25 / 39
第25話 理志から聞こう
しおりを挟む
「ううん。二宮ねえ。どういう性格か、か」
やはり聞くならばゴールデンレトリバーのような理志しかいないと、以前に聞き出しておいたメアドにメールしたところ、あっさりとやって来た。そして学生食堂に落ち着いたところで、首を捻ってしまったのだった。
「二宮先生の研究室を選ぼうと思っていたんですけど、色々とあったじゃないですか。なんか、悩むというか」
さすがに殺人事件と絡むなんて言い出せず、自分の進路相談のような体で聞く。すると、あれはびっくりだったなと理志も深刻な顔だ。
「はっきり言って、あいつが自分のところの研究員同士の揉め事を知らなかったとは思えないんだよな。どうして、ああなる前に仲裁しなかったんだろう」
「知ってはいたみたいですよ。取り調べの時、私生活で気になる点があるって言ってましたから。何か相談はされていたんじゃないですか」
そう言うと、私生活が気になるって変な言い方だなと理志が指摘する。
「た、確かに」
どうして慶太郎はあんな言い方をしたのだろうか。日頃から定義に煩い物理学者だ。そういう表現を使うだけの何かがあったのではないか。もし二人の関係が気になっているだけならば、交際上の問題があったと証言したはずだ。
「何だ。あいつ的に犯人とされる彼氏は良くなかったってことか。奇妙な性癖の持ち主だったのかな。そんなもん、蓼食う虫も好き好きだろうに」
そう表現されるほど、前回の犯人の山田信輔は不細工ではなかったし真っ当な人のように見えたがと、昴はそんなことを考えてしまう。もちろん性癖云々は知らないので断定は出来ないところだ。しかし、慶太郎の言い回しがおかしかったことは理解した。
「その、何か気に食わないことでもあったんですかね」
ひょっとして何か知っているのか。そう思って訊くも、隣の研究室のしかも研究員がどうかなんて知らないと素っ気ない。
「ですよね。ひょっとして何か不正でもしていたんでしょうか?」
「ああ。それならば許せないかもな。怒鳴るなり何なりするだろうよ」
「――」
まさかの言葉だ。昴は驚きを必死に隠し、そうですかと頷いた。しかし心臓はバクバクと煩いくらいに音を立てている。しかし、これはあくまで性格の話だ。実際にやったかどうか、その証拠がなければ立証できないままだ。
「どうした。顔色が悪いぞ」
「い、いえ。厳しい人なんだろうなと」
笑って誤魔化すように言うと、理志は何を言っていると溜め息を吐く。
「えっ?」
「お前の兄貴の方がよっぽど厳しいぞ。普段はそう見せないだけでな。事件を立て続けにあっさりと解くあたり、心底お怒りだと思うね」
あれは怒らせない方がマジでいいと、理志は怒らせたことがあるのか、真剣に言ってくる。そう言えば、翼が怒ったところは見たことがないなと、今まで嫉妬だけで済んでいた感情を思い出す。あれで怒鳴り散らされていたら本気でケンカできるのにと思っていたが、なくて良かったらしい。
「ただでさえ、大学の場は色々とあるからな。余計な仕事を増やしやがって、しかも神聖な学問の場を汚しやがってと、絶対に怒ってるよね。口に出さないし態度に出さないから解らないけど、いつかブチ切れるだろうと俺は踏んでいる」
よほど怖い思いをしたのか、理志はまだそんなことを言っている。ああ、余計に翼の耳に陰で殺人事件を操っていたなんて話は入れられない。ひょっとしてその性格を知っていて、麻央は自分に相談に来たのだろうか。理由の一つになっている気がしてくる。
「まあ、それに比べれば二宮は穏やかだと思うよ。普通に研究していれば大丈夫さ。ただなあ、事件があったから研究室が存続するかどうか。難しい立場に立たされているよ。いくら二宮には関係ないとはいえ、大学も体面というものがあるからな」
「あ、そうか」
となると、慶太郎は被害者ということになる。あえて自分の将来を潰してまで殺人を操ろうと思うだろうか。
「でもまあ、他に移ればいいという意見もある。研究者としては優秀だ。だから、素粒子の研究を真剣にやるならば、他の大学の大学院を受験することも念頭に入れておいた方がいいよ」
理志は真剣に悩む昴を見て、そうアドバイスしてくれる。ああ、今違うことを考えていてごめんなさい。と心の中で謝りつつ、そのアドバイスは有り難く受け取った。
「そうですね。他の大学の大学院も考えてみます」
やはり聞くならばゴールデンレトリバーのような理志しかいないと、以前に聞き出しておいたメアドにメールしたところ、あっさりとやって来た。そして学生食堂に落ち着いたところで、首を捻ってしまったのだった。
「二宮先生の研究室を選ぼうと思っていたんですけど、色々とあったじゃないですか。なんか、悩むというか」
さすがに殺人事件と絡むなんて言い出せず、自分の進路相談のような体で聞く。すると、あれはびっくりだったなと理志も深刻な顔だ。
「はっきり言って、あいつが自分のところの研究員同士の揉め事を知らなかったとは思えないんだよな。どうして、ああなる前に仲裁しなかったんだろう」
「知ってはいたみたいですよ。取り調べの時、私生活で気になる点があるって言ってましたから。何か相談はされていたんじゃないですか」
そう言うと、私生活が気になるって変な言い方だなと理志が指摘する。
「た、確かに」
どうして慶太郎はあんな言い方をしたのだろうか。日頃から定義に煩い物理学者だ。そういう表現を使うだけの何かがあったのではないか。もし二人の関係が気になっているだけならば、交際上の問題があったと証言したはずだ。
「何だ。あいつ的に犯人とされる彼氏は良くなかったってことか。奇妙な性癖の持ち主だったのかな。そんなもん、蓼食う虫も好き好きだろうに」
そう表現されるほど、前回の犯人の山田信輔は不細工ではなかったし真っ当な人のように見えたがと、昴はそんなことを考えてしまう。もちろん性癖云々は知らないので断定は出来ないところだ。しかし、慶太郎の言い回しがおかしかったことは理解した。
「その、何か気に食わないことでもあったんですかね」
ひょっとして何か知っているのか。そう思って訊くも、隣の研究室のしかも研究員がどうかなんて知らないと素っ気ない。
「ですよね。ひょっとして何か不正でもしていたんでしょうか?」
「ああ。それならば許せないかもな。怒鳴るなり何なりするだろうよ」
「――」
まさかの言葉だ。昴は驚きを必死に隠し、そうですかと頷いた。しかし心臓はバクバクと煩いくらいに音を立てている。しかし、これはあくまで性格の話だ。実際にやったかどうか、その証拠がなければ立証できないままだ。
「どうした。顔色が悪いぞ」
「い、いえ。厳しい人なんだろうなと」
笑って誤魔化すように言うと、理志は何を言っていると溜め息を吐く。
「えっ?」
「お前の兄貴の方がよっぽど厳しいぞ。普段はそう見せないだけでな。事件を立て続けにあっさりと解くあたり、心底お怒りだと思うね」
あれは怒らせない方がマジでいいと、理志は怒らせたことがあるのか、真剣に言ってくる。そう言えば、翼が怒ったところは見たことがないなと、今まで嫉妬だけで済んでいた感情を思い出す。あれで怒鳴り散らされていたら本気でケンカできるのにと思っていたが、なくて良かったらしい。
「ただでさえ、大学の場は色々とあるからな。余計な仕事を増やしやがって、しかも神聖な学問の場を汚しやがってと、絶対に怒ってるよね。口に出さないし態度に出さないから解らないけど、いつかブチ切れるだろうと俺は踏んでいる」
よほど怖い思いをしたのか、理志はまだそんなことを言っている。ああ、余計に翼の耳に陰で殺人事件を操っていたなんて話は入れられない。ひょっとしてその性格を知っていて、麻央は自分に相談に来たのだろうか。理由の一つになっている気がしてくる。
「まあ、それに比べれば二宮は穏やかだと思うよ。普通に研究していれば大丈夫さ。ただなあ、事件があったから研究室が存続するかどうか。難しい立場に立たされているよ。いくら二宮には関係ないとはいえ、大学も体面というものがあるからな」
「あ、そうか」
となると、慶太郎は被害者ということになる。あえて自分の将来を潰してまで殺人を操ろうと思うだろうか。
「でもまあ、他に移ればいいという意見もある。研究者としては優秀だ。だから、素粒子の研究を真剣にやるならば、他の大学の大学院を受験することも念頭に入れておいた方がいいよ」
理志は真剣に悩む昴を見て、そうアドバイスしてくれる。ああ、今違うことを考えていてごめんなさい。と心の中で謝りつつ、そのアドバイスは有り難く受け取った。
「そうですね。他の大学の大学院も考えてみます」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる