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第1話 不思議な青年
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京都の夏は暑いとよく聞くけど、本当に暑い。それもまだ5月なのに。
そう思うのは、5月の日差しを恨めしそうに見上げた奥山愛佳だ。愛知県出身の彼女は、どうせどこも暑いし、名古屋だって暑いわよと思っていたが、この蒸し暑さには辟易していた。暑さの性質が違うことを、誰もちゃんと説明してくれなかった。
今年から京都の上京区にある私立大学、同盟館大学に進学した愛佳は、一人暮らしの真っ最中。そろそろエアコンを使わないと拙いのかな、そうなると電気代はと、色々な心配が押し寄せてくる。
が、それにしても暑い。こうなったら、いつも通りに図書館のお世話になろう。そう思って、足早に図書館を目指す。図書館は京都御所側の端っこにある。今いる場所から少し歩くが、図書館の魅力を前に、そのくらいの労力は惜しまない。
というのも、文学部のそれも史学科に通う彼女は、当然ながらこの図書館がお気に入りだ。蔵書数は一万点を超え、中は清潔で涼しくて快適。自習スペースも充実している。至れり尽くせりの場所なのだ。
毎日のようにここに通い、本に囲まれてうっとりしている。それが愛佳の日常だった。
「ふう」
入り口のゲートに学生証を翳し、無事に入館。入った途端にエアコンの心地いい涼しい風に迎えられ、ほっと一息吐く。
さて、今日はどこから見ようか。そんなことを思って図書館の中をきょろきょろと見渡す。
それほど利用者もなく、今はとても広々としている。試験時期ならいざ知らず、図書館とは概ね空いている場所だ。それがいいか悪いか。愛佳は興味がない。この空間が居心地がいい。それだけで十分だった。
「いた」
そして、それだけ少ない人数だから、毎日のように利用している人というのは、なんとなく顔を覚えてしまうものだ。そしてその一人が、今見つけた人物。
すらっと背が高く、薄茶色の髪が特徴的な青年だ。いつも、何か本を読んでいる。今日も窓際の席で、ゆったりと本を読んでいた。そうやって本を読む俯いた顔しか見たことがないが、なかなかのイケメンだと愛佳はつい、彼を探してしまう。
「でも、何年生なんだろう。というか、何学部。ああ、色々と知りたい。でも、声を掛けるのはなあ」
というのが、最近の愛佳の悩みでもあった。図書館で見つけた、ミステリアス男子。なんてそそられる。そのまま何か物語が始まりそうとか、少女のように胸を高鳴らせてしまう。
が、現実は、そのミステリアスさが邪魔をして、声を掛ける隙すらない。一体、彼は何者なのだろう。
「そういえば、いつ見てもいるし」
愛佳は毎日のようにやって来ているが、それは講義の空き時間であったり、朝早くだったり、もしくは帰る前だったりと色々だ。1日に1回しか来ない日もあれば、何度も来る日もある。
そして、そのたびに彼はいるのだ。いつも何か本を読んでいる。ひょっとして、講義に出ずにずっと本を読んでいるのだろうか。
「それって、単位を落とすよなあ」
愛佳は書架の本の背表紙を眺めながら、お節介なことを考える。と、丁度良く、探してた本を発見した。
「これこれ」
愛佳は生粋の日本史マニアでもある。この大学に入って、図書館にある好きなジャンルの本を手当たり次第に読んでいるほどだ。今日見つけたのも、戦国武将の黒田官兵衛についての本だった。
「ま、本物は大河ドラマみたいではないんだろうけど」
そんなことを思いつつ、ウキウキと閲覧スペースへと行く。すると、先ほどの青年がまだ本を読んでいるのが目に入った。
「――」
いつも、チャンスと同じ並びの椅子に腰掛け本を読む。でも、自分も読書に没頭してしまって、声を掛けることはない。それでも、その時間を楽しむようにしている。
悲しいかな。現実の男よりも戦国武将や歴上の人物に興味がある。だから、このくらいの距離感で、勝手に本好き仲間と思っているくらいが丁度いい。
そう思うのは、5月の日差しを恨めしそうに見上げた奥山愛佳だ。愛知県出身の彼女は、どうせどこも暑いし、名古屋だって暑いわよと思っていたが、この蒸し暑さには辟易していた。暑さの性質が違うことを、誰もちゃんと説明してくれなかった。
今年から京都の上京区にある私立大学、同盟館大学に進学した愛佳は、一人暮らしの真っ最中。そろそろエアコンを使わないと拙いのかな、そうなると電気代はと、色々な心配が押し寄せてくる。
が、それにしても暑い。こうなったら、いつも通りに図書館のお世話になろう。そう思って、足早に図書館を目指す。図書館は京都御所側の端っこにある。今いる場所から少し歩くが、図書館の魅力を前に、そのくらいの労力は惜しまない。
というのも、文学部のそれも史学科に通う彼女は、当然ながらこの図書館がお気に入りだ。蔵書数は一万点を超え、中は清潔で涼しくて快適。自習スペースも充実している。至れり尽くせりの場所なのだ。
毎日のようにここに通い、本に囲まれてうっとりしている。それが愛佳の日常だった。
「ふう」
入り口のゲートに学生証を翳し、無事に入館。入った途端にエアコンの心地いい涼しい風に迎えられ、ほっと一息吐く。
さて、今日はどこから見ようか。そんなことを思って図書館の中をきょろきょろと見渡す。
それほど利用者もなく、今はとても広々としている。試験時期ならいざ知らず、図書館とは概ね空いている場所だ。それがいいか悪いか。愛佳は興味がない。この空間が居心地がいい。それだけで十分だった。
「いた」
そして、それだけ少ない人数だから、毎日のように利用している人というのは、なんとなく顔を覚えてしまうものだ。そしてその一人が、今見つけた人物。
すらっと背が高く、薄茶色の髪が特徴的な青年だ。いつも、何か本を読んでいる。今日も窓際の席で、ゆったりと本を読んでいた。そうやって本を読む俯いた顔しか見たことがないが、なかなかのイケメンだと愛佳はつい、彼を探してしまう。
「でも、何年生なんだろう。というか、何学部。ああ、色々と知りたい。でも、声を掛けるのはなあ」
というのが、最近の愛佳の悩みでもあった。図書館で見つけた、ミステリアス男子。なんてそそられる。そのまま何か物語が始まりそうとか、少女のように胸を高鳴らせてしまう。
が、現実は、そのミステリアスさが邪魔をして、声を掛ける隙すらない。一体、彼は何者なのだろう。
「そういえば、いつ見てもいるし」
愛佳は毎日のようにやって来ているが、それは講義の空き時間であったり、朝早くだったり、もしくは帰る前だったりと色々だ。1日に1回しか来ない日もあれば、何度も来る日もある。
そして、そのたびに彼はいるのだ。いつも何か本を読んでいる。ひょっとして、講義に出ずにずっと本を読んでいるのだろうか。
「それって、単位を落とすよなあ」
愛佳は書架の本の背表紙を眺めながら、お節介なことを考える。と、丁度良く、探してた本を発見した。
「これこれ」
愛佳は生粋の日本史マニアでもある。この大学に入って、図書館にある好きなジャンルの本を手当たり次第に読んでいるほどだ。今日見つけたのも、戦国武将の黒田官兵衛についての本だった。
「ま、本物は大河ドラマみたいではないんだろうけど」
そんなことを思いつつ、ウキウキと閲覧スペースへと行く。すると、先ほどの青年がまだ本を読んでいるのが目に入った。
「――」
いつも、チャンスと同じ並びの椅子に腰掛け本を読む。でも、自分も読書に没頭してしまって、声を掛けることはない。それでも、その時間を楽しむようにしている。
悲しいかな。現実の男よりも戦国武将や歴上の人物に興味がある。だから、このくらいの距離感で、勝手に本好き仲間と思っているくらいが丁度いい。
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