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第24話 美人刑事は唐突に現れる
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「お前の兄貴、やっぱりちょっと変わってるよな。物理学者らしいっていうか」
「ま、天職であることは間違いないだろうね」
変わっていることを否定する気はさらさらなく、昴はそう同意するのだった。しかし放火事件というのは気になるところだ。しかもこの大学の近くで起こっているという。
「あの人はどう考えているだろうか」
二つの殺人事件には関連があるはずだと考えている麻央。彼女はメールすると言った割に一向にしてこないのだ。さらにこちらは麻央のアドレスを知らない。どうなったのか。聞くことも無理だった。
「はあ」
考えることばかりだなと、小説どころか勉強にも身が入らず、昴は悶々としてしまうのだった。
「よう。そろそろ何か思いついたか」
「うげっ」
麻央からの連絡もなく、さらに放火も収まった三日後。その麻央が突如として目の間に現れ、昴はカエルが押し潰されたような声を上げていた。しかも、場所は大学の正門前だ。待ち構えていたとしか思えない。しかし今日はスーツ姿だ。
「ど、どうかしたんですか」
「ああ。この大学、陰謀でなければ呪われていると言われるところだな」
「ということは」
また殺人事件と、昴は呆然としてしまった。しまった、真剣に考えるべきだったという後悔も襲ってくる。
「まあ、事件があったのはこの大学の中ではない。連続して小火事件が起こっていただろ。それでついに大きな火事になってな。死者が出たんだ」
そう言えば、明け方に何台もの消防車が走っていくサイレンの音がしていた。それかと、昴は思い当たる。
「じゃあ」
「被害者がこの大学の職員だったんだ。それでどういう人物だったか。恨まれていた可能性はないか。一応の捜査にやって来たってわけだ」
麻央はだからお前にはちょっとだけ報告なと、これは他に漏らすなよと注意して校舎の中に入って行った。後ろからついて行くのは松崎利晴だけで、あの同い年の山内洋平の姿はなかった。本当に聞き取りに来ただけのようである。
「ほっとしちゃ駄目なんだが、繋がりはあるんだろうか」
あまり詳細を話さなかったところから、麻央も今回の件は先の二件と関係ないと考えているのかもしれない。それとも、情報が少ないだけか。しかし大学のキャンパス内ではなかっただけでも、精神的には楽だった。それに、あまりに連続しては大学そのものの存続に関わる問題になってくる。
「ううん。それにしても研究の不正、か」
これがよく解らないんだよなと、仕方なく昴はそのまま大学の図書館に向かうことにした。そもそも今日は一時間目の授業はなく、どこかで小説を書くかと企んでいただけだ。家の中ではおちおち書いていられない。あの数年前のノート、また恵がどこかに隠してしまったのだ。何度かいない隙に探ってみたが、どこにあるのか見つからない。
「ううん。しかし服部先輩の研究が何だったのか。思えば知らないな」
ヒントとなるとすれば、事件に使われた鉄か塩酸か。工学部ならばどちらも使用するだろう。しかし分野が違い過ぎて絞れない。
「不正、か」
結局、本棚の間をぶらぶらと歩きながら考えるしか手はなさそうだった。前回の事件で本棚が犯行に使われただけに、本棚ばかりのところを歩くのも嫌な気分になるが、図書館だから仕方がない。そこはぐっと我慢する。それにあんな大掛かりな仕掛けを図書館の本棚に仕掛ける馬鹿はいないだろう。
「そう。あまりにも大掛かりで馬鹿馬鹿しいんだよな」
どちらも、殺すという目的が遂行されているから奇妙さを覚えない。しかし、どちらも失敗する可能性が高く、また絶対に他殺だと解る状況でしかない。証拠が完全に無くなるわけでもなく、たしかに捜査は混乱するだろうが、いずれ逮捕されるはずのものだ。何故かと言えば、その場にいた容疑者の中で犯行動機を抱くものが一人しかいない。そう、誤魔化す方法が間違っているのだ。
「鉄に振り子か。どちらも確かに科学に関係しているわけだけど」
それがどうして研究不正の脅しになるのか。やはり研究そのものが解らないことにはどうしようもない。しかし、脅されたという一点だけを考えるとどうだろうか。それをして、しかし何のメリットがあるのか。
「ううん。何だか禅問答のようになっていくな」
答えがそこにあるようで見つからない。この場合、情報が少ないのが原因だ。気になるのはやはり慶太郎のことだが、翼に訊いても有力な情報は得られそうにない。
「となると」
「ま、天職であることは間違いないだろうね」
変わっていることを否定する気はさらさらなく、昴はそう同意するのだった。しかし放火事件というのは気になるところだ。しかもこの大学の近くで起こっているという。
「あの人はどう考えているだろうか」
二つの殺人事件には関連があるはずだと考えている麻央。彼女はメールすると言った割に一向にしてこないのだ。さらにこちらは麻央のアドレスを知らない。どうなったのか。聞くことも無理だった。
「はあ」
考えることばかりだなと、小説どころか勉強にも身が入らず、昴は悶々としてしまうのだった。
「よう。そろそろ何か思いついたか」
「うげっ」
麻央からの連絡もなく、さらに放火も収まった三日後。その麻央が突如として目の間に現れ、昴はカエルが押し潰されたような声を上げていた。しかも、場所は大学の正門前だ。待ち構えていたとしか思えない。しかし今日はスーツ姿だ。
「ど、どうかしたんですか」
「ああ。この大学、陰謀でなければ呪われていると言われるところだな」
「ということは」
また殺人事件と、昴は呆然としてしまった。しまった、真剣に考えるべきだったという後悔も襲ってくる。
「まあ、事件があったのはこの大学の中ではない。連続して小火事件が起こっていただろ。それでついに大きな火事になってな。死者が出たんだ」
そう言えば、明け方に何台もの消防車が走っていくサイレンの音がしていた。それかと、昴は思い当たる。
「じゃあ」
「被害者がこの大学の職員だったんだ。それでどういう人物だったか。恨まれていた可能性はないか。一応の捜査にやって来たってわけだ」
麻央はだからお前にはちょっとだけ報告なと、これは他に漏らすなよと注意して校舎の中に入って行った。後ろからついて行くのは松崎利晴だけで、あの同い年の山内洋平の姿はなかった。本当に聞き取りに来ただけのようである。
「ほっとしちゃ駄目なんだが、繋がりはあるんだろうか」
あまり詳細を話さなかったところから、麻央も今回の件は先の二件と関係ないと考えているのかもしれない。それとも、情報が少ないだけか。しかし大学のキャンパス内ではなかっただけでも、精神的には楽だった。それに、あまりに連続しては大学そのものの存続に関わる問題になってくる。
「ううん。それにしても研究の不正、か」
これがよく解らないんだよなと、仕方なく昴はそのまま大学の図書館に向かうことにした。そもそも今日は一時間目の授業はなく、どこかで小説を書くかと企んでいただけだ。家の中ではおちおち書いていられない。あの数年前のノート、また恵がどこかに隠してしまったのだ。何度かいない隙に探ってみたが、どこにあるのか見つからない。
「ううん。しかし服部先輩の研究が何だったのか。思えば知らないな」
ヒントとなるとすれば、事件に使われた鉄か塩酸か。工学部ならばどちらも使用するだろう。しかし分野が違い過ぎて絞れない。
「不正、か」
結局、本棚の間をぶらぶらと歩きながら考えるしか手はなさそうだった。前回の事件で本棚が犯行に使われただけに、本棚ばかりのところを歩くのも嫌な気分になるが、図書館だから仕方がない。そこはぐっと我慢する。それにあんな大掛かりな仕掛けを図書館の本棚に仕掛ける馬鹿はいないだろう。
「そう。あまりにも大掛かりで馬鹿馬鹿しいんだよな」
どちらも、殺すという目的が遂行されているから奇妙さを覚えない。しかし、どちらも失敗する可能性が高く、また絶対に他殺だと解る状況でしかない。証拠が完全に無くなるわけでもなく、たしかに捜査は混乱するだろうが、いずれ逮捕されるはずのものだ。何故かと言えば、その場にいた容疑者の中で犯行動機を抱くものが一人しかいない。そう、誤魔化す方法が間違っているのだ。
「鉄に振り子か。どちらも確かに科学に関係しているわけだけど」
それがどうして研究不正の脅しになるのか。やはり研究そのものが解らないことにはどうしようもない。しかし、脅されたという一点だけを考えるとどうだろうか。それをして、しかし何のメリットがあるのか。
「ううん。何だか禅問答のようになっていくな」
答えがそこにあるようで見つからない。この場合、情報が少ないのが原因だ。気になるのはやはり慶太郎のことだが、翼に訊いても有力な情報は得られそうにない。
「となると」
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