図書館に棲む落ちこぼれの神様

渋川宙

文字の大きさ
3 / 21

第3話 静嵐

しおりを挟む
「ああ、ごめんごめん。混乱させるか。実はね。毎日のように図書館を利用している美少女がいるって、その知り合いが気にしているものだからさ」
「び、美少女!? わ、私ですか? 勘違いでしょう」
 全然綺麗でも美しくもないし、それに少女という表現には違和感がと、色々と思う愛佳だ。それに、寺本は苦笑する。
「今時の子には珍しい、奥ゆかしさだねえ。そうか。それで静嵐も気になったのか」
「せいらん?」
 聞いたことのない、多分誰かの名前だろうということしか解らない単語に、愛佳はさらに困惑する。
「ああ。その情報をくれた子ね。彼もまあ奥手というか、色々と気にするタイプというか、見かけるけど声を掛けていいのかなって思っているというか」
 寺本は先ほどまでの明快さとは異なる、何だか奥歯に物が挟まったようなことを言う。
「あの」
「まあ、気が向いたら、声を掛けてみてよ。それを言いに来ただけなんだ。静嵐も、こんなおじさんばかりを相手にしているより、可愛い子と話した方が楽しいだろうからね」
「えっと」
 まだまだ話が見えないままだ。しかし、静嵐に該当する人が一人しか思い浮かばないのも事実。
「あの人、史学科の人なんですか?」
 一先ず、その疑問から口にしていた。毒物の本にマルクス経済学の本。他にも宮沢賢治を読んでいたり司馬遼太郎を読んでいたりと、乱読している彼は、何学部の人なのか。
「ううん。一応はそうかな。扱いとしては」
「え?」
「ま、その辺は本人が話す気になってからってところかな。悪い子じゃないし、変な下心があるわけでもないんだよ。ただね。最近は図書館を利用する子って減ってるだろ。だから気になったんだと思う。君も、気になっているんだよね?」
「ま、まあ」
 そう指摘されて、顔が赤くなるのを自覚する。向こうは何とも思っていないし、たまたま近くの席に座ってくる学生としか思っていないだろうと考えていたのに、気にしていたのかと、いまさら気付いたせいだ。恥ずかしい。絶対に自分を気にしている変な女子と思われているに違いない。
「大概の本は読んでいるからさ。話題には困らないと思うよ。たまに、話し掛けてあげて」
「え、はい」
 そう言われて図書館へと送り出されると、絶対に今日、話し掛けなくてはならないではないか。愛佳は困ったなと思いつつも、いつも通りに青年の姿を探す。
「あれ、ちょっと待って。静嵐ってどう考えても下の名前よね。上は? 名字は?」
 しかし、肝心の第一声を考えた時、名字を知らない事実に気付いて愕然とした。いくら向こうも顔を覚えている、そして何故か名前も知っているらしいが、とはいえ、いきなり下の名前を呼ぶのは躊躇われる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~

美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。 叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。 日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!? 初回公開日*2017.09.13(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.03.10 *表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

処理中です...