図書館に棲む落ちこぼれの神様

渋川宙

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第2話 気になるけど…

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「ま、向こうは迷惑かもしれないけど」
 そんなことを思いつつ、本を開いていた。その気になる青年が自分をちらっと見たことにさえ、気づかずに。



 そのまま、同じような時間が1週間ほど過ぎた頃。
「あっ」
 かの青年が本を探しているところを目撃した。いつもは本を読んでいるところしか見ていなかったから、本を選んでいるところを見るのは初めてだ。
「ううん。何学部?」
 せめてそれくらいは知れないだろうか。そう思って青年の背中を見つめてしまう。向かったのは、経済学系の本が置いてある本棚だ。
「え? 似合わないなあ。それに昨日は、毒物に関しての本を読んでなかったっけ」
 たまたま、普段は見えない書名が昨日は見えたのだ。これは欠かさずに青年を観察していた成果だった。だから理系なのかなと思っていたのだが。
「解らないな。ま、何でも読むタイプなのかも」
 愛佳には無理だが、そういうタイプの人もいる。どういうジャンルでも掛かってこいというタイプ。
「ああ、それなら羨ましいかも。私って理系要素出てくると眠くなるのよね」
 とか、勝手なことを思うのは愛佳の日課になっていた。これはもう、片想いに近い状態だが、愛佳は無自覚にやっている。
 そして気になると思いつつも、しっかり自分の本を選ぶのに余念がないのだから仕方がない。なかなか二人の距離が縮まらないわけだ。それに、相手の青年がやきもきしているかも、なんて想像はしない。期待しないのだ。まだ19歳だというのに、現実の恋への興味があまりにない。
「今日は石田三成の本を探そう。やっぱり軍師ってかっこいいのよねえ」
 さらに言えば、残念なくらいに今、戦国武将に夢中だった。そういう本は、近年のブームもあって非常に多い。読んでも読んでも別の本が見つかる。まあ、有名な人もおおいわけで、その分、読む本も膨大になると言えた。
「さて」
 こうして、進展しない二人の関係は、青年が何でも読むタイプに情報が付加された程度だった。




「やあ、奥山君」
 しかし、そのまま終わるわけない。相手の青年も、あいついっつも図書館にいるなと思っているのは当然なのだ。が、声を掛けて来たのはあの青年ではない。
「あ、寺本教授。こんにちは」
 図書館前、声を掛けて来たは愛佳が憧れる教授の寺本弘樹だった。四十五歳で新進気鋭の歴史研究者。これほど憧れる人はいないと、愛佳はずっと思っていた。そんな人から声を掛けられれば、愛佳だって舞い上がる。が。舞い上がった気持ちはすぐに萎むことになった。
「よく図書館を利用しているそうだね。知り合いから聞いたんだ」
「へ、はあ」
 いきなり知り合いから聞いた話を持ち出されて、愛佳は反応に困る。それに、講義は取っているものの、寺本と親しく話したことはない。
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