悩みの夏は小さな謎とともに

渋川宙

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第12話 廃校舎も再利用される時代

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「おばあちゃんはもういないって」
 仕方なく、悠人が昨日と今日のやり取りを伝えることになった。老人ホームで廃校舎に住んでいる人の噂が出ている。しかも奇妙な音がするらしいと、昨日聞いたままを伝えた。すると和臣はますます解らないなと、茶漬けを啜りながら首を捻る。よく喉に詰まらないものだ。
「不審者は廃校に住み、そして白衣を着て奇異な音を立てている。ということだな」
「うん」
「それだけ聞くと、今流行りのベンチャー企業かなとも思うけど、不審者扱いはされないか」
「えっ」
「それに、その場合は周辺住民が知っているはずだし、何だろうな。ちょっと違和感があるか」
 いやいや、今の情報でどうしてベンチャー企業に辿り着くのか。まずそこを知りたい。普通に考えるとマッドサイエンティストかなと思うだろうに。そういう発想には全くならなかったのか。
「どうしてって、廃校を利用して生ハムを作ったりキャビアを作ったりと、今はベンチャー企業や地元の人たちによって再利用されるケースが多いんだよ。缶詰工場というのも聞いたことがあるな。だからさ、目撃情報と合致するにはそういうものだろうと想像してしまったんだ」
「はあ」
 そういうのがすでにあるんだと、高校生は知らない情報をさらっと出してくる和臣に感心してしまう。というか、どうして学校が食品工場に代わるのか。それも解らない。
「そして内部を工場として使っているのならば、奇妙な音や白衣というのは、すぐに説明がつくだろ。何かを作っているならば音が鳴るし、食品を扱っているならば白衣を着ている可能性が高い。怪しさはゼロになる」
「なるほどねえ。内臓を取り出すというのも、それで説明できちゃうか。魚やお肉を加工している過程がオーバーに表現されているだけってなるもんね。でもそれなら、お年寄りが面白おかしく噂しないよね。やっぱり変だよ」
「そうだな。一体何を考えて面白く脚色しているのか。その真相を知るためにも、現地に行って見てみるというのは、だから必要だろうな」
 工場ではなく不審者が何かやっている。それに、見事に食いつく和臣だ。さすが、推理小説を愛読しているだけのことはある。まだ和臣が漬物を齧っていたので、ついでとばかりにそれを確認した。
「和臣さんって推理小説が好きだったんだね」
「ああ、推理小説ね。頭の体操になるというか、意外と理系の内容がしっかりと書いてあるからな。SFより好きだよ。トリックなんかも科学的にしっかりしているものが多いから興味深い」
 すると、さらっとそんな答えが返ってくる。なるほど、推理小説もまた勉強に役立つということか。しかし、そんな視点で推理小説を読んでいる人なんているのか。それだけは疑問だ。やはり和臣はどこか特殊なのだろう。
 それはともかく、こうして和臣と二人で出かけることになった。しかも散歩ではなく、和臣の運転する車での移動となり、暑い最中に歩く必要もなく快適になるのだった。



 旧駅にも寄りたいと和臣に話すと、久しぶりに寄ってみるかとあっさりと了承が得られた。昨日は沙希が運転していた薄ピンク色の軽自動車に二人で乗り込み、まずは旧駅へと寄ることになる。
「久々の運転だから肩慣らしも兼ねて寄り道もしておくべきだ」
 了承した理由を訊くと、運転の勘を取り戻すためとの答えが返ってくる。実家付近では必要な運転免許も東京では必要ないから困るところだと、和臣はエンジンを掛けながらぼやいた。普段は運転なんて全くしないという。因みに昨日は空港から家までタクシーを使ったそうだ。
「都会だと公共交通機関がしっかりしていて必要ないもんな。この辺だと電車って一時間に二本くらいだし、バスもそんなに走ってないし、車が必要だって俺でも思うよ。でも、俺が住んでいる近所は車がなきゃ困るってことはないや。駐車する場所も多くないってよくお父さんがぼやいてるくらいだし、東京だったら余計にそうだよね」
「そのとおり。都会は渋滞が多いし駐車場は高いしでデメリットが多い。車を維持するだけでも大変だからな。この辺は道は空いているから、のろのろ運転でも大丈夫だろう。ゆっくりしか進まないからそのつもりで」
「はい」
 日差しの中を歩かないだけでラッキーだと思っている悠人からすれば、車の速度なんて大した問題ではない。しかもこの軽自動車はオートマだ。よほどのことがない限りエンストはしない。
「そう安心するのは早いぞ」
 和臣は慎重に車をスタートさせ、まずは最初の難関、家の敷地から出ることに集中した。舗装されていない道だし、玄関脇から道路へ出る道は細くて、ちょっと横にずれると畑だ。下手すると車輪が畑側に落ちて大変なことになる。そこをのろのろと進んで無事に出ると、後は普通の県道だ。
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