12 / 43
第12話 廃校舎も再利用される時代
しおりを挟む
「おばあちゃんはもういないって」
仕方なく、悠人が昨日と今日のやり取りを伝えることになった。老人ホームで廃校舎に住んでいる人の噂が出ている。しかも奇妙な音がするらしいと、昨日聞いたままを伝えた。すると和臣はますます解らないなと、茶漬けを啜りながら首を捻る。よく喉に詰まらないものだ。
「不審者は廃校に住み、そして白衣を着て奇異な音を立てている。ということだな」
「うん」
「それだけ聞くと、今流行りのベンチャー企業かなとも思うけど、不審者扱いはされないか」
「えっ」
「それに、その場合は周辺住民が知っているはずだし、何だろうな。ちょっと違和感があるか」
いやいや、今の情報でどうしてベンチャー企業に辿り着くのか。まずそこを知りたい。普通に考えるとマッドサイエンティストかなと思うだろうに。そういう発想には全くならなかったのか。
「どうしてって、廃校を利用して生ハムを作ったりキャビアを作ったりと、今はベンチャー企業や地元の人たちによって再利用されるケースが多いんだよ。缶詰工場というのも聞いたことがあるな。だからさ、目撃情報と合致するにはそういうものだろうと想像してしまったんだ」
「はあ」
そういうのがすでにあるんだと、高校生は知らない情報をさらっと出してくる和臣に感心してしまう。というか、どうして学校が食品工場に代わるのか。それも解らない。
「そして内部を工場として使っているのならば、奇妙な音や白衣というのは、すぐに説明がつくだろ。何かを作っているならば音が鳴るし、食品を扱っているならば白衣を着ている可能性が高い。怪しさはゼロになる」
「なるほどねえ。内臓を取り出すというのも、それで説明できちゃうか。魚やお肉を加工している過程がオーバーに表現されているだけってなるもんね。でもそれなら、お年寄りが面白おかしく噂しないよね。やっぱり変だよ」
「そうだな。一体何を考えて面白く脚色しているのか。その真相を知るためにも、現地に行って見てみるというのは、だから必要だろうな」
工場ではなく不審者が何かやっている。それに、見事に食いつく和臣だ。さすが、推理小説を愛読しているだけのことはある。まだ和臣が漬物を齧っていたので、ついでとばかりにそれを確認した。
「和臣さんって推理小説が好きだったんだね」
「ああ、推理小説ね。頭の体操になるというか、意外と理系の内容がしっかりと書いてあるからな。SFより好きだよ。トリックなんかも科学的にしっかりしているものが多いから興味深い」
すると、さらっとそんな答えが返ってくる。なるほど、推理小説もまた勉強に役立つということか。しかし、そんな視点で推理小説を読んでいる人なんているのか。それだけは疑問だ。やはり和臣はどこか特殊なのだろう。
それはともかく、こうして和臣と二人で出かけることになった。しかも散歩ではなく、和臣の運転する車での移動となり、暑い最中に歩く必要もなく快適になるのだった。
旧駅にも寄りたいと和臣に話すと、久しぶりに寄ってみるかとあっさりと了承が得られた。昨日は沙希が運転していた薄ピンク色の軽自動車に二人で乗り込み、まずは旧駅へと寄ることになる。
「久々の運転だから肩慣らしも兼ねて寄り道もしておくべきだ」
了承した理由を訊くと、運転の勘を取り戻すためとの答えが返ってくる。実家付近では必要な運転免許も東京では必要ないから困るところだと、和臣はエンジンを掛けながらぼやいた。普段は運転なんて全くしないという。因みに昨日は空港から家までタクシーを使ったそうだ。
「都会だと公共交通機関がしっかりしていて必要ないもんな。この辺だと電車って一時間に二本くらいだし、バスもそんなに走ってないし、車が必要だって俺でも思うよ。でも、俺が住んでいる近所は車がなきゃ困るってことはないや。駐車する場所も多くないってよくお父さんがぼやいてるくらいだし、東京だったら余計にそうだよね」
「そのとおり。都会は渋滞が多いし駐車場は高いしでデメリットが多い。車を維持するだけでも大変だからな。この辺は道は空いているから、のろのろ運転でも大丈夫だろう。ゆっくりしか進まないからそのつもりで」
「はい」
日差しの中を歩かないだけでラッキーだと思っている悠人からすれば、車の速度なんて大した問題ではない。しかもこの軽自動車はオートマだ。よほどのことがない限りエンストはしない。
「そう安心するのは早いぞ」
和臣は慎重に車をスタートさせ、まずは最初の難関、家の敷地から出ることに集中した。舗装されていない道だし、玄関脇から道路へ出る道は細くて、ちょっと横にずれると畑だ。下手すると車輪が畑側に落ちて大変なことになる。そこをのろのろと進んで無事に出ると、後は普通の県道だ。
仕方なく、悠人が昨日と今日のやり取りを伝えることになった。老人ホームで廃校舎に住んでいる人の噂が出ている。しかも奇妙な音がするらしいと、昨日聞いたままを伝えた。すると和臣はますます解らないなと、茶漬けを啜りながら首を捻る。よく喉に詰まらないものだ。
「不審者は廃校に住み、そして白衣を着て奇異な音を立てている。ということだな」
「うん」
「それだけ聞くと、今流行りのベンチャー企業かなとも思うけど、不審者扱いはされないか」
「えっ」
「それに、その場合は周辺住民が知っているはずだし、何だろうな。ちょっと違和感があるか」
いやいや、今の情報でどうしてベンチャー企業に辿り着くのか。まずそこを知りたい。普通に考えるとマッドサイエンティストかなと思うだろうに。そういう発想には全くならなかったのか。
「どうしてって、廃校を利用して生ハムを作ったりキャビアを作ったりと、今はベンチャー企業や地元の人たちによって再利用されるケースが多いんだよ。缶詰工場というのも聞いたことがあるな。だからさ、目撃情報と合致するにはそういうものだろうと想像してしまったんだ」
「はあ」
そういうのがすでにあるんだと、高校生は知らない情報をさらっと出してくる和臣に感心してしまう。というか、どうして学校が食品工場に代わるのか。それも解らない。
「そして内部を工場として使っているのならば、奇妙な音や白衣というのは、すぐに説明がつくだろ。何かを作っているならば音が鳴るし、食品を扱っているならば白衣を着ている可能性が高い。怪しさはゼロになる」
「なるほどねえ。内臓を取り出すというのも、それで説明できちゃうか。魚やお肉を加工している過程がオーバーに表現されているだけってなるもんね。でもそれなら、お年寄りが面白おかしく噂しないよね。やっぱり変だよ」
「そうだな。一体何を考えて面白く脚色しているのか。その真相を知るためにも、現地に行って見てみるというのは、だから必要だろうな」
工場ではなく不審者が何かやっている。それに、見事に食いつく和臣だ。さすが、推理小説を愛読しているだけのことはある。まだ和臣が漬物を齧っていたので、ついでとばかりにそれを確認した。
「和臣さんって推理小説が好きだったんだね」
「ああ、推理小説ね。頭の体操になるというか、意外と理系の内容がしっかりと書いてあるからな。SFより好きだよ。トリックなんかも科学的にしっかりしているものが多いから興味深い」
すると、さらっとそんな答えが返ってくる。なるほど、推理小説もまた勉強に役立つということか。しかし、そんな視点で推理小説を読んでいる人なんているのか。それだけは疑問だ。やはり和臣はどこか特殊なのだろう。
それはともかく、こうして和臣と二人で出かけることになった。しかも散歩ではなく、和臣の運転する車での移動となり、暑い最中に歩く必要もなく快適になるのだった。
旧駅にも寄りたいと和臣に話すと、久しぶりに寄ってみるかとあっさりと了承が得られた。昨日は沙希が運転していた薄ピンク色の軽自動車に二人で乗り込み、まずは旧駅へと寄ることになる。
「久々の運転だから肩慣らしも兼ねて寄り道もしておくべきだ」
了承した理由を訊くと、運転の勘を取り戻すためとの答えが返ってくる。実家付近では必要な運転免許も東京では必要ないから困るところだと、和臣はエンジンを掛けながらぼやいた。普段は運転なんて全くしないという。因みに昨日は空港から家までタクシーを使ったそうだ。
「都会だと公共交通機関がしっかりしていて必要ないもんな。この辺だと電車って一時間に二本くらいだし、バスもそんなに走ってないし、車が必要だって俺でも思うよ。でも、俺が住んでいる近所は車がなきゃ困るってことはないや。駐車する場所も多くないってよくお父さんがぼやいてるくらいだし、東京だったら余計にそうだよね」
「そのとおり。都会は渋滞が多いし駐車場は高いしでデメリットが多い。車を維持するだけでも大変だからな。この辺は道は空いているから、のろのろ運転でも大丈夫だろう。ゆっくりしか進まないからそのつもりで」
「はい」
日差しの中を歩かないだけでラッキーだと思っている悠人からすれば、車の速度なんて大した問題ではない。しかもこの軽自動車はオートマだ。よほどのことがない限りエンストはしない。
「そう安心するのは早いぞ」
和臣は慎重に車をスタートさせ、まずは最初の難関、家の敷地から出ることに集中した。舗装されていない道だし、玄関脇から道路へ出る道は細くて、ちょっと横にずれると畑だ。下手すると車輪が畑側に落ちて大変なことになる。そこをのろのろと進んで無事に出ると、後は普通の県道だ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる