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第6話 お節介?
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どうしようかなと、ベンチに座ってぼんやりとしてしまう。
図書館はキャンパスの外れで、しかも大学の敷地の向こう側は京都御所だから、とても静かだ。街の喧騒も届かない。
「はあ」
おかげで、少し気持ちが落ち着いた。
空を見上げると、三日月が浮かんでいるのが見える。しかし、星はそれほど見えない。やっぱり静かでも都会だなと、そんなことを思う。
「あ、奥山君」
そうやってぼんやりとしていたら、何と悩みの原因の寺本が通りかかった。そして笑顔でこちらに近づいてくる。愛佳は思わず飛び上がっていた。
「先生。その」
「ああ。静嵐とはまだ喋れていないのかな。ま、無理もないか。愛想ないだろ」
「え、ええ」
頷くのもどうかと一瞬思ったが、取り付く島もないのだから、頷くのが正解だろう。
「仕方ないんだけどね。どうにか、俺は他の人とも付き合うべきだと思うんだよね。このままは――本当に良くない」
「はあ」
そんなに心配なのかと、愛佳は首を傾げてしまう。今時、友達を作らない人だって珍しくないと思うのだが。というか、そういう人でもSNSには友達がいたりするし。
「あ、そうだ。これから図書館に入るんだけど、一緒にどう?」
「え、ええっ」
今、出てきたばかりなのに。それにちょっと気まずくなってるのにと、愛佳は驚く。
「僕が間に入って、会話のきっかけを作るよ。どうやら奥山君にはずいぶんと悩ませてしまったようだからな」
「うっ」
そのとおりですと、愛佳は顔を赤らめる。
あれこれと考え、何か会話のきっかけはないかと探ってみたものの、完璧なまでに隙がなかった。ついでに言えば、気安く声を掛けられるタイプでもなさそう。
先ほどの視線を考えれば、邪魔だと思っているのではないか。さっさとどっか行けと思っているのではないか。そう心配してしまう。
「ははっ。それならば僕に奥山君のことは言わないと思うけど?」
「うっ」
「静嵐がね。毎日のように戦国時代の本を読んでいる子がいるけど、お前のところの学生じゃないのかって」
「お、お前?」
叔父さんに向かってと、なぜかそこに驚いてしまう。そんな愛佳の反応に、寺本は苦笑する。どうやら驚いたポイントを勘違いされたらしい。
「へそ曲がりなんだ」
「は、はあ」
やはり、勘違いしている。愛佳はこの寺本のマイペースさに驚いていた。さすが、第一線で活躍する研究者と言うべきか。
「だからさ。君から声を掛けてくれるの、待ってると思うよ。彼は、自分では声を掛けられないんだ」
「え?」
「――へそ曲がりだからさ」
今度は、へそ曲がりというまでに僅かに間があった。それが、なぜか気になる。
「あの」
「行く?」
「え、ええ」
なぜか、行かなければならない気がした。ちょっとした違和感が、どういうわけか心をざわつかせた。
あれだけ気まずい感じになって舞い戻るのは、ちょっと恥ずかしい。でも、知り合いの、多分叔父さんの寺本がいるし、大丈夫だろう。
それに、どうして自分から声が掛けられないのか。ひょっとして障害があるのだろうか。いや、それはまだ解らないが、奥手であるというのは事実らしい。
再び図書館に戻り、あの閲覧席に行くと、まだ静嵐は本を読んでいた。閉館時間である八時が迫っているというのに、悠然と読み進めている。
「おい、静嵐」
「――」
寺本が声を掛けると、静嵐が顔を上げた。そして、横に愛佳がいるのを見て驚く。
そういう顔が出来るんだと思うほど、はっきりと驚いていた。あの薄色の目が、大きく見開かれている。
「奥山君。先に声を掛けてあげて」
「えっ。は、初めまして」
この状況でも先に声を掛けなきゃ駄目なのかと、驚きつつも愛佳はぺこりと頭を下げた。すると
「初めまして」
素っ気ないながらも、初めて静嵐が声を発した。あれ、どうやら耳に障害があるわけではなさそうだ。では、どうして先に声を掛けなければならないのだろう。
「ずっと気になってただろ? 一年生なんだ。だから、まだ僕の研究室には所属していないんだけどね。いずれ、うちに入るよね」
「え、はい」
寺本の確認に、そのつもりの愛佳は頷いた。その二人の様子に、静嵐は呆気に取られていたようだが、小さく溜め息を吐く。
図書館はキャンパスの外れで、しかも大学の敷地の向こう側は京都御所だから、とても静かだ。街の喧騒も届かない。
「はあ」
おかげで、少し気持ちが落ち着いた。
空を見上げると、三日月が浮かんでいるのが見える。しかし、星はそれほど見えない。やっぱり静かでも都会だなと、そんなことを思う。
「あ、奥山君」
そうやってぼんやりとしていたら、何と悩みの原因の寺本が通りかかった。そして笑顔でこちらに近づいてくる。愛佳は思わず飛び上がっていた。
「先生。その」
「ああ。静嵐とはまだ喋れていないのかな。ま、無理もないか。愛想ないだろ」
「え、ええ」
頷くのもどうかと一瞬思ったが、取り付く島もないのだから、頷くのが正解だろう。
「仕方ないんだけどね。どうにか、俺は他の人とも付き合うべきだと思うんだよね。このままは――本当に良くない」
「はあ」
そんなに心配なのかと、愛佳は首を傾げてしまう。今時、友達を作らない人だって珍しくないと思うのだが。というか、そういう人でもSNSには友達がいたりするし。
「あ、そうだ。これから図書館に入るんだけど、一緒にどう?」
「え、ええっ」
今、出てきたばかりなのに。それにちょっと気まずくなってるのにと、愛佳は驚く。
「僕が間に入って、会話のきっかけを作るよ。どうやら奥山君にはずいぶんと悩ませてしまったようだからな」
「うっ」
そのとおりですと、愛佳は顔を赤らめる。
あれこれと考え、何か会話のきっかけはないかと探ってみたものの、完璧なまでに隙がなかった。ついでに言えば、気安く声を掛けられるタイプでもなさそう。
先ほどの視線を考えれば、邪魔だと思っているのではないか。さっさとどっか行けと思っているのではないか。そう心配してしまう。
「ははっ。それならば僕に奥山君のことは言わないと思うけど?」
「うっ」
「静嵐がね。毎日のように戦国時代の本を読んでいる子がいるけど、お前のところの学生じゃないのかって」
「お、お前?」
叔父さんに向かってと、なぜかそこに驚いてしまう。そんな愛佳の反応に、寺本は苦笑する。どうやら驚いたポイントを勘違いされたらしい。
「へそ曲がりなんだ」
「は、はあ」
やはり、勘違いしている。愛佳はこの寺本のマイペースさに驚いていた。さすが、第一線で活躍する研究者と言うべきか。
「だからさ。君から声を掛けてくれるの、待ってると思うよ。彼は、自分では声を掛けられないんだ」
「え?」
「――へそ曲がりだからさ」
今度は、へそ曲がりというまでに僅かに間があった。それが、なぜか気になる。
「あの」
「行く?」
「え、ええ」
なぜか、行かなければならない気がした。ちょっとした違和感が、どういうわけか心をざわつかせた。
あれだけ気まずい感じになって舞い戻るのは、ちょっと恥ずかしい。でも、知り合いの、多分叔父さんの寺本がいるし、大丈夫だろう。
それに、どうして自分から声が掛けられないのか。ひょっとして障害があるのだろうか。いや、それはまだ解らないが、奥手であるというのは事実らしい。
再び図書館に戻り、あの閲覧席に行くと、まだ静嵐は本を読んでいた。閉館時間である八時が迫っているというのに、悠然と読み進めている。
「おい、静嵐」
「――」
寺本が声を掛けると、静嵐が顔を上げた。そして、横に愛佳がいるのを見て驚く。
そういう顔が出来るんだと思うほど、はっきりと驚いていた。あの薄色の目が、大きく見開かれている。
「奥山君。先に声を掛けてあげて」
「えっ。は、初めまして」
この状況でも先に声を掛けなきゃ駄目なのかと、驚きつつも愛佳はぺこりと頭を下げた。すると
「初めまして」
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「ずっと気になってただろ? 一年生なんだ。だから、まだ僕の研究室には所属していないんだけどね。いずれ、うちに入るよね」
「え、はい」
寺本の確認に、そのつもりの愛佳は頷いた。その二人の様子に、静嵐は呆気に取られていたようだが、小さく溜め息を吐く。
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