図書館に棲む落ちこぼれの神様

渋川宙

文字の大きさ
4 / 21

第4話 ハードル高すぎ

しおりを挟む
 しかも、その静嵐はイケメンでちょっと浮世離れした感じの、声の掛けにくいタイプだ。図書館ではなく教室やキャンパス内を普通に歩いていれば、女子にきゃあきゃあ言われるタイプだ。そんな相手に、親しく呼びかけろと。しかも下の名前で。
「いやいや、寺本先生。ハードル高すぎるでしょ」
 せめて名字と思いながらも、こそっといつもいる辺りを覗いてみる。やはり、静嵐青年は今日も窓辺の閲覧場所で本を読んでいる。今日は何を読んでいるのか。読んでいる本をダシに声を掛けてみようか。そう思うが
「めちゃくちゃ緊張するじゃん」
 声を掛けるって、難しい。それもしんと静かな図書館でだ。無理無理と、愛佳は溜め息を吐く。
 そりゃあ気になるし、向こうも気にしてくれているらしいし、どうやら友達になりたいだけみたいだしと、声を掛けてもいいかなとは思う。思うけど、だ。
「と、取り敢えず本を探してからにしよう」
 問題を棚上げし、愛佳はいつものように歴史関係の本が並ぶ棚に向かった。ともかく、気持ちを落ち着ける必要がある。まだ声を掛けてすらいないのに、心臓がばくばくと音を立てていた。
「はあ。静嵐か」
 意外な形で青年の名前を知ることになり、愛佳はつい考えてしまう。しかも憧れの寺本から話し掛けられ、持ち掛けられた話だ。
「ん? ということは、寺本先生の知り合いってことよね。それも親しい。親子ってはずはなさそうだから、親戚とか?」
 顔のタイプが違うから、親子ではなさそうだ。しかし、心配してお節介を焼いたのは確実。静嵐のことを奥手だと評価していたし。
 ということは、叔父さんあたりだろうと思う。なるほど、甥っ子がずっと図書館にいて友達を作れないことに業を煮やして、それでお節介を焼くことにしたのか。
「ううん。でも、どうして私なのよ。そりゃあ、近くをちょろちょろしてたかもしれないけど。いや、してたけど」
 愛佳はぶつぶつと小さく文句を言いつつ、本棚の書名を忙しく目で追い掛ける。
「あ、これ」
 そうしていると、気になっていた本を発見した。すぐにそれを手に取り、中身を確認する。そうそう、ここが知りたかったのよと、愛佳はすぐに本に夢中になっていた。
 そんな愛佳の背中を、静嵐がじっと見ていたことなど、当然ながら気付かなかったのだった。




 そうして声が掛けられないまま、愛佳は一応気にしつつも、無理無理と思い続けて一週間後。
 たまたま、本に没頭してしまって帰るのが遅くなった日のことだった。顔を上げると、図書館の中には本当に数人しかいない。ほとんどの人が帰った後だった、夜の7時頃のこと。
「あっ」
 まだ、静嵐が同じ場所で本を読んでいた。向こうはまだ読み終わっていないのか、真剣に本を読んでいる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

俺様御曹司に飼われました

馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!? 「俺に飼われてみる?」 自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。 しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

処理中です...