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第8話 一体何なの?
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平然と、静嵐は寺本の車の助手席に乗ろうとした。が、それをすかさず寺本が阻止する。
「駄目だよ。君は奥山君と後ろに乗る」
「――」
そう言われて、静嵐はちょっとむすっとしたようだった。それに、愛佳はやっぱり仲良くするのは無理だろうと、すでに気まずい。
「どうぞ」
「え、あ、ありがとう」
しかし、静嵐は大人しく後部座席のドアを開けると、先に乗れと勧めてきた。意外と紳士だ。
そうやって二人並んで後部座席に座ると、軽自動車だったこともあり、かなり距離が近かった。静嵐は長い足を、困ったように折り曲げている。普段は助手席でのびのびと伸ばしているのだろうなと、その様子から想像してしまう。
「普段は、寺本先生と揃って帰るんですか?」
で、黙っていると余計に気まずい気がして、愛佳から話し掛けてみた。
「まあね。彼の家に世話になってるし」
「そ、そうなんですか」
「ああ」
終了。終わってしまった。この場合、次はどういう関係なのか聞き出すべきか。というか、一緒の家に住んでいるのか。どおりで図書館での様子を聞いただけで愛佳だと特定できたわけだ。よほど話題になっていたのだろう。そう思うと、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「静嵐は歴史にも造詣が深いんだよ。よかったら質問してみたら?」
そこで、運転している寺本が気を利かせて言ってくれた。が、静嵐の顔が不快そうに歪む。
「知っていることは僅かだ。お前の方が詳しいだろう。教授なのに」
「ははっ。そうだけど、あのさ」
「それに、俺が知っているのは、この地で起こったことだけだ」
その言葉に、寂しさが含まれていたように思うのは、愛佳の思い過ごしだろうか。そんなことを思っている間に、車は愛佳が一人暮らしをするアパートに到着していた。三条から四条にかけてのこの辺りは、学生たちが下宿するアパートやマンションが多い。そこに、愛佳も住んでいた。
「ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。これからも静嵐と仲良くしてね」
車を降りてお礼を言うと、寺本はそう笑顔で返してくる。いや、あれは仲良くしているというのか。後部座席に目を向けると、静嵐は腕を組んで難しそうな顔をしていた。ますます、嫌われたのではないか。
「じゃあ」
「あ、はい」
そうして去って行く車を見送りながら、愛佳は静嵐って寺本の何なのだろうと、首を傾げてしまうのだった。
「他の場所に移ろうかな」
「おいおい」
その頃、静嵐は寺本に向けてそんなことを言っていた。これに、さすがの寺本も慌てる。
「お前のことを信頼しているし、心配してくれているのは解る。でもな、無駄だよ」
「そうかな?」
「ああ。消える運命はなくならない。今までこうして、この場所にいたことさえ、奇跡だと思っている」
「――」
「だから、無駄なことはするな」
「無駄じゃないさ。少なくとも、君は今までこうして無事だった」
ちらっとバックミラーで静嵐の顔を確認すると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。それは、消えなかった事実をどう受け止めていいのか、解らないようだ。
「どうして毎回、俺の前にはこうお節介な奴ばかりが現れるんだろうな」
「ははっ。それが君に備わった能力じゃないの?」
「全然違う。というか、俺には何もない。ただただ、人間でも何者でもなかった。おかげで、こうして長い時を彷徨うことになっているだけだ」
「――」
頑なな態度はいつものことだが、今日はいつも以上に頑なだなと思った。それはおそらく、愛佳と会話したことにあるのだろう。彼女の何かが引っかかっている。そういうことだ。
「あいつもあいつで」
「君だって、気になっているくせに」
「ふん」
やはり、愛佳が気になるのだ。それはいいことだと、寺本は思う。今まで関わって来た人たちとは明らかに違う。そんな愛佳に、寺本は期待してしまうのだ。
静嵐を救えるのは、愛佳しかいないのでは、と。
「感じるんだ。今までとは違う」
「うん」
「駄目だよ。君は奥山君と後ろに乗る」
「――」
そう言われて、静嵐はちょっとむすっとしたようだった。それに、愛佳はやっぱり仲良くするのは無理だろうと、すでに気まずい。
「どうぞ」
「え、あ、ありがとう」
しかし、静嵐は大人しく後部座席のドアを開けると、先に乗れと勧めてきた。意外と紳士だ。
そうやって二人並んで後部座席に座ると、軽自動車だったこともあり、かなり距離が近かった。静嵐は長い足を、困ったように折り曲げている。普段は助手席でのびのびと伸ばしているのだろうなと、その様子から想像してしまう。
「普段は、寺本先生と揃って帰るんですか?」
で、黙っていると余計に気まずい気がして、愛佳から話し掛けてみた。
「まあね。彼の家に世話になってるし」
「そ、そうなんですか」
「ああ」
終了。終わってしまった。この場合、次はどういう関係なのか聞き出すべきか。というか、一緒の家に住んでいるのか。どおりで図書館での様子を聞いただけで愛佳だと特定できたわけだ。よほど話題になっていたのだろう。そう思うと、めちゃくちゃ恥ずかしい。
「静嵐は歴史にも造詣が深いんだよ。よかったら質問してみたら?」
そこで、運転している寺本が気を利かせて言ってくれた。が、静嵐の顔が不快そうに歪む。
「知っていることは僅かだ。お前の方が詳しいだろう。教授なのに」
「ははっ。そうだけど、あのさ」
「それに、俺が知っているのは、この地で起こったことだけだ」
その言葉に、寂しさが含まれていたように思うのは、愛佳の思い過ごしだろうか。そんなことを思っている間に、車は愛佳が一人暮らしをするアパートに到着していた。三条から四条にかけてのこの辺りは、学生たちが下宿するアパートやマンションが多い。そこに、愛佳も住んでいた。
「ありがとうございます」
「いやいや、こちらこそ。これからも静嵐と仲良くしてね」
車を降りてお礼を言うと、寺本はそう笑顔で返してくる。いや、あれは仲良くしているというのか。後部座席に目を向けると、静嵐は腕を組んで難しそうな顔をしていた。ますます、嫌われたのではないか。
「じゃあ」
「あ、はい」
そうして去って行く車を見送りながら、愛佳は静嵐って寺本の何なのだろうと、首を傾げてしまうのだった。
「他の場所に移ろうかな」
「おいおい」
その頃、静嵐は寺本に向けてそんなことを言っていた。これに、さすがの寺本も慌てる。
「お前のことを信頼しているし、心配してくれているのは解る。でもな、無駄だよ」
「そうかな?」
「ああ。消える運命はなくならない。今までこうして、この場所にいたことさえ、奇跡だと思っている」
「――」
「だから、無駄なことはするな」
「無駄じゃないさ。少なくとも、君は今までこうして無事だった」
ちらっとバックミラーで静嵐の顔を確認すると、苦虫を噛み潰したような顔をしている。それは、消えなかった事実をどう受け止めていいのか、解らないようだ。
「どうして毎回、俺の前にはこうお節介な奴ばかりが現れるんだろうな」
「ははっ。それが君に備わった能力じゃないの?」
「全然違う。というか、俺には何もない。ただただ、人間でも何者でもなかった。おかげで、こうして長い時を彷徨うことになっているだけだ」
「――」
頑なな態度はいつものことだが、今日はいつも以上に頑なだなと思った。それはおそらく、愛佳と会話したことにあるのだろう。彼女の何かが引っかかっている。そういうことだ。
「あいつもあいつで」
「君だって、気になっているくせに」
「ふん」
やはり、愛佳が気になるのだ。それはいいことだと、寺本は思う。今まで関わって来た人たちとは明らかに違う。そんな愛佳に、寺本は期待してしまうのだ。
静嵐を救えるのは、愛佳しかいないのでは、と。
「感じるんだ。今までとは違う」
「うん」
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