ジンジンと口内が、舌が痺れ、快楽を強制的に引き出される。舌を絡め取られ、甘噛みされ身体がビクビクと反応する。顔と下半身に熱が集まる。頬は上気し、下半身は少しずつ反応を示し始めてしまった。快楽を拾う身体をどうにか沈めたいが次から次へと刺激が与えられ脚と脚をスリスリと擦り合わせるだけで終わる。

「んっ……ふはっんんっ…………んっ。」

 一瞬口付けが解かれ、頑張って酸素を取り込むもすぐにまた塞がれる。掴まれていない方の手は嶺二の胸の辺りにあるが、キスが激しくなってからは力が入らなくなっていた。
 次第に身体全体が快楽に震え、力が入らなくなっていく。がくりと膝から崩れ落ちそうになる前に腰に手が添えられ支えられる。逃げることは許さない、と言うように立つことを強制され脚がガクガクと小さく震えながらもキスからは解放されない。

 想像していたファーストキスとはかけ離れたものになってしまった。嶺二とのキスは何度も妄想したことがある。当たり前だ。小学生の頃からの長い長い片想いなのだから。嶺二はいつも優しいから恋人には優しく丁寧な口付けをするのだろうと思っていたのだ。

 あっ、そっか。これは恋人のキスなわけじゃないもんね。僕への八つ当たり…かな?なんでこんな方法を選んだんだろう。もしかして……もしかしてだけど僕の気持ち…バレてた……………?
 いや、そんなわけないか。きっと性欲が溜まっているんだ。発散する場もないし一人だけ解放されようとしているのが気に入らないのかもしれない。

 小さい頃からの妄想とはかけ離れた激しいディープキスに僕の呼吸が困難になってきたところで解放された。たかだかキス一つなのに呼吸は荒らく、身体に力が入らない。解放された瞬間に口呼吸で酸素を脳に送り込むも、未だに思考は散漫としており、頭がボーッとする。
 僕の身体には完全に力が入らなくなっていて手首と腰も解放された瞬間膝から床に崩れ落ちた。肩で必死に息をする僕を上から嶺二が見下ろしていた気がする。



 酸欠でボーッとしていたからか、気づいたらベッドの上にいた。内装的に嶺二の自室らしい。両手は頭上で拘束され、目の前には先程リビングに持ってきていた箱を手に持っている嶺二がいる。

 口内がジンジンと痺れ舌がピクリと痙攣している。キスをされている最中のことは思考が散漫としていた為あまり覚えていないが感触だけは残っている。キスされたことを実感して今更ながら鼓動が早くなる。

 妄想とはかけ離れた荒々しいキスでも嶺二とできたのだ。嬉しくないわけではない。しかし、嶺二の理性が溶けていくような熱を孕んだ瞳が怖い。このまま取って食われてしまいそうな。
 

 ズボンとパンツを脱がされると緩く立ち上がったペニスが存在を主張していた。僕はそれを隠そうと反射的に両手を股間の所に持っていき、脚は揃えて伸びていた脚を曲げる。嶺二はそんな僕の手を頭上に戻し、さらにベッドに固定させた。その後、脚と脚の間に強引に割って入り、僕にM字開脚をさせた。

 僕の何もかもが嶺二の目に映るような姿になってしまい、羞恥でさらに顔が紅くなる。

「ぃ、ぃやっ………ゃっ……ゃめてっ…………。」

 自分の口から思った以上にか細い声が出る。耐えきれず手をゴソゴソと動かし、抵抗しようとするもそれは叶わず、脚を閉じようとしても嶺二の脇腹を挟むだけに終わってしまう。

 そんな僕の声は届いていないのか視線をちらりとも寄越さず身体を視姦している。明らかにその視線には性欲が混じっていてそれを理解した瞬間背中にぞくりとした快感が走る。「ひっ…。」という声を漏らしその快感をやり過ごすと自分の乳首に視線を集中させる嶺二の視線に気づいた。視線を意識した胸の突起が段々と存在を主張し始める。僕の身体は微かな快楽を拾いながらも焦らされ続けてペニスは完全に勃起してしまった。

 唐突に嶺二はスマホを取り出した。スマホを構えたと思ったらパシャリと音が鳴る。レンズ越しの視線が一際強くなった瞬間を感じ、一瞬遅れて身体が反応する。

ゾクゾクゾクッ

「えっ?……ひっ、ひゃあぁっ…。」

 大きな快楽の波が僕の身体を襲い、小さい悲鳴が口から零れるとビクビクと身体が痙攣する。
 
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