双子協奏曲

渋川宙

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第16話 虫の知らせ

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 夕方になって急速に空が暗くなったかと思えば、ざあああと轟音を立てて雨が降り始めた。完全なゲリラ豪雨だ。
「ようやく降ったかと思えばこれか」
 あまりの大雨に龍翔は外を覗くと舌打ちしてしまう。何事にも適度な量があるように、雨も一気に降ってもらっては困るというものだ。
「凄いですね。最近はどうにも異常気象が多いように思いますが、これは西日本で大雨を降らせている雲が流れ込んできたんでしょうか」
 同じように窓に近づいて覗き込んだ千佳も凄いと空を見上げる。あれだけ晴れていたというのに、今はもう真っ暗で激しく雨が降っている。が、龍翔の興味はすでに今降っている雨から千佳の言葉に移っていた。
「西日本で大雨って、どういうことだ」
「あれ、ニュース見なかったんですか。昨日の夕方から降り続いているらしいですよ。被害が出ているところもあるとかで、朝から大騒ぎしてましたけど」
 そういうところが抜けてますよねと千佳に呆れられるが、龍翔はそれどころではないと自分の席に大慌てで戻る。そしてすぐにニュースをチェックした。
「マジかよ」
 ここで初めて、あの失くした定期入れが暗示だったのではと気づいた。雨が降っているのは、その定期入れを売っている天文台の付近だ。実際に被害が出ているのは山の下の方と隣の県のようだが、安心はできない。
「でも、何の連絡もないし、天文台も対策で忙しいだろうから、こちらから問い合わせるのは迷惑だろうし」
 これは困ったなと、龍翔はスマホに連絡が入っていないかと確認する。が、入っていたのは知行からのメールだけだった。そういえば、朝から研究室で悠大と喋っていたというのに今はいない。どこに行ったのだろうか。
「メールはそれについてか」
 だったら声を掛けて行けよと、妙なところで手を抜く知行に呆れてしまう。研究は一流で女性の扱いも丁寧なのだが、どういうわけか適当な面を持っている。こういう連絡関係が特にそうだ。が、その呆れは予想を裏切るメールによってすぐに怒りに変わった。
「あんのくそじじい」
 何と、メールは龍翔の定期入れを拾ったというものだった。それは喜ばしいことだったが、その次に書かれていたことが問題だ。
『この秘密、黙っていてほしかったら明日の食事会を成功させること。失敗したらどうなるか、解ってるよね』
 文章から、知行がにやにや笑っている様子が目に浮かぶ。それはそうだ。今まで誰にも話したことのない秘密を握ったばかりか、自分の仕掛けに全面的に協力しなくてはならない状況へと追い込んだのだ。それはもう楽しいだろう。
「くそっ。変な店を予約してたらぶん殴るからな」
 ともかく拾われたことは良かった。定期入れは何とか無事に出てきたわけだ。その先はまあ、今のところはいいとしよう。それに千佳や悠大、それに智史に知られることを思えば幾分かマシである。
「ううん、それよりも」
 大雨は大丈夫なのだろうか。ネットのニュースでは断片的な情報しか拾えない。それがもどかしいところだ。しかも向こうの雨はまだ止んでいないらしい。雨雲の流れ込みは弱まってきたものの、降りやむにはまだ時間が掛かるそうだ。
「ともかく、明日の夜までは連絡を待ってみよう。それで何もなければメールを入れればいいや」
 向こうだって自分のことを周囲に知られないようにしていることだろうしと、そう言い聞かせるものの龍翔は妙に焦りを覚えていた。このタイミングで定期入れが出てきたのはやはり虫の知らせではないか。そんな気がしてならなかった。
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